3-71_橋を架けよう(7)
橋を架ける下準備がそろそろ終わるかな~?
「おねえちゃん、おはよ。朝だよ?」
「あ、ユッカちゃんに起こされるの久しぶりだね。」
「うん。それより、早く起きないと人が待ってるよ。」
「え?」
「獣人の女の人だよ」
「分かった。直ぐ行く」
私たちが宿泊している小屋の扉を開けると、そこには土下座をして、ひたすらひれ伏しているレミさんの姿があった。
「レミさん、おはよう。顔を上げてくれるかな?」
レミさんが土下座の姿勢を崩さずに、ゆっくりと顔だけをあげる。
「レミさん、何がしたいか決まった?」
「ヒカリ様、私を奴隷として使役に使っていただけますでしょうか?」
「レミさんは、<奴隷になる覚悟をした>だけだよね。それは<レミさんがしたいこと>では無いよ。」
「ヒカリ様の元で働くことで、いつかレイ様にお会い出来ればと思います。」
「そっか。確かに私もレイさんを女王にすることはできないかもしれないし、レイさん自身が獣人族の人達と会いたいと思っているのか、分かんないんだよ。この川の工事の目途が着くまでは簡単に関所に戻る訳にはいかなくてさ。レイさんから直接話を聞けないんだよ。」
「でしたら、ここでの工事が一刻も早く終えられるよう、微力ながら尽力させて頂きます。」
「うん。ありがとうね。なるべくレミさんの期待を裏切らないようにレイさんと話をしてみるよ。そのときが来るまでは頑張って欲しいな。」
「承知しました!早速共に買われた獣人達をまとめます!」
「よろしくね。」
一応、奴隷が70人も増えたことと、レミさんっていう獣人の人のことはモリスに話をしておこうかな。あと、ニーニャにそっちでリーダー5人分の装備も整えて貰うことにしよう。後で何の役に立たなくてもドンマイだ。
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「イワノフさん、奴隷さんたちを買ってきたよ。70人ぐらいいるよ。ドワーフの人も何人か居たよ」
「ヒカリ様は流石ですね。ニーニャ殿の言った通りです。どんな無茶でも叶えてくださいます。」
「どんな無茶でもは無理だよ。だけど、今回のは結構苦労した方だね。
あとはイワノフさんはリーダ格の5人に仕事を割り振れば、その5人のリーダーが仕事を請け負ってくれる。何か不都合なことがあったら、私かフウマに連絡してね。
何か質問ある?」
「いくつかございます。
1つ目、この工事事業の拠点です。
今、おおよそ100人規模を想定して寝床や調理場、水路、便所の整備を行いました。この後、さらに人が増える予定やその他に必要な設備があれば申しつけください。
2つ目、架橋地点と街道の最終確認
これは橋の強度をメインに設計した3つの候補があります。ただし、工事の難易度は考慮していません。周囲の街道までの距離を踏まえて、3案からお選びください。
3つ目、機材について
先ほどアルバート殿から<工事に必要な機材>のリストの要請があり、そちらを手渡しました。石を割ったり削ったりする道具がメインですが、<固まる粘土>を捏ねたり、伸ばしたり、塗ったりする道具も必要になります。あとは、重量物を移動するために櫓や滑車、動滑車といった機材も必要になります。木工は我々が持参した道具と、ヒカリ様が所有している神器をたまに貸して頂ければ十分です。
4つ目は今思いついたのですが、購入したドワーフ族というのを私の直属の部下に組み入れさせて頂きたいです。」
「いろいろ考えてくれてありがとうね。
1つ目は100人でいいよ。不足してる設備として、飛竜の休憩所と冷蔵庫と、一ヶ月単位の穀物用の食糧庫かな。この3点をお願い。冷蔵庫の氷や中身はこっちで準備するよ。
2つ目は橋の洪水に対する強度を一番優先に場所を選んで欲しいかな。周囲の街道は結局作り直しだから考えなくていいよ。あと、次の治水工事の布石にもなってるのがいいかな。渡し舟を長期契約したから、測量とか必要な時に要請してね。アルさんかフウマに声をかけてくれればいいよ。
3つ目は、任せるよ。不足が出たら適宜言ってね。
4つ目は、いいよ。あとでアルさんとフウマに伝言しておくよ。
以上でいいかな?」
「ハイ!」
あとは、肉類の調達をしてから各リーダーの進捗確認かな。
ただ、まぁ、工事の進め方も普通じゃない方法を選択する予定なんだよね。
本来なら、橋脚をつくるのに川の中に水抜きの囲いを作ってからその中を掘り下げていくのがイワノフさんの説明にあった通り、一般的だと思う。
だけど、もう、川の流れを変えて順番に橋脚を建てていきたいんだよね。
川の流れを意図的に変えても下流に問題が無いことが確認できるし、
川の流れを変えて、洗い掘りの影響を確認して、橋脚の形状や深さの見込みも立つしね。
何より、余計な水がなければ、クロ先生の力を借りて、泥を凍結させて、大きな塊として取り出しちゃえば、穴掘り作業が濡れずに済むはずなんだよね。流水の中での囲いを作る作業なんか、吸血鬼じゃなくても嫌だよね。
水中作業に関しては、ステラに革の上下一体型の<つなぎ>を作ってもらって、そこに樹脂で防水処置をしてもらえば、なんとかなるとは思う。
ただし、浮力が働かないように、体にぴっちりとしたスーツになるから、体のラインが丸見えになるだろうし、スーツの中は汗で蒸れてぬるぬるにだろうし、ファスナーとか無いから、目張りも樹脂でやって、簡単には脱げないね。
それって、過酷な着ぐるみ着てるのと変わらなくなるよ。ウエットスーツとか、ドライスーツってのは偉大な発明なんだと思うよ。
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「クロ先生、ステラ、ユッカちゃん、クジラを捕りに行こう。肉類の調達が終わったら、早速石の切り出しが出来る。それまでは、橋脚を立てるための集団のとりまとめと下準備で時間が必要かも。」
「ハイ(ALL)」
クジラの捕り方は私たちより飛竜さん達のが断然上手いし、彼らは重力低減とかしてるのか揚力向上の魔術を使ってるのかわからないけど、仮死にさせたクジラを足で吊り上げて運んじゃったよ。これ、人間達だけで戦ったらえらいことになるはずだし、重力軽減があっても運ぶの大変なはずなんだよね。
架橋拠点に戻ってみると、既に冷蔵庫用の穴掘りが終わってた。例の穴を掘る神器のおかげなんだって。中に敷く木材も神器の斧だけじゃなくて、人数を大量投入して、積みあがった丸太から切り出しと成形が完了してた。短期的ってことで、フウマに氷室をつくってもらって完成。
柱を立てておかないと落盤の危険があるとかで、3つに分散する形で冷蔵?冷凍?倉庫が完成!
レミを呼んで、クジラの解体と収納を頼んだ。飛竜への食料配達も獣人にお願いした。人族よりも未知の生物の解体とか、内臓の処理とかが上手なんだっていうから、それでいいよね。
よし、あとはアルさんとフウマの指揮に任せて石切り開始!
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「また3人で石切り開始しようかと思ったけど、岩を切れるナイフが2本しかなくて、重力遮断は私とユッカちゃんしか使えないんだよね。ステラはクロ先生と食事の準備とか魔術の勉強とかでもいい?」
「私はかまいませんが、クロ先生は宜しいのでしょうか?」
「主目的はヒカリ殿の護衛だから構わない。石切り作業は巨大な重量物であるため、最初は傍で仕事の様子を確認したい。」
「うん、じゃぁ、4人で石切り場へ行こう。<重力遮断>に関しては、私は<重力>を知っていて、それを遮断するようにエーテルさんにお願いしてるんだよ。ユッカちゃんやクロ先生は違う方法かもね?ステラは理解しやすい方法で<重さを無くす>ことが出来るといいね」
「はい。みなさん、よろしくお願いします」
石の大きさは、もう、無茶でもなんでもいいや。
重力100%遮断して、一辺が20mぐらいの立方体を切り出して、重力遮断して、角に穴をあけて紐を付ける。それを飛竜さん4人に運んでもらう。
橋脚1本に必要な石は1本で足りるとおもうんだよね。切ったり、削ったりするから小さくなるだろうけど。橋脚は水に流されずに、尚且つ水の抵抗を無くすために形状を工夫して、頑丈な地盤まで届いていればOKなはず。
次は1辺が10m角の立方体を30個ぐらい切り出した。飛竜さん達には一人に2個ずつ運んでもらって、4往復の追加。これで橋本体に必要な石の量は出来たと思う。
最後は、川の水の流れを変えたり、護岸工事するための石だね。
ユッカちゃんの発案で、
『10m角の石同士を紐で結べば、何往復もしなくていいよ!』
ってことで、5個ぐらい繋げてみた。
飛竜が4人で両手両足だから、一度に80個運べる計算だ!
ユッカちゃんも相当無茶言ってるきがするけど、飛竜さん達に無理かどうか聞いてみよう。
流石にこれだけ切り出せば、橋の分は足りるでしょ。
夕方になったので、飛竜さん達と一緒に80個の石を運びながら拠点に帰ることにした。
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「イワノフ、今日飛竜さん達に運んでもらった分で、石は足りると思うけどどうかな?」
「ヒカリ様、今回の橋の建設に関しては十分です。例の<固まる砂又は粘土>があれば、明日からでも工事に取り掛かれます。
関所の領地のように、街道も石畳にするとかは橋と街道が完成してからでいいと思います。」
「なるほど。<固まる砂>は忘れていた。どうも、この川を遡った山奥にあるらしいんだけどね。そもそもどうやって運んでくるかも考えてなかったよ。」
「目の細かい丈夫な布。例えば帆布などに網を掛けて、つるし上げれば、飛竜さん達による大量輸送が可能と思いますが。」
「なるほどね。その資材が必要だね。アルさん達と打ち合わせるよ。」
「ヒカリ様、今回支援職として購入した服飾関係の夫婦に相談してみるは良いと思います。あのお二人は、今回の工事人員だけでなく、我々の服も新調してくれる話です。」
「そっか、そっか。後で聞いてみる。明日には工事が始められそうだね。5人のリーダーから何か話はあった?」
「『ヒカリ様の命令は絶対だから、何でも言ってくれ』と、言われました。それと、飛竜に驚いていました。それどころか、飛竜が人族のために石を運ぶとか初めて見たそうです。私もそうだったのですが、私はヒカリ様とお仲間の行動に慣れていますので大丈夫です。」
「慣れると何が大丈夫なのか良く分からないけど、無茶言ってるのはイワノフだからね?私はイワノフの言うことを聞いてるだけだし。」
「『ヒカリ様に無茶を言ってみろ』と、言ったのはニーニャ様です。」
「ニーニャが私に無茶を言っても、私はそれを受け入れないといけない。私が相当無茶な頼みをしてるから。イワノフさんにもね。」
「いえいえ、私は自分の知識や経験を積み上げて結果を出しているだけです。無茶なことはできません。」
「あ!」
「なんでしょう?」
「橋脚の工事なんだけどさ」
「はい。どうかされましたか?」
「川の流れを変えて、泥を固めてから掘ってもいいかな?」
「護岸工事が終わって、流れによって、必要な土壌が流出しなければ大丈夫です。また、その流れ変化で他の橋脚が洗い流されないようにすることも重要です。あと、私はどうでもいいですが、渡し舟の航路に影響が出ないように配慮した方が良いかもしれません。」
「そっか。渡し舟の話は聞いておく。早ければ明日から工事開始だね。」
「承知しました」
いつも読んでいただいている皆様には感謝しています。
今後とも頑張って続けたいとおもいます。




