17.街にでよう(5)
前向きに進もう!
異世界で初めてのショッピングを楽しもう!
さぁ、砂糖が買えるか!
トモコさんのハムと私の交渉次第だ!
ここは城下町の商店街の中でもメイン通りに面しつつも、各種食品を扱ってるお店なのかな?
生鮮食料品というより、穀物や乾物を扱ってる感じのお店だね。
「おねえちゃん、ここ。ここが砂糖を売ってくれたお店」と、ユッカちゃん。
「わかった。砂糖が買えるようにがんばるよ。何かあったら指を握ってサインを送ってね!」
「うん」
「すみませ~ん。ちょっとお願いがあるのですが~」
と、店の入り口から声を掛けてみる。
すると、小気味よく店主らしき男性が出てきたよ。
年齢は40歳ぐらいで、年相応の皺と年季が顔に彫り込まれている感じかな。
「はい、いらっしゃい。当店はなんでも揃ってるよ。
今日はどんな用事ですか?あ、そこにいるのはトモコさんのお嬢ちゃん。
お久しぶりですね。この前の砂糖はどうでした?」と、店主。
「美味しかったよ~。また食べたい!」と、即答するユッカちゃん。
店主とユッカちゃんとの会話に気圧されつつも、要件を切り出さないとね。
「そ、それで、その砂糖のことでで相談があるんですが……。このハムと交換できる量ってどれぐらいになりますか?」と、私。
「やぁ、お嬢さん。初めてお目にかかるね。今日はトモコさんの代理なのかい?ちょっと、その品物を見せてもらっていいかい?」
店主は私が差し出したハムを触ったり、角度変えたり、重さを確かめたり、臭いを嗅いだりと、良く吟味している様子。慎重に物を見定める姿勢はさっきの店主と違って好感が持てるよね。
と、そんなことを考えながら結果を待っていると店主から質問の声が挙がった。
「お嬢さん。これ冷たいんだけど、どうやって持ってきた?」
「洞窟に夏でも氷が残っている場所があるんです。そこに長期間保管しておいたものを獣の皮で氷と一緒に包んで運んできました」
「長期間?どれくらいだい?」
「大体3ヵ月ぐらいです」
「ふ~ん。そっか……。う~ん……。
どうだろう?少し味見をさせてくれないかな?
味見をした分は、何かでオマケするからさ」
私は店主からの問いかけに即答できずに、ちらっと、ユッカちゃんを見る。
ユッカちゃんが隣で首肯の意思を示してコクリと頷く。
「あ。どうぞ。自信作ですので必要があれば、ご一緒に目利される方へも紹介してください」
「どうもありがとう。おじさんにちょっと時間をくれるかな。お茶をだすから、ちょっと待ってて欲しい」
「「はい」」
それから暫くすると、店主と執事らしき年寄り、そして若い青年の3人が一緒に戻ってきた。
「こちらのハムが持ち込まれてね。
お二人にも一緒に試食して頂きたい次第です。
お嬢さん達、我々の3人で試食をさせてもらうよ。いいかな?」
「「はい」」
店主がまな板の上にハムとナイフを用意する。
先ずはハムの耳の部分を切りとる。そこは食べない。
次から厚めに一枚切って、細かく賽の目に切る。
楊枝みたいな物で刺して味見をする。
1個目で3人の目がぱっちりと開く。
続いて、2個目。お互いが頷きあう。
商人が奥に入って、ワインらしき陶器の壺とチーズを持ってくる。
3個目は皆がムシャムシャと食べる。チーズも食べる。ワインも飲む。
そこまできて、初めて青年が商人に耳打ちする
『(これ、レナードの所のハムじゃないのか?)』
<<ナビ。音声拾って教えて>>
<<「レナードの所のハムじゃないか」と確認しています>>
え、ばれた?
てか、侯爵様を呼び捨て?
そして、店主がこちらに声をかける。
「お嬢さんたち、レナード・バイロン侯爵様は知ってるよね?
この王都の先に住んでる領地を構えている領主様だよ。
そこの領主が特別に王族や貴族に納めているハムと同じ味物らしいけど、どういう事情があるか教えてもらえるかな?」
「レナード侯爵領で特別に狩人を営むことを許可されているトモコという人物はご存知でしょうか?今回はトモコ本人ではなくて、私が代わりに売りにきました。」
と、私が怪しまれないように淀みなく返事をする。
すると、また青年が店主に耳打ちをする。
『(トモコって、あのトモコ産毛皮のトモコか?あれもレナードのところだろ?)』
<<「トモコ産毛皮もレナードの所では?」と確認しています>>
<<ありがと>>
「レナード侯爵が貴族御用達の特別な毛皮を扱っているよね。それも同じトモコさんが作ってるのかな?」
「はい。今日はお持ちしておりませんが、作っております」
また青年が商人に耳打ちする
『(このハムいくらだ。レナードに内緒で買いとれ)』
商人が青年に耳打ちを返す。
『(砂糖と交換したいと、申しておりました)』
青年が周りに聞こえる声で執事に命令する。
「この店の砂糖を買い取れ。今ある分全部だ」
執事が金貨か何かが入った革袋を商人に渡す。
なんなの?
私の砂糖はどうなるの?
嫌がらせ?
「今ある分はこちらになります」
と、店主が奥から皮にくるまれた何かを持ってきた。
その包みを開くと、砂糖がでてきた。
日本の上白糖じゃないね。三温糖に近い色。黒糖ほど黒くない。
ざっくり、2kgぐらい?
そこで青年が初めて私に対して会話を始めた。
「お嬢さん達、このハムとこの砂糖を交換して欲しい。ただし、今回の交換のことは誰にも言わないことが条件だ」
私とユッカちゃんは顔を見合わせる。
そして、ちょっとお話する。
「(いいかな?)」
「(おねえちゃん、砂糖がほしかったんだよね。いいよ)」
「(こっちのお肉類もオマケで付けたほうがいいかな?)」
「(いいよ。普通のお店より美味しいはずだよ。欲しいかわかんないけど。)」
「判りました。交換に応じます。また、今回の取引のことは口外しません。
ところで、もしよろしければ、こちらもご一緒に如何ですか?」
と、残りの干し肉やらソーセージやら一通りを荷物から出して机に並べる。
すると店主が私の会話を引き継ぐ。
「お嬢さん、これも味見させてもらっていかな?」
「「どうぞ~」」
店主がこちらもナイフで器用に細かくきって、味見できるようにする。
そして3人がまた頷き合う。今度は直接店主が口を開く。
「砂糖はないけど、他に欲しいものあるかい?
今日は売り物だけでなく、買い物も一緒にしにきたんだろう?」
「はい。塩、小麦粉、干しブドウ、バター、陶器のツボを数個です」
「陶器のツボはないけど、他はどれくらい必要だい?」
「あ、いえ。砂糖だけで十分で……」
「そういう訳にはいかないだろう。こっちのソーセージ類も買い取る。物々交換しようじゃないか。他の店よりいいもの置いている自信があるぞ?」
「あ~、ええと……。じゃぁ、小麦3kg、塩1kg、干しブドウとバターも1kgずつお願いします」
「お安い御用だ。ちょっとまってな」
すると今度は青年が執事に何か言う。
そして青年の指示があったのか、執事は外に出て行ってしまう。
しばらくすると、商人が包みを4つ持ってきた。
そして執事がどこからか、素焼きのツボを5個持って戻ってきた。執事さんは街中で壺を買ってきたのかな?ありがたいやら、申し訳ないやら。
「お嬢さん達、レナードに内緒で売りに来るときは、この商人さん直接持ち込みな。お互い内緒だぞ」
と、青年が微笑みかけてくる。
店主もにっこりとうなずく。
「「ありがとうございました!」」
二人で元気にお礼を言ってから荷物を背負子に積み上げると
もう一度お礼の挨拶をしてからお店をでた。
誤字等の修正です。本ストーリーへの影響はありません




