14.街にでよう(2)
街にでる準備をする。
売り物を集める。魔石ってなんだ?
それより、もっと重大な問題が……。
む。
今朝はユッカちゃんに起こされる前に目が覚めたよ。
ちょっと情報整理しておこうかな。
<<ナビ、トモコさんの毛皮についての情報を頂戴>>
<<一般的な狩人がなめす毛皮と同じタイプは街で一般的な価格で取引されています。
一方で、小動物のうち、セーブル、ミンク、チンチラは貴族が使いたい材料として人気があり、こちらはレナードの御用聞きの商人のみが取り扱っております>>
<<とすると……。
トモコさんは、一般的な安価な毛皮と貴族向けの高級な毛皮を別々に作って、それぞれ別の人達と取引していたんだね。
次に、トモコさんの毛皮の作り方、置き場所はわかる?>>
<<作り方はランク7権限で日本よりダウンロードできます。置き場所はデータベースにありません>>
<<ありがとう。最後に魔石ってなに?>>
<<冒険者ギルド、魔道具屋で扱われる一種の宝石です。最低レベルの魔石が銀貨一枚。日本の物価とは比較にしにくいですが、宿での宿泊料を基準に取ると、銀貨1枚が1000円相当になります。
産出元は魔物の心臓に相当する部分にあるものを魔物の死体から回収するのが一般的です>>
<<ランク5以上のエーテル利用権限で魔石を収集できる方法を教えて>>
<<(少女の声で)
「頭に考えて、もや~ってするでしょ?それをぎゅ~~~って集めて、
こんどは集めたものを変えたいものにイメージして、出ろ~って掛け声をかけるの」
(普通の男性の声に戻って)
以上になります>>
<<お~い~!>>
<<はい?>>
<<ま、いいや。それじゃ魔石を見せて>>
<<写真や絵をアップロードする手段がありませんので、データベースに存在しません。日本にも当該する物体が存在しません。
私には物質を具現化する機能は備わっておりません>>
<<トモコさんかユッカちゃんが持っている魔石はどこにあるの?>>
<<データベースにありません>>
<<ありがとう。
後で利用できる様に、日本の情報サイトから毛皮のなめし方に関する情報をダウンロードしておいて。写真、動画とかも私に送れるなら、そっちのデータもお願い>>
<<了解>>
なんか、ナビに揶揄われている感満載だけれど、嘘をついていることは無いはずだから、そこは信用できるよね。それに、日本の情報を適切に収集してまとめてくれるんだから、ちゃんと信頼関係を築いておかないとね。
ーーーー
「おはよ~。おねえちゃん、朝だよ」
「ユッカちゃん、おはよう。毎朝元気だね。一緒にピュアしよっか!」
「うん」
「「せ~の~! エーテルさん! ピュア!!」」
これはきっとあれだ。単に浄化だけでなく、発声による呼吸法とか伸び上がりによる身体の血行とか、そんなんも考えられている気がする。何より、ユッカちゃんのこれを見てると心が健康になるね。
「はい。これおかあさんの服。どうぞ」
「ありがとう。早速着替えちゃうね」
チュニック1式と靴。
靴って言っても革袋に紐がついてる感じ。
あ、中になんか、硬いのと柔らかいのがあって、日本の靴みたいな履き心地になるように工夫されてる。外側の革袋はダミーかな。
で。
下着がない!
ないのか!
<<ナビ! 下着!>>
<<私は物質を具現化できません>>
<<ナビ!真面目な話。
この異世界での服装が中世ヨーロッパ風ってのは理解した。私は21世紀の日本から来てるんだよ。トモコさんはどうしてたの!>>
<<プライベートな情報には、アクセスする権限がありません>>
<<ねぇ!なんかないの?>>
<<江戸時代の日本の男性の下着および任侠の情報をダウンロードします>>
<<フンドシとサラシね。ありがとう>>
ファンタジーでなんとかしてよ……。
ゴムがないんだろうね。
金属とかプラスチック加工品もない……。
あの硬い『パンみたいな何か』の次に研究するの下着にしよう。そうしよう。
私は日本人女性の平均身長よりちょっと背が高い。
下着はともかく、服がどうなるか心配してたけど、トモコさんのがすんなり入った。トモコさんも背が高めだったのかな。この点はラッキーだね。
「ユッカちゃん、ありがとう。お金がつくれるまで、暫く借りたいんだけどいいかな」
「お金?おねえちゃんは魔石つくって売れるんでしょ?」
「うん。ちょっとその話はあとでしよっか。その前にさ、お母さんが毛皮を処理してた所に連れてって」
ユッカちゃんに続いて小屋の外の別の洞穴に向かう。
なんか、へんな臭いがするね。
「おかあさんはここから毛皮をだしてくるよ。
『まだ覚えなくていいよ』って言ってた。
この中のことはよくわかんないの」
「ありがとう。中をみせてもらって、売れそうな毛皮があったら家に持って帰るね。あと、昨日とっておいた皮も使えそうなら、お母さんの真似してみるね」
ーーーー
<<ナビ。日本からダウンロードした<なめし>の技術と私の視認情報を比較して、何があるのか案内して>>
<<了解>>
ツボのような穴の中で薬品に浸かっているのがなめし中。
そして、洗って、干して、の過程ごとに何段階かある。
最後に折りたたんである。此処のが売りにいけるものだね。
なんか、行程の途中からしか残ってないってことは、もう、毛皮をなめすのをやめちゃった感じではあるね。お金を稼ぐ手段として必要が無ければ、結構めんどうな作業にみえるもんね。
ああ、だからユッカちゃんにも教えてないのかもね。
ーーーー
「ユッカちゃん。これがお母さんが作ってた分で、明日街に売りに行けそうなもの」
「こっちが明日売りに行けそうな干し肉の類だよ」
「あ、準備してくれたんだ。ありがとうね。
最後に魔石の準備をしたいんだけど……。まず、魔石を見せてほしいな」
「ちっちゃいので良い?」
「うん」
「作るね。見てて」
「うん」
「エーテルさん、ちっちゃい魔石作るから協力してね」
眼をつぶって、ぎゅっと握りしめたこぶしを
眉間の辺りに当てたかと思うと、すぐに終わった。
「はい。これ!」
矢じりぐらいのサイズの黒い正八面体。黒曜石で作った矢じりをミョウバンの結晶の形にした感じ。黒曜石もミョウバンの結晶も自由研究でやった覚えがあるね。なんだか、懐かしい。
「あ、ありがとう。これって売れるの?」
「この大きさだと銀貨1枚」
「ユッカちゃんはいっぱい作れるの?」
「お母さんには怒られたから、お母さんの前ではやってないの。だけど、もっと大きなのを作れるよ。
小さいのたくさんより大きいの1個の方が高く売れるんだって。今日はエーテルさん呼んでる回数少ないから、もっとたくさん作れるよ」
と、説明してくれると、得意気に次の魔石生成が始まったよ。
「エーテルさん、ゆっくり魔石作るから協力してね」
今度はさっきより時間がかかってる。
といっても、2-3分かな?
薄っすらと、額に汗が滲んでる。
これって、浮遊の魔法つかってくれたとき以来だね。
「はい、これ。今日なら、もう何個かつくれる。でも、明日でかけるから今日はやめとくね」
<<ナビ!鑑定!>>
<<このピンポン玉サイズですと、小金貨5枚=日本円で5万円相当>>
<<ありがとう>>
「ユッカちゃん、すごいね。おねえさんも真似してみていいかな?」
「うん。がんばって。でも、初めてのときは無理しないでね」
いや、無理もするさ。
こちとら、一文無しですよ。
服も無ければ、下着もない。
知識も経験もない。
単なる居候じゃないですか。明日の自分のお小遣いぐらい稼ぎたい!
「エーテルさん、ゆっくり魔石作るから協力してね」
と、見様見真似で詠唱しつつ、頭の中で念じる。
なんか、手の中に硬いものができてきた。
段々成長してきた……。
手が熱い。頭がぼーっとしてきた。
熱中症?
手の中にピンポン玉サイズの結晶を残して、そのまま倒れた。
誤字等の修正のみ。本ストーリーへの影響はありません




