3-44.飛竜との対話
さて~。
飛竜はどうなった?
<協力の証>ってやつを貰わないとね。
「ステラ、飛竜の族長の<針>を抜きに行きたいのだけど、ついてきてくれる?」
「はい。何か準備はいりますか?」
「そっか。傷孔に垂らす薬みたいのがいるね。治療と回復が必要だよね。そういえば、飛竜の食事とかどうしてたんだろ?」
「ユッカちゃんが、魚とか牛とか運んでたようですわ。妖精の長達が表立って動くわけにもいきませんし、かといって、海や草原から重量物を運べるのはユッカちゃんぐらいですわ。」
「ユッカちゃんにも相当迷惑かけたね。また何か美味し物つくってあげよう。」
「それがいいですわ。ユッカちゃんなりに気にしてたようなんです。
『私がおねえちゃんの手伝いができないのに、早く、早くって急かしたせいだ』
って。」
「ああ・・・。手伝わせたくないのじゃなくて、ユッカちゃんが一生懸命本気だすとさ、山がまた崩れちゃうでしょ。あの岩屋が潰れると中にいた飛竜さんが潰れちゃう可能性があったからね。本人のやる気を削がずに、自由に行動してもらうって難しいことだね。」「ユッカちゃんもそこを気にしてましたわ。
『ちゃんと魔術も魔力も制御できないとダメだね』
って。」
「多分ね。普段本気を出す機会が少ないんだよ。ある意味で欲求不満。で、あの山を崩したときは、<ちょっと本気出す>って感じで試しただけだと思うんだよ。だから、全力を出せる機会が少ないってのは、成長を続ける本人にとっては、とてもつまらない状態だと思うんだよ。」
「私は毎日全力出して、成長しっぱなしですわ。」
「人族は寿命がかぎられてるからね。どうしても刹那的な生き方になるんだろうね。長寿命なエルフ族のステラが、よく私に合わせてくれてると思うよ。」
「私はヒカリさんとの生活を楽しんでますわ。」
「それならいいんだけど、異文化交流とか価値観の違いって小さなすれ違いの積みかさねが大きな軋轢を生ことがあるから、お互い気を付けていきたいね。」
「今の私にはよくわかりませんが、気を付けますわ。」
「うん。何か気になることがあったら、何でも言い合える仲でいようね。
話が長くなっちゃってごめんね。飛竜の所へ行こう」
「ハイ」
ーーーー
マリアさんの別荘の隣の空き地に飛竜は寝そべっていた。
もう、臭くないね。肌?皮膚?の艶もでてきてる。
所々傷跡みたいな、欠損みたいな状態はあるけど、
体力が回復して、自然治癒に任せるしかないんだろうね。
さて、もう二度目だから針はちゃちゃっと抜いちゃおう。
傷孔の仕上げはステラにしてもらった。
よし、飛竜に<念話>が通じるといいな。
<<もしもし、族長さん?>>
<<お主はだれだ?>>
<<私は人族のヒカリと申します。こちらはエルフ族のステラ・アルシウスになります>>
<<私の名はヌマーリ・メニーナス・・・・・ジョハだ。ヌマと呼んでくれれば良い。人間達が私を幽閉から解放してくれたことに感謝する。何がしたいのだ?>>
<<力を貸してください>>
<<既に人間達に力を貸している>>
<<その件に関して、少々人族の間で問題が起きているので、改めて力を貸して頂きたく、お願いに参りました。>>
<<幽閉中にいろいろな変化があったはずだ。私の一存では決められぬ。>>
<<手始めに、飛竜の族長であるヌマ様より<協力の証>を賜りたいと思います>>
<<それを誰に聞いた?>>
<<飛竜族より人間のロメリア王国へ派遣されている飛竜の一人から聞きました>>
<<手段はともかく、<タカ>から聞いたのか。
タカ達には<兜と一体型の針>があって、そのことは傍目に判らなかったはずだ。
もし、兜を分解したことがロメリア王国に見つかれば、飛竜族へ直ぐに通達がきて、私が始末されているであろう。>>
<<状況説明としましては、その<タカ>さんの頭に<針>は無く、<念話>が通じる状況でございます>>
<<な、な、なんだと?>>
<<直接<念話>でお話し頂ければ確実かと。>>
<<分かった。少々待ってもらえるか>>
・・・。
なんか会話してるんだろうね。
誤解が無いといいんだけどさ。
<<ヒカリ殿、<娼館のリカ>と<エルフ族のステラ>との関係を説明頂けるか?>>
<<<娼館のリカ>は、私の偽名となります。ロメリア王国の飛竜隊より、飛竜族の居場所を聞くために、庶民の振りをして近づきました。<ステラ>は先ほど紹介させていただきました通り、ここにおりまして、<私にとって、とても大切な仲間の一人>になります。>>
<<私はヒカリとステラの二人へ、救出してもらった恩を返せば良いのか?>>
<<もう一人、<ユッカ>という少女も飛竜族の山へ同行し、族長の救出に助力しました。>>
<<ユッカは知っておる。食事を運んでくれた。そうか、あの子も一緒に来たのか>>
<<はい>>
<<<協力の証>は3人必要か?それともヒカリだけで良いのか?>>
<<と、いいますと・・・?>>
<<お主ら、<妖精の長の加護の印>を持っておるな。私からも<加護の印>を施すことになるが3人必要かと聞いておる>>
<<す、すみません。何か証明書のようなものではないのですか?多くの生物には<加護の印>は見えないと伺っていますが・・・。>>
<<飛竜族の間では<念話>が通れば、<加護の印>なんぞ見えなくても確認がとれる。私は族長の血を引いておるので、お主らに付いている<加護の印>も見えるぞ。4つの加護の印を持った人間は初めて見たがな>>
<<少々、人間達で相談する時間をください>>
「ステラ、どうする?」
「ヒカリさんは貰っておくべきでしょ。」
「そ、そうだよね。カッコいいかな?」
「カッコ悪いと要らないのですか?」
「『カッコ悪いからいらない』って言えないでしょ!」
「ユッカちゃんやフウマさんなら、何でも喜んで貰うと思いますわ」
「ステラはどうなの?」
「私はデザインが見えませんので、数に限りが無いなら欲しいですわ」
「そ、そっか・・・。みんな見えないから気にしないよね。そうだよね。」
<<おまたせしました。お手数で無ければ、4人ほど頂きたいのですが。>>
<<ヒカリ、ステラ、ユッカと他にいるのだな?
良いぞ。<加護の印>に効果は何もないことを知っておるな?>>
<<はい。ユッカちゃんとフウマは知らないですが、問題無いです>>
<<では、お主ら二人には今ここで授けよう>>
<<ありがとうございます>>
描くところが無いって言うんで、うなじに描いてもらった。
ステラのを見ると、竜の顔みたいなのを角型の図形化した感じ。
戦隊モノのロボットの顔を細くしたような、そんな感じ。
み、見える場所でなくて良かったかな・・・。
<<お主ら二人とユッカに頼みがある。>>
<<なんでしょうか?>>
<<もう、寿命に近い母がおる。死に至る前に、せめて人間から入れられた<針>だけでも取り除いてやってはくれぬか。今回の<加護の印>とは別にして、個人的な礼はさせて頂く。>>
<<グルーシャさんでしょうか?>>
<<門番から聞いたのか?知っておったなら話が早い。お二人なら私が背中に乗せて飛ぼう。ここから飛竜の山は遠いか?>>
<<もう、私たちの知る限り、<針>の入った飛竜はいないはずです。他の王国や他の大陸に住まわれる飛竜は判りませんが。タカさんとグルーシャさんにご確認ください。>>
<<少し時間を頂けるか>>
<<ハイ>>
こんな<針>を最初に考えた人は誰なんだろうね?
魔術だけでなく科学技術も相当高いレベルじゃないと、
形状記憶合金の組成を合金として生成できないしさ。
どっか、他の大陸から持ち込まれたことにしておいて欲しいよ。
ストレイア帝国とかロメリアには居ないで!
とか、お願いするのは悪くないよね。
<<確認がとれた。一族の長として、皆に代わって礼を言う。
改めて問おう。<お主らの望みは何だ?>>>
<<現在、私たちの住むエスティア王国と隣接するロメリア王国の間で戦争が起きようとしています。いま、ロメリア王国のみに飛竜隊が結成されていますので、上空からの攻撃や諜報活動が行われますと、こちらが圧倒的に不利な状況となります。
人族同士の争いであるため、せめて中立の立場をとって頂けないでしょうか?>>
<<我々飛竜族としては、<魔封じの結界>を超えて、人間達を殲滅しようと考えている。エスティア王国をそこから除外すれば良いのか?>>
<<お怒りご尤もでございます。もし、許して頂けるのであれば、ロメリア王国内の王族や上流貴族に属さない、一般的な民衆も殲滅候補から除外頂くわけには参りませんでしょうか?>>
<<なぜだ?>>
<<国を支え、日々の生活を営む一般市民は、どのような術を用いて飛竜族を操っているのか全く理解しておらず、『飛竜隊かっこいい!』と憧れの眼差しであります。
また、飛竜族が<念話>まで使える高知能の生物であるとの認識もございません。悪例で申し訳ございませんが、馬や牛の様に家畜とみなしている状況です>>
<<エスティア王国に於いて、王位に即する者が自己制御不能となる針を打ちこまれて、
『国として飛竜族の言うことを聞かないときは、王族全て滅ぼすぞ。お前らは今後飛竜族の奴隷として生きろ。毎年5人の生贄を捧げろ』
と命じたらどうする?
チャンスが来るのを耐えて待ち、その時が来たら最後の一人まで戦おうと思わないか?
その状況が100年耐えて、やっと今到来したのだぞ?>>
<<戦争は負の連鎖を生みます。そのような戦争が起こってしまった場合、少なからず飛竜側にも被害が出ると想像します。
恨みを晴らしたい気持ちは分かります。しかし、その恨みを晴らす過程で新たなる犠牲者が出てしまうのです。>>
<<それは、<他人から見たきれいごと>だな>>
<<エスティア王国としてみれば、先ほどヌマ族長の仰るとおりにロメリア王国を殲滅して頂いた方が好都合です。
しかし、そこを止めたいと申しております。
私なりに、今回の戦争の被害者が最小限で済むように努力しているつもりです。>>
「おねえちゃん、元気になったね。飛竜さんの食事獲ってきたよ」
「あ、ユッカちゃん。私が寝てたときの食事も世話してくれてありがとうね。
このヌマっていう飛竜さんがユッカちゃんにプレゼントくれるって。」
「え?なになに?」
「もらってみて。」
「うん」
・・・。
大丈夫かな。
「おねえちゃん、<ひりゅうのかご>って何?
飛竜さんが籠で運んでくれるの?それとも荷物運ぶの?」
「それは、きっと、物や人を運ぶための籠じゃなくて、
保護して見守ってくれる加護のことだよ。」
「飛竜さんが飛んできて助けてくれるの?」
「ううん。妖精の加護と一緒で、友達の印なだけだよ。あ!」
「おねえちゃん?」
「ハイ」
「<ようせいのかご>ってなに?友達の印なの?」
「ステラ・・・。」
「ヒカリさんのせいですわ。でもいいですわ。
ユッカちゃん、妖精の長達からも同じものが貰えるわ。
後で一緒に行きましょう」
「おねえちゃんのイジワル!」
「あの日はランドルさん一家が来られてて、無理だったんだよ・・・。翌日は皆で急いで出発したでしょ?」
「おねえちゃんも貰ったばかりなの?」
「飛竜族の冒険の前の日だもん。」
「じゃ、いいよ。」
「うん。許して。」
<<ヒカリは妖精の長達と会えるのか?>>
<<え?ここで世話してもらったでしょ?>>
<<そこにおるユッカ、ステラ。あとはマリア、クロ先生、ラナちゃん、シルフ、長老と、ヒカリの元で働いている人たちの世話になった>>
<<その人たちだよ>>
<<な、な、なんだと?>>
<<飛竜の族長でも驚くんだ>>
<<すまぬが、母をここへ呼んでもかまわないであろうか?
その代わり、先ほどの人族の国の諍いについては、ヒカリの意向に沿ってコトを進めることとしたい。>>
<<いいよ。岩屋みたいな屋根は無いよ。ここでいいならどうぞ。
食事が大変か。そこだけ時間かかるかも。>>
<<一週間やそこいら、喰わぬでも生きていける。心配するでない>>
<<お客さんは大事にしないとね。あとでユッカちゃんと相談しておくよ>>
<<す、すまぬが、よろしく頼む。>>
<<じゃ、ロメリア王国にいる飛竜隊のタカさんは、私が直接<念話>通してもいいかな?>>
<<もちろんじゃ。お主の戦争の道具として編入しても構わぬ>>
<<そう。戦術的な危険に晒すことは避けたいけど、裏方として支援してもらう場合はお願いしても良いかな?>>
<<もちろんじゃ。>>
<<じゃ、念のために、タカさんにはヌマ族長からもそのように伝えておいてくださいね>>
<<あい、わかった>>
よしよし。
フウマへの連絡が遅くなったけど、これで制空権は取り戻した。
早速サイナスの治水工事にでかけられるね。
いつも読んでいただいている皆様には感謝しています。
今後とも頑張って続けたいとおもいます。




