4-01.航海の準備(1)
さ、気分新たに航海の準備だよ。
「おねえちゃん、おはよ。」
「ユッカちゃん、おはよ。」
「おねえちゃん、トレモロさんが待ってるよ。」
「あ、はい。直ぐ行く。」
関所での戦勝祝賀パーティーが終わってから、直ぐに航海の準備に入ることにした。
拠点との基本的な連絡は<念話>か<飛竜を介しての念話>で繋いでいくことにした。
関所では、学校と紙漉きが新事業として気になることかな。
架橋地点では、治水工事、毛織物が気になること。
あとは、私が居なくても何とかなりそう。
なら、トレモロさんと出航の準備を整えて、行って帰ってくるだけだ。
「トレモロさん、お待たせしました。」
「いえいえ、こちらこそ。ヒカリさんには連日ご多忙なところお時間を取って頂きありがとうございます。」
「トレモロさん、私とは儀礼抜きでチャチャっと話を進めようよ。」
「はい。では、早速私から確認させて頂きたいことが何点かございます。
1.私が用意する乗組員の規模
2.食料の種類、量、調達と積み込み
3.ヒカリさんが乗船させたい人達と役割分担
4.私の侯爵としての業務の引継ぎ
5.ヒカリさんの伯爵業務および、ロメリア統治の整理
これらについて、ヒカリさんの意向を確認してから進めたいと思います。」
「流石トレモロさん、話の要点に隙が無いね。
簡単なモノから私の意見を言わせてもらうよ。気になるところは羊皮紙にメモを残そうね。
1.トレモロさんにお願いする乗組員
基本は最低限の人数で、私が持ってきた船を動かせる人数が欲しいと思ってるよ。
交代要員とかは私達に教えてくれれば、私たちが代わりに動かす。
模擬戦見てて貰ったから判ると思うけど、そこそこ強い人が居るので、男女関係なく使役に耐えうる人達だよ。
ただ、航海や操船に関わる経験と勘によるものは任せるしかないから、そこは任せるし、相談してくれれば良いよ。
結局のところ、乗船する人数は少ない方が食料集めるのも少なくて良いし、揉め事も減るからね。
2.食料関係
まず、水は3樽分ぐらいあればいいと思う。水分としてお酒や油なんかは航海に必要な量を追加して欲しいかな。
船上での食事に関しては、後でニーニャに確認するけど、船内で調理できると思うし、冷蔵庫も完備するから、そんなに心配要らないかな。
私と同行する仲間は13人なので、トレモロさんのメンバーが決まれば、それが総乗船人数だと思う。その人数の2ヶ月分の食料を積み込んでいこう。
3.うちのメンバーの役割分担
ステラ:水担当。樽に水が足りなくなったり、シャワーとかトイレの水はステラに言う。
ラナちゃん:灯りとコンロ担当。火力とか熱源とか灯りの問題はお任せ。
クロ先生:護衛担当。冷蔵庫担当。熱くてしんどいときに氷も出して貰おう。
シルフ:風担当。航海中に風が悪いとか、涼しい風が欲しいときに頼もう。
ユッカちゃん:食料担当。食べるのも獲って来るのも担当するよ。
フウマ:なんでもやってくれるよ。雑用から人間関係の調整、調理、護衛まで。
アルバートさん:通訳担当。異国に着いてから活躍予定だよ。交渉も任せると思う。
アリアさん:科学担当。いろいろ作ってくれる。
ニーニャとドワーフ2人:アイデアの具現化担当。材料渡せば、いろいろ作ってくれる。
タカさん(飛竜):<念話>担当。拠点と念話で通話してくれる。食料調達補助
私:雑用担当。
これで合計13人だよ。
4.トレモロさんの引継ぎ
私は良く判らないので、時間が掛かる内容があれば、適当に調整してください。
5.私の仕事の引継ぎ
各拠点とは飛竜さんを通して会話できるし、優秀な人達がいるから大丈夫だと思う。
ロメリア王宮だけは、なんらか支援が必要かもだけど、リチャード王子が飛竜を使えるから、まぁ、なんとかなると思うよ。
あと、トレモロさんの権限で可能か判らないけど、ストレイア帝国の横やりが私の留守中に入らないようにしてもらえると助かるかも。
こんな感じだけど、どう?」
「ヒカリさん、承知しました。私なりに再整理させていただきます。
4.私の業務引継ぎ
こちらは特にありません。航海に出る計画を立て、それを申請すれば100%許可が下ります。それだけです。
このナポルにある東屋のようなものが私の全てです。
ナポルの街での航海士や万事屋ギルド、そして商人のネットワークは有りますが、それぞれが私の意向に沿って動きますので、私が細かい指示を出さなくても大丈夫です。
ヒカリさんの心配事の1つである<ストレイア帝国の横やり>に関してですが、ロメリア方面は私が観ることになっております。定期報告の中で大きな問題が無いことを進言してあれば、急に動き出すことはありませんし、動かした場合には私の持つ利権が全てストレイア帝国から失われることになります。
先ずは宜しいでしょうか?」
「トレモロさん、ありがとう。流石侯爵ですね。頼りになります。その定期報告の範囲で十分です。私達がこの航海から帰って来るまでに、今よりいろいろな物事が片付いていると思いますので、その時間を稼いで頂けることはとても有難いです。」
「ヒカリさん、私も少々教えて頂きたいことがあります。」
「何でしょうか?」
「<ロメリア王宮の封鎖>に関してです。何をされたのでしょうか?」
「う~ん。
簡単に言うと、籠城する食料とか倉庫にあった武具類を全部奪ってある。
その上で、城下町と王宮を繋ぐ橋を封鎖したよ。」
「その方法の詳細を伺っても宜しいでしょうか?」
「ストレイア帝国やロメリア王国に漏らさないならいいよ。ただ、その方法を知っても<実現出来るか>ってなると、普通には難しいかもね。」
「それは、<私が聞いても無駄>と、暗に仰りたいのでしょうか?」
「ううん。真似されることもないし、防御することも出来ないから、<戦術として参考にならない>ってことね。
私が実行したアイデアをトレモロさんが知ることで、知識や経験が共有されて、新しい発想が生まれてくることに期待したい。だからトレモロさんに教えることは問題無いの。
けど、私の大切な仲間の情報を安易に広めると、仲間や国を害する人達が出てくる可能性が高いから、情報を秘匿しておきたいんだよ。」
「そこまで私を信用されても良いのでしょうか?」
「トレモロさんが私を裏切った場合、私とトレモロさんでは、どっちが損をして、どっちが得をすると思う?」
「私が莫大な損をするでしょう。ヒカリさんを裏切るとか、たとえ話の表現でも使ってもらいたくないです。」
「私もトレモロさんを信用するしかないから、裏切られる前提では話を進めて無いよ。
ただね?
トレモロさんに何等かの事情が起こって、私と決別する必要が出てくるかもしれない。そんな状態になってしまったら早めに言ってね。その<何らかの事情>を解決することで、<さようなら>をしなくて済むようにできるかもしれないから。」
「分かりました。<何らかの事情>がお互いの身に起こらないことを祈るばかりです。」
「うんそうだね。
で、ロメリア王宮の件を簡単に説明するとさ、裏から穴をほって、トンネル通して荷物を運び出しただけだよ。」
「ヒカリさん?」
「なに?」
「ロメリア王宮は確かに岩山をくり抜かれて作られています。裏からトンネルが通れば、そのような方法を取ることが出来るでしょう。また、架橋方法においても飛竜を仲間にして使役されていたと聞いておりますので、そのような人の手に余るような物資の移動を可能とする伝手があるのでしょう。
しかし、トンネル工事は平地に作る橋の場合と異なり、飛竜や馬の力を借りられません。人手で山脈を跨ぐ距離のトンネルを掘り進めるのは何年も掛かり、周囲の住人に露見しない訳がありません。」
「うん。トレモロさんの言う通りだよ。
優秀な仲間に助けられたところが大きいんだけど、それでも、結構いろいろ工夫したんだよ。準備含めて10日間ぐらい掛ったから、橋と同じぐらい大変だったよ。」
「ヒカリさん?」
「なに?」
「橋を10日間で架けたのですか?」
「あ、ごめん・・・。嘘ついた。橋は準備から一ヶ月ぐらい掛ったかも。」
「・・・。」
「トレモロさん、なに?」
「私は何か質問の仕方を間違えていますか?」
「たぶん、私なりに真面目に答えてるんだけど、話が噛み合わないんだよ。フウマとかステラが居ると、もうちょっとスムーズなんだけどね。」
「ヒカリさんのいう所の、<妖精の助力を得て突破した>とか、そういうものでしょうか?」
「あ~。あんまり派手なことすると、<ドラゴン>が来るんだって。だから、支援に徹してもらったよ。小屋作ったり、灯りを補助してもらったりとか。このまえ見せた光の妖精さんも支援して貰ったことの1つだよ。」
「ヒカリさん、私が悪かったです。今度時間のあるときにお話させて頂ければと思います。それより航海の準備を進めましょう。」
「なんか、私の説明が下手でごめんね。騙そうとしてないから。」
「いえいえ。フウマ様やステラ様のお気持ちが少しわかりました。
それで、船員の人員確保についてですが、清掃夫や、調理師、医師は必要でしょうか?」
「美味しい料理が作れる料理長は欲しい。
ステラやユッカちゃん、フウマが居れば船医は要らないんじゃないかな?
清掃夫もピュア掛ければいいんじゃない?」
「船医と清掃夫は不要ということで、承知しました。
参考までに、ヒカリさんのいう<美味しい料理>とは、どのような物でしょうか?」
「材料がないときは、架橋地点のパーティーぐらい。美味しい料理は関所のゴードンが作ってくれる料理。」
「ヒカリさん?」
「なに?」
「私は打ち上げパーティーを含めて3回の食事をヒカリさんとご一緒しました。また、それ以外にもそれぞれの拠点で個人として食事を提供頂きました。
その感想を言わせて頂けるのであれば、ロメリアとの終戦協定の会合で出して戴いた『粗末な物ですが』という、ヒカリさんのご案内の言葉が、あまりにも謙っていて、そのときの私には嫌味に感じられました。
しかしながら、あのレベルの食事を架橋拠点でも関所でも<皆様が普通に>、なおかつ無償で召し上がっているのを見てびっくりしました。
そして、2回のパーティーの食事は、<普通の貴族>では食べられませんし、ゴードンさんの腕前であれば、王族主催のパーティーでも、そう滅多にお目に掛かれるレベルではございません。
あれがヒカリさんの求める<美味しい料理>なのでしょうか?」
「トレモロさんは、お肉を捌いたり、魚を鮮度の良い状態で冷凍保存とかしたことないよね?」
「おっしゃることが判らない程度に、何もしたことがありません。」
「うん。素材が命なんだよ。架橋地点にも関所にも<冷蔵庫>があってさ。あれで美味しい素材を美味しく料理できる環境が整っているのね。今度の船にもそれがあるから心配しないで。
ゴードンの料理センスは別格だけど、架橋地点の料理は普通の執事経験があるぐらいの人達だから、特別なスキルは持ってないよ。
<新鮮な素材><適切な保管方法><適切な調理器具><適切な調理方法>これがあれば、あの水準は誰にでもできるんだよ。
あと、関所や架橋拠点で直接私が雇っていたり、私の奴隷だったりする人たちは、基本的には同じものを無償で食べてもらっているよ。
開拓者で自立を目指している人とか、娼館で働いている人たちは私が直接関与してないから、経営者にお任せしてる。月々の給金から差し引いているのかは、みんなにきいてみないと判らないよ。」
「なるほど。
皆で同じものを食べられるのは、公平感があり、一体感も生まれて良いですね。
調理師に関してですが、うちの航海士にも、包丁を持った経験のある者は居ます。もし、ヒカリさんが指導頂けるのであれば、その者達にも交代で船の運航と料理担当を代わって頂くことで宜しいでしょうか?」
「その方が人を集めるのに時間を掛けなくて良さそうだね。」
「はい、では、航海士に関しては私の方で6人x2チームを選定して準備させます。
2チーム編成が必要なのは、嵐などの突発対応及び、怪我や病気での補充と考えています。大海を昼夜航行し続けるのでしたら、2チームのみならず、ヒカリさん達の協力も必要になります。」
「うん、じゃ、それでお願い。」
「承知しました。」
うんうん。
いまのところ、準備は順調かな?
再開しました。
また、お読み頂ければ幸いです。




