19.クッキーを作ろう
異世界へ来て、やりたかったことその1
「パンみたいな何かをパンにする!」
上手くいくかな~?
その前にユッカちゃんのご機嫌をとろう。
そうしよう。
「おはよ~。ヒカリおねぇちゃん。朝だよ」
「ユッカちゃん、おはよう。昨日はお疲れ様。いつものピュアしよっか」
「うん!」
「「せ~の~! エーテルさん! ピュア!!」」
「ユッカちゃん。お願いがあるの」
「何?」
「わたしさ。
お金ないでしょ。
こっちのこと何にもしらないでしょ。
服もユッカちゃんのお母さんの借り物でしょ?
だから、もう暫くユッカちゃんちでお世話になってもいいかな。
ほら、レナードさんのところにも行けてないし」
「いいの?旅の途中だったんでしょ?宮廷魔術師になるんじゃないの?」
「う~ん。
昨日魔道具屋さんに行ったけど、魔石買うのにお金掛かるし、魔道具を作れないと宮廷魔術師になっても生活できなさそうだし。もうちょっと、お金にゆとりが出来てからかな~?
あ、そうそう。おかあさんのペンダント返しておくね」
「はい。そっかぁ。ヒカリおねえちゃんが居てくれるなら私も嬉しい。出発するときには教えてね。ちゃんとサヨナラ言うから」
「うん。そのときは必ず言うね」
「ところで、ユッカちゃんは普段は何してるの?」
「お父さんに挨拶して、結界を見回って、その後はお母さんにいろいろ教わったり」
「私もお墓に挨拶するね。イノシシが出て献花もできなかったし。それで、結界の見回りってどんなことするの?」
「うんとね。おかあさんが作った魔物除けの結界が壊れてないか一周見てくるの。いまからだと、お昼ぐらいには戻ってこられる」
「ふ~ん。見回りかぁ。今日はさ、お姉ちゃんは家で留守番しててもいいかな?
ちょっと昨日街で買ったものでやりたいことがあるんだよ」
「いいよ。でもハチミツは私のだからね?」
「あ、うん。大丈夫。ハチミツは使わないから心配しないで」
二人でお墓に献花して挨拶をする。
ユッカちゃんはそのまま見回りに走り出した。
走っていくのかい。今からお昼って、4時間くらいありそうなんだけど。まいっか。
私は献花用の傍においてあった、残り物の毛皮をトモコさんのなめし革の洞窟に運ぶ。
よくわかんないけど、手前のに漬けておけばいいよね。
ついでに、ダウンロードした映像を元に、トモコさんの物の工程を進めておく。
しばらくお世話になりそうだし、レナードさんの所に持っていく毛皮がちょっとでも多い方がいいしね。
で、こっからが本番。
<<ナビ。天然酵母の作り方をダウンロード。干しブドウのやつ。
あと、並行して簡単なクッキーの作り方も準備しておいて>>
<<了解。
1.道具を殺菌
2.干しブドウに水と空気を入れる。
3.雑菌が繁殖しないように蓋をする。
4.約4日して、上に澱が浮いてきたら完成
雑菌の抑制と酵母生育の温度管理が重要>>
<<ありがとね。あんまり失敗してる時間がないから助かる>>
やっぱ、時間かかるんだよね。
でも、確か一回酵母ができると、それを元に繁殖しやすくなるはずなんだよね。
ツボが5個。
ツボを煮沸消毒しながら、何の水準を試すか考える。
一番試したいのが常温。ここで分量3水準そろえよう。
あとは、<なめし洞窟>の中と屋外の日向。そこに真ん中の分量を1個ずつセット。
これで様子を見ることにしよう。
<蓋が無い>
こういうのは、研究者の腕のみせどころだね。
密閉性を高める道具として、濡らした布や粘土で押さえるのがいいね。
雑菌のことを考えると、濡らした布は雑菌の繁殖を促すから粘土かな。
粘土探すのも大変か……。
う~ん。
あ。油に浸した縄を口に詰め込んだら良くない?
一応、油と縄を高温で殺菌しておけばいけるんじゃ?
よし、それでいこう。
最後はエーテルさんにお願いしておこう。
「エーテルさん、美味しい葡萄の天然酵母を作ってください」
で、それぞれの場所にセットして、あとは結果を御覧じろ!
次は、お待ちかね。ユッカちゃん用のクッキー作りだ。
まだお昼まで時間あるだろうから、間に合うとおもう。
<<ナビ。クッキーの作り方のレシピ頂戴>>
<<日本の料理投稿サイトから、約3500件のヒットを確認。
このまま全てダウンロードしますか?>>
<<シンプル、小麦粉、砂糖、卵で再検索して>>
<<42件のヒット>>
<<木の実とか入ってなくて、手元の材料だけで作れる一番最初の教えて>>
<<了解。ダウンロード開始
材料:バター1、砂糖1、卵1、小麦粉2(重量換算)
手順:卵を溶く。
小麦粉を篩いにかけ、全ての材料をよく混ぜる。
耳たぶぐらいの硬さに調整して4mm厚に切る。
170℃で15分焼く。
以上>>
<<ありがとう。やってみる>>
さて。卵1個を基準にすると50g換算で、
あとは粉の量で硬さ調整すればいいね。
<量りが無い>
<篩いが無い>
<オーブンと、170℃が無い>
<<ナビ。バター、砂糖、卵、小麦粉の一般的な比重を教えて。日本からでもOK>>
<<バター1、砂糖0.6、卵1.06、小麦粉0.5>>
<<ありがと>>
う~ん。
ってことは、体積換算で、1:2:1:4でいっか。
砂糖が全体的に対して少な目ね。
体積なら、卵の殻を使えば計れる。
よし、一歩クリア。
篩いは……。
布とか無いかな。あれあればいける。
布~、布~。
手ぬぐいとか薄手の~。
た、タオルでもいいかな?雑巾は勘弁したいところ。
むー。どこに隠れている?
冷蔵庫とか……?
……。無いし。
<<ナビ。布探して>>
<<ありません>>
<<いや、ごめん。物質化の話じゃなくて、この家の中の話。
私が勘違いして見落としているとか、ユッカちゃんが使ってるとか、そういう話>>
<<ヒカリが所望するような、布単体が存在していません>>
<<はぁ?パンは無くても布はあるっしょ?ほら、この借りてる服とかリネンじゃない?>>
<<ヒント:紡績>>
あ……。名古屋にある某車屋さんの博物館の見学に行ったっけ……。
あそこで、『自動織機ができたのは20世紀入ってから』って説明があったね。
てことは何?どうやって、布つくってたのよ?
鶴の恩返し?
いや、そもそも糸を紡ぐ話から始まるんだよね。
この時代、麻と羊毛どっちが安価に生地を作れるんだか……。
ひょっとして、トモコさんから借りてるこの服すごい高価なんじゃ!
お~い~。下着の夢が……。
その前にクッキーどうする。
多少ダマが残っててもいいから作るか。
ホットケーキミックスでダマが残っているあの違和感……。
う~ん、う~ん……。
エ、エーテルさんに頼んでみるか。
そもそも何をどうやって頼む。
う~ん、う~ん。
例えば、
<目が0.2mmくらいのマス目を通過させたときの小麦粉をつくって>
とかお願いをしてみる?
いや、これだけだと粉がどっかいく。
篩いの目に残っちゃう部分も多いだろうし。
今日は、良くこねることで妥協しよう。
クッキーだし。火も十分通るし。問題なし!
よし、始めよう!
1.分量を量ってから、こねる
2.形整えてから、竈に鍋を載せて焼く
3.冷やして、カリカリ感をだす。
4.ユッカちゃんが帰ってくる。
これでオッケーだ。
「ヒカリおねえちゃん、ただいま~。あれ?なんかいい匂いする……」
ジト目でみられる。5歳の子に……。
な、なんで?
ハッ!
「だ、大丈夫!ハチミツ食べてないよ!そ、それよりお帰りなさい。見回りお疲れさま」
「(クンクン)この匂いは何?」
「お菓子作ってる。最後の仕上げ」
「お菓子って?」
「砂糖が入ったパンかな?」
「さ、砂糖、使っちゃったですか……。この甘い匂い……」
「(例の皮包みを指しながら)心配しないで!!ほら、まだいっぱい残ってる」
「砂糖が入ったパンはコゲコゲですか?硬いですか?」
「いや、そんなことないよ。たぶん。でも、そろそろ様子見てみよう」
丁度いい加減に淵がきつね色。
中はまだクリーム色。でも十分硬く火も通っている。
鍋から木のスプーンで一枚一枚取り出して、木の皿に移す。
「あ、あつい!」
「え!まだ熱いって!。それに冷ました方がカリカリして美味しいんだって。冷えるまでもう暫く待っててもらっていいかな?」
「エーテルさん、冷たくな~れ!冷たくな~れ!」
ユッカちゃんがエーテルをフルに活用して冷却する。
迷いが無いね。でも、急速冷却は大丈夫なのかな?
クッキー割れたりしない?
ま、いっか。
「冷えたみたいだね。どうぞ」
「うん」
ユッカちゃんが食べる。
私もユッカちゃんの顔を見ながら食べる。
まぁ、普通。バターが無塩とか無いんだね。
ちょっと塩辛い。
でもいい塩梅。
ユッカちゃんが泣いてる。
え?なに?不味かった?
ダマか。ダマが原因か。それは篩いが無いせいで、私のせいじゃないんだ~!
「おねえちゃん、なにこれ……」
「美味しくなかったら、出してもいいよ」
「美味しい。砂糖より美味しい……」
嬉し泣きか!そっちか!
やったね!異世界で大成功だ!
ユッカちゃんが喜んでくれた!
私が初めて役に立てた!
何か泣けてきた……。
嬉し泣きだ……。
涙がポロポロと落ちる。
「おねえちゃんも、美味しいの?」と、ユッカちゃん。
私は黙って、コクリと頷く。
クッキーがとってもしょっぱかった……。
タイトルと誤字等の修正です。本ストーリーへの影響は有りません




