4-08.航海の準備(8)
出航してからこういう問題が起きたら
リセットのしようも無いし、解決する手段も限られてくるからね。
最初に解決できて良かったよ。
さて、本題に移れるね。
「じゃ、ちょっと時間かかっちゃたけど、皆が同じ方向に向かって進めそうだね。
話を元に戻そうか。アリア話についてこれてるかな?」
「え?あ・・・。はい・・・。」
「コウさん、ごめん。うちのアリアが限界だ。
一旦、皆で食事にしたいけどいいかな?」
「ハッ!舵は交代で変わらせます。皆に食事の準備に取り掛からせます!」
「フウマ、今のこの船の食料の在庫とか分かる?」
「昼間みたときは何も無かったよ。」
「そっか。じゃ、ちょっと海に入って取って来るか。」
「姉さん、それでも構わないけど、皆で食事をするなら、陸で食事をしながら説明した方が良いんじゃないかな?姉さんが潜って魚をとってから調理する時間が勿体なくないかな?」
「ああ・・・。なんか自分の不手際がまどろっこしいね。フウマ、私は焦り過ぎかな?」
「うん・・・。僕なりに姉さんのスピードについて行こうとしてるけど、着いていけてない場合がよくある。今の問題解決の展開と速さは普通には出来ない。かといって、その問題を放置したままでは航海が失敗するか、困難の連続だったと思うんだよ。
問題が解決された後で見えてくる問題もあるし。今まで通りに姉さんが役割分担をして、人に任せれば良いと思うんだ。」
「フウマ、勇気づけてくれてありがとう。じゃ、役割分担する。
フウマはみんなにお茶をだす。
私はタカさんと海の幸を獲ってくる。
そこから荒っぽく調理して食事をしながら旅の話をしよう。」
「オッケー。後はこっちでやっておくよ。海はもう暗いから姉さんも気を付けてね。」
う~ん・・・。
ちょっと自分が混乱してるかな。
見えている結果を共有出来ないってのは、簡単に意見がすれ違うもんだね。
そのすれ違いを他人のせいにしても解決しないし、かといって、焦っても解決しない。
時間をかけて解決すべきことは、きちっと押さえておかないとね。
よし、タカさんと食料調達だ。
<<タカさん、たびたびごめん。夕飯の食料を急遽調達することになった。手分けして狩りに行きたいんだけど、協力して貰えるかな?>>
<<お安い御用で。
何か注文はありますか?無ければ私の裁量で甲板に適当に並べます。
あと、ヒカリさんの妖精さんに少し力を分けて貰っても良いでしょうか?何分暗くなっていて効率が悪い。>>
<<うん、食料の種類は任せる。あと、確かに飛竜さん達にとって暗いところは疲れるよね。この子を連れて行っていいよ。私も潜って獲りに行ってくる。船が見当たらなくなったら念話を通すから、助けに来てね。>>
<<承知!>>
「おかあさん、行ってくるね。」
「うん、お願いね。飛竜さんとは<念話>で会話できるから。助けてあげてね。」
「おかあさんも気を付けてね。」
「うん。また、後でね。」
私は裸になって、そこらに転がっている麻袋を掴んで潜る。
っていうか、もう、十分沖合じゃん!
魚群探知機とかそういうの無いから!
って、そうか。
エーテルで探知すればいいんだよ。
なんか、基本を忘れすぎてる。
<<<索敵>と<身体強化>>>
<<ナビ、周囲探知して私が危険な状態に遭う生物は居ないか確認して>>
<<周囲、全て青>>
<<ありがと。飛竜のタカさんと被らないように、獲物を獲りたい。どっか、いいの居ないかな?>>
<<大き目の方が調理の手間がかからなくてよいですね?>>
<<出来れば味も。>>
<<このまま100mほど下方に大型のタコが居ます。今のヒカリなら余裕で処理できます。>>
<<100mは水圧が不味くないかい?>>
<<<飛竜の血>と<身体強化>があれば問題ありません>>
<<ありがと。獲ってくる>>
しかし、100mとか普通は無理だよね。
まして、そこにいるオオダコを獲ってくるとか有り得ない。
ただ、まぁ、ファンタジーの世界というか、これまでの勲章というか、
だんだんと<普通>から、かけ離れてきちゃってるね。
であればこそ、<普通の人>との繋がりやコミュニケーションを大切にしないとね。
結果として、タコが大きすぎて麻袋が邪魔になっちゃったよ。
凍らせたタコは足を広げたら6mとか行くんじゃないかい?
で、こんな大きなタコは味も大味になってそうだけどさ。
ま、いいや。食べてからのお楽しみだ。
凍らせたタコを直接触らずに、麻袋で足の部分を包んで持ち上げた。
後は、飛空術で甲板に戻って冷蔵庫にタコを入れる。
裸?
暗い船内だし、私自身が光ってれば、そこは輝点にしかならないんだよね。
光を当てて、その形を浮かび上がらせるから見えちゃうだけでさ。
ま、見られてても気にしないことにしよう。そうしよう。
「フウマ、タコ獲ってきた。調理して」
「姉さん、タコ好きだね。」
「近くに居たから。」
「ま、いいよ。<タコ丸>は無理だよ。茹でるか焼くかしかできない。」
「茹でる方向で。ちょっと、シャワー浴びてくる」
「了解!って、姉さん裸なのかい!」
「うん。まぁ、こうやって自分の体を光らせてるとなんだか良く判らないでしょ?」
「確かに顔しか見えない。」
「でしょでしょ?で、タカさんとかどうなったかな?」
「まだ。先にタコを処理するよ」
「うん、お願い」
シャワーを浴びて、体を乾燥させてから服を着て、みんながお茶を飲む食堂に腰を掛ける。
「アリア、落ち着いた?」
「あ、はい。」
「いろいろ驚かせてごめんね。」
「私より、コウさん達の方が驚いているはずです。」
「そっか。コウさん、いろいろ大変だろうけど、これからよろしくお願いします。」
「ヒカリ様、何なりとご指示ください。」
「うん。基本はアリアの言うように操船が出来てくれればいいと思う。
でも、その前に<なんで操船が必要か>の話をしよう。」
「ハイ(ALL)」
「人間である私達は、<航海して航路を開拓する>それだけでいいんだよ。
だけどね?この星にはドラゴンが守護者として居るんだって。
ドラゴンにとって気に食わない技術を人間達が使いだすと、ドラゴンが制圧に来るらしいんだよ。
ストレイア帝国の前の帝国は500年くらい前まで栄えていたらしいんだけど、それが原因で滅びたらしいんだ。
今回私が使う技術は基本的には人間とか魔術師が達成できる内容なんだけど、ドラゴンの気に食わない技術だった場合には使用を控えないといけない。
例えば、さっきの<飛空艇として空を飛ぶ>ってのがダメかもしれない。もしドラゴンにとって気に食わない技術だったなら、容赦なく私達を殲滅しに来るかもしれない。
だから、私たちは常にドラゴンの気配に警戒しながら航行して、いつでも<通常の技術と魔術の延長上にある方法>で海上を航海できるように見せかけないといけない。
そして、この<通常の航海技術>は、メディチ侯爵にとっても、とても役に立つ技術のはずなんだよ。」
「ヒカリ様、質問しても宜しいでしょうか?」
「コウさん、何かな?」
「正直、飛竜は見たことがありました。ロメリア王国の新年のパレードで飛竜隊が飛行しているので、存在を信じることができます。なので、先ほどヒカリ様と一緒に飛竜に乗せて頂いたことは驚愕ではありますが、信じられる範囲です。
ところが、ドラゴンとなると、果たしてそこまで恐れるべきものなのでしょうか?」
「う~ん。<ナイトメア>は知ってるかな?」
「ステラ様とは別の意味で伝説となっている魔術師のことですね。」
「もし、コウさんが<ステラ>も<飛竜>も信じられて、<ナイトメア>も有り得ると思っているなら、<ドラゴン>も有り得ると思っていていいよ。」
「マジかよ!
あ、失礼しました。ぐ・・・。その・・・。ヒカリ様との出会い以上に厳しい衝撃の事実ですね。」
「だから、最初に私が乗船してきたときにも言ったように、<航海が成功すること>だけじゃなくて、<実際に新大陸を行き来できる技術>も手に入れておく必要があるのね。」
「ヒカリ様、メディチ卿はこのことはご存じなので?」
「トレモロさんにドラゴンのことはなんとなく伝えてあって、目的についてはお互いに良く理解してるよ。」
「承知しました。我々は、通常の新型船の航行技術、飛空艇での航行技術、そしてドラゴン遭遇時の速やかな対応。この3点を身に着けた上で航海にでるのですね?」
「うん、まぁ、全部は出来なくても良いけど、長い航海中に全部できたらいいことあるかもね。」
「ヒカリ様、どのくらいの航海期間を見込んでいるので?」
「普通の船だと片道3ヶ月って言ってた。この船とシルフが居れば一ヶ月ぐらいまで短縮できるって。」
「ヒカリ様、そのシルフというのは、この船に乗船されている男の子のことでしょうか。それとも、<風の妖精シルフ>のことでしょうか。」
「コウさん、どっちでもいいけど、シルフはシルフだよ。ちょっと聞いてみようか。」
<<シルフ、今、手が離せるかな?>>
<<もう直ぐ、赤い灯りに着くよ。風を止めるね。>>
<<うん。止めたら、ちょっと食堂まで下りてきてくれるかな?>>
<<わかった>>
ーーーー
シルフと一緒にラナちゃんとクロ先生が加わった。
タコを茹でて処理したフウマは、今度はタカさんのマグロを焼きに入ったから後から合流ってことで。
「シルフ、今回<醤油>のある大陸まで案内をお願いするんだけどさ、それは船で海上を航海する前提で考えてた?それとも、飛空艇みたいに空を飛ぶ前提で考えてた?
こんなことを聞くのもさ、みんながどのくらい時間が掛かるか詳しく知りたいんだよ。」
「う~ん。ヒカリの感覚だと、平均時速5kmぐらいで3ヵ月かかると思えばいいよ。
1日120km進んで90日掛かる訳だから、約11000kmかな。
この船は随分速いみたいだね。さっき、ヒカリの感覚で時速20㎞ぐらいでてたよ。
あの速度で走らせれば、3週間ぐらいで到着するね。空を飛ばせばもっと縮まると思うよ。」
「なるほど、ありがとうね。ただ、みんなはシルフが説明に使ってくれた<私の感覚の時速>ってのが判らないから、ちょっと説明が必要かもね。」
「ヒカリ、僕はそこは説明しにくいよ。判るだろ?」
「うん。あとで勉強会を開いて説明するよ。
ってことで、コウさん、さっきみたいに順風の追い風を背負えば一ヶ月掛からないみたい。実際の航海で、どういった風が吹くかは、朝晩、季節風とかも考えないと不味いね。
参考になったかな?」
「ヒカリ様、航海の期間の目安が判るのはとても有難いことです。食料や水の積み込み量が見積もれるので、生存率がかなり良くなります。成功のための必須条件と言えます。」
「うんうん。トレモロさんとも同じ話になっててさ。今、食料の調達は並行してやってもらってるんだ。」
「それともう一つ、ヒカリ様とシルフくんの間で交わされた<時速>という概念について、教えて頂いても良いでしょうか?」
「うんと・・・。今は止めよう。説明に時間が掛かりすぎる。あと、アリアがそっちに夢中になっちゃって、<逆風での航海の方法>が疎かになっちゃうから。
コウさん、アリア、時速の話題は一旦保留にさせて貰ってもいいかな?」
「「ハイ」」
よしよし、やっと軌道に乗りそうだね。
いつも読んで頂きありがとうございます。
時間の許す範囲で継続していきたいと思います。




