3-91.外交の架け橋(2)
よし、場の支配は出来た。
こっから、相手の出方を逆手に取るよ!
「それでは、ロメリア王国のロメオ王子より、今回私が指揮を執らせて頂いています<ミラニア川の架橋工事>に関しまして、ロメリア王国内で問題になっている用件を述べて頂けますでしょうか」
「今回の<架橋工事>に関していくつかの問題点が挙がっております。取り纏めの代表として私が発言させて頂きます。
1つ目は治安の悪化です。
橋の通行に伴う関所機能が治安上必要になります。従来は船舶での移動でしたので、渡し賃の支払いを通じて、人相確認ができていまして、犯罪の抑止効果がありました。
現在、ミラニア川西岸にロメリア王国騎士団の騎士200名を配置して、治安維持に努めなくてはならない状況になっております。
2つ目は、通行料徴収の問題です
これまで船舶の移動を利用してきた渡し船を営む店には、渡し船の運行許可と営業許可権を発行しておりました。今回橋が建設されることにより、既存の運輸許可に関しての種々問題が予想され、ロメリア王国としても税収の低下や既存の店への補償が必要となります。
3つ目は、洪水の恐れです
橋の建設及び東岸のみの護岸工事により、西側へ洪水の被害が及ぶことを危惧する住民からの苦情が出ております。その損害に備えた積立資金に関してロメリア王国内で問題となっております。」
「ロメオ王子、用件は大きく3点で間違いありませんか?」
「ヒカリ殿、付随、関連する枝葉末節の事象は書類にまとめるべきですが、本日打ち合わせに同行している3人の大臣から要請を受けている内容になります。」
「なるほど。確かに東岸エリア一帯はエスティア王国の伯爵である私の領地であり、西岸の架橋地点も私の領地の一部となっています。
ところで、西岸はどこの国の領地なのでしょうか?これまではどこの国にも属しない中立地帯と伺っておりますが、なにか情勢の変化でもございましたか?」
「いいえ、領地範囲の変更は無く、中立地帯のままです。」
「とすると、中立地帯で起こる治安悪化、中立地帯で起こる利権問題、中立地帯で起こる水害に対して、ロメリア王国では無償で善処するつもりであるということでしょうか。」
「それは詭弁です。橋が架かることで悪化する影響が、ロメリア王国に及ぶため、国費を用いて対処する事態になっていることへの苦情を申しています。」
「なるほど。しかしながら護岸工事などの東岸治水工事に関しては、ロメリア王国のランドル殿が引き受けた事業と伺っております。私にその責任が及ぶとは考えておりませんが、その辺りは如何お考えでしょうか。」
「治水事業に関しては、こちらのメトロポリタン侯爵より、商人のランドル殿へ治水事業の許可権を発行しております。しかしながら、それはミラニア川全体への許可権であるため、東岸のみといったアンバランスな工事による水害被害は、工事事業者にて改善する必要があります。」
「それであれば、水害に関してはランドル殿へ持ち込むべき話で、私に持ち込むのはお門違いです。あるいは、その事業許可を出したメトロポリタン侯爵の責が問われる内容と考えますが、どのような判断に基づいた申し入れであるのか、その根拠を示して頂けますでしょうか。」
ロメオ王子とメトロポリタン侯爵が何やらコソコソと打ち合わせを始める。このような返しをシミュレートしてなかったんだろうね。ビビッてこっちが全てを受けるとでも思ってたのかな?
ま、いいや。
「ヒカリ殿、その件に関しては、詳細の書類がまとまっておりませぬ故、後日改めて訪問させて頂きたいのですが、宜しいでしょうか。」
「ロメオ王子、それは承服しかねます。本日は無理を言って、王族および第三国の著名な方に同席して頂いております。この方たちを、そう幾度も集めることはできません。
こちらの会が始まる前に、ロメリア王国側も同様な事情があったと伺っております。<洪水被害が予想される件>に関して、この場で以後不問とするのか、何等かの補償が必要な用件であるのか、決めて頂きたい。」
またロメオ王子とメトロポリタン卿で打ち合わせを始める。何せ水害の実被害が無い状態から難癖付けてる時点で真っ当な議論は成立しないもんね。
「ヒカリ殿、<水害被害>に関しては、今後実際の被害が生じて、被害額が算出できた時点で改めて議論の場を設けさせて頂きたいのですが、宜しいでしょうか。」
「ロメオ王子、論点をずらすのは止めて頂きたい。この場で洪水被害の話を持ち出したのはロメリア王国側です。その洪水の責任の所在を問うております。私の架橋工事が洪水に対して責任が無ければ、この先の将来の洪水も責任を追及される謂れがありません。」
ロメオ王子の3度目の打ち合わせだ。
ちょっと準備不足だよ。
それとも王族特有の<威圧オーラ>で相手をねじ伏せられるとでも思ったのかな?
「ヒカリ殿、今回の架橋工事に関しては、将来に渡って<洪水>に関する責任を相談に伺うことはございません。ランドル殿又はメトロポリタン卿にて協議・対応を行います。」
「なるほど。ロメリア王国側の勘違いであったのでしたら、全く問題ありません。
尚、一般的な国の法律や国際法の規定では、事業者の過度な落ち度や法令違反が無い限り、許可を出した側がその責任を問われます。事業を許可するということは、受け手に十分な達成能力があると見込んで許可するからです。
本件はランドルの知人である私のみならず、エスティア王国と第三国の方達が内容を記憶に留めていること、よくご理解頂きたい。」
「承知しました。」
よし、一個目の論破完了。
次はどっちが簡単かな~。
通行料が分かり易くていいかな。
「それではロメオ王子、2つ目の用件について質問があります。中立地帯の渡し船の生業に関して、税金は誰がどこへ納めているのでしょうか。」
「船の所有者または経営者が、その領主へ税金を納めています」
「それは、所有者または経営者の住居がロメリア国内にある場合、ロメリア王国の領主へ支払いをすれば良いという理解ですね?」
「その通りです」
「この橋は私の領地の中にあります。つまり、私がその通行料を領主として受け取っても良いと考えますが、如何でしょうか?」
「それは議論のすり替えです。ロメリア王国側が問題としているのは、橋の利権では無くて、既存の渡し船を生業として働く人々の生活補償です。」
「では、所有者や経営者を私の領地に迎え入れましょう。渡し船の料金と、橋の通行料金を見直して、生計が建てられるように配慮しましょう。」
「それでは、ロメリア王国の税収が下がる問題が発生する。」
「先ほど、ロメオ王子は、<生活補償>が問題であると申していましたが、ロメリア王国の税収が問題なのでしょうか?」
今度はルーブル侯爵と内緒話を始める。
さっきの話みたいに、途中から路線変更したり、言い包められると作戦が失敗しちゃうだろうからね。
「領民の生計支援と保護は領主の負担で行われている。そのため、領主は税金を徴収している。これまでの支援や保護してきた負担を全て白紙にすることはできません。」
「それでしたら、私の橋の通行料金とは完全に独立で、ルーブル侯爵の裁量にて渡し船を生業とする人たちを領民として保護して差し上げれば問題ありませんね。」
「過去からの流れを鑑みて話をしています。貴方の架橋事業によって、新しい変化が起こり、被害者が出る点について、補償の問題が生じます。」
「新しい変化に対抗したければ、ロメリア王国としても橋を架けたら良いのではないでしょうか?
そもそも、リカが『ロメオ王子と約束した』といって、私に架橋の話を持ってきたのですが。」
ロメオ王子がうなだれちゃった。
そりゃそうか。勝負に負けたから橋を横取りして自分の成果にしようとしてるんだもんね。あるいは、私の橋を<無かったこと>にして、勝負を無効にしたかったんだろうしさ。
おっと、飛竜騎士団のスレイさんから助っ人かな?
「ヒカリ殿、ロメオ王子に代わり少々発言をさせて頂いても宜しいでしょうか。」
「私は構いませんが、ロメオ王子やルーブル侯爵の用件は宜しいのですか?」
ロメオ王子は無言のまま頷く。その様子をみてルーブル侯爵も頷く。
「それでは、飛竜騎士団の団長として発言をさせて頂きます。
<架橋工事>は大変であったであろうこと、心中ご察しいたします。
また、その利権や成果物をおいそれと他国へ引き渡したくないであろうこと、私も良く理解できます。
そこで、実際上の問題なのですが、<だれも通行しない橋>は存在価値があるのでしょうか?」
そうきたか。
なるほどね。所謂脅迫だ。<うちの騎士団が通行を許可させない>ってやつね。
まぁ、いろいろあるけど話を合わせてみよう。
「すみません。仰る意味がわかりかねますが。」
「最初にロメオ王子が申しました通り、騎士団員200名を橋の西側に待機させています。それにより治安維持に努めています。もし不審な様子を見せるものが居たら、西岸から先に進ませることは出来ませんし、ミラニア川の東岸迄橋を引き返して頂きます。
また、サイナス側へ橋を通行したい人間も十分に点検したうえで、問題が無いことが判る迄は橋の通行を許可できません。」
「それが何か?」
「一般的な船の運航待ちや、乗車待ちに比べて、橋の通行にかかる点検が非常に煩わしく時間のかかる作業になるかもしれません。その様な状況が長く続く場合、人々は橋を通らず船を利用するようになるかもしれません。」
「ロメリア王国が200人もの優秀な精鋭兵士をそこに釘付けにしてしまうのでしたら、エスティア王国にとって、なかなか優秀なアイテムですね。<だれも通行しない橋>にも意味があるかもしれません。」
「ヒカリ殿、それは何かの冗談でしょうか?」
「スレイ様、私は<誰も通行しない橋に意味があるか>と、問われたので、そのように答えたまでです。」
「ほほぅ。
つまり、特定国家の国民のみが点検に時間が掛かるような不公平な事態に陥ったり、
あるいは点検中に不審な物が見つかれば武力によって接収することもありうる。
また、婦女に至っては陰部に不審な物が無いか丁寧に点検する場合がありうるかもしれない。
そのような状況であっても、あくまで<その橋に意味がある>と、主張される訳ですな?」
あーあーあー。
エスティア王国のお妃様と王子と騎士団長の前でそれを言っちゃうか。
周りが見えなくなっちゃってる?
「あの~、スレイ様、ちょっと深呼吸するためにも美味しいお茶とお茶菓子を出します。
私自身はこのまま話を続けるのは問題無いのですが、第三国の方達とエスティア王国の方達から危険なオーラが出ておりますので。ご承知いただけますでしょうか?」
「ああ、すまない。よろしくお願いする」
さてと・・・。
いくらでも切り崩し様があるんだけど、どうしたもんかね。
いつも読んでいただいている皆様には感謝しています。
今後とも頑張って続けたいとおもいます。




