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異世界で気ままな研究生活を夢見れるか?  作者: tinalight


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4-11.航海の準備(11)

トレモロさんにストレイア帝国のことをちょっと聞いてみよう。

「トレモロさん、ちょっと、ちょっといいかな?」

「姉さん、突然出てきて何言いだしてるの?」


「あっ。フウマ、ごめん・・・。」

「今日の姉さんはちょっとおかしいよ。皆で準備のための会議をしてるんだよ。ちょっとは周りを見て、皆に協力して行動してくれるかな?」


「あ、あ、あ・・・・。みなさん、ごめんなさい。お茶でも入れてきます・・・。」


イカンねぇ・・・。

なんか、頭が空回りしてるよ。

元々『空気読めない子』とか、言われていたけど

今のは絶対に不味いって判るぐらいに不味かった。

こう、夢中になっちゃうと、タガが外れて自由奔放になっちゃうのは悪い癖だね。


さて、お茶でも入れさせ頂いて、頭を冷やそうかな。

ついでに材料があれば、クッキーとか作ってみたりとか。

会議は長引きそうだし、十分に時間はありそうだね。

ついでに、ステラとユッカちゃんも合流できるなら合流してもらおう。


調理場で寝ずに控えていた料理人と話をして、

砂糖、小麦粉、干しレーズン、バターなんかを調達。

よしよし、クッキーを焼いちゃおう。

お茶は、まぁ、適当でいいや。

牛乳飲んで心を落ち着けても良いしね。


チャカチャカとクッキーづくりに勤しんでいると後ろから声がする。


「おねえちゃん、ずるい!」

「え、ええ?」

「ステラおねえちゃんと、お肉一生懸命とってきたのに!」

「ああ、ユッカちゃんお帰り。みんなの分のクッキー作って待ってたよ。」

「まだ、食べて無いの?」

「ユッカちゃんを放っておいて食べられる訳ないでしょ?」

「それなら許してあげる。」

「ありがとね。」


「ステラもいろいろありがとう。場合によっては出航迄時間が掛かるかもしれないから、先ずは船内の冷蔵庫で冷凍にしておいてくれればいいと思う。」

「はい。ヒカリさんが慌ててるようでしたので、ユッカちゃんと帰還を優先して、狩るだけ狩ってから運んできましたわ。船内のクロ先生に冷凍してもらってありますわ。」

「流石ステラだね。とっても助かるよ。」


「それより、ヒカリさんが会議に参加しなくて大丈夫なのでしょうか?」

「あ・・・。う~ん・・・。私自身がいろいろ混乱しちゃっててね。そのまま私が会議の場にいると余計に混乱させちゃうから、頭冷やしつつクッキー作ってた。

それで、ステラに相談があるんだけどさ。

ステラは<ドラゴン>と<ナイトメア>について、どう思う?」


「なるほど。ヒカリさんもそこに辿り着くのですね。」

「え?」


「私もここに居る人間達の中では一番年齢を重ねている方でしょう。それなりに伝説に興味を持ちますし、いろいろ考える時間もありましたわ。」

「ああ・・・。」


「私が私の持論を述べるのは簡単ですわ。けれども、それがヒカリさんの目指す先にあるものと相反する意見の場合、余計な情報を与えてしまうことになることを危惧しますわ。」

「うん・・・。」


「ヒカリさんはどうされたいのですか?」

「あ、あのね?

今度の航海中に<ドラゴン>が私たちの船に降りてくるとするでしょ。

そのとき、どのような対応をとるべきかを想定しておきたいんだよ。

多分、ラナちゃんやシルフの力を借りて、昼でも夜でも風に乗せて一直線で航行できると思う。だけど、ドラゴンが来たら<力を隠す>必要があると思うんだよね。」


「なるほど。それで?」

「だけどさ、想定している<ドラゴン>と<ナイトメア>の行動が似ていて、何かオカシイと思ってるんだよ。

ドラゴンを想定しての対応を考えているのに、何故かナイトメアの行動に対する対策を立ててるような気がしちゃってさ。」


「そのようにヒカリさんが考えた根拠を伺っても宜しいでしょうか?」

「うん。

<ナイトメア>ってさ、ひょっとしたら単なる高度な科学技術を使える人であって、魔術を使えないんじゃないかと思うんだよね。

ラナちゃん救出のときも、飛竜さん救出のときも<科学技術を駆使している部分>はかなり高度な内容が含まれているんだけど、<魔術>の部分って、他の一般的な宮廷魔術師が真似できるような内容だったりするでしょ。

だとすると、<ナイトメア>が高度な魔術を使える魔術師では無かった可能性があると思うんだよ。」


「確かに私から見ても<非常に斬新で見たことも、聞いたことも無い魔術や封印>は確認できていませんわ。一方で、クロ先生が幽閉されていた地下通路や飛竜の兜についていた針なんかは、私の知る魔術では対応できない内容です。この辺りの感覚はヒカリさんと私とで一致しているかもしれませんわ。」


「うんうん。

ナイトメアの行動が<妖精の長の封印>であることにも違和感を感じるんだよ。

ステラや私が力を受けている支援と全く同じ内容は無理かもしれないけど、優秀な魔術師だったら、交流の仕方次第でいろいろな協力やお裾分けを取り付けられると思うんだよ。

逆に、<妖精の長の力を遥かに超える力がある>とすると、封印すら必要なくて消滅させたり、撃退することもできるし、その辺り一帯の人間達を殲滅しちゃえば、妖精達が人間に干渉することすらできなくなるでしょ?」


「ヒカリさん、

この世界における<妖精の存在>はドラゴンやナイトメア以上に絶対に存在するものとして、人々に信じられているし、魔術を使える者達がその存在を信じていない訳がありませんわ。

<見える・見えない>とは別の話ですけどね。

つまり、クロ先生やラナちゃんを封印したり、飛竜を封印する必要がある人物は<妖精や魔術>を絶対的なものと見做していないか、<そのような認識の外側の存在>の可能性があります。」


「私は異世界の人で、<魔術が無い世界>から来たから、ナイトメアが異世界の魔術が無い世界から来た人物と想定して、そういう人物がステラの想像するような行動を取っていても、オカシイことでは無いと思うんだよ。

私はたまたまユッカちゃんと出会えて、この世界にエーテルを起源とする魔術体系があることを認識できているけど、それがなければ、<魔術>も<妖精>も全く信じることはできないし、駆使することも出来ないよ。」


「ヒカリさん、

<ナイトメア>はそれでもいいかもしれませんが、<ドラゴン>との関係が繋がりませんわ」


「それがねぇ・・・。

大きく2つあると思ってるんだよ。

1つ目は、<ナイトメア>とは全く別の上位の存在としてのドラゴンが居る。それは主神クラスの力を持った存在で、この星の調停人みたいな存在。

2つ目は、<高度科学を所有する集団>がナイトメアを使徒として派遣して、人間を支配しようとしている団体の名称。」


「ヒカリさん、面白いですわ」

「どの辺りが?」


「私は、ヒカリさんの言う2つ目の存在で考えていましたわ。」

「ステラの意見がそうだとすると、<ナイトメア>や<ドラゴン>の対応は割と簡単でさ。」


「今の私なら、ヒカリさんと同じ意見ですわ」

「そうだよね。こないだのロメリアとの模擬戦があったでしょ?

全然本気出すまでもなく圧勝しちゃったもんね。

あれが<魔石を利用する側の科学>の限界だと思うんだよ。

科学の世界には<確率>って言う言葉があって、

いくら高度な科学を積み上げても、<絶対>は起こせないんだよ。

つまり、不変なものはないし、運命は確定しない。

それが科学の限界なの。


ところが、<エーテルそのものを活用できる魔術>をこの世界の法則に当て嵌めると、その限界が突破できる可能性がでてきててね。

例えば、<エネルギー保存の法則>っていう科学の常識を超えてくる可能性がある。」


「うふふ。ヒカリさんが元気になられて、自信を取り戻された様で嬉しいですわ。」

「あ、え?ひょっとして誘導された?」


「いえいえ。この場で先ほどからお話していた<私が考えていたこと>は、本当のことですわ。」

「そこは信じてもいい?」

「私はヒカリさんに嘘をつきませんわ」


「そっか、そっか・・・。

トレモロさんに<ユッカちゃんのご両親のこと>を聞いてみようと思うんだけど、

ユッカちゃんと、ステラは何か意見あるかな?」

「おねえちゃん、私はどっちでもいいよ。私の家族はおねえちゃんとフウマ兄ちゃんだよ。あと、ステラおねえちゃんとか、いっぱい、いっぱい。」

「ユッカちゃん、ありがとうね。」


「ヒカリさん、それはどういった背景があるのか伺っても宜しいでしょうか?」

「多分さ、ユッカちゃんのお父さんであるハンスさんはストレイア帝国の王族に関わる人だよ。何か密命があって、お母さんのトモコさんと行動してたと思うんだよね。

そんな人たちがエスティア王国に滞在していた意味が判らないんだよ。何かを探していたと思うんだ。

その何かが、<ナイトメアに関わる何か>だとすると、ストレイア帝国は何らかの形で<ナイトメア>の支配を受けている可能性があるし、ロメリア王国の行動を黙認していた可能性があるんだよ。」


「メディチ卿であれば、ストレイア帝国の侯爵であるため、何らかの情報を持っている可能性があるということかしら?」

「うん。っていうか、ハンスさんの任務が失敗していることを知らないんじゃないかな?」


「あの、ヒカリさん、ユッカちゃんが伝説のトモコさんの娘さんであることは確かなのでしょうけども、その夫のハンスさんがストレイア帝国の人物であることはどうやって確認されたのでしょうか?」

「ユッカちゃんのお母さんのペンダントに裏書きがあったからだよ。トモコさんは私と同じ国から来た人だから、ハンスさんがそのペンダントに関わる人物だと思うよ。」


「ヒカリさん、そのペンダントを私が拝見してもよろしいですか?」

「あ、うん。ユッカちゃん、出せる?」

「いいよ~」


ユッカちゃんが自分の背負ってるカバンからゴソゴソやって、

例の緑の宝石が埋め込まれているペンダントを取り出す。


「ステラおねえちゃん、ハイ!」


手渡されたステラは、そのペンダントを調べて裏面にある文字を読み取る。


「ヒカリさん、これは確定ですわ。

この嵌めてある宝石だけでも相当高価な物で簡単には手に入らないため、偽造出来ないでしょう。それだけでなく、裏書きが消えないように魔術でコーティングされてますわ。」

「う~ん。だよねぇ。どうしよっかなぁ・・・。

ナイトメアのことは黙っておいて、<ドラゴン対策>とだけ話しをしておく?」

「妖精の長たちと、メディチ卿とで意見が分かれてしまう可能性がありますわ。

それが船上で発現したら、事態の収拾ができないどころか仲間割れが起こります。

そうしますと、船を二つに分ける訳にもいきませんので、我々が船から降りることになりますわ。」


「あ~。そっか、そっか~!そうだねぇ・・・。また振り出しだよ・・・。」

「ヒカリさん、クッキーも焼けたことだし、皆様のところへ戻りませんか?」

「おねえちゃん、クッキー、クッキー。早く食べよ!」

「う、うん!」


いつも読んで頂きありがとうございます。

時間の許す範囲で継続していきたいと思います。

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