3-95.外交の架け橋(6)
ここから本番だよ。
ニーニャは誰かがどっかに連れて行っちゃったみたいで居ない。
マリア様も用事があるとかで、模擬戦の途中で離脱したらしい。
気が付かなかったよ。
だから残り9人で会合開始だ。
「では、ささやかながら食事を召し上がって頂きながら、歓談と模擬戦の精算などさせて頂ければと思います。」
「はい(ALL)」
「それで、大変不躾な申し出で申し訳ないのですが、精算の契約書を作る前に、念のため宣誓書を作成させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「ヒカリ殿、それはどういった趣旨であろうか。」
「スレイ様、何分金額が大きいので、これから作る契約書を作る前に、その契約書を反故にすることは無いと宣誓して頂こうかと思います。」
「ヒカリ殿、ロメリア王国の騎士団長の書類が信じられぬということであろうか?」
「万が一にも騎士団員1万人を投入されるようなことがありますと、我々としても流石に困りますので。」
「つまり、進軍を許可しないというような趣旨の宣誓をするのであろうか?」
「いえいえ。そのような宣誓は必要ございません。
国際法、ストレイア帝国、ロメリア王国、そしてエスティア王国の法律に照らし合わせて、違法な行為が発覚した場合には第三者による仲介を受けることを許容して頂きたいのです。」
「なるほど、契約書が不履行になった場合には模擬戦前におふた方が述べられたような第三者による介入を受けるということですな?」
「そうです。スレイ様ご自身の行いがロメリア王国に多大な被害を与える可能性があることをご理解・ご了承頂ければと思うのです。この場合、たとえ私の領地が殲滅されることがあろうとも、ロメリア王国本体も相応の被害を受けることになります。」
「全く問題ない。ロメリア王国に被害を及ぼすような愚かしい真似を自ら選択する訳が無い。」
「スレイ様、同意頂き大変ありがたく思います。それでは、食事中ではありますが、羊皮紙2枚を作製しました。
<国際法または各国の法律に抵触あるいは棄損する行為を行った場合には、第三者による介入を受ける>と、二枚にロメリア王国の方々4名の連名で署名して頂けますでしょうか。一部をメディチ卿に、もう一部をアルシウス卿へ提出頂ければと思います。」
ほんの数行の文章に4人がサインをするだけだから、多少のことは我慢して貰ったよ。
食事って言ったって、そんな豪華なフルコースはここでは出せないもんね。
「ヒカリ殿、我々4名の連名で2部作製した。おふた方に手渡せば良いかな?」
「はい、ありがとうございます。
それでは、メディチ卿より先ほどの模擬戦の結果を報告頂けますでしょうか。」
「はい。先ほどのロメリア王国の騎士団とヒカリ殿私兵による模擬戦3回戦の結果は、ロメリア王国騎士団の勝利数0回、ヒカリ殿私兵の勝利数3回である。」
「メディチ卿、審判役ありがとうございました。審判を務めて頂きましたお礼に関しましてはこちらの会合が終わったあとでさせて頂きますので、少々滞在して頂ければと思います。」
「ヒカリ殿、あくまで余興に付き合わせて頂いただけのこと。特にお礼を言われる筋合いはございません。」
「メディチ卿、承知しました。ありがとうございます。」
「ヒカリ殿、宜しいだろうか?」
「スレイ様、何でしょうか。」
「今日は持ち合わせが無い。明日にでもここに馬車で金貨を運び込もうと思うがどうであろうか?」
「流石侯爵様でございます。橋の東岸迄運んで頂ければと思います。金貨はロメリア王国の金貨になるのでしょうか?」
「うむ。気にする必要は無い。エスティア王国の金貨で3万枚用意しよう。」
「え?」
「何か問題があるか?」
「何故、エスティア王国の金貨なのでしょうか?」
「それは、ヒカリ殿がエスティア王国の貴族であるので、使い勝手が良かろう。」
「いえいえ。そのお言葉をそのままお返しさせて頂きます。
何故ロメリア王国の侯爵様が、エスティア王国の金貨を大量にお持ちなのでしょうか?
使い勝手が悪いでしょうに。」
「外交上、隣国の通貨があると、他国を訪問した際に利便性が良いのでな。ストレイア帝国の通貨も持っておる。」
「なるほど。でしたら、今回はロメリア王国の金貨3万枚でお支払い頂いて宜しいでしょうか。何分橋の工事と今後の領地維持のためにもロメリア王国での支払いが増えそうです。私もロメリア王国の金貨を所持している方が良さそうですね。」
「む。それは・・・。」
「どうかされましたか?
先ほどのお話ですと、あくまで財産の一部としてエスティア王国の通貨を所持しているような印象をうけました。同等量の自国通貨で請求させて頂いても問題無いと考えますが?」
「ウフィッツ財務大臣に融資しており、少々手元の金貨では足らぬ。ロメリア王国の金では直ぐには渡せぬ。」
「でしたら、ロメオ王子やルーブル侯爵、メトロポリタン侯爵にロメリア王国の通貨に交換頂いても宜しいでしょうか?」
「ヒカリ殿、私は皇太子ではあるが、あくまで騎士団配属の一貴族に過ぎない。金貨一万枚単位での通貨は持っておらぬ。他2人の侯爵に任せるしかない。」
「ロメオ王子大変失礼しました。個人の懐を探るつもりはございませんでしたが、不躾な発言、謹んでお詫び申し上げます。」
「いや、いいんだ。役に立てず申し訳ない。」
「スレイ様、私は金貨5000枚なら用意できます。多少はお役に立てるかと思いますが。足りるでしょうか」と、メトロポリタン卿。
「スレイ様、私も残念ながらウフィッツ財務大臣に融資しておりまして、手元に金貨がありません。」と、ルーブル卿。
「スレイ様、残り2万5000枚を融通頂ければ問題ありませんね。」
「ヒカリ殿、無い物は無いのだ。」
「良く判りません。ロメリア王国の侯爵様3人居て、自国通貨が5000枚しか無いということでしょうか?他国の通貨は3万枚以上あるにも拘わらずです。」
「そういうことになる。」
「スレイ様、何か大型の取引が予定されていたのでしょうか。例えば<この橋を購入する>とか、<1000人単位のエスティア王国の兵士を雇用する>とかです。」
「そのような予定は無い。何故エスティア王国の金貨ではダメなのか?金貨は金貨であろう。」
「いえいえ、逆に何故自国の通貨がなく、その数倍の他国の通貨を侯爵様達が所有している方が不思議です。ダメとかではなくて、何か問題がある状態と思います。」
「そ、それは・・・。」
「ロメオ王子すみませんが、ロメリア王国では何等かエスティア王国の特産物や領地などを買収するために、侯爵に指示を出してるのでしょうか?どうもスレイ様には発言しにくいことがあるようです。」
「私は国王で無いため、そのような権限は無い。しかし、そのような話は聞いたことが無い」
「そうですか、ありがとうございます。メトロポリタン卿はエスティア王国の通貨を大量にお持ちなのでしょうか?」
「いや、私は、先ほどの5000枚が金貨としては全てです。
隣国の通貨として多少の通貨は持っております。しかし1000枚単位の通貨を他国通貨でワザワザ所持しなくても、ロメリア王国の通貨が通用する場合が多いので、これまで問題となっておりません。」
「ヒカリ殿、そうだ。そうなのだ。隣国の通貨でも流通上は問題が無い。なので、今回はヒカリ殿にとっての自国通貨であるエスティア王国の金貨で良いのではないか?」
「スレイ様、少々発言をお待ち頂けますでしょうか。
メディチ卿、ご参考までに大量の通貨を所持するタイミングでは、住居のあるロメリア王国の通貨でしょうか。それともストレイア帝国の通貨でしょうか。」
「ヒカリ殿、私は基本的には取引相手の通貨を使うが、ロメリア王国との取引ではロメリア王国の通貨を用いるし、ストレイア帝国からの融資がある場合には、ストレイア帝国の金貨を受領する。敢えて他国通貨を大量に受け取ったことは前例がない。」
「メディチ卿、ご丁寧にありがとうございます。」
「リチャード王子、先日妙な噂をお聞きしましたが、あの件をここで紹介しても構わないでしょうか。」
「ヒカリ、あれは王国内の極秘事項である故、他国の王子や侯爵が居る前では困るのだが・・・。」
「ひょっとしたら、問題の解決に向けての糸口を知る方がいらっしゃるかもしれません。」
「箝口令を敷く前提であれば構わない。また、ここから先は食事の給仕も控えて頂きたい。」
多分、王子は私がやろうとしてことを理解してるね。
その前提で、勿体ぶった重要事件であることを演出してくれている。
ありがたいね。
「あの、皆様お食事がお済でしたら、一旦給仕を止めたいかと思いますが、如何でしょうか?」
「問題無い(ALL)」
「契約書の作成が終わり次第、食後のデザートの給仕を再開させて頂きたいと思います。それでは、エスティア王国での奇妙な事件について紹介させて頂きますが、この話は口外無用でお願いいたします。宜しいでしょうか?」
「ハイ(ALL)」
「最近になって、エスティア王国内において、<贋金>が流通していることが発覚したのです。その資金の出元がエスティア王国の財務大臣のベニス卿でした。しかしながら、ベニス卿ご本人が<贋金>を鋳造している様子も無く、どこからその贋金を入手しているのかが不明でした。
ベニス卿はメルマの利権をもっていることから、メルマ方面から税収などを介して<贋金>が流入している可能性があり、調査を進めていましたがメルマやサイナスまでは何も見つからなかったのです。
今現在も、エスティア王国の<贋金>の製造元に関して調査を進めているのですが、どうにも出元が判らない状況です。」
「ヒカリ殿、エスティア王国は幾つもの鉱山と鋳造施設をお持ちであろう。そのどこか一つで隠れて<贋金鋳造>をおこなっているかもしれぬぞ?」
「スレイ様、アドバイスありがとうございます。真っ先に国内の大臣と鉱山施設の調査を行いましたが、新鋳造金貨からは贋金が見つかりませんでした。また、贋金の流通量はエスティア王国内の南部、つまりメルマやロメリア王国方面で多いことが調査から判明しているのです。
ですが、海岸地帯には鉱山らしきものがなく、鋳造に必要な炭焼き小屋も森が無くては作れません。どこか山岳地帯や森林地帯にあるかと思っています。」
「なるほど。それは確かに箝口令を敷くべき大事件ではありますな。」
「スレイ様、もし、よろしければ、お持ちの大量のエスティア王国の金貨に<贋金>が混在していないか確かめさせて頂く訳には行きませんか?」
「それは無用な心配である。問題無い。」
「いいえ。我々も<贋金が流通している>などとは気が付かなかったのです。そこで、恥を忍んで、いま、出元究明のために助けを借りたいと考えています。もう。既にロメリア王国にご迷惑が掛かっているかもしれません。」
「ヒカリ殿、余計な心配はご無用。」
「そうですか。でしたら、金貨2万5000枚をエスティア王国でお支払い頂いて、こちらで贋金の流通が無いか調査させていただきます。もし、少量でも贋金が混在しているようでしたら、スレイ様にも入手元につきましてお伺いするかもしれません。」
「ヒカリ殿、金貨ではない、代替物での支払いでも構わない話だったな?」
「スレイ様、エスティア王国の金貨で構いません。明日には届けて頂ける話でしたね。」
「それは困る。」
「何がでしょうか?」
「その金貨は使用する予定があるのを忘れていた。」
「食事をしながら思い出した急な要件でしょうか。」
<<フウマ、<贋金>の報告に入ってきて>>
<<了解!>>
「そ、そんなことは無い。模擬戦で疲れて失念していただけだ。」
っと、ここでフウマ登場。
「姉さん!判ったよ!」
「フウマ!皆に失礼であろう!重要な会議の最中である。ノックをし、許諾を得てから入るのが当然であろ!やり直せ!」
フウマが扉の外に出て、ノックをする。
「何用だ!」
『フウマです。ヒカリ殿より指示のありました件で緊急の報告がございます。』
「入れ」
<<フウマ、演出だけど、損な役割をさせてごめんね>>
<<いいって。報告を始めようよ。>>
「フウマ、重要な会議の最中である。用件次第では会議終了後に報告を受けたい」
「<贋金>の調査についてです。本日リチャード王子も訪問されていると伺っておりますので、差支え無ければ緊急に報告をさせて頂ければと思います。」
「フウマ、待て。」
「ハイ」
「皆さん、不躾な弟が会議の場を混乱させてしまい申し訳ない。
ですが、丁度箝口令を敷いてまで話題に挙げていた<贋金>の件についてであるので報告を受けたいと思う。もし、スレイ様のエスティア王国の通貨に問題がなければ、予定通り火急の要件に利用いただき、代替物で納めて頂くことは可能であると思う。
皆様、如何でしょうか?」
「・・・。(ALL)」
「皆様の沈黙は、話を続けても良いと理解して良いでしょうか?」
「ヒカリ殿、報告の信ぴょう性があるか不明だが、聞くだけ聞いてもいいのではないか?」
「スレイ様、ありがとうございます。では、フウマ、報告をお願い。」
「分かりました。」
よし!
とうとうここまで来たね。
いつも読んでいただいている皆様には感謝しています。
今後とも頑張って続けたいとおもいます。




