3-72.橋を架けよう(8)
橋というか、工事というか、全然わからない世界だよ。
「アルさん、服飾店の夫婦はどこ?」
「奴隷の腰巻を調達しに、ミラニアや城下町を走り回ってます。」
「アルさんはついていかないの?」
「馬車も金貨も渡してるので大丈夫でしょう。」
「そっか、連絡とれないか。」
「今から連絡がとれても、町の門は閉まってしまいますよ。」
「二人はどうするのさ?」
「外には出れますよ。野垂れ死にするのは本人の自己責任ですから」
「それは私が困る」
「ミラニアからここまでは盗賊は出ません。獣や魔物も馬車に驚くぐらいです。渡し舟には二人を乗せて戻るように指示が出てます。」
「そっか。アルさんがそこまで任せるって凄いね。
例の<固まる砂>を運んできたいんだけどさ、布で包んで飛竜さんに運んでもらおうかと思ったんだよ。」
「<固まる砂>の採掘場まで案内できる人物は待機させております。明日からご一緒できます。
布が必要でしたら、馬車に幌が付いたものがありますので、破けない程度の重量でしたら、それを使うのは如何でしょうか?」
「馬車か。馬も車輪も外して、そこに詰めてくればいっか。」
「ヒカリ様なら、そのような使い方が出来て良いですね。」
「アルさん、なんか私のやり方に順応してる?驚かないみたいだけど」
「慣れました。昨日雇ったリーダーや支援職の人達は茫然としてますよ。そもそもクジラって何なんですか。あれには私も驚きました。」
「あ、美味しいんだよ。今晩みんなで食べよう」
「きっと美味しいのですね。<ショウユ>は入手出来ておりません。」
「それ、誰から聞いた?」
「実父のモリスから聞きました。『ヒカリ様が探してる調味料だから、機会が有ったら探して確保するように』と言われています」
「あ、それ、あれば便利だけど・・・。ああ・・・。牛肉とか魚とか醤油が美味しいんだよね。クジラの刺身も美味しいんだよ・・・。」
「ヒカリ様にとって、それほど重要な物でしたか!」
「ううん。この戦争が終わったら探しに行くからいいよ。そのときまでにアルさんも<念話>習得しておいてね。」
「承知しました!」
まぁ、食料問題も無く、指揮系統も今のところ問題なさそうだね。明日から工事に入ることでいっかな。
ーーーー
「フウマ、イワノフさんとアルさんとは、話をしてきたんだけど特に問題は無かったよ。フウマの方は何か報告入ってる?」
「各リーダー5人から報告は貰ってるよ。『清潔で食料も寝どこもあるので感謝してます
』と、言われてる。初日としては、上々じゃないかな?」
「ふ~ん。この先何かあるの?」
「働いて貰えば、不平不満は出るさ」
「暴動とか起こる?」
「何らかの方法で<ガス抜き>をする必要が出てくるだろうね。」
「『我慢しろ!』はダメなの?」
「不満が極限まで溜まったら破裂するし、そうなったら全てが台無しだね。」
「<何らかの方法>ってのを教えてよ」
「う~ん・・・・。」
「フウマが悩むなんて珍しいね。」
「う~ん・・・。」
「何か言えないこと?」
「うん・・・。」
「お~い~!」
「言っても、姉さんに『意味がわからない』って言われるから、どう説明するか、あるいは誰を助っ人にお願いするか考えてるんだよ。」
「なら、リーダー5人を同席させればいいじゃん?」
「夕食を食べながら、僕ら2人とリーダー5人で話をしようか。」
「そうしよう!」
なんだか良く判らないね。奴隷制度とかそういうのかな?確かに私には判らない知識がいっぱいあるけど、説明してくれれば、理解はできると思うんだけどねぇ。
フウマの説明で理解できなかったことはいっぱいあるから仕方ないか。
クロ先生は一緒にいることになったけど、ステラやユッカちゃんは別室で食事をしてもらうことにした。
それで、さっそく<クジラ>を食べながらお食事会だ。
「リーダーの皆さんに集まって貰ったのは、ちょっと相談に乗って欲しいからなんだ。僕から姉さんに説明しようと思ったんだけど、僕一人では上手く伝わらないだろから、リーダー経験のある人達なら、微妙なニュアンスとかを姉さんに、あ、ここの領主のヒカリは僕の姉さんなんで、姉さんと今後も呼ぶよ。
皆に姉さんの理解を助けて貰いたいんだ。」
「フウマ殿、いったい何のお話なので?」
「アインさん、明日から本格的に橋や治水工事が始まるから、皆に肉体労働の協力をお願いすることになるんだ。
そうすると、一週間も経てば疲れや不満も溜まってくるし、そのとき、<ガス抜き>が必要になると思うんだ。その方法を皆で話し合いたいんだよ」
「女だろ(ALL)」
「やっぱりそうか、そうなるよな。それを姉さんに説明してもらいたいんだよ。姉さんわかる?」
「そういうもんなら、そういう準備するしかないでしょ。渡し船で班ごとに街に出かけて貰う訳にはいかないから、関所にある娼館みたいのの簡易版を作るしかないじゃん?」
「姉さん、いいの?」
「解かるか、解からないかで言えば、解からない。けれど、それが必要であれば、それを準備するべきということは分かるよ。」
「そんなに適当でいいの?」
「私にはベースが無いから、皆の意見を聞くしかないでしょ?」
「いや、例えば<他に方法は?>とか、<それを放置すると、どんなことが起こる?>とか、確認しなくていいの?」
「フウマさ、私が住んでいた国では、<娼婦がこの世で一番古い職業>って言われるぐらい、当然あるべきものなんだよ。私は女だからか、性格のせいかわからないけど、今その必要性を感じてない。だけど、それは多くの男性にとって必要なことなんだよ。
あ、ちょっと待ってね?私とか私の仲間が直接面倒を見るのは嫌だよ?
<専業の人たちを連れてくる必要があるね>って部分には同意してるけどさ。」
「姉さん、僕もそこまで酷い人間じゃないよ。でもさ、究極の意味では暴動の暴発が姉さんに向かわないためにも、例の<貞操帯>を着用して身を守って欲しいぐらいには思ってるのは確かなんだよ。」
「あれは、ロメオ王子とリカの関係を切り離すための道具で、私自身はあれを常用したくないよ。
リーダーの人たちも、そういうもんで良いのかな?」
「ヒカリさん、そうして頂けると助かります。うちの連中は野盗上がりの傭兵集団だもんで、何かあると人を襲いかねないんです。当然、厳罰を与えることは出来るけれど、予防策があった方が、被害者が出ないので良い。」
「ドゥエさん、ありがとうね。他の人はどうかな?」
「私もそれなりの人数の騎士団員を見てきたが、疲れが溜まってくると、『女を買いたくなる衝動』に対して理解している。まだまだ若手が多いから、それを我慢させると歪な状態にもなる。そこを領主が認めて施策に組み込んでもらえるのであれば、我々としても指揮がしやすくなる。」
「クワトロさん、ありがとう。レミさんはどう?」
「獣人族は時期がくると、非常に強い性欲を感じます。男女関係なく生じます。人族と違って申し訳ないですが、そういう種族であることを理解して欲しいです。」
「それって、春とか秋の季節に起こるのかな?」
「春とか秋というがの何か分からないですが、雨季が明けたタイミング、丁度先月ぐらいが一番発情していた時期です。」
「そっか、じゃ、獣人族は纏まって入れる宿舎にして、人族とは分けようか。個別の種族間を超えた恋愛を禁止することはしないけど、習慣自体が違うんじゃ、分かれていた方が何かと良さそうだね。どう?」
「ヒカリ様の提案のように配慮頂けると、非常に都合が良いです。」
「フウマ、そういうことで、レミさんと宿舎の割り当てと新築必要なら、その手配もお願い。娼婦の方はモリスと相談して、どんな風に体制整えるか調べてくれる?ここに娼館作ってもいいよ。ただ、奴隷契約が無いから、雇用に対する賃金は払わないといけないし、健康管理もしてあげないといけないね。」
「分かった。宿舎の割り当てはレミさんと確認するよ。3ヵ月の長丁場で考えると、確かにここに娼館建ててもいいかもね。そこは僕も経験が少ないから、ちょっと相談してから決めるよ。」
「うん、よろしく。
じゃ、リーダーの人たち、そういう風に進めるから、ちょっと部下の不満を力づくで抑えて貰えるかな?食事面とかはちゃんとしていくから。」
「ハイ(ALL)」
「まだ、昨日から2日目だけど、何か変わったこととか要望とかあるかな?」
「あの、ヒカリさんと飛竜の関係ってどういうものでござるか?」
「ええと、サンさんだっけ?」
「はい。サンでござる。」
「飛竜に興味あるの?」
「拙者、それなりに各国の諜報活動は行っておるので、見た経験はあるでござる。しかしながら、無人で石を運ばせるような状況は見たことがなく、拙者の知るサーガの中には登場しないでござる。」
「うんと、飛竜の話の前にさ、<ござる>という方言は、拘りというか、譲れない何かがあるかな?」
「な、何か変でござるか?拙者、そのような指摘を受けたのは初めてでござる」
「フウマ、そういうもん?」
「祖父は<ござる>って使ってたけど、父の代からエスティア王国に仕えているから、僕は自然に<ござる>は使わなくなったね。」
「分かった。サンさん、<ござる>でいいよ。他の人からも指摘があったら、そのとき考えよう。」
「そうでござるか。助かるでござる。」
「で、飛竜の話ね。他のリーダー達も興味あるのかな?」
「はい!(ALL)」
「そっか。う~ん。簡単に言うと、飛竜一族を奴隷状態から解放したから、仲間になってくれたって感じ。人間達と飛竜族の戦争になるところを我慢してもらってるってのはあるよ。」
「え?(ALL)」
「ここ100年ぐらいの話だとさ、ロメリア王国の飛竜騎士団の飛竜隊が有名でしょ?あれってさ、飛竜の族長を人質みたいにして幽閉しててさ、<族長を殺されたくなかったら、言うこと聞け>みたいな状態だったの。そこを解放したから、協力してくれることになったの。
フウマ、良いよね?」
「姉さん、僕は良いけど、多分他の人は分からないよ。リーダーの方達、理解できましたか?」
「判りませんが、ヒカリ様に逆らいません(ALL)」
「あー。確かに、私を殺しちゃうと、飛竜さん達が暴れ出して、人間達を滅ぼすかもね。そのとき、私は死んでるから飛竜さん達を止められないよ。残ってる人で頑張ってね。」「私がヒカリさんを守る(ALL)」
「ということで、脅し文句じゃなくて、本当に飛竜さん達は人間への積年の恨みが酷いことになってるから、無闇にちょっかい出さないでね。かなり高等な魔術も使えるから、倒すにも相当苦労すると思うよ?」
「ヒカリ様は、何をしてるんですか?」
「ええと、クワトロさんだっけ。何をって、<クジラ>食べながら貴方達と会話をしてるつもりだけど?」
「姉さん、どう考えてもそういう質問じゃないよ。彼ら数十人を束ねるリーダークラスなんだからさ、部隊の指揮をするにも、その主の意向を知っておきたいのさ。」
「いや、そうじゃないかなって思ってるけどさ、何をしてるんだろうね?」
「ロメリアと戦争してるんだろ?」
「え?うそ?」
「メルマを盗って、サイナスも取る気だろ?」
「いやいやいや・・・。
メルマは貰ったんだもん。
サイナスだって、領地にしたのは川周辺だけじゃん?
人聞きの悪いこと言わないでよ。」
「姉さん、皆の前で嘘は良くないよ。
アルさんやステラさんを連れてきても同じことが言える?」
「言えるよ。フウマの方がオカシイもん。」
「じゃ、連れて来るよ。」
フウマが食事の途中で、部屋からでていっちゃった。
みんなも食事中なんだろうにねぇ・・・。
「ヒカリ様、あの、質問を変えても宜しいでしょうか?」
「あ、クワトロさん、ごめんね。いいよ。私が答えられるなら何でも。」
「我々をロメリアと戦争するための兵士として購入したのですか?」
「え?フウマがそんなこと言ったの?」
「いいえ、今の会話から勝手に想像しました。」
「戦争はするけど、貴方達を兵士として戦地に送ることはしないつもりだよ。」
「やはり、ロメリアと交戦状態なのですね?」
「いや、だから、違うんだってば。ロメリアが宣戦布告するタイミングで、こっちが制圧する準備をしてるだけ。」
「すみません。ヒカリ様は、エスティア王国の伯爵と奴隷印から確認させて頂きましたが、そこは間違いありませんか?」
「ないよ。」
「寡聞ながら、ロメリア王国はエスティア王国の10倍は国力があるときいております。そこのギャップを承知の上で、戦争を仕掛けられても、逆に制圧できるのでしょうか?」
「うんうん。知ってる知ってる。だから、いろいろ準備が大変なんじゃん?」
「飛竜を投入するので?」
「ううん。治水工事とか、裏方では手伝って貰うけど、貴方達同様に矢面に立つようなシーンは無いと思ってるよ。っていうか、そうなるのを止めさせてる訳だし。」
「そもそも、なんでロメリアがエスティアを攻めるんですか。」
「なんでって・・・。内緒。」
「ヒカリ様は、その理由をご存じなのでしょうか?」
「知ってると言えば、知ってる・・・。あ、フウマが帰ってきた。」
フウマが、ステラとアルさんとユッカちゃんを連れて帰ってきた。クロ先生は無言でずっとご飯食べてる。
「みんな、今、姉さんはロメリアと戦争してるよね?」
「私はしてないよ。」
「私も戦争は始まってないと思いますわ」
「戦争をしない準備をしていると伺っております」
「おねえちゃん、戦争はじめたら、トライアングルアタックね。」
「ほら、フウマが嘘つきじゃん!」
「いや、でも、原因は姉さんだろ?」
「あ、フウマ殿、お取込み中のところ申し訳ないです。
今は次の質問に移ってまして、
『何故ロメリアが宣戦布告するのか?』という質問なのです。
ですが、どうやらヒカリ様はお答えしにくい内容のようです。」
「ほら、やっぱり姉さんのせいだろ?」
「フウマが<戦争してる>とかいうから、それは違うって話じゃん!」
「姉さんが原因で戦争が起こる訳だろ?」
「あれって、私のせいなの?」
「姉さんが、敵の仕掛けを潰してるからだろ?」
「そしたら、戦争仕掛けてるのは私じゃないじゃん!」
「そ、それもそうか・・・。」
「そうしますと、
ロメリア王国の仕掛けをヒカリ様が逆手に取っている。
それを暴露すると、ロメリアは本当に戦争を仕掛けざるを得なくなる。
という理解で宜しいでしょうか?」
「そうそう!それそれ!そうなんだよ。クワトロさんは良い人だね。」
「解りました!ヒカリ様がその戦争で勝利を収められるように、全力で支援させて頂きます。この架橋工事や治水工事がその勝利に必要なことであれば、必ず達成して見せます。」
「ありがとうね。他のリーダーも大体理解できたかな?」
「ハイ(ALL)」
「じゃ、みんなで楽しくご飯たべて、明日から橋の工事がんばろうね」
「ハイ(ALL)」
いつも読んでいただいている皆様には感謝しています。
今後とも頑張って続けたいとおもいます。




