4-27.偵察(2)
よし、慎重に村に近づいて、
罠が無ければ、弱体化の原因を調べるよ。
「フウマ、ステラ、ユッカちゃん、
私は罠の可能性は少ないから、住人達との接触を試みるべきで、
原因が判れば救済を検討したいと思う。
みんなはどう思う?」
「姉さん、シルフからのお願いなんだろ?
火山の中にある巨大なエネルギーの情報は原住民の方が良く知ってると思う。
その情報を得るためにも原住民の救済策も行うべきだと思うね。」
「ステラもユッカちゃんも同じ意見で良いかな?」
「「ハイ」」
「うん。じゃ、行く前に注意ね。
これまでと同様に罠や結界が張られていないか注意すること。
急性中毒に至る毒物があるかもしれないから、注意すること。
その警戒を怠らない前提で、村人と接触を試みるよ。
いいかな?」
「ハイ(ALL)」
ーーーー
村の柵がある入り口付近に着陸する。
各自が周囲を警戒しつつ、索敵や毒等の状態異常系の監視を行う。
「フウマ、柵の中に入るよ。」
「ああ。敵や罠の類は無いとみていいよ。
問題は人体に影響のある毒物、結界とかだね。」
ステラとユッカちゃんも黙って頷く。
4人で同時に柵を超えて、村の敷地に入るけれど全く警戒されている様子がない。
「フウマ、人の気配はどこに多い?」
「あの集会所みたいな大きな小屋。
それと一番奥の酋長のような格上の人が住むらしき場所かな。」
「どっちから先に行こう?」
「手前が近くていい。
でも、このまま接触を試みて構わないかい?
言葉も通じるか判らないよ。」
「あ~。
まず、この危険の元が判る迄はアルさんやトレモロさんを此処に近づけたくない。
次に、ある程度の言語は私が理解できるかもしれない。
でも、それを公言すると、役割分担が機能しなくなるし、
<ヒカリが存在した証の消去>に手間と時間をかけることになる。」
「そこの判断は姉さんに任せるよ。
この規模の村だったら情報隠蔽はし易いかもしれないけど、
万が一の場合もあるし、姉さんが表に立たないで済むならそっちがいいね。」
「うん。まぁ、そんな感じ。
交渉ごとの基本はフウマに任せたいよ。」
「了解。じゃ、行こう!」
ーーーー
大きな小屋の入り口まで進む。
確かに中から人の気配。
なんか、生きてるけど無気力な感じの気配。
大丈夫かね?
先ずはフウマが独りで小屋に入っていく。
「姉さん、これは・・・。」
「関所に居た奴隷さん達の状況とは違う意味で厳しいね。」
ざっと、10人ぐらいが座ったり、横たわっている。
なんか、ガクガク震えていたり、頭を掻きむしったり。
肉体的な症状より、精神的に破壊されてる?
「会話を試みるよ。」
「うん、フウマお願い」
「こんにちは。この言語で会話ができますか?」
何人かがこっちを向く。言語としての反応はありそう。
「お、おぅ、っれ、カイワ、わわわかる。」
うわ・・・。
これ、会話ができても、何か言語中枢がおかしいか、舌が回って無いかんじ。
何かオカシイよ。
「ありがとうございます。この村の人たちは何かの病気でしょうか?」
「ひ、火、ひを封印。む、む。らぁ、人しんだ。」
「火の妖精を封印してから、村がおかしくなったのですね?」
「すすすそ、そうだ。か、科学ききょ、わ、わるぃ。」
「何か、科学教がきてから、生活や水、食事が変わりましたか?」
「y、や、山で、ん、流れるき、金属取る。変わった。だけ。」
え?流れる金属って水銀を採掘・採取してるってこと?
まさか、水俣病とかそっち系?
<<フウマ、<水銀>っていう、常温で液体の金属があるんだけど、知ってる?>>
<<姉さん、姉さんの居た異世界の話はしらないよ。
もし、そんな金属があっても使えないだろ?>>
<<あ、うん。ちょっと、アリアに<念話>通してみる>>
<<分かった。ちょっと会話に苦労するけど、話をつづけて情報収集を試みるよ。>>
<<うん、お願い>>
この人との会話はフウマに注力してもらって、
私はアリアに確認取って、それからナビに<水俣病>の症状について確認しよう。
ーーーー
<<アリア、今大丈夫かな?>>
<<はい。ヒカリ様なんでしょう?>>
<<水銀って知ってる?錬金術師なら合金作るのに使ったと思う。
常温で液体の銀色の金属なんだけどさ>>
<<あれは金属なのですか?
非常に重たい変わった液体を養父が入手してくれました。
金属の特性からの錬金術は試みませんでした。>>
<<そっか。その入手先の大陸とか分かるかな?>>
<<いいえ。父が交易の中で変わった素材があると、
私のためにおみやげとして買って来てくれたものなので・・・。
何か、その<水銀>の情報が必要でしょうか?
関所の実父経由で養父に連絡を取りましょうか?>>
<<う~ん。簡単に言うと、
<水銀>由来の鉱毒で、この村の人達が体調不良になっているっぽい。
船のみんなには、この海域での水、魚などの採取を絶対禁止って
トレモロさんに伝えて。
即効性のある毒ではないから、それは大丈夫って言っておいてね。
泳いだぐらいでは問題無いけど、念のため船の水で体を洗い流しておいて>>
<<承知しました。直ぐに伝えます。
その<コウドク>なる知識がありませんので、
状況が良く判りませんが、ヒカリ様達もお気をつけて。>>
<<うん。また後でね。>>
ーーーー
<<ナビ、水銀の採取、鉱毒による病気、その症状なんかを教えて欲しいよ>>
<<了解。>>
<<ディメチル水銀は数マイクログラムで致死に至る程危険な物質だそうです。
メチル水銀が水俣病を起こした物質とされており、
脳に入り、神経毒として作用し、言語障害、手のしびれなどを引き起こします。
鉱山等の高濃度な金属水銀では、急性症状が現れたり、肝機能障害などを引き起こすとのこと。
脳を犯した神経毒に関しては、治療法が無いとされています。
これは、脳内に水銀が定着し、自然排出されないためとされています。
また、胎盤から子供への毒物の輸送が確認されており、
あたかも、「病気が遺伝する」というような風評被害も大きかった様です。>>
<<ちゃんと管理されてなく、医療技術も発達していないとこうなるってこと?>>
<<検証された事例としまして、日本の奈良の大仏を建造する際に
金メッキをするために水銀が大量に使用されたとのことです。
そのため、単なる労働環境が悪かったとか、飢饉の影響などとされていますが、
相当量の死者が水銀に関わる毒で死亡したと考えられます。>>
<<それは、アマルガムとかの科学技術が先行して、
その利便性のみに着目し、人体への影響が十分に考慮されていなかった。
そういう公害の1つと考えられるってこと?>>
<<後から検証できることはありますが、当事者は理解出来ないことも多々事例の一つと考えられます>>
<<ナビ、ありがとう。こっちでも動くから周辺の水銀濃度調査、メチル水銀の濃度なんかを調べてくれる?>>
<<探査可能な範囲において、調査を進めます>>
<<ありがと>>
さてと・・・。
ユッカちゃんなら分かるかな?
ステラとかどうだろう?
ーーーー
「ユッカちゃん、ステラ、これは水銀による中毒症状。
呼気に少量の水銀が含まれていると、どんどん体内に入る。
体内に入った水銀は外へ排出されずに、脳で滞留するっぽい。
つまり、解毒ができずに、脳内の症状は改善できない。
程度が進行していなければ、大丈夫な場合もあるらしいよ。
汚染源は鉱山、精錬場所、魚や水からの摂取と思う。」
「ヒカリさん、宜しいかしら?」
「ステラ、何?」
「人から人へと感染することは無いという理解でよろしいですね?」
「私の知る範囲では、そういった病原菌の感染は無いよ。
毒物の現れ方が人によって早かったり、遅かったりするから
そういった病気の症状に間違えられて、発見が遅くなるらしい。
あと、感染ではないけれど、お母さんから赤ちゃんへは
へその緒を通じて、毒物が流れて行っちゃうんだって。」
「ヒカリさん、直ちに船に戻り、体を洗浄してください。
そして、妖精の長3人を此処へ寄越してください。
私達3人と、妖精の長3人で対応をします。」
「え?ステラ、私も協力するよ。火山の中も良く判ってないし。」
「貴方は船に帰りなさい。これは命令です。」
「姉さん、帰ってくれるかな。船から念話で指揮して欲しい。」
「え?フウマまで・・・。」
「おねえちゃん、二人が言うから間違い無いよ。帰ってて。」
「あ、はい・・・。」
いつも読んで頂きありがとうございます。
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