3-43.ポタージュ
・・・。
・・・。
<<ヒカリ?>>
<<・・・。>>
<<返事も意識もありませんが生命活動は残ってますね>>
<<・・・。>>
う~ん。
なんか、甘い蜜みたいのが口に入ってくる。
う、うん・・・。なんとか飲み込む。
スプーンでもう一杯いれようとしてくれるけど、
もう飲み込む元気がないよ。
口のはじからこぼれて垂れちゃった。
目も明かない。音も聞こえない。
魔力切れかな?もうちょっと寝よう。
・・・。
ーーーー
「あ!目が開いたよ!」
「ヒカリさん、聞こえますか?」
口が開かない。喋れないね。
目をパチパチさせる。
「良かったです。できれば口を開いてください。」
目玉で横を見る。
もう、アイコンタクトってやつだね。
「じゃ、起こして勝手に口に入れさせてもらいます。」
目をパチパチする。
すると、枕みたいな大きなクッションを背中に入れて壁にもたれかかった状態にされた。今度は口を無理やり開いて、舌の奥にスプーンで液体を流し込まれる。
なんとか飲み込む。
これを数回繰り返した。
「ヒカリさん、お疲れ様ですわ。また、姿勢を戻しますので、ゆっくりお休みください。」
目をパチパチする。
寝てた姿勢に戻してくれた。
あー。体が動かないってレベルじゃないね。
いろいろな機能が寸断されちゃってるかんじ。
寝よう。
ーーーー
「おねえちゃん、おはよう!」
「ユッカちゃん、おはよう。」
「あ、おねえちゃんが喋った!」
「やっと喋れたよ。まだ魔法も使えないし、手足も動かないよ。」
「ご飯をいっぱい食べよ!」
「そうだね。エネルギーを摂らないとね。」
ユッカちゃんがジャガイモのポタージュを持って来てくれた。
「おねえちゃん、これ試しに食べてみて。美味しいよ。」
「うん」
口を開けると、丁度いい温度に吹いて冷ましてくれてからスプーンでそっと入れてくれる。
あ、あれ?
これ、日本で食べていたジャガイモと違うよ。
なんか、甘い。
<インカの目覚め>とか、黄色で栗っぽい味のするやつ。
「ユッカちゃん、このジャガイモどこで買ってきた?」
「おねえちゃん、分かるの?」
「なんか、とっても美味しいよ。お腹が空いてるからかな?」
「あのね・・・。にひひ・・・。」
「え?なに?ジャガイモじゃないの?」
「ジャガイモだよ。畑でとれたの!」
「ジャガイモは畑で収穫するもんだよ。」
「ちがう!おねえちゃんの農場だよ!」
「え?」
「おねえちゃんが開拓した農地の初めての収穫だよ!」
「まだ、種撒いて二ヶ月ぐらいだよ。」
「『妖精の長達の力だ』って、皆が言ってるよ。」
「そっかー。とっても美味しいって皆に伝えておいて。」
「うん。これ全部飲んでね。」
「うん。手伝ってくれてありがとうね。」
今回は回復が遅いな~。
まだ力が入らないや。
それにしてもポタージュか・・・。
美味しかったな~。
素材の旨味っていうのかね?
なんか、磨り潰してしまうのが勿体ないよ。
ああ、私のためにやってくれてることだね。
早く元気にならないと。
きっと飛竜のこととか、いろいろあるんだろうな。
けど、みんな話しかけないってことは、
私を気にしてくれてるんだろうね。
ーーーー
<<ナビ!>>
<<回復されましたか>>
<<心配かけたね>>
<<生命反応はありましたから大丈夫です。無くなったら主神に戻されるだけです>>
<<それは危ないね!>>
<<私にはそれを決める権利はありません>>
<<そっか。気を付けるよ>>
<<何か御用でしょうか?>>
<<先ず、私の今の魔力の残量と最大魔力を教えて>>
<<100/7800>>
へぇ。王宮の勝負前にベッセルさんちで<魔石作りの勝負>したときより最大魔力は増えてるね。残りの魔力は宮廷魔術師ぐらいなんだね。無理しないでおこう。
でも、なんで魔力切れを起こしたんだろ?体調が悪かったのか、ラナちゃんのナイフが途方もなく魔力を消費するとかかな?今度ラナちゃんに聞いてみよう。
<<ナビ、ポタージュの作り方を教えて。素材はジャガイモがいいな。>>
<<いつもの様にレシピを検索します>>
<<おねがい>>
<<検索完了しました。体が弱っている人のための優しい味付けだそうです。
材料:
・じゃがいも 中4個
・バター 10g
・玉ねぎ 中1/2個
・コンソメスープ 200ml
・牛乳 200ml
・塩少々
・好みでクルトン、チーズ、パセリ、胡椒など。
手順
1.ジャガイモを2-3㎜厚さに切って、水に晒す
2.バターで玉ねぎの2-3mmスライスを透明になるまで炒める
3.2.にジャガイモを投入して、ジャガイモの表面が透けるまで炒める
4.コンソメスープ200ml(全量)を入れて、10分煮る
5.一度火を止めて、牛乳100ml(半分)を入れ、それをミキサーにかける
6.ミキサーと牛乳の残りを混ぜて、鍋で温める。
以上>>
<<ナビ、いつもありがとう。>>
よし、体が動くようになったら作ってみよう。
でも、コンソメスープの作り方も教わらないとね。
ま、肉とか野菜で出汁とればいいのかな。
ゴードンに聞いてもいいし。
いろいろ考える余裕が出てきたし、
食欲もあるから元気になれそうだよ!
ーーーー
「おねえちゃん、おはよう!」
「ユッカちゃん、おはよう。元気になったよ。体が動くよ。」
「みんな、心配してたよ。」
「心配かけさせて悪かったね。ユッカちゃんもいろいろありがと。」
「みんなと同じ物たべる?」
「昨日のポタージュを飲みたい。でも食堂でご飯たべたい。」
「わかった!みんなに言ってくる」
ご飯を食べながら情報収集と今日の行動決めようね。
そもそも、私は何日寝てたんだ?
ーーーー
「モリス、ステラ、おはよう。他のみんなは?」
「みなさん、ヒカリさんが元気になられたので、各自の役割を果たすべく行動をとられております。」
「なんだか私一人で寝てて悪かったね。何日ぐらい寝てた?」
「戻られてから、今日で4日目になります。」
「それは長いね。みんなに謝らないと。」
「いえいえ。ステラさんとユッカちゃんから事情は聞いてます。
あ、ラナちゃんから伝言で
『ヒカリが起きたら、<ば~か、ば~か>と、言っておくように』
とのことです。」
「そっか。やっぱりあのナイフに何かあったのか・・・。」
「ヒカリさん。それは違いますわ。」
「うん?」
「魔術封しの結界の中で、魔術を使うと魔力の回復ができないそうなんです。
つまり、ナイフの<斬撃>も<重力遮断>も、なんら魔力回復ができない状態でヒカリさんの中にある魔力を使い続けていたのですわ。
大きな魔石作成と一緒で、身体強化によってエーテルを体内で作れていたはずですが、
その魔力消費量の多さに、今度はエーテルを練る体力すら奪われてしまって、体力と魔力の両方が同時に枯渇してしまったようですわ。」
「そ、それはバカだね・・・。そいうものなのか・・・。だから単なる魔力切れと違って、なかなか回復しなかったんだね。未だに魔力も全快になってないっぽいし。」
「でも、ラナちゃんの説明で皆様が安心されましたわ。
あのボロボロの飛竜を運んできて、なにか治療できない病にかかったのかもと心配になりましたの。」
「そういえば族長の飛竜はどうなった?死んじゃったかな?」
「妖精の長達が大活躍でしたわ。ウンディーネが秘薬の数々で治療を施しつつ、
クロ先生が壊死しそうな部分の進行を止めるために凍結処置をしたり、化膿した場所の乾燥にはシルフの風が有効でした。私には良く判らないのですけど、ラナちゃんの紫外線による殺菌は腐敗の元を除去できるそうですわ。」
「うわ~~。妖精の長達には、きちんとお礼を言わないとね・・・。
それで、例の針はどうなった?」
「まだですわ。」
「ステラとユッカちゃんが協力すれば抜けたんじゃないの?」
「私もユッカちゃんも飛竜よりヒカリさんが大事ですわ。」
「え?まさか、二人とも寝てないとか?」
「いいえ~。ちゃんと交代で寝ましたわ。」
「でも、それって、どちらか付きっ切りだったの・・・?」
「はい(にっこり)」
「ステラ、愛してるよ!」
「ユッカちゃんも愛してあげてください。」
「うん。同じくらい大好きだから大丈夫!」
「よかったですわ。」
「モリス、お待たせ。何か緊急の報告ある?」
「いくつか御座います。食事を摂りながら聞いていただいてもよろしいでしょうか?」
「うん。多分大丈夫。」
「では、報告させていただきます。
1.アリアが<念話>を習得しました。アルバートは未達成です。
2.ヒカリさんのチームで救出した飛竜の容体が安定しました。針の抜き取り作業ができるようです。
3.ベッセルがエスティア王国の城下町へ帰りました。
4.王宮から冷蔵庫作成チームが帰還しました。お妃様の身の周りの品とメイド2人を連れてきました。
5.フウマ殿から<念話>が入りました。『天然の土手もしっかりしてるから全長に渡って壁を作る必要はない。だけど、何か所かある水路に対して、強力な水門を設置しないとそこから決壊する心配がある』とのことです。
6.お妃様の建物、内装が整いまして、そこに住居を移して頂きました。ただし、関所の中ではメイドとして役割を演じるそうです。
7.私どもの家族3人の住居も完成しました。誠にありがとうございます。
大きな進展があった事柄は以上になります。」
「ありがとう。随分進んだね。みんな頑張ってくれて有難いや。」
「ヒカリさん自らが頑張っている姿をみているからかと。」
「そういうもん?」
「ヒカリさんにとって普通の人であれば、そういうものです。」
「良く判らないけど、これからも頑張るからよろしくね。」
「ハイ」
「お酒とか初めての収穫とか、妖精の長達の地下栽培所とか、アルバートさんとかいろいろ知りたいけど、また今度お願い。早速飛竜に会ってくるよ。」
「承知しました」
いつも読んでいただいている皆様には感謝しています。
今後とも頑張って続けたいとおもいます。




