3-28.飛竜見学会(2)
飛竜隊と一緒の飛竜見学会はおしまい。
さてと・・・。
飛竜見学が終わってメルマの街に戻る道すがら、ロメオ王子との会話を繋ぎつつ、ステラとの念話を試みる。
<<ステラ、いま大丈夫?>>
<<工房で革の世話をしてます>>
<<飛竜にお土産持って、会いに行って欲しい。こっちは飛竜隊をメルマの街中に留めるように会話や食事で時間を稼ぐから>>
<<分かりました。どのようなメンバーで向かえば良いでしょうか?>>
<<ステラ、ニーニャ、ユッカちゃんの3人必要。飛竜が金属製の兜を被せられてて、その下の針で各種制御がされてるみたい。
兜の下の針がどうなってるかは、ユッカちゃんの<診断魔術>で状況が判るはず。
兜を外して、針の機能を壊す必要があるけど、元の兜の状態で戻さないといけない。そういうのが出来るのはニーニャだけ。
あと、針の抜けたあとの治療はステラかユッカちゃんの回復魔術が必要。
OK?>>
<<了解です。場所とお土産を教えてください>>
<<場所はメルマの北側の門を出て東側に歩いて2km(2000歩ぐらい)の森の中。上から見たら広場になってて、飛竜が5頭見えるはず。<光学迷彩>を忘れずにね。
お土産は私がいつも作ってるクッキーを桶一杯分。針さえ外せれば<念話>が通るはず。何をすれば仲間になってくるか確認してみて。>>
<<了解!ロメオ王子との歓談をお楽しみください>>
<<うん。がんばるよ!>>
ーーーー
メルマの街にってからは、皆で私たちが乗ってきた馬車まで戻ってお弁当を取りに行った。スレイ隊長にどこで食べるのが良いかを聞いたら、定宿の食堂が使えるとのこと。皆でそこへ移動してお弁当を広げさせてもらった。
「おお?これは初めて見る食べ物だな。ランちゃん、これは誰が作ったんだ?」
「あ、はい。モリス様にお願いしたら、ゴードン料理長が作ってくれました。私たちもちょっとだけですけど、お手伝いしました。」
「リカさん、飛竜に与えていたお菓子はどれだい?」
「そちらの別のバスケットに入っております・・・。」
「食べても良いかな?」
「ど、どうぞ・・・。」
なんか、みんな興味深々だ。
そもそも普通の貴族でもフワフワの柔らかいパンを食べられる機会が無いし、まして、耳の部分を全て捨てて、白い部分だけを取り出した挙句にスライスして、バターを塗る。今度はそのパンでローストビーフや生ハムをサラダ菜と一緒に挟み込んでるんだからね。まぁ、初体験だよね。
「ランさん、ゴードン料理長は凄腕ですな褒めていたとお伝えください。」
「今回飛竜隊の方達への特別メニューを作られたそうです。関所に戻りましたらお褒めの言葉を頂きましたこと、しっかりと伝えておきます。」
「関所で働くエストさん達は、このような物を食べる機会はあるのですか?」
「あ、ええと・・・。その・・・。昨日のようなパーティーで残り物があれば、それをこっそりと・・・。ただ、お客様に出された物が残ることは無いので滅多に食べられません。」
「そりゃそうだ。君らの給金じゃ食べられるものじゃないよ。今度訪問する機会があったら、また一緒に食べたいね。」
「マッシュ様、是非ともお願いします!」
「リカさん、このお菓子は何ていうの?」
「クッキーと言うらしいです。」
「リカさんは、作り方を知ってるの?」
「いえ、ゴードンさんにお願いして作って貰いました。砂糖とか高価な材料が使われてるらしく、私では材料すら集められません。」
「一緒に作ってみようよ。」
「え?」
「材料さえ判れば、僕が買ってあげる。ゴードン料理長に教わりながらリカさんと一緒に作りたいな。」
「ええ?え・・・。」
「嫌なのかい?」
「いえ、と、とんでもないです。私は材料も作り方も知らないので、どうしたらいいのかさっぱり・・・。」
「お、おう・・・、ロメオ、そんなにそのクッキーという菓子が美味しいのか?」
「あ、隊長。皆さま、此方をご賞味ください。」
「「「「「う、美味い!」」」」
「「「「美味しいですぅ~」」」」
皆が大絶賛だ。
エルフの子らは知ってると思うけど初めてだったのかな?ランちゃんは多分初めてだったんだろうけど・・・。
何せ妖精の長達を落とせる味だからね。
ついでに飛竜も落ちたっぽいけど。
人間も動物の一種だからとても効果的なのかもね。
これは予想外の展開だ・・・。
さて、どうしたものか・・・。
「ロメオ。飛竜隊の休暇はいつまでだったかな?」
「隊長!今晩まででございます。すなわち、今晩中に首都まで飛竜と共に戻る必要がございます!」
「うむ。そうだなぁ。この菓子を作るにはだ・・・。今から関所に皆で向かって、戻って来るとなると、首都迄戻れなくなる可能性があるな?」
「そのようになるかと。」
「ガイア!マッシュ!オルテガ!休暇の延長申請はどの様な手続きで許可が出るか覚えているか?」
「ハッ!王族への事前申請と許可後に取得可能であります!」
「今回、飛竜見学会の許可を頂いた例の方にお願いすることが可能かと。」
「現在、隣国との火急の事態はございませぬ故、申請すれば通るでしょう。」
「なるほどそうであったな。ロメオはどう思う?」
「隊長と隊員の先輩方が有為な休暇を過ごせるのであれば、もう一日延長して頂くのはとても有難いことと考えます。」
「ランさん、今日の娼館の予約状況は判っておるか?」
「ええと、2階はまだ営業用途ではなく、昨夜は飛竜隊の皆様へ特別に解放していたはずです。そのような訳で、お好みの方とご一緒できるかは判りませんが、宿泊施設としてであれば利用可能です。」
「リカさん、クッキーの材料は何か覚えているだろうか?」
「ええと・・・。砂糖が高価なもとしか。あとは、この実物に入っている干しブドウ、木の実、その他は私には判りません。」
「ふむ。メルマなら全て手に入りそうだな。
ランさん、エストさん、ミストさん、イストさん、リカさん
これは私からのお願いなのだが、この<クッキー>というものを是非とも作って持ち帰りたい。どうかご協力頂けないだろうか?」
「はい。私はスレイ様と楽しい時を過ごすようにと、レイ様より申し遣っておりますので全く問題ございません。」
「私たちはモリス様の許可がでるか、帰ってみないと判りません。」
「私もモリス様の許可次第です。といいますか、夜には関所に帰る必要があります・・・。」
「よし!では、この食事の後ショッピングをしつつ、材料の買い出しをして関所に向かおう。また、事前に王族の方への許可と関所のモリス殿への連絡をしよう。皆宜しいか?」
「「「「「「「「「ハイ」」」」」」」」」
ーーーー
その頃、ステラチームの活動は・・・。
「ゴードンさん、至急クッキーを桶一杯分作って欲しいの。」
「そ、それは凄い量だな。砂糖が足りるかな。」
「無ければある分だけで構いません。ヒカリさんからの指示として受けて頂けますでしょうか。」
「判った!メイドさん達にも手伝って貰って特急で行うから、しばらくしたら戻ってきてくれ。クッキーはパンほど時間が掛からないし、焼く窯も十分に広いからそれほど待たせないはずだ。」
「ありがとうございます。他の準備を進め次第、また様子見に戻りますわ」
「ユッカちゃん、ヒカリさんからのお願いがあるんだけど・・・。」
「ステラおねえちゃん、どうしたの?」
「飛竜に会ってみたくないかしら?」
「行く行く!」
「じゃ、一緒にニーニャさんの所について来て。」
「うん!」
「ニーニャさん、お願いがあるのですけど。」
「なんだ?いろいろ忙しいぞ。」
「ヒカリさんからのお願いで飛竜を助けたいの。」
「飛竜が見られるのか。協力するぞ!」
「今回は私たち3人だけで行動します。ヒカリさん達が飛竜から飛竜隊のメンバーを引き離している間に私たちで飛竜を助けにいきます。
ヒカリさんからの伝言では、飛竜へのお土産は<クッキー>が良いそうで、こちらは既にゴードンさんに頼みましたわ。
飛竜には針が頭に刺さる兜が被せられていて、その構造はユッカちゃんなら<診断の魔術>で分かるって。それが判ればニーニャさんに兜から針を取り除いて、もとの状態に戻せるはずだって。私とユッカちゃんでその針の孔の治療を行いますわ。
良いかしら?」
「飛竜はどこだ?」
「メルマの街から2㎞ぐらい東に行った森の中で、上空から見えるそうです」
「私は飛べないぞ?」
「ニーニャさん、おねえちゃんの代わりに私が運ぶよ。」
「分かったぞ。兜の材質について、ヒカリは何か言ってたか?」
「金属っぽいと言ってましたが、何かは聞いていませんわ。」
「そうか。ドワーフでも無い限り、金属の種類までは判別できないな。材料と工具類は私が準備するぞ。ステラはその兜が特殊なコーティングがされている場合に、それを解除して欲しいんだぞ。そして最後にそのコーティングを戻すんだぞ。」
「なるほど、そこはヒカリさんの作戦にはありませんでしたわ。よろしくお願いします。」
「ニーニャさん、荷物は私のカバンに入れてね。空飛ぶとき荷物が多いと大変なの。」
「ユッカちゃんのカバンは不思議なんだぞ。それは魔道具か?」
「わかんない。」
「伝説のカバンにヒカリさんが<重力遮断>のコーティングを施した様ですわ」
「ヒカリが一番不思議だぞ。」
「うん」
「そうですわね」
さて、これで準備することは終わったかしら?
一応、治療と回復用に長老が調合してくれる薬も持って行こうかな。クロ先生を助けたときにも使えたから、今度も効くかもしれないわ。
「長老さん、ご相談がありますの」
「なんじゃ?」
「これから飛竜に会いに行きますので、回復薬を何種類か頂けないでしょうか?」
「お主らだけで飛竜と戦うのか?ヒカリも行くのかのぅ?」
「あ、いえ。人間に針で制御されている飛竜を助けにいこうと思います。」
「メルマの飛竜隊の話なんじゃな。よかろう。この薬が役に立つかもしれんぞ。人間に直接使うと毒になるかもしれん強力な物じゃ。間違えないように注意するんじゃよ。」
「ありがとうございます!」
「それと、お主の日ごろの頑張りにワシからの感謝の気持ちをあげるのじゃ!」
「え?なんでしょう?」
「ちょっとそこに座って、目を瞑っておれ。」
長老に言われるまま座って目を瞑りましたわ。
すると、頭の中に<念話>が響きましたの。
<<ぴろろ~ん>>
<<<水の妖精の加護>の印を得ました>>
「目を開けていいのじゃ」
「長老、今のは・・・。」
「何の役に立たないかもしれぬ。じゃが、知る人が見れがお主を保証してくれるじゃろ。飛竜も族長に近い近親者なら、価値が判るかもしれぬでな。お主の身を案じてのことじゃ。」
「あ、ありがとうございます!ヒカリさんには・・・?」
「あの子が欲しがったならいつでもやるのじゃがな。興味すらなさそうじゃが。」
「ああ見えて、多分羨ましがると思いますわ。『長老クッキー無し!』とか、言いそうですわ。」
「そ、それは困るのぅ。ステラ、その印を返しておくれ。」
「今度お妃様の居ないところで付与してあげてください。」
「分かったのじゃ。くれぐれも気を付けていってくるんじゃぞ!」
「はい!」
ヒカリさんだったら、この準備で満足するかしら・・・
フウマさんが居たら相談にも乗ってくれるんでしょうし、
お妃様も相談に乗ってくれるでしょうけど、
流石に各種魔術や<念話>の話があるので今回は控えるのが無難よね。
ああ、ヒカリさんたら、いつもこんなプレッシャーに耐えて指揮してるのかしら・・・。
いつも読んでいただいている皆様には感謝しています。
今後とも頑張って続けたいとおもいます。




