3-88.橋を架けよう(24)
橋を架けるどころか、
トンネルを先に掘って、
さらに脱線してレーザーの話だ。
さて、ナビと一緒に勉強だ。
<<ナビ、レーザーについて聞きたいんだけど>>
<<Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation(輻射の誘導放出による光増幅)のことで宜しいでしょうか?>>
<<いやいや、違う。もっと簡単に赤い光とかでるやつね。>>
<<<赤い光がでる装置の商品名>を検索しましょうか。それとも、赤い光を出す原理を知りたいのでしょうか>>
<<商品は貰えないから、原理の方だよ。>>
<<それですと、LASERの頭文字の呼称であるレーザーのことで宜しいですね>>
<<レーザーって、そういう物のことじゃないの?LEDランプとかと同じでさ。>>
<<物よりは現象に近いですね。冷蔵庫が商品の名称とするなら、熱交換装置によって、庫内の物を冷却した状態にすることが、LASERに該当する意味となります。>>
<<あ、その例えは分かる。
『冷蔵庫について教えて』って頼まれたら、
商品のことか、その冷却する仕組みを知りたいのかで、全然話が噛み合わなくなるもんね。
え?じゃぁ、レーザーって何?>>
<<非常に高品質な光を出すための原理を示す言葉でしょうか。>>
<<光に品質とかあるの?>>
<<川の流れや電気に品質があるように、光にも品質があります。>>
<<例えば?>>
<<単色性、指向性、コヒーレント性などです。>>
<<そういった、高品質な光を作る技術と装置を合わせてレーザーなのね?>>
<<そうです。>>
<<ナビ、私はラナちゃんの言う通り、全然勉強が足りないよ。>>
<<現象の理解が進んだのは1900年に入ってからです。その時代背景からの科学技術が100年も進歩したとお考え下さい。>>
<<ナビ、ありがとうね。現象を理解してもその装置を作れるのは安定した電源の供給が必要になりそうだね。諦めた訳じゃないけど、考え方を見直すよ。>>
そっか、そっかー。高品質な光って概念があるのか。
応用技術や製品として便利だと思ってたけど、科学は凄いなぁ。
ラナちゃんが<ドランゴンが来る>っていうぐらいの技術で、
代替できないとしたらそれは勉強しておきたい。
先ずは、自由に研究できるためにも
国を安定させて、関所で自由に暮らせるようにならないとね。
ーーーー
「ニーニャ、お待たせ!
フウマが結界マーカーをロメリア王宮の食糧庫に設置してくれてることが分かった。だから、ここらへんで、新しく領地マーカーを2個置けば、そこに向かって細長い三角形ができることになるよ。」
「ヒカリ、私も領地マーカーを感じられるようになったから、結界を結んでくれれば方向が判るぞ。でも、他のドワーフや夜の作業のためにもアリアが作ってくれた<投光器>で進む方向を照らすのが良いと思うぞ。」
「うん。そうしよう。石板のレールと荷台の方はどんな具合?」
「平らに並べて、荷馬車を転がすところまでは進んだんだぞ。
あとは、<風の印>と<重力軽減>実際の動作確認するだけだぞ。」
「そっか。じゃ、シルフを呼ぶよ。」
「シルフはもう居るんだぞ。『風の強さを固定値にしたい。そうすると、ステラ達が簡単に印を写せる』って、言ってたんだぞ。だから、馬車を浮かす重さはヒカリの重力軽減が決まってからなんだぞ。」
「全部私待ちか。ご飯食べたらすぐ始めよう。」
「それでいいぞ」
「みんな~、お待たせ。ご飯食べよう。そしたら、石板の製作再開と空気搬送システムの動作確認に入るよ」
「ハイ(ALL)」
こう、新しいことが起こるタイミングってのは、みんなが真剣で夢中になれるね。こういうときのご飯は、楽しむより栄養補給って感じで、とっとと済ませちゃったよ。
シルフと二人で風の強さと重力軽減の度合いを確認して、更には実際に荷馬車に荷物を載せても上手く連動して動作するかを確認した。
最後に、石板を跨った動作とスイッチのオンオフが出来ることまで確認したから完成だよ。
「ヒカリ、僕はこの印を誰に教えて、何枚ぐらい作ればいいのかな?」
「シルフ、石板は全部で5000枚作るよ。今1500枚ぐらいまでできてる。残りはあと2日ぐらいで作れると思ってるよ。」
「ヒカリ、それなら僕が印を描く方が、石板を作る速度より速いよ。皆は石板の作成に注力していいよ。全部の石板の製作が終わったら手伝ってくれればいいよ。」
「なんか、ごめんね。なるべく早く終わらせるよ」
「無理しないでいいよ。好きで手伝ってるんだからさ。みんなで海の冒険に行こうよ。」
「うん!」
シルフはサラサラと絵を描いていくもんだから、並べる石板が足りなくなることは無い感じ。
ドワーフさん達は、早速穴掘りしながら石板を並べて、空気搬送システムの作成。
私達はこれまでどおり、石板を切り出して彫る作業。
なんかさ、ニーニャの掘る速度がおかしいのね。
1時間も経たないのに、投光器の光が届かなくなるぐらい奥まで進んでるの。
『これも飛竜の血のおかげだぞ』とか、言ってたけど、これって石板が一日分持たないじゃん。
この事態を見て、一番最初に動いたのがラナちゃん。
「ステラ!ちょっとこっち来て。」
「ラナちゃん、なんでしょうか?」
「貴方に妖精の世話を頼みたいの。」
「どういうことでしょうか?」
「大き目の妖精を出した方が、この長いトンネルを照らすのは楽だと思うの。貴方が印を結ぼうが、妖精を周囲から召喚しようが、結局はこの辺りにいる光の妖精だけでは、数が足りなくなるわ。」
「そうでしょうか。」
「ヒカリのこのトンネル工事の進め方は、トンネルの本体側と荷馬車側の両方に灯りを灯さないと事故が起こるわ。だから貴方が考える以上に光の妖精の数が必要なの。貴方も10㎞の道全てを明るくしたことは無いでしょ?」
「確かにございません。夜歩くときは少数の光の妖精さん達に手伝って貰いますが、行程全長を照らして頂いたことはありませんわ。」
「ステラには私の<加護の印>があるわね。そこに私から直接妖精の元を送るから、貴方が世話をしてあげて欲しいの。貴方の魔力なら5人分ぐらい抱えて貰っても大丈夫ね。」
「ラナちゃん、すみません。<妖精との契約>ではなくて、私が妖精を司るということでしょうか。」
「世話するっていうのは、そういうことよ。カッコイイ言葉を使おうが、何だろうが責任もって面倒を見るってことね。」
「私に出来るでしょうか?」
「簡単よ。貴方の余ってる魔力を糧に勝手に成長するし、仕事もするわ。たまに甘えさせてあげなさい。自由奔放だけど、契約も不要で何でもするわ。ステラも楽になるはずよ。」
「ありがとうございます。何故私にそのような機会を頂けるのでしょうか。」
「そうね。私が世話する数が多いと面倒な事と、ステラになら任せられるだけの魔力と信用があるからかしらね。」
「分かりました。謹んで承ります。」
「じゃ、手にある<加護の印>を見せて頂戴」
「ハイ」
ラナちゃんの手のひらからステラの手の甲へ何かエネルギーの様なものが伝わっていく。
「このまま我慢して待って。あと4人送るわ。」
「・・・。」
ステラは無言で頷いている。
なんか緊張するのか、疲れるのかいろいろなんだろうね。
インフルエンザの予防接種だって、なんか緊張するし、あんな感じかな?
「ステラ、終わったわ。先ずは一人生み出してあげて。最初は魔力の消費が大きくて、気怠くなるかもしれないわ。問題が無ければ、残りの4人もドンドン生み出してあげて頂戴。」
「わかりました。」
ステラが手のひらから目に見える大きさの妖精を生み出した。私にもちゃんと妖精が見えるって、凄い大きさってことなんじゃないかい?
ステラと妖精さんで何か会話をしたと思うと、妖精は自由に飛び回ってどっか行っちゃった。いいのかね。
ま、他人事だ。ステラに任せておけばいいや。
「ヒカリ、<他人事>って思ったわね?」
「え?」
「貴方にも一人あげるわ。大事に育てなさい。」
なんか、手をギュって容赦くなく掴まれると、ラナちゃんが私の手の甲にエネルギーみたいな何かを送り込んでくる。エーテルの流れが濁流のごとく押し寄せる。なんか、酔いそう。魔力切れの反対な感じ。
「ヒカリ、その子は魔石を生み出すように、貴方が念じれば生み出すことが出来るわ。出来れば、自分の大切な人だという思いを込めて生み出してくれた方が私としても嬉しいわ。」
「わ、わかりました。
ラナちゃん、それで無事に生み出せた後の契約とかはどうするのでしょうか。私は妖精召喚や契約はしたことがありません。」
「なにも必要ないわ。貴方の子よ。念話を通すこともなく、貴方の考えで動き、貴方の思考の流れに沿って成長するわ」
「凄く大事なことを教わったきがします。若輩者ですが謹んで頂戴します。
他に注意することはあるでしょうか」
「ああ、魔力切れには注意した方がいいわ。生み出された子は主の危機に対して、自分の持つ魔力をフィードバックさせて支えようとするわ。つまり、貴方が魔力切れを起こす前に、その子が先に消滅してしまうことがあるの。そこの絆と魔力分けは十分に注意してあげるのよ。」
「わかりました。」
なんかステラは既に5人を生み出して、周りをぐるぐる飛び回ってる。私じゃない人にも見えてるのかな?
よし、人は人だ。
私もがんばろう。
魔石を作成するときは、単純に、だけどちょっとはお金目当てで魔力を注力する。でも今回は、気持ちも一緒に注ぐ必要があるんだよね。まだ、子供なんか生んだこと無いし、そんな感覚にはたどり着けないけど、大切な家族が増えると思って、大事に生み出したいね。
じわ~~~っと、両手の間に、ラナちゃんから貰ったエネルギーを集中させていく。大事な大切な家族がやってくることを願って。
眩い光とともそれは生まれた。
ステラほど大きくないけど手のひらサイズの小さな妖精。
ちゃんと生まれたときから背中に羽も生えてて、蝶々の胴体が人間みたいな感じ。
こっちを見上げて何かをしてるけど、小さくてよくわかんないね。
あ、飛んできて耳のところに止まった。
「お母さん、ありがとう。」だって。
なんか、それだけ喋ると照れ臭そうに飛んでちゃった。
私もなんだか照れ臭いよ。
魔力切れとかそういう感覚も無い。自分の魔力量が増加したか、世話するのに大した消費魔力じゃないんだろうね。
あとはあの子が他人に見えるかどうかで、ちょっと扱いに気を付けてあげた方がいいね。妖精を飼ってるとか思われるといろいろと不味いし。攫われたりしたら私がショックで何しだすか分かんないもんね。
「ヒカリ、上手くいったみたね。他の人にも見えるぐらい実体の濃さがあるわ。稀に見る良い子よ。」
「ラナちゃん、いろいろありがとう。」
「お礼はいいわよ。私も航海についていくわ。いいわね。」
「わ、わかりました。戦争が終わり次第直ぐに!」
レーザーが何か判らないままだけど、光に関する大切な物を手に入れた一日だね。
さ、石板彫に戻ろう。
いつも読んでいただいている皆様には感謝しています。
今後とも頑張って続けたいとおもいます。




