12.狩人になろう(4)
保存食をつくろう。そうしよう。
てっきり、生肉を担いで街まで運ぶのかと思っていたよ。
「おねえちゃん、お昼ご飯どれくらいたべる?」
「これくらい」
両掌を少し離して、直径30cmくらいの楕円をつくってみる。
日本だと厚さ2cmで500gのステーキをイメージしてた。
いや、だって。
たくさんお肉あるわけでしょ?遠慮してた訳じゃないけど、異世界3日目でお腹いっぱい食べてもよさそうなシーンに遭遇してるもんだから、ちょっと我儘いってみてもいいかなと。
だって、
1日目:夕方 どんぐり茶2杯、ソーセージ入りのスープ
2日目:朝 硬いパンみたいな何か、目玉焼き、ソーセージ
昼 キジみたいな鳥とウサギみたいな何か
夜 1日目と同じ
3日目:朝 2日目と同じ
こっちの食事の基準がわかんないんだってば。
そもそも3食食べるのが普通なのか?この食べてる量が多いのか、少ないのか?食料の調達が困難で、これぐらいの量しかないのか。それとも、もっといっぱいあるのを子供サイズで提供されているのか?
少なくとも、今はさっき解体した、たくさんの生肉とか内臓が桶に何杯もあるわけでしょ。
「これくらい?」
でろ~ん、って2~3kgはありそうな塊をユッカちゃんがぶらさげて見せる。
いや、それ、厚さが。
厚さっていうより円柱?
スーパーマーケットやレストランじゃないんだから、厚さ2cmのステーキとか、そういう概念が無いよね。
「いや、ちょっと多いかな。その半分で十分足りるかも」
「わかった~。じゃぁ、これだけあれば夕飯の分もたりるね」
ユッカちゃんはナイフでその肉の塊を細切れにする。どこからか取り出してきた野菜の類と一緒に炒める。岩塩と思われる塩と、乾燥させてあるハーブを投入。
細切れ肉の炒め物が大皿に山盛りに完成した。
なんか、こう、でろ~んとしたステーキ肉みたいのを期待してたので、細切れになっていくお肉を残念そうにみていた。
けれど、きっとまた何か特別な理由があるんじゃないかと思って黙ってみてた。
「おねえちゃん、できた~。たべよ~」
「ありがとう。何にも手伝えなくてごめんね」
「ううん。おねえちゃんは、魔法が使えるみたいだけど、<きゅーていまじゅつし>なの?
『王様のところにいる魔法使いは何もしなくていいから、何もできなくていいの』って、
おかあさんがいってた」
「私は宮廷魔術師に憧れたことはあるけど、まだ資格がないんだよ。いつかなれたらいいと思うけど、いつになるか判らない夢だね。
さ、ご飯たべようか」
「「いただきます」」
何語をしゃべっているかわからないけど、食前の挨拶は二人で普通にハモった。一神教の神様への長い感謝の気持ちを捧げずとも、自分達の中での気持ちを示して食事を始められるのは楽だね。
そして食べてみた。
美味しい。
自分の人生のボキャブラリ不足に悩むし、テレビのリポーターの食レポが下手で馬鹿にしてたけど、これは日記に書けと言われたらどう表現したらいいんだか。
海鮮でいうところの滋味ってやつ。ウニとか蟹でも濃厚なのは単なる甘みの上に海藻の香りが乗ってくる。かといって、海藻そのものの臭みじゃないみたいな。
これのお肉版。牛肉とか豚肉がタンパク質の塊だとすると、そこに野趣豊かな、獣臭がのってくる感じ。
ただね。硬いの。干し肉でもないんだけど硬い。
筋じゃなくて、すごい弾力があって、噛み応えがあって、そして、野趣豊かな獣臭と脂からでる旨味が混ざる。これ、細切れじゃなくて、一枚を2cmの厚さで出されたら手に負えないことになっていた。
これ、お腹いっぱいたべたいけど顎が疲れる。ユッカちゃんと会話を楽しんでる振りしつつ、じっくりご飯食べる時間を稼ごう……。
「ユッカちゃん、この後はお肉とかどうするの?さっき、『腐る前に街に売りに行きたい』っていってたと思うんだけど」
「保存食にするのと、『れいぞうこ』に入れるのを分けるの。保存食は干し肉とかソーセージとかにするの。保存食は普通の街の商店に持って行けばいいけど、れいぞうこのお肉はおかあさんがレナードさんに引き取っててもらったよ。そっちは、どう売るのかよくわかんない。
あと、『れいぞうこ』も魔法と同じく秘密だから、レナードさんにも教えちゃいけないんだって」
「冷蔵庫は家の中にあるのかな?」
「うん、さっきのお肉はもう全部いれてあるよ。だから、お昼食べたら少しずつやればいいの。」
「じゃ、私がレナードさんにお肉を売れればよくって、普通のお店に売ったりせず、魔法や冷蔵庫のことが街のみんなに知られないように気をつければいい?」
「うん。おねえちゃんお願いです」
冷蔵庫にびっくり。あと、長期保存したお肉を買ってくれる特別な人もいるんだね。
この辺りは念入りに情報を集めておいた方がいいかも?
区切り文字など、文体の修正です。本筋に影響はありません。




