3-74.橋を架けよう(10)
橋脚の穴掘りは簡単に出来る方法が見つかったね。
あとは、ステラの<固まる土>がどんな感じかな?
<<ステラ、今話しかけて大丈夫?>>
<<はい、大丈夫ですわ。どうされましたか?>>
<<橋脚の穴を掘り終わったんだけど、そっちの粘土はどうかなって。>>
<<今、帰路ですわ>>
<<早くない?>>
<<上空からの道案内が適切だったのと、神器のスコップのおかげですわ。>>
<<ステラは、シャベルのことをスコップって言うんだ。>>
<<スコップは喋りませんわ。>>
<<いや、ごめん。どうでもいいの。穴を掘る道具って意味が通じれば何でもいいよ。>>
<<ヒカリさん、拠点が見えましたわ。河原の大穴の横にひび割れが見えますけど、何かされましたか?>>
<<なんか、<斬撃>を見せてくれって言われて。あ、こっちからもステラが見えた。>>
<<ヒカリさん、<飛竜の血>飲んだの忘れてましたね?>>
<<アハハ>>
<<きっと、イワノフさんに怒られますわ。気を付けないと・・・。>>
<<ハイ・・・。反省します>>
で、河原に馬車が到着。
採掘のガイドさんを降ろしてから、ステラが上手に飛竜を操って、馬車の入り口を下に向けて、ゆっさゆっさと揺さぶる。
ゴロっとした、馬車の荷台一杯分の粘土の塊が現れた。
これでいいのかな?
「ガイドの人、お疲れさまでした。ステラもおつかれ~。二人ともありがとうね。」
「ランドルさんから、くれぐれもヒカリ様に失礼の無い様にと言われております。お役に立てたでしょうか?」
「うんうん。十分だよ。ステラ、そうだよね?」
「鉱石、鉱物、粘土や砂に関する知識が豊富なんです。今回の採取も<砂より粘土が運搬に楽だろう>って、同じような組成で粘土質のを選んでくれたんですの。」
「そっか、そっか・・・。うん・・・。
あ、<鉛>っていう鉱物が採れる場所知ってる?」
「<なまり>でしょうか・・・。」
「うんと、銀が錆びたような、灰色で、金よりちょっと高温で融けて、金よりちょっと軽い感じの金属なんだけど。」
「あ~。判りました。つい数年前に、その金属の試掘が盛んに行われて、ある地点で掘り出しや精錬の拠点が出来てますね。そこはもう、軍隊が取り囲んでいるので、一般の人は採掘出来ませんが。」
「その軍隊が護衛している拠点って遠い?」
「ミラニア川を挟んで西側の山中になります。くどいようですが、そこでの採掘は出来ませんよ?」
「もし、時間に余裕があれば、フウマとアルさんをそこに案内して欲しいのだけど。」
「ランドルさんから十分なお駄賃を予め頂いておりますので、暫くはご一緒できます。」
「そっか。じゃ、暫くここで一緒に暮らしていって。いろいろ活動の順番があってさ。フウマやアルさんも、いろいろやってくれてるんだよ。」
「承知しました。その案内以外で何かお手伝いできることはございますか?」
「イワノフってドワーフの人が居るから、切り出してる石の材質とか、今日とってきてもらった粘土での固め方とか、いろいろ打ち合わせしてくれると助かるな。私は、その辺のこと良く判らないから、イワノフさんに設計とか任せちゃってるんだよ。」
「承知しました。イワノフさんを紹介いただければ、話を進めます。」
「うん、私も一緒に会いに行こう。」
ーーーー
「イワノフ、こちら、ええと、ガイドの・・・」
「アドルフと申します。」
「です。」
「アドルフさんこんにちは。ヒカリ様どういったご用件で?」
「あ、えっと、ランドルさんから粘土や鉱石の採掘場所で、私達を支援してくれるように派遣されてるの。彼の知識がイワノフの役に立つようであれば、一緒に行動して貰えればと思って。」
「そうでしたか。ヒカリ様が穴を掘り終わって、粘土が十分にあれば、橋脚用の石の加工を始めないといけないですね。」
「朝言われた、1つ目の穴は掘り終わったよ。粘土は馬車一杯分の2立米(立方メートル)分を確保したよ。」
「そうでしたか。では、早速、石を橋脚用に加工しましょう。<固める粘土>も準備が必要ですので、アドルフさんも一緒についてきてください。」
「イワノフ、私達がんばったんだけど、速くて驚いたりとかしないの?」
「こっちが一方的に驚いているだけでは損します。驚かないフリをして、ヒカリ様をガッカリさせることに全力を尽くしています。」
「ふふ~ん。そうなんだ~。」
「イワノフ様、ヒカリ様、差支え無ければ、その橋脚用の大穴というのを拝見できますか?」
「うんうん。がんばったんだよ!見て見て!朝からお昼までかかったんだから!」
みんなで、穴の前まで行く。
深さが5mもあるから落ちたら危ないね。
なんか、ヘドロの腐ったような臭いもするし、側面はツルツルで垂直の壁だから登ってくるのも一苦労だろうね。
「ヒカリ様、朝からこれを掘られたとのことですが、いつの朝でしょうか?」
「朝は今朝だよ。昼は今だよ。すっごい、大変だったんだから。」
「半日も掛からずに、この穴を掘られたと。そして、この垂直に切り立った法面はどの様な技術でしょうか?」
「ナイフで切った」
「・・・。」
「アドルフさん、そんなに驚くとヒカリ様が喜ぶから、『ふ~ん』って、平然としておくと良いのです。
ヒカリ様、底と側面に採取してきた<固まる粘土>を塗ってください。あと、この穴の形に石を切り出してください。」
「イワノフ、この穴なんか臭いんだけど。泥が腐ったような臭いがするよ。それに、石や砂だけでなくて、黒い汚物みたいのが堆積層に挟まってるから、粘土が上手く塗れないと思うよ。」
「それは、全てヒカリ様の考えている通りです。
汚物のような堆積層がヘドロとして存在しており、臭いの発生源です。
そこは十分に洗い流してからでないと、側面の壁と橋脚の密着性が悪くなり、橋脚が傾いたり、浸水したところから<洗い掘り>が始まる恐れがあります。
洗い終わったら、粘土を塗布して、そこへ橋脚の石を入れてください。」
「それってさ、臭いしさ、水浸しになるしさ、高さ5mもあるしさ・・・。」
「そこに足場を組んで奴隷にさせても、溺れ死んだり、腐敗ガスで中毒死したりする可能性があります。」
「わ、私だって、死んじゃうかもしれないじゃん?」
「飛びながら作業するか、ステラ様に助けて貰ってください。」
「ヒカリさん、頼まれた<水中で作業ができる革のスーツ>の試作品がありますわ。
表面に樹脂を塗れば、水の侵入も防げます。
頭は防毒フィルターを付けたお面と帽子を被ります。
水の侵入防止に、首の所でスーツと首輪で止めて、
樹脂で固定させる必要がありまけど。」
「ステラ、それってさ、体にピッタリ密着して、体形が丸出しになるだけでなく、
樹脂で外側をコーティングして、脱げなくなるやつだよね?」
「着る前に食事やトイレを済ませて頂かないと、いろいろ困りますわ。
それに、今度は顔や頭も覆うので、普通の会話はできなくなります。
脱着が大変なので、作業が終わるまでそのまま生活して貰えると助かりますわ。」
「そのお面被ると前が見えなくなるか、穴をあけると泥がスーツに入ってくるじゃん!」
「アリアさんからガラスの板を貰ってあるので、それをお面に取り付けてあります。」
「汗かいたら、そのガラスが曇って、内側は拭けないから前がみえなくなる。
やっぱり、それは無理だね。止めよう。そうしよう。」
「ヒカリさん、嫌ですわ。私にだって、その程度の水分を寄せ付けないコーティングは施せますわ。ご安心ください。」
「私が一人でその作業をすると時間が掛かるから、ご飯を食べられなくなる。お腹空いて死んじゃうから止めよう。」
「防毒フィルターのアタッチメントを外せば、そこから食事や水分は補給できますわ」
「ステラ、やっぱりトイレが不便だよ。」
「小用でしたら、外に漏れてこないから大丈夫ですわ。」
「ステラ、ステラ、ステラ・・・。」
「せっかくヒカリさん専用に作ったのですから、ちゃんと着て欲しいですわ」
う~う~。
どうする、どうする。
橋を架けるの止めようか。
今なら間に合う?
いや、ロメオ王子とリカの問題があるし・・・。
橋脚の穴の清掃が問題で・・・。
もう、蓋して無かったことに・・・。
あれ?ひょっとして・・・。
別の石で穴の周りを蓋して、
周りの石が増水時に洗い流されないようにしてあげれば、
穴と橋脚をぴっちりと粘土でくっつけなくても良いんじゃない?
「イワノフ!ちょっと相談だけどさ、
適当に橋脚の石を粘土と一緒に穴に押し込んでおいて、
その建てた橋脚の周りを別の石で蓋して、
粘土で固定するってのはどう?」
「そんなに、穴の掃除が嫌ですか?」
「嫌です。」
「粘土や石材が余計に必要ですが?」
「私がとってきた石じゃん!」
「粘土はステラ様ですよ。」
「今から足りない分は取ってくるよ!」
「ヒカリ様や私が生きているうちには、崩れるような問題は起こらないでしょう。
ヒカリ様の案の方向で進めましょう。」
「ステラ、そういうことで、ちょっと粘土とってくる。」
「残念ですわ~~。」
「また、今度にしようね。」
「はい!」
ステラ自身は、ああいうのを着るのに抵抗は無いのかな?
今度誘ってみようかな?
誘うと私が必ず着ることになるか・・・。
ま、いっか。
橋は着用しないで建設出来そうってことで、問題は先送りだ。
いつも読んでいただいている皆様には感謝しています。
今後とも頑張って続けたいとおもいます。




