3-100.関所への帰還
さて、久しぶりの関所だ。
みんな元気かな?
翌日、フウマ、アルさん、ユッカちゃん、ステラ、それにトレモロさんと私の6人で帰還した。
「モリス、久しぶり~~~!」
「ヒカリさん、お帰りなさい。いろいろ活躍を伺っております。」
「うんうん。みんなのおかげだよ。今日はトレモロさんを連れてきたよ。」
「ヒカリさん、トレモロ・メディチ卿のことでしょうか?彼はストレイア帝国の侯爵にまで出世したため、我々のような庶民とは話が合わないかと・・・。」
「うん。でも、今度の航海に一緒に行ってくれることになった。」
「モリス先輩、ご無沙汰しております。」
「トレモロ様、このような所へ足を運んで頂き恐縮です。」
「ヒカリさんに付いて来るように言われて、誘われるまま来てみました。」
「モリス、ゴードンさんにパーティーの準備してもらってもいいかな?流石に架橋地点だとお肉中心で凝った美味しい食事は出しにくかったんだよね。」
「昨日は王室の方とレナード侯爵が会食されていきました。今日もまだマリア様の別荘に滞在されていると思います。」
「そっか、そっか。じゃ、みんなでパーティーだ!」
「皆様、喜ばれるとおもいますよ。」
「うん、うん。ユッカちゃんリクエストで<タコ丸>があるから入れておいてね。」
「承知しました」
ーーーー
先ずは、アリアにお礼を言いに行こうかな。
「アリア~~~!げんき~~~!」
「ヒカリ様!!」
飛んで抱き着いて来たよ。
可愛いよ、可愛いよ。なんて無邪気なんだろう。
ユッカちゃんとは別の可愛さがあるよ。
妹ってこんな感じなのかね。
「投光器とか望遠鏡とか、いろいろありがとうね。飛竜の血が入った器もお洒落でびっくりしちゃった。」
「お褒めに預かり光栄です。続いて、宿題にありました<顕微鏡>を作ろうかと思っていたのですが、結構大変ですね。」
「コマ収差とかあるから、小さくレンズを作って、加工精度も高くないとね。レンズ自体が透明でないといけないし、暗いから明かりを集めてくる工夫も必要だよ。
光学系が組み終わっても、今度は観察する試料台を微調整して動かせる工夫も必要になるよ。」
「ヒカリ様、それ知ってらしたのですか?」
「う~ん。<なんとなくそうなるかな?>ぐらい。使たことはあっても作ったことは無かったんだよ。」
「光学系を組むときには、観察者の目の位置が重要なんです。レンズの中心に自分の眼が無いと、画像がずれたり、ぶれたりするんです。投光器で光源の焦点を合わせるときに光源の大きさと平行光を作成するときに実感しました。」
「アリア凄いね。実験と計算と観察から、その現象を見出したの?」
「はい。何かおかしかったですか?」
「研究の基本だよ。流石は錬金術師ランク5なだけはあるね。」
「最近、ヒカリ様と出会ってから考えるんです。
錬金術師が金を生み出すことが目的だとしたら、錬金術師なんていなくても、金を効率よく掘る技術で代替できるのです。それか養父の様に交易を生業として、金貨そのものを世の中から集めることもできます。つまり、錬金術師がするべきことは、<金>を生み出すことでは無いのではと。」
「あ~。良いね~。アリアはいいよ。
私が火薬の件で話をしたときのことをちゃんと基本に据えて物を考えてくれてる。
<自分が何の役に立てるか>そこを考えて研究に取り組むってことはとても重要でさ。
魔術を覚えるときに、ステラとも話をしたんだけどさ。
<水があるところで水を出せること>は魔術として意味が無くて、砂漠のような<水が無い所で、水を出す知識、考え方、方法を駆使できること>それが魔術なんだよねって。」
「ステラ様は流石でいらっしゃいますね。」
「うん。ステラも凄いけど、他のメンバーも凄いよ。
今回橋を架けるときやトンネル工事をするときもさ、<何のためにそれをするのか>ってシーンが結構あってね。<戦争の被害を出さないため>そこの目的からずれないように皆がしっかり考えてくれたんだよ。」
「なんか、聞いてるだけでワクワクします。その場で一緒に議論に加わりたかったです。見てるだけでも大きな経験が得られたと思うと、私もご一緒したかったです。」
「じゃ、今度の航海一緒に行く?ニーニャやラナちゃんも一緒だからさ。
それに、望遠鏡とか方位磁針ってのは、今回の航海で初めて利用される技術でさ。トレモロさんからも同行を申し入れされてるんだよ。」
「私が行っても大丈夫でしょうか・・・。」
「アルバートさんも一緒だから、モリスが悲しむかもね。
でも、あの人は自分の感情を完全に伏せて我慢するんだと思うよ。
2-3ヶ月で帰って来るから我慢してもらってもいいかな~って、思ってるけど、
新規航路の開拓に子供二人を同時に参加させるのは憶病になるかも?」
「ヒカリ様は自分を低く見積もり過ぎです。皆さんから絶大な評価を受けてるんです。ヒカリさんが<できる>といって、出来ないことは無いんです!」
「アリア・・・。私にも出来ないことはいっぱいあるよ。
私の持つ科学では<錬金術>は出来ないんだよ。ラナちゃんの<ナノ核融合>ぐらいの知識と技術が無いと元素の組成変化は無理かな。
でもね?<目的を達成するために、準備を万全にする>ことは心がけてるよ。」
「大丈夫です!ヒカリ様なら大丈夫です!」
「うん、ありがとうね。そしたらアリアも一緒に行こうよ。」
「ハイ!」
船での勉強会が捗りそうだね。
私もアリアに負けないぐらい、いろいろ勉強しないとね。
光学系の設計論は完全に負けてると思うし。
私の強み、持ち味を出せるようにしないとね。
ーーーー
次は、リチャード王子でいいかな?
「リチャード王子、ちょっと宜しいでしょうか?」
「ヒカリ、お疲れ。相変わらず想像以上のことをしてくれるね。今日の夕食パーティーのことならモリスから聞いてるよ。」
「あ、はい・・・。それとは別にお願いが・・・。」
「ニーニャの剣を返せって話には、相談に乗れない。」
「あ~。ちょっとは関係するけど、それは大丈夫です。ニーニャが良いって言ってるので。」
「何の話だい?」
「婚約発表は、いつを予定されていますか?」
「考えていなかった。」
「え?」
「おまえ、戦争の終戦交渉が終わったのは昨日だぞ?戦争が終わって、父をもてなして、それで今なんだぞ?準備なんか始まってる訳がないだろ。」
「あ、それは良かったです。2-3ヶ月お待ち頂けますか?」
「ああ?おまえさぁ?もう既に3か月以上延期してるんだぜ?3ヶ月も経ったら、年が明けるだろ?」
「新年の祝賀会と同時に行うとか・・・。経費の節約にもなりますし・・・。」
「というか、まだ治水工事を続けるのか?もう、お前なしでも進むんじゃないのか?」
「あ、はい。その件は引継ぎましたので、大きな問題が無ければ、2-3ヶ月で目処が付くと思います。」
「まさか、メディチ卿と砂糖の買い出しに行くんじゃないだろうな?ユッカちゃんと約束してるのを知ってるぞ?」
「それもメディチ卿から寄付頂きましたので、当分は調達しないでも間に合います。」
「獣人族の村の設立か?何もない所からだと、資金も資材も足りないからな。」
「それも暫く我慢して頂けることで調整済みです。」
「まぁ、好きにしていいよ。いつも俺の想像の範囲を超えてるからな。」
「以前からレナード様と王子の連名で許可を頂いていたのですが、婚約の件がありましたので、念のためお伺いしただけです。問題無ければ明日からでも準備にかかります。」
「何の許可だ?何の準備をするんだ?」
「船でちょっと、旅に出ようかと。」
「ば、馬鹿言うな。そんなの許可できる訳ないだろが。許可した覚えもないぞ?」
「いえいえ。初めて関所に視察しに来てもらったとき、許可証を発行してもらいましたよ。」
「それは、深夜でも街を抜けて、城下町までくるための許可証だろう。」
「その際<何でもおねだりしていいぞ>ってことで、
・農地の開拓、農民の雇用、収穫による税収徴収の権利
・冒険に出るときの身分証
・船を用いて交易する権利
これらを連名でサイン頂いております。」
「した・・・。確かに『夢があっていいな』とか、笑いながらした・・・。」
「なので、お妃様の宿題も片付いて、王子とレナードさんの許可も貰っています。ただ、気になっていたのが、<延期中の婚約の儀>だったのです。でも、それも問題無いので、ちょっと行ってきますね。」
「わ、わかった。父の意見も確認したいんだけど、いいかな?」
「わたし、国王に信用されてないから。王子が良ければ良いのでしょう?
というか、婚約者として、ちゃんと王子を落札したんだから、こっちが国王から文句言われる筋合いは無いし。相手と合わせて金貨40万枚相当を国庫に入れて、贋金20万枚を回収して。今回さらに3万枚回収できるんだからさぁ。残りは3ヵ月以内に回収しておいてね?」
「俺、ヒカリに買われたのか?」
「国王の提案によって、私が買ったよ。文句ある?」
「俺、金貨20万枚返せないとどうなる?」
「私が受け取らない。っていうか、ちゃんと贋金回収して、新金貨を発行してね。婚約の儀だか、結婚式を機に発行できるでしょ。贋金を流通させておくと、ストレイア帝国から横槍が入るからね?」
「それ、俺がやるのか?」
「私がやるの?王子が泣きべそかいてるレリーフの金貨作って流通させるよ?」
「俺は、とんでもない人物と結婚しようとしてないか?」
「あ、やめる?リチャード王子が結構いい人だと思って、頑張ってたのに。
違う人探すか・・・。
ちなみに、他国から制圧しにくるとき、私は関所から進軍できるからね?」
「ヒカリは俺と結婚するために頑張ってたのか?」
「それだけじゃないけど、昨日の終戦処理はリチャード王子が継ぐ予定のエスティア王国の為だよ。」
「現国王のためじゃないのか。」
「何故そんな必要があるの?」
「ヒカリ、忠臣として国王に仕える義務があるだろ。それが封建制度の根幹だ。」
「王子、弱い領主やツマラナイ領主は無視していいんだよ。それが封建制度だよ。」
「ヒカリから見て、俺がツマラナイ人物でないから、助けてくれたということか?」
「・・・。」
「何故だまる。」
「しらない!みんなに挨拶してくる!」
なんか、上手く甘えられないね。
王子が何かといえば、国王の判断を仰ごうとするからかな?
ロメオ王子を見習って自立する準備をして欲しいよ。
でも、面倒ごとがまだまだあるから、突然国王になられてもこっちが世話で困るか。
ほっとこう。
ーーー
このあと、飛竜のグルーさんとヌマさんにお礼を言いに行ったよ。人間達への恨みをよく辛抱してくれていることと、橋の工事とかで飛竜の皆さんにとても助けて貰っていることに感謝の意を伝えた。
そしたら、グルーさんが私の項についてる<飛竜の加護の印>に手を当てて、ラナちゃんみたいにエネルギーを送り込んでくるの。
「ヒカリさんに飛竜の力が宿りますように」だって。
いや、飛竜の血を飲んでるし、飛竜を召喚とか生むとか、出来ないでしょ。なんだか良く判らないけど、貰っておこう。
最後は長老とエルフのエスト達だね。
「長老、いろいろありがとうね。で、みんなで船旅に出ようと思うんだけど良いかな?良かったら長老も来る?」
「ヒカリさんや、多くの仲間に守られて大きくなったのじゃ。ワシが居なくても安心じゃな。」
「え?長老何言ってるの?一緒に来てくれると助かるよ。」
「ワシはここでハーブ類の世話をせんとな。エルフの子らに伝えることも沢山ある。それには水と大地があるここが一番じゃ。おぬしの地下菜園も勝手にハーブ菜園に使わせて貰ってるのじゃ。良いかのぅ?」
「あ、うん・・・。地下菜園は使って。そっか。長老はここのが居心地いいか・・・。娼館の方もランちゃんに言って使ってね。航海中の水がちょっと心配だったけど、なんとかするよ。」
「ヒカリさんや、ステラに何人かの水の妖精を分けたのじゃ。ラナちゃんが渡したのと同じ奴じゃ。だから問題なかろう。おぬしにも、とっておきのをやろう。大事に温めてから孵して欲しいんじゃ。」
「えっ。直ぐに出せないの?」
「これは奥の手のじゃからな。ちょいと時間が掛かる。何も危害はないから気にしないでよい。ワシの気持ちじゃて。」
「そう、ありがとね。」
今度は長老が私の額についている加護の印に手を当てて、エネルギーを送り込んでくる。これも出せないのか。気分が悪い物じゃないからいいけど、なんか、今日に限ってなんなんだろ?
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パーティーまでちょっと時間があったから、モリスと一緒に領地の農地を視察したり、トーマスさんとレナードさんが高温炉の実験してるのを見学した。
あとはモリスが始めてくれている<学校>についても場所ができてることを見せて貰った。人が上手く集まらないらしいから、<ご飯やお菓子>で生徒を集めると良いってアドバイスしておいた。余裕があれば<木か紙漉き>する技術に着手して欲しいことを伝えた。これがあると、教科書とか写本が普及し易くなるんだよね。羊皮紙と石板だけじゃ嵩張るしね。
さ、残るはパーティーだよ。
いつも読んでいただいている皆様には感謝しています。
今後とも頑張って続けたいとおもいます。




