11.狩人になろう(3)
狩人っぽくない狩人。
なんだろう。
トモコさんは、生物学とかそっち系の専門家だったのかな
などと思うヒカリでした。
「ユッカちゃん、穴を掘る道具ってあるかな。
こう、シャベルとかスコップっていうんだけど、足で押し込んで土を掘ったりするやつね」
「これ?なににつかうの?」
「さっきのイノシシさんの臭い消すのはおわったんだけど、解体した血とか残ったのを穴掘ってうめようかなって」
「え?」
『え?』じゃないって。
私なりにがんばって良い方法考えてるんだって。
エーテルさんなのか?そうなのか?
いや、私だってちゃんと自然の力とエーテルさん使ったし。
でも、飛び散っちゃったお肉や血の欠片とか無理でしょ?
「ええと、ユッカちゃんなら、何か良いお片付けの方法があるの?私は普段は狩りとかしたことないから分からないの」
「おねえちゃん、ごめんなさい。私が解体したから、わたしが集めないとだめだよね。なんか、おかあさんに見守られていた気持ちになっちゃって……。
わたしがやるね」
ユッカちゃんがさっきの解体跡へ歩いていく。
そして、その中央辺りに直径50cmくらいの円を描く。
あれって結界とかつくるのかな。
それとも、詠唱の代わりに魔法陣みたいな記述の代替。
なんか、ドキドキだね。
「エーテルさん、さっきのイノシシさんの残りをこの○の中に集めて」
え?円だけ?魔法陣とかカッコいいのはないの?
てか、○=丸=円だよね。
集める範囲を指定してるだけで、
やってるのはエーテルさん。
そして、ポロポロ、ドロドロ、モゾモゾと風の流れに合わせる様にして、ユッカちゃんの描いた円のなかに解体の残骸があつまってくる。大体集まってきたようで、ユッカちゃんはそこで次の動作に移る。
「エーテルさん、この円の中をイノシシさんの残りを灰にして」
円の中の残骸が炭化すら飛び越えて、一気に灰化する。
今度はその灰が、私が設置していた上昇気流の風に乗って舞い上がる。
近くで様子を見守っていた私とユッカちゃんに灰がもろにぶつかる。
「ぶへっ。げほ。ごほっ」
「目、目にゴミが!」
<<雰囲気浄化のための上昇気流停止>>
<<ユッカちゃんの目の異物除去>>
<<今灰化した物のうち、二人の体内に吸い込んだ物の除去>>
立て続けの3連発。
全部作用が通る。
なんか、こうファンタジーな世界。
こんな乱暴な使い方してもエーテルの機嫌を損ねるとかないのね。
「ユッカちゃん、ごめん!さっき、ピュアで綺麗にするより、風の力で臭いを飛ばそうとして、そのままにしちゃった。ユッカちゃんは大丈夫?目にゴミとか残ってない?」
「うん。びっくりした。いつもは、こんなことにならないから……」
そういうと、ユッカちゃんがピュアの舞を始める。
私も反省して、一緒にピュアの舞をする。
ていうか、このピュアの舞ってすごく可愛いよね。
トモコさん、ひょっとして楽しんでませんか?
ここでちょっとユッカちゃんの狩りの仕方を整理してみる。
1.止める
2.冷やして解体する
3.周りを掃除する
1.はどう見ても物理的に停止させていなかった。
ってことは、神経系か脳に作用して<動作する行為>を停止させていたことになるね。
これって、脳の拘束を除去するような魔法とかで解除をしないと、金縛りの状態から解放されないよね。この状態になってしまったら、相手のなすがまま。狩人側からすれば絶対に安全。複数の生物とかエーテルや魔術を操作できる高等生物は今後考えるとして、生計を立てるための狩りとしては良くできてる。
2.の冷やして解体するのは臭いによる危険生物の呼び込み抑制。
肉の腐りやすさに伴う悪臭も低減できるから、希少性も味も良くて、高値で取引できる。あと解体自体も肉が締まっている方が、刃がスムーズに入っているようにみえたね。普通にステーキとかたべてても、筋とかぶにぶにの所って切りにくいもんね。
3.の最後の掃除
これは、後片付けをするという躾の意味や森と共生するための感謝の気持ち。余計な狂暴な生物を呼び込まない未然予防の考え方。そして可愛い舞をみることができるささやかな幸福。
1~3の技術的背景とか裏に隠された意味を考えることなく、3ステップで狩りができることを教えて、それを実行させてしまうトモコさんとユッカちゃん。トモコさんはお医者様とか看護師さんのリーダー格なのかな。あるいは、生物学者とか。
ともかく、初めての獲物に遭遇して、狩人初体験は成功に終わったってことでいいのかな。
誤字など修正しました。本筋に影響はありません。




