3-67_橋を架けよう(3)
橋なんか架かるどころじゃないよ。
なんで、こんなに大変なのさ。
「ヒカリ殿、本日はどのような予定でしょうか?」
「うん。石切り場までたどり着けたけど、材料を全部運んでいいかとか、どこに運ぶか確認しないとね。その他に困りごとがあるかもフウマと相談しておいた方がいいね。」
「承知しました。では、一度架橋地点まで戻りましょう。」
「うん。こんなに早く進んだのはみんなのおかげだよ。想像以上に大変だね。フウマ達も苦労しているかもしれないし。ちょっと聞いてみる。」
<<フウマ、今日からの動きを一度確認したいから、朝そっちにいくけどいいかな?>>
<<姉さん、おはよう。アルさんが念話をまだ習得できてないから、全員で会って話をした方がいいね。>>
<<だったら、架橋地点で合流でいいかな?>>
<<それがいいね。待ってるよ。>>
「よし、フウマとアルさんと打ち合わせしよう。出発だよ。」
「「「ハイ」」」
ーーーー
架橋地点に昨日は無かった掘っ立て小屋が見える。あそこで集合でいいんだよね。なんだかんだでちゃんと進んでるんじゃない?
「フウマお待たせ。朝食は済んだ?」
「簡単なものは食べたよ。」
「じゃ、早速打ち合わせしよう。イワノフさん達は?」
「彼らは人が増える前提での小屋や調理場の作成、用水路の設計を始めてる。架橋地点と橋脚の設計は姉さんと最終確認してからにしたいって。」
「そうなんだ。じゃ、あとで話をしておくよ。
こっちは4人で森の入り口から石切り場地点まで道が通った。今後治水事業を進めるにしても、石切り場からの街道は重要だと思って。石の切り出しはいつでも始められるから、その前に石の大きさとか置く場所がどうなってるか聞いておこうと思って。」
「うん。飛竜さんたちが助けてくれるのは本当にありがたいよ。もし、ここで材料運送用の石や木材を馬車で運ぶとしたら、その手配も必要になるところだった。」
「こっちは飛竜さん達だけでなくて、クロ先生にも手伝ってもらっちゃった。女の子3人だと頑張ってたけど、やっぱりキツイね。」
「姉さんでもか。こっちも人が圧倒的に足りないんだ。
イワノフさんに確認したんだけど、『100人ぐらいは集めないと、ヒカリ様が思うような進み具合で工事は完成しないだろう』って、言ってたよ。
ある程度人数を班分けして、交代制で作業行動してもらうらしいんだ。体力仕事だから定期的に休んでもらうことで作業が継続的に行えて、効率もよくなるらしいんだよ。
その100人体制を一ヶ月以上継続するには、大掛かりな食事する場所や水路の整備が必要になるからって、環境整備の工事に取り掛かってくれているよ。」
「イワノフさん達はそういうのが見えていたんだね。そういえば大型船を建造するときに人族を使ってたとか言ってたもんね。」
「彼らも無責任な発言をしてる訳ではなくて、できることはどんどん進んでやってくれてるよ。石があれば、橋脚のための石の詳細加工とかも出してくれると思うよ。」
「うん。じゃぁ、材料と設計はなんとかなりそうだね。置き場所とか決まってる?」
「木材はこっちの畑がある空き地ならどこでもいいって。石は基本は河原の水が流れてない辺りに並べておいて欲しいって。」
「なるほどね。例の<固まる砂>の在処は判った?」
「ランドルさんも予め必要性を見込んで、在庫と採掘場所は調べてくれていたんだ。ミラニアや城下町にもあるんだけど、橋の橋脚を建てるような量は無くて、実際に山や洞窟から掘り出してくる必要があるんだって。」
「場所と採掘権は?」
「場所はロメリア王宮のある裏手の山を東に行った辺りだって。ちょうど姉さんが石切りを開始しようとしてる辺りじゃないかな?採掘権は設定されてなくて、必要な職人が掘り出して、川の流れを利用して船で運び出してるんだって。」
「いわゆる。日干し煉瓦の粘土とかと同じ扱い?」
「そういうことになるね。」
「正確な場所は判る?」
「ランドルさんから案内人を借りれることになってる。」
「じゃ、場所が判って、袋の様なものが手に入れば他の資材と同じように調達できるね。」
「あぁ。問題は人なんだ。」
「炊き出しで人を集めるんだっけ?」
「姉さんと3人で話してるときはそういう案があったけど、実際には上手く行かなかった。
まず、<炊き出し>を教会でもなく、商人の息子や旅人がしても人は集まらないんだ。そういう施設や王国が主催でやらないと炊き出しでの人の救済はできない。
次に、<炊き出しで集まる人>だけれど、働く気も無く、物乞いで生きていこうとする人が多い。
だから、元気になって、橋の建設工事に力を貸してくれるようになるには、相当長い時間がかかる案件であることが分かったよ。
そして最後に<炊き出しする人手不足>だよ。人を集めて並ばせて、世話をするってのを男2人ではやりきれない。かといって1日や2日ではその準備すら整わないことを姉さんにも聞いて欲しかったんだ。」
「フウマ、私が悪かったよ。あまりにも無知過ぎた。今回の材料の切り出しもクロ先生の助力がなかったら、全然進まなかったんだよ。
だから、フウマの人手を集める活動も私が思った通りに進まなくても仕方ないよ。いろいろ考えて行動してくれてありがとうね。」
「いや、いいんだ。それで相談なんだけど、<奴隷を使うのはどうか>って話になっている。ランドルさんやアルバートさんも同じ意見なんだ。
奴隷商人としても、働きもしない価値のない存在は商品にならないから扱わないんだ。特殊な嗜好の主人が壊して遊ぶとかのケースを除いてね。それはそれで品質要求が高いらしいけどさ。
だから、<奴隷を扱うこと>に対して姉さんが嫌悪を生じないのであれば、人を調達するには奴隷商人を巡ってみるのが良さそうなんだよ。」
「フウマ、アルさん、私の無知を助けて欲しいのだけど、
<炊き出しで集まる人>は奴隷でなくて、体力や健康に問題があって、やる気も無い人が多い。
<奴隷商人が扱う奴隷>は、多くの場合、健康に問題がなくて、言われたことに従って仕事を進めてくれる人。
そういう理解でいいのかな?」
「「ハイ」」
「うん。じゃ、次の質問ね。
<奴隷になった人>ってのは、必ずしも奴隷になりたくてなったのではなくて、犯罪とか事業の失敗とか、親に売られたとか<本人の事情だけではなく、そのような身分になった人>が多いってことでいいのかな?」
「基本的にはそれでいいと思う。
ただ、戦争で征服した土地から連れてきてる場合もあるね。本人の事情よりも国が制圧されちゃったって問題だよ。その他に貴族が不要になったから放出したとか、村が税金を納められなくて、その村の住人を生贄として奴隷商人に差し出すなんてケースもあるよ。」
「ってことは、生きる気力とか、仕事へのやる気とかは<炊き出しで集まる人>よりも、<奴隷身分になってしまった人>の方が強いってことでいいね?」
「ヒカリ様、私が言うのも何ですが、奴隷としての商品価値があるというのは、それだけで評価されているということです。ヒカリさんが全ての人間を平等に扱いたい気持ちもわかりますが、生まれ持った気質や健康を含めての平等はございません。」
「アルさん、私も神様じゃないから、<全ての人間が平等で価値が等価である>とは思ってないよ。
<奴隷制度>が嫌なのは、その人のやる気とか健康とかと関係ないところでその人の人生を決めてしまうし、自由な意思が無くなってしまうことなんだよ。<元から意思を持たない人>に意思を持たせるには、国が豊かになるだけでは駄目だし、環境によっては、その人を導くにも限界があるんだよ。」
「姉さん、ちょっと安心したよ。僕ら二人もそれなりに考えて出した結論だったんだ。アルさんが『ヒカリ様は理も分かるひとなので、状況を丁寧に説明すれば、何処かに交わる点があるはずだ』ってことで、今日は<奴隷の雇用>を提案させてもらったんだ。」
「フウマ、アルさん本当にありがとうね。
今回は時間も無いから<奴隷さん達に協力してもらう>ことで進めよう。
で、早速人を集めに行きたいね。どうするのがいい?」
「姉さん、城下町では公然とした奴隷商人はいないんだ。居ても貴族御用達の割高で見かけ重視の人たちが多い。アルさんと話をしたんだけど、ミラニアか港町ナポルで調達するのがいいんじゃないかって。」
「なるほどね。港町だと奴隷の取引は多そうだね。メルマでも奴隷商人が何軒かあったもんね。集める人材の方向性としては・・・。
1.炊事や洗濯ができる支援職(10人)
2.班ごとの指揮や仕事の進捗管理が行える指揮官(10人)
3.言われたことを確実にこなせる人手(100人)
種族、老若男女問わずにそれぐらいの人数を集めればいいかな。
奴隷商人からの買い取り額はどんなもんなんだろうね?」
「ヒカリ様、
ナポルの方は海外からの流入があるので、メルマと同様な取引額を見込んで頂ければと思います。特殊な技能持ちでなければ金貨1枚程度でしょうか。
計算ができるとか、指揮経験があるなどの特殊技能もちでも、性格が悪かったり四肢に欠損がある場合には値が下がります。
ミラニアの方ですが、どうも奴隷自体の価値が下がっているようです。ここ2-3年は物価の上昇が著しく、商売が立ち行かなくなったり、農耕を諦めざるを得ない人が出始めています。そのため、奴隷に身を落とす人が増えたようです。かといって、貴族たちは必要な執事達は十分に備えていますし、愛玩用には特殊なルートから仕入れておりますので、一般的な使役を目的とした奴隷があぶれています。」
「なるほど、いい情報だね。
まず、ミラニアの奴隷商人から買い集めよう。面談もして、さっきの1~3のどのタイプの候補になりそうかも決めておこう。そこが終わったら、今度は不足分をナポルで調達しよう。」
「姉さん、もしナポルへ行くことになったとしても、遠いから、人を連れてくるだけでも時間がかかると思うんだ。」
「そこは馬車を現地で購入して、馬車ごと飛竜に運んでもらおう。馬は無しでね。最悪100人をナポルから集めることになったとしても、10人乗りぐらいだったら、2台で5往復ぐらいでしょ」
「姉さん、飛竜達が4人で1台運べるとしても、飛竜に乗る人が8人必要になるだろ?<念話>が使える姉さん達と僕が入っても4人にしかならないだろ。」
「飛竜が大量に居て、飛竜と人で会話が出来るようになっていたらどうする?」
「姉さん、飛竜がたくさん居ていい。だけど、<念話>はそう簡単にできないよ。アルさんだって苦労してる。飛竜同士で簡単な荷物運送はしてもらえるけど、馬車いっぱいに人を積んでるんだろ?もし、事故でもあったらせっかくの人材が台無しになるよ。」
「一応最初に言っておくけど、私のせいじゃないからね?
飛竜族と人間達は<飛竜の血>を飲むことで特別な念話が使えるようになる。だから、夕食会のメンバーだけでなく、今来てる王族やエルフの人たちも飛竜を操れるんだよ。」
「姉さんのせいじゃないってのは信じないけど、姉さんの言ってることは信じるよ。だとすると、姉さん達4人と僕ら二人の6人ってことかな?」
「ステラ、エストたち3人に運ぶの手伝って貰うのとかできるかな?」
「できると思いますわ。ただ、呼びに行くのは、運ぶのが決まってからでも良いかしら?彼女たちも関所の工房でいろいろ試作品を作っているので。」
「そだね。あと、フウマとアルさんの飛竜も用意してもらわないとね。先ずは飛竜4人とここに居る6人で奴隷の購入を始めよっか。」
「ハイ(ALL)」
いつも読んでいただいている皆様には感謝しています。
今後とも頑張って続けたいとおもいます。




