20.パンを作ろう(1)
「パンみたいな何かをパンにする」
天然酵母の様子をみたいんだけど何か変だ。
ユッカちゃんの反応が変で、とても大変なことに……。
「おねえちゃん、おはよ~」
「ユッカちゃん、おはよう」
「「せ~の~! エーテルさん! ピュア!!」」
なんか、ここまでが毎朝の1セットだね。
「おねえちゃん。お願いがあるの」
「私ができることなら、なんでも」
「今日もクッキー焼いて欲しいの」
「あと、1-2回は大丈夫だけど、その先は砂糖を別のに使いたいかなぁ。別のものが成功して、余ったら残り全部クッキーでもいいよ」
「砂糖があれば、いっぱい作ってもらえるの?」
「うん……。でも、砂糖高いし、売り切れになっちゃったよね」
「レナードさんがいる町に行ってみようよ!売ってたよ!」
これ、国中の砂糖が売り切れになるね。
「あ、でも、私、もうお金ないよ。この前はユッカちゃんのお母さんのハムと交換できたけど……。」
「じゃぁ、レナードさんじゃなくて、あの商人さんのところにハム持っていこう」
「いや、あの商人さんじゃなくて、後からきた青年の人が買ってくれたんだよ。それに、城下町じゃ砂糖残ってないよね?」
「おねえちゃんのイジワル!」
「あ。ちょっと待って。
もし、ここの冷蔵庫以外にも氷が残ってる洞窟があれば、おかあさんのハムと同じ物を私が作れるし、そうすれば、こないだの人に買ってもらいに、また城下町に行けばいいと思う」
「なんでそんなことになるの?」
「私が商人さんに、『氷の洞窟で保管しました』って、言っちゃったから」
「レナードさんのは?」
「おかあさんが作ってたって言えば、私は関係ないし」
「商人さんにハムを売れないのは、おねえちゃんのせい?」
「そうかも」
「おねえちゃんのバカ~~!」
なんだか、今日は言われたい放題だよ。
クッキーか!クッキーが悪いのか!
「ええとさ。ユッカちゃんが見回りとかしてて、冷たい空気が流れてくる穴とか、雪が谷間に残っている場所とかない?」
「おかさんの結界の外側ならあるよ。レナードさんの領地なら割れ目から冷たい空気がでてる場所がある。王様の土地だと、高い山で雪が残ってるところがある」
「雪が残ってるところって、ここから遠い?」
「行きは明るいけど、帰りは暗くなってるかも。」
「私は、ランプとかもってないや……。エーテルさんにお願いすれば、なんとかなる?」
「足元照らしてくれるよ。行ってみる?」
「朝ごはん食べて、準備してから行ってみようか」
「ハムが売れるなら、なんでもするよ!」
ーーーー
準備といいつつ、昨日仕込んだ天然酵母をちょっとみてみる。
温度が一番高い、外においておいたやつ。
ん???
なんか、相当発酵が進んでる。
これって、まさか、もう使える?
エーテルさんのせいか?原因は今度考えることにして……。
<<ナビ、今日はがんばってね。まず、天然酵母の発酵した画像のダウンロード>>
<<ダウンロードします>>
発酵が進んだツボの中身を木のコップにあける。
え?やっぱり進んでる。
てか、もう、干しブドウがぷっくら膨らんで、浮いてるじゃん!
<<ナビ、天然酵母を使ったパン生地の作り方をダウンロード>>
<<了解>>
材料混ぜて、保温して4~12時間か……。
レシピでいろいろなんだね。
ただ、これって、今日出かけるのに丁度いいね。
1つ目のツボは適当にやっちゃうか!
あと、<なめし洞窟>のは外に出しておこう。
レシピどおりにちゃちゃっと混ぜて、鍋に入れて、外に置いておく。
よし、準備完了!
こっから本当の準備だ!
<<ナビ、地図とか雪山の位置分かる?>>
<<国王領の山間部の地図は入手できてません>>
<<トモコさんの結界の外の敵の強さは?>>
<<ここからの索敵範囲外。方向性を絞らないと索敵距離が伸びません>>
<<ありがとう。ユッカちゃんが移動始めたら、レンジ絞って距離伸ばして。
黄○が確認出来たらすぐにアラームと種別、対処方法をダウンロード>>
<<了解>>
問題なのは私に武器がなんにもない。
トモコさんの服と靴。
ナイフすらないんだよね。
ユッカちゃんみたいに敵を制止させられないし。
私が使える魔法は
ピュア、風を呼ぶ、体内異物除去、魔石作成、天然酵母を発酵させる。
なんか、ほんと役に立つ魔法がないね。
ま、いっか。
ユッカちゃん頼みだ。
美味しいパンが作れたらそれで勘弁してもらおう。
ーーーー
「ユッカちゃん、私もなんか準備することあるかな?」
「お肉を冷やすんでしょ?たくさんもったほうがいいよ」
「今日はお肉を冷やさなくていいよ。冷蔵庫においておけばいいです」
「じゃあ、ない。出発!」
なんか、ユッカちゃんに仕切られてる。
いや、任せた方がいい。
なんとかがんばって、ついていこう。
ユッカちゃん、今日の移動は速い。
昨日見回りに行ってきたペースで走ってる。
今までは私のために手加減してたのか、それとも目的地が遠いのかな。
ともかく、がんばろう。
<<ナビ、安全確認できそう?>>
<<索敵範囲内において、青○すら無し>>
<<ありがとう。引き続きよろしく>>
私の息が上がり、だんだん追いつけなくなってきたころ
ユッカちゃんが速度をおとして振り返る
「おねえちゃん、休憩する?」
「はぁ、はぁ、はい。ちょっと助かるかも。それか、ゆっくり歩いてくれてもいいかも」
「わかった」
狭い獣道なので、縦に並んで歩きだす。
と、またユッカちゃんが振り返る。
「あれ?おねえちゃん、エーテルさんに話しかけないで走ってた?それとも魔力なくなっちゃった?」
「え?」
「私が後ろからみててあげる。一本道だからおねえちゃん先に歩いて」
「はい」
「おねえちゃん、
まず姿勢。
これくらいの斜面なら、体を前傾させて、腰で体を支えて。
あと、足と肩の運びは一軸じゃなくて、2軸で。
太ももの裏から骨盤を抜けて、お腹の辺りに足の筋肉がつながってる。
この二本の筋肉を腰を中心に前後に振る感じで。
体幹を捻るのではなくて、足と手を同じ側を同時に動かす」
ユッカちゃんに指導された通り、がんばって腰と背中を伸ばして前傾姿勢をつくる。
筋肉のつながりを意識して2軸歩行?
っていうか、「手と足を同じ側を出す」って、できるんかい?
まぁ、後ろから先生が見てるので、言われたとおりにやってみる。
「姿勢はいいかも。
でもまだ、手と足が逆側で捩じってる感じ。
前に振り上げるんじゃなくて、進む方向に順番に落とす感じかなぁ。
落としながら、それを足で支えて、そのタイミングで逆を傾けて落とすの」
なんか、ゴリラがうっほ、うっほと歩いているのを高速化した感じ?
手や足を振り上げて速度を出すのとは体の動かし方が全然ちがうね。
長い距離移動するにはこっちがいいのかも?
言われるがまま、続けてみる。
「次にエーテルさんを呼んで。
先ずは、心臓からの血流を意識するの
血流には、酸素と栄養を運んでもらうイメージでエーテルさんに語り掛けて。
次に、リンパ液に老廃物を回収してもらうの。
筋肉の毛細血管の隙間から徐々にリンパ管へ体のゴミを押し込むの。
最後に、呼吸を意識して、肺の隅々まで息を吸い込んで、
隅々から全ての呼気を外に出す感じ」
え?なんか専門用語バリバリ。
生物とか保険体育の知識としては当たり前だけど、
これ、トモコさんが教えたんだろうね……。
覚えて、理解して、実践できてるんだ……。
あと、エーテルさんに手伝ってもらうためには、『何がどのような工程を経て、具現化するかを頭に思い浮かべること』が重要なのかもしれない。
3重並列起動だから誰でも真似できるもんじゃないだろうけど。
エーテル操作能力=魔力を持ってる人なら活用するメリットは大きいね。
「わかった~。ちょっとやってみる~」
前を向いたまま返事をする。
そして歩きながら、エーテルさんに手伝ってもらうことを意識する。
あ、あれ???
いきなり疲れが取れた。深呼吸してないのに、息が楽。
なんなんだ……。
「ユッカちゃん、楽になった~。ゆっくりだったら、走れるかも~」
「じゃぁ、おねえちゃんのペースで走ってみて~」
この手と足の同じ側を出す感覚が慣れないね。
でも、呼吸も楽で体が疲れを感じないから、
多少のアンバランスも騙しながら走れる。
これは、誰に感謝すべきなんだろう。
主神?トモコさん?ユッカちゃん?
とにかく、皆さまに感謝ですよ!
と、順調に行程を進めていると、ナビから通信が。
<<ヒカリ、結界の外の前方に黄○。
種類はハイオーク。力は強いが、エーテル操作能力は無い。
動きを止められれば、近接で苦労することは無い>>
<<了解>>
「ユッカちゃ~ん。結界って~どこまであるの~?結界の外って危険~?」
「そろそろ、結界の外ですよ~。私が前にいきます~」
ユッカちゃんに任せてていいもんだか。
少なくとも、ユッカちゃんを回復したり守ったりはしたいな。
ユッカちゃんに促されるままに、私と前後が入れ替わって、結界の境界に近づく。
「おねえちゃん、ちょっと待ってね」
……。
なんだろ、索敵でもしてるのかな。
「おねえちゃん、なんか居るね。魔物だと思う」
「え?どんなの?」
「立つイノシシさん。青いかも。青いと、ちょっと強い」
「周り道を探す?」
「ううん。イノシシはイノシシだから、狩りの仕方は同じだよ」
「そっか。手伝えることあったら言ってね」
「う~ん。じゃ、おねえちゃん、ここで待ってて。行ってくる」
「見に行ってもいい?」
「敵に気づかれると、止めるのに時間がかかるから……」
「あ、了解。ここでまってる。気をつけてね」
「うん、すぐ戻る」
また何もできない。
こう、何て言うか、なんとかして、獣を倒せるようになりたいね。
何が足りないか判らないレベルで、何にも判らない。
一人前の狩人ってどうすれば成れるんだ?
と、思考を巡らせていると、あっという間にユッカちゃんが戻ってくる
「はい。こんな大きさの魔石になったよ」
「早かったねぇ」
「解体しないで、自然に魔石に吸収されるから楽なんだよ~」
ピンポン玉より小さめ。
黄○なのに、ピンポン玉より小さいのか。
あと、魔物は後処理しなくていいと。
ファンタジーのご都合主義でもなんでもいいや。
魔物→魔石を回収しておしまい。
獣→お肉を回収。魔石なし。後処理する。熟成肉は想像以上に高価
よし、覚えた。
そう考えると、魔物は狩りする必要ないね。
お金を稼ぐためなら、熟成肉作ればいいし。
肉の熟成は時間がかかるけど、保管するだけで手間かからないし。
材料は獣を狩りするだけだから安全だし。
ただ、ユッカちゃんが居ないと、
結界の外の山道が歩けなくなるっていう問題がある。
これは、普通の街道の盗賊と遭遇したときにも問題だ。
天然の氷室の当てがみつかったら、
生き残るための策も考えないとね……。
「おねえちゃん、もうすぐ着くよ」
「結構速かったね」
「おねえちゃんが速かったんだよ」
「ほら、あそこ。雪が残ってるでしょ」
うん。あれは万年雪だね。山の谷間の影になってる部分。
「ユッカちゃん、ナイス!今度あそこに肉を保管できる倉庫をつくるよ。そうしたら、堂々と高い値段で熟成肉とかハムを売れるようになる」
「ここまで毎日通うの?」
「ううん。『ここで作ってます』って、案内できれば、本当に作ってなくても大丈夫。」
「なんで、そんなことするの?」
「家にある地下のエーテルで冷やしてる冷蔵庫をみせてもいい?」
「おねえちゃん、エーテルのことはダメにきまってるでしょ!」
「じゃぁ、どこで作るっていうの?」
「どっか、冷たいところ。ハッ!」
「ユッカちゃん、正解!」
「ここがあれば、商人さんにいつでもハム売りにいけるね」
「うんうん。じゃ、ちょっと休憩してから帰ろっか」
こっそりと隠し持っていたクッキーを取り出して、ユッカちゃんに見せる。
「おねえちゃん、大好き!」
ふふ~ん。
クッキーは偉大だ!
さ、エーテルさんの助けを借りて、さっさと帰ろう。
発酵中のパン生地がまってるね。
タイトルと誤字等の修正のみです。本ストーリーへの影響はありません。




