24.狩りの特訓(3)
今日はレナードさんの居る街までおでかけ予定。
パン作ったり、クッキー焼いたりと朝から大忙しだった。
さ、出かけよう。
「おねえちゃん、準備できた?」
「うん、たぶん。結構な荷物になったね」
鍋ごとのパンが大きさも重さもある。
そこにトモコさんが作った貴族御用達の肉類、毛皮。
あと、小さな魔石を100個、ピンポン玉少々。
クッキーも忘れずにね。
「じゃ、おねえちゃん、町まで走るよ」
「うん」
2軸走法のいいところは、背負子がぶれないことだね。
あと、デコボコした道でも外乱に対して安定させやすい。
競技場内の平らなコースを走るのと、何でもありで荷物背負いながらでは、いろいろ求めるべき優先順位が変わるのかもね。
速度追求のためのだけの部分最適化はこの場合不適切なのかも。
いろいろと勉強になるね。
<<ナビ、この速度だと何時間かかる?>>
<<街の門番前まで、約2時間>>
<<前にレナードさんの町まで40kmとか言わなかった?>>
<<レナード卿の館までです>>
<<でも、この時代の街が5km四方とかないでしょ>>
<<ないです>>
<<じゃ、この速度は時速20km換算だよね?>>
<<はい>>
<<ナビ、いつもありがとう>>
もう、考えてもだめだね。
こっちはこっちの常識。
ただし、エーテル使いの常識だけど。
で、ユッカちゃんがとんでもないことを言う。
「おねえちゃん、パンが冷めるから急ぐね」
「もう、エーテルさん使ってがんばってるよ?」
「体を鍛えないと、狩りの特訓にならないの」
「そ、そうだよね。分かった」
途中、飲み物とかクッキー食べて休憩。
そして、すぐに走り出す。
「ほら着いた。おかあさんのペンダントで通って、そのままレナードさんのところに行くよ」
「ハイ」
「ここの門番さんに荷物預けて」
「ハイ」
「つぎ、魔道具屋で魔石を売る」
「ハイ」
「おねえちゃんのお金で、食べ物と道具買う」
「ハイ」
「砂糖を金貨2枚で買える分だけ買う」
「ハイ」
「冒険者登録して」
「はい???? ユッカちゃん、冒険者登録って?」
いや、もうね。考えられないの。
なんか、いろんなエネルギー使い果たした感じで、全部ハイしか言えないの。
だけど、冒険者登録は聞いてない。
考えてなかった。意味が判らない。
特訓が終わってない状態で冒険にでたら、本当に死んじゃうよ。
「身分証になるの。おかあさんのペンダントなくても、この国なら門番が通してくれるの」
「それは重要だね。なんか資格とか試験とかあるの?」
「喋るか、書いてサインすること。あとは、生きていく気持ち。
詳しいことは冒険者登録所にいかないとわかんないの」
「そっか。一緒にいってくれる?」
「うん」
ーーーー
冒険者登録所と看板が出ているお店らしきところまでやって来た。
さ、元気よく挨拶してみよう!
「すみませ~ん!」
「おねえちゃん、中に入らないと」
「あ、そうなの……」
店の中に入る。
こう、ファンタジーな世界とか荒くれ冒険者がタムロしてるのとは違う。
おじいちゃん、おばあちゃん、体の不自由な人が日向ぼっこしてる。
で、レジみたいなカウンターみたいなところにおばちゃんがいる。
綺麗どころのお姉さんもいないし、厳つい冒険者上がりとかも居ない。
なんだろ……。
シルバー人材センターみたいな感じ?
いや、日本でも行ったことないから良くは判らないけど。
「すみませ~ん。冒険者登録所はここですか?」
「ああ。そうだよ。何か用かい?」
「冒険者登録をしたいのですが、良くわからなくて」
「その小さい子が登録するのかい?それとも二人ともかい?」
「二人でお願いします」
手を握るユッカちゃんからサインが無い。問題なしとして進める。
「じゃ、この国のルールを説明するけど、挨拶以上の言葉も理解できるね?」
「はい」
「冒険者登録をすると、この国の中で使える手形が手に入る。
それを目的に冒険者登録をする人が一番多い。
あんたらもそのくちだろ?」
「あ、はい……。まぁ……」
「いや、いいんだ。個人の事情は不問だよ。
ワザワザ自分から言いたいなら別だけどね。
話を続けるよ」
「はい」
「まず、この国のルールに従うこと。その中で活動してもらう。
超法規的な特例とか何もない。
人を殺したら、基本的に裁かれて殺されると考えてもらえればいいよ。
決闘とか強盗の返り討ちとかそういうのは別としてね」
「はい」
「つぎ、公共の福祉の中で冒険者登録所が営まれている。
だから、公共の福祉に反する活動は禁じられているし、違反をすれば登録証もはく奪される。
それ以上の事は何もない」
「はい」
「三つ目。生きる気力と何らかの特技が必要だ」
「はい」
「これが最後だ。
冒険者登録所には、いわゆる<よろず屋>としての機能がある。
簡単なお遣いから、討伐支援までいろいろだ。
商人ギルドとか魔道具屋とか貴族の命令を受ける場合もある。
これらを国のルールと公共の福祉に反しない範囲で活動してもらう。
そうすれば対価も貰える。
分かったかい?」
「はい。あの~。質問してもよろしいでしょうか?」
「なんだい?」
「公共の福祉とこの国のルール。そして、自分の命の中で一番大切なものは何ですか?」
「なんだい?おかしな事をきくねぇ。
どっかの宮廷魔術師か何かかい?そういう言葉遊びは嫌いじゃないけど、あまり意味がないね。
自分はどう思うんだい?」
「1.自分の命、2.公共の福祉、3.この国のルールかなと思います」
「アハハ。面白いというか青臭い言葉だね。
だからこんなところに流れ着いて来たのかい?
誰に自分が生かしてもらっているかを考えるんだ。自ずと分かるだろう?
この国のルールが一番だ。次に公共の福祉、最後が自分の命だ」
「そ、そうですか。判りました」
「他に質問はあるかい?」
「今はありません」
「そうかい。じゃ、登録する前に試験を始めるよ。特技は何だい?」
「走ることかな?」
「速いのかい?」
「人並みには」
「人の役に立てるぐらい速いのかを聞いてる」
「人の役に立つと思います!」
「よし、じゃぁ、試験開始だ。合格したら登録証を作ってあげよう。
それでいいかい?」
「はい」
「いい返事だ。ここから大体3日の距離に王都の城下町がある。そこの冒険者登録所までお使いだ。
私が門番用の証明書をつくっておく。お使いの旨を描いた羊皮紙がこっちだ。
うちでは軽いものは往復で2日以内で配達してもらっている。今回の試験は1日おまけして3日で往復して戻ってきておくれ」
2枚の羊皮紙を手渡される。
あれ?1人で2枚必要だから、私とユッカちゃんので4枚必要じゃないのかな?
なんか計算間違ってる?渡し忘れとかあると困るから聞いておこうかな。
「あ、あの、すみません」
「なんだい?」
「この試験は2人同時ですか?この子と一緒に参加させて頂けるのでしょうか……」
「うん?2人の登録証が欲しいんだろ。特技は足が速い。
2人で合格すれば、登録証は2枚になる。
その子を預けるなら宿屋なりどこなりで預けて行けばいい。ただし、登録証は1枚だよ」
「判りました。2人でなんとかします。2人で城下町までいってくれば、2人分の登録証ですね?」
「そうだよ。あんまり無理するんじゃないよ。命は軽いけど1つしかないんだ」
「ありがとうございます。気を付けていってきます」
ーーーー
買い物した荷物を背負って街をでる。
周りに人が居なくなってからユッカちゃんと小声で話し始める。
「ユッカちゃん、3日もらえたよ」
「今日抜かすと、残り2日」
「あ、そっか。でも、途中で荷物おろせるし、大丈夫だよね」
「らくしょー。でも不味いよ」
「え?」
「索敵して」
こんな街の近くになにがいるって……。
あ、うしろで黄○が歩いている。
自然に歩く風を装いながら……。
「ユッカちゃん、あれ何?」
「わかんない。でも距離が一定なの」
「つけられてる?全然きがつかなかったよ」
「おねえちゃんが索敵の訓練を忘れてるから」
「ごめん。どうしよう……」
「エーテル使わないでギリギリの速度まで上げよう」
「はい」
うはっ!これ、結構きつい。
速くないし、疲れも溜まる。でも普通の女性と少女より全然速いはず。
ちょっと、索敵をかける。
え?黄○がほとんど離れずについてくる。
「ユッカちゃん、着いてくるよ」
「うん。でも、きっと荷物が軽い人、例えば配達か暗殺者。
冒険者とか強盗だと、武器が重くてこの速さは出せない」
「相手がエーテル使って移動してる可能性は?」
「おねえちゃん、昨日の私との<かくれんぼ>のこと忘れた?」
なんだっけ。確か、隠密行動するには、エーテルの膜を張る。
で、エーテルの波で索敵して、そのエーテルの乱れを検知。
ここに何かヒントがあるかな……。
相手が内部でエーテルつかって、さらにエーテルの膜を張る。
これって普通にできるとすると、なんら問題ないよね。
あ。自分の存在が隠されてない。
てことは、エーテルの膜をつかって追跡をしてないってことだ。
「ユッカちゃん、<体の強化>と<隠密行動>どっちがエーテル使うの大変なの?」
「<隠密行動>って、エーテルの膜で隠れることだよね。<身体強化>の方が楽」
「だったら、隠密行動は出来てなくて、エーテルだけで走ってる場合もあるよね」
「そだよ。降参する?」
「いや、ちょっと待って……」
ええと、私が教わってる順番としては、
(1)万年雪を探しにいったときの<身体強化>
(2)次に、昨日教わった<索敵>
で、多分今度教わるのが(3)<隠密行動>なんだよね。
順番が関係するとしたら、<索敵>がヒントになるよね。
相手が<身体強化>を使ってて、<索敵>を使ってるかは問題じゃない。結局<身体強化>のみを能力としてもっていれば、<索敵>しているかどうかは関係ないもん。
とすると、昨日使った<索敵>の中にヒントがあるってことだ。
<索敵>の特訓で学んだことって……。
まず、ユッカちゃんを探すのにこっちが波をだして、次に、その波の乱れをもとに検知してするんだよん。その後で獣を狩りして終わりだったね。
あ。
獣はエーテルの中を乱して動くけど、エーテルが漏れ出してなかった。
てことは、エーテルの流れを探れば相手がエーテル使ってるかどうかを検知できることになる?
「ユッカちゃん、分かったかも。
<索敵>でエーテルの乱れを見れるけど、その情報には相手がエーテルを使っているかどうかも判るってことでいい?」
「うん。おねえちゃんなら、その違いが判るはず。よく見てみて」
ちょっと集中して<索敵>の反応を確認する。
確かにエーテルは乱れているけど、エーテルその物が流出入している動きはない。
これか。
「ユッカちゃん。おっけ~。ありがとうね」
「後ろから来るひとが、エーテルを使えなくて使ってないのか、
使えるのにワザと使わないでこっちを追跡してるかがわかんないの」
「それは重要な問題だね。
相手がエーテル使って私達を追っかけてきたら、きっと殺されちゃう。
あとは、家の秘密とかみつけられてから強盗に入られるとかも不味いね」
「うん」
「そしたら、先にいってもらおうか。たまたまかもしれないし」
「たまたな訳ないと思うけど、おねえちゃんのクッキーが食べたい」
「じゃ、休憩しよう」
見晴らしが悪い道の曲がったところで、突然脇に入る。
あくまで、往来を塞がない場所で休憩してるって感じでね。
ナイフで軽く草を刈ってそこに座る。
クッキーをだしてゆっくりと食べていると、ちょっと経ってから、凄い勢いで人が走ってきた。
荷物は軽装。危険な感じもしない。直感が正しいなら配達人風。
横目でチラチラ見ながら通り過ぎる。
けど、なんか戻ってきた。
「お嬢さん達、速いね。配達のお使いかい?」
「「は、はい」」
「あ、心配しなくていいよ。おじさんも配達だ。
登録所のおばちゃんから、
『あの子らがピンチなら助けてやってくれ』
って言われたんだよ。
(『使えないなら見捨てろ』とも言われたとは言えないな。
というかすごく速いし。ハハハ……)」
「ありがとうございます。急ぐんですか?」
「そうだな。この時間だと、結局城下町に行くまでになるね。
だから私は一泊二日で往復することになるかな。
そうそう。
今回見たいな普通の配達の場合は、門の中に入れるのは夜が明けてから日が暮れるまでだよ。それ以外の時間だと、よほどの事情か許可証が無いと出入りできないんだ。
あと、夜道を歩いた経験があるか知らないが、森の中は真っ暗になる。灯り点ける魔道具あたりがないと危ないぞ。
無理はしないことだ」
「いろいろ教えてくれてありがとうございます。
ところで噂できいたのですが、体を魔法で動かして速くする薬か道具があるって。おじさん凄く速いから、そういうの使っているんですか?」
「いや~。そんなのは知らないな。
そもそもそんな事ができるなら、騎士団や傭兵として参加した方がが稼ぎがいいだろう。
ただ走って往復するだけでは大したお金にならないからね。
そんな薬があっても買えないさ。」
「そうなんですか~。残念。物語とか伝説のお話なんですね……」
「ああ、確かに旅の吟遊詩人の中にはそういう話がでてくるな。うちの子供もあいいうの好きだよ」
「アハハ。実は私もああいうのに憧れちゃって」
「おじさん、そろそろ行くよ。お嬢ちゃんたちもがんばってな」
「「ありがと~」」
手を振る。そして見えなくなるのを待つ。
念のため索敵開始。黄○が遠ざかっていく。
「ユッカちゃん、問題ないかな」
「あの人を追い越さなければいいかも」
「今晩は家で過ごして、明日も特訓して、明後日にする?<走れメロス>みたいな」
「<走れメロス>って?」
「なんか、そういう吟遊詩人の話があったと思う。
王様の命令で家に戻って妹の結婚式に参加してから帰ってくるんだけど、王様の所へ戻るのが夕方の日が沈むギリギリになっちゃうって話」
「それ、かっこいい!そうしよう!」
と、いうことで<走れメロス>をすることに決まり、残りはエーテルさん使わずに体だけ使って走る特訓をするのでした……。
誤字などの修正のみ。本ストーリーへの影響はありません(のはず)。




