3-04.冒険_B2F
暗さとか雰囲気わ変わるけど特に問題ない。
この階では魔物が登場した。
スライムの強敵っぷりには、びっくりしたよ。
これまでは敵も居なくて、暗い以外罠もなく問題無かった。
さて、B1Fからボタンを押して別の道を探し直しだ。
「姉さん、ボタンを押すよ?」
「うん。もし罠だったり、床がせり上がって天井に行くと怖いからボタンを押すときは注意してね。」
「分かった。俺がボタンを押して、別の場所の落とし穴が作動するかもしれないから、皆も注意してて。」
で、ボタンを押したらキッチリと隙間なく埋まっていた仕切り壁が動いて、新しい通路が出来た。この通路も何の仕掛けも無く、一本道でくねくね曲がっていて、行き止まりに小部屋があった。そして、ここでは普通にB2Fに行く階段がある。
「姉さん、MAPの記入が終わってたら、地下2Fに降りてみたいけど。」
「うん。新しい階段からの探索だから、気を抜かずに頑張ろう。あと、さっき地下9Fまで行ったときの感じだと、弱い敵はでてくる。そして、ちょっと暗くなってると思う。」
「そっか。判った。問題なければさっきと同じように念話で呼ぶ。」
「「「ハイ」」」
一辺が100mで30マスってのは多分変わらないのかもしれない。けど、これって、1階層当たり、全部で900マスの確認が必要ってことでさ。エライ時間かかるよね。B1FのMAPだって、一本道らしい部分は埋まったけど、それ以外の場所は何も無いのか、それとも埋まって無いのかすら判らない。正に<いつまで続くの、なんだか怖いね>だね。
「姉さんのいう通り、ちょっと暗くなったね。で、敵の気配がするよ。」
「弱い敵だと、MAP作りが捗るんだけどね。敵を倒しながらだと、逃げ回ったり、移動して、元居た場所が分からなくなるかもしれないし。」
「おねえちゃん、なんか<ぶにょぶにょ>したのが、あっちこっちにいるよ。移動速度は遅いし、向こうから攻撃してくる気配も無いね。避けて通って行っても大丈夫かも。」
「<スライム>かな?」
「スライムってなに?」
「弱くて、初心者向けの魔物。」
「初心者向けの魔物はウルフとかゴブリンだよ。」
「いや、それ、私なら十分死にそうなんだけど。」
「スライムは弱いの?」
「私が知ってるサーガでは、一番弱い。」
「<ドラゴンクエン酸>のサーガ?」
「クエン酸は酸っぱいやつね。クエストだよ。」
「倒していい?」
「たぶん。」
「試練?」
「無いと思いたい。ただ、サーガによっては、服や道具を融かされたり、魔法しか効かないとかいろいろな種類がいるみたい。」
「これは?」
「判らない。」
「姉さん、倒して考えればいいよ。」
フウマがサクッと切る。普通に切れて、とても小さな魔石が落ちる。
次はユッカちゃんがやってみた。普通に切れた。やっぱり小さな魔石が落ちる。
そして、ステラがやってみた。ステラの場合は杖で殴るって言うか、刺すっていうか。普通に倒せた。まるで問題無し。
「なんだか、まるで手ごたえが無いね。」
「姉さんもやってみなよ。ニーニャが作ってくれたナイフがあるんだろ?」
「あ、そうだね。やってみよっか。」
切れない。ぶにょんって感じではじかれる。
突く、叩く、振り下ろす、切り上げる、横に薙ぐ、下からえぐる。
歯が立たない。文字通り無効化されてる。
「姉さん、ワザとやってる?」
「いや、なんだろ。判んないけど切れない。このナイフのせいかな?」
「ニーニャが作ったんだろ?ちょっと貸してみて。」
フウマがニーニャのナイフで切りつけると、サクッと倒せる。
「姉さん、このナイフは問題ないと思うよ。」
「う~ん。なんか、私が変かな?」
「ヒカリさん、一応なんですけど、敵の魔石のあるところに向けて攻撃してますよね?関係ないところを叩いてもはじかれると思いますわ。また、このぶにょぶにょが魔石までの力の伝達を邪魔するので、効率よく力を伝えられるように攻撃をするといいの。ヒカリさんは意識されてますか?無意識でできてれば構いませんが・・・。」
「え?」
「姉さん、魔物との戦い方は誰に習ったの?」
「ユッカちゃん。」
「どう習ったの?」
「魔物の体内で魔石を中心に循環してるエーテルの流れをギュッとストップさせる。こうやって魔術を使って止めれば、魔物の動きが止まるし、そのまま魔石を残して消滅したよ。」
「ナイフとか杖での戦い方は?」
「今日が初めて。」
「もし、姉さんがやってみたければ、俺が教えるけど?」
「私はやってみたい。だけど、フウマが教えてくれるとおりに、上手くできるか判らない。それでも教えてくれるかな?」
「俺は構わないよ。ステラさんとユッカちゃんはその間どうする?」
「MAP作るよ。MAP!」
「そうですね。ヒカリさんが教わっている間に、ユッカちゃんと一緒にここの階のMAPを作っておくといいかもですね。ここの階なら危険もないと思いますし。」
「なんか、みんなごめんね。」
「姉さん、たまには我儘言いなよ。そもそも我儘ですらないし。」
「お姉ちゃん、強くな~れ!」
「ヒカリさん、気にしないでください。私もちょっとMAPを書いてみたかったりしたので、自分でやってみるのが楽しみです。」
「みんな、ありがとね。」
ーーーー
「フウマ、何から始めればいいかな?」
「先ず、<体を正確に動かす>ことから始めるといいと思うんだ。」
「そのためには何をすればいいの?」
「姉さんは、無意識に目で見た物を信じて、そこの情報を頼りに体を動かす。そして、目標物とのズレを目で見た状態で補正しながら、体をそこへ到達させているんだと思う。
でも、意識して、そこに体を持っていくとか手を伸ばすとかすると、目での補正が掛からないから、上手くそこに到達できなくなるんだ。」
「どういうこと?」
「じゃ、俺がここに指を立てるよね。姉さんは歩かずとも、手を伸ばしさえすれば、この指に人差し指で触れる距離だ。目を開けていれば何の問題もない。だけど、目を瞑ったらこの指を、姉さんの人差し指で触れるかな?当然僕はこの指を動かしたり、姉さんの手を避けたりしないよ。」
目を閉じてから腕を持ち上げて人差し指を伸ばして、フウマの指を触りにいく。全然触れずに空を切る。目を開けると5cmぐらいずれてる場所に指があった。
「触れなかった。」
「自分で考えた通りに体が動かせていれば、この指を触れたはずだよね。じゃぁ、姉さんが指を立ててみて。俺がやってみるから。」
と、今度は私が指を立てる。で、フウマが目を瞑って、右手の人差し指やら、左手の小指やらで、どんどこ触りに来る。目に頼らずに意識して体を動かしてるってこれなの?
「どう、姉さんに伝えたいことが分かって貰えたかな?」
「フウマが教えてくれようとしてることは理解できた。でも、どうやったら出来るかさっぱりわからないよ。」
「訓練方法にはいろいろあるんだ。目を瞑って、両手を広げて、任意の角度で左右の腕が角度を揃えて立っているか確認するとか、こうやって、立てた指を左右交互に高速で遠くから触るのを繰り返すとか。
でも、こういうのって、頑張ってる割には成長しないし、とても時間が掛かる。あと、人によって向き、不向きがあるから、全然コツを掴めずに成長できない人も居るんだ。」
「なるほど。」
「でも、姉さんの場合は既に魔術で<身体強化>とか使えているから、そっちを応用した方が早いかもしれない。」
「どういうこと?」
「姉さんがエーテルについて教えてくれただろ?あの流れは体を動かすときにも見えているはずなんだ。姉さんの身体強化って、エーテルの流れを操作して、体の中を活性させてるだろ?そのイメージを意識して利用する。」
「イメージとしてエーテルがあるだろうことは考えた事があるけど、自分の体内のエーテルを見たことは無いよ。」
「うん。イメージって空想の物で、姉さんの体内に流れているエーテルそのものじゃない。今度は意識してその体内のエーテルの流れを見るんだよ。」
「指とかは見えるけど、首とか背中とか見えないところがいっぱいあるよね。」
「先ずは、指先だけでいいから、姉さんの魔術行使の方法でいいから、で自分の中に流れるエーテルを見てみて。」
確かに敵を捉えているとき、ぼや~~っと、エーテルの流れがあって、その集まるところを制御して止めて敵を倒していたのだから、自分の中のエーテルも、他人からみたらエーテルの流れが見れるんだろうね。私自身もフウマの教えてくれているとおり、身体強化ってことで達成できてるんだから、エーテルの流れが絶対にあるはず。
想像じゃなくて、実際に見るのか・・・。やったこと無かったよ。意識して自分の体内のエーテルの流れを見るってことね。それも指先レベルで精確に。う~ん。これは目を閉じた方が感じ易いかな。
ああ、見えるね。魔物の中みたいに、自分の中にも何かが流れている。目で見てないのに<見る>っていう表現が微妙だね。<観る>なのかもしれない。
「フウマ、見えたよ!」
「姉さん、すごいよ。やっぱり魔術側で訓練したり、教えたりした方が姉さんは成長が速そうだよ。」
「ありがとう。」
「それが見えているなら簡単だよ。その見えた指先を僕の指に近づけるように意識するだけだから。ただ、体を操作するのに魔術を使うのか、無意識で操作できるかは、その人次第。ちょっとやってみて。」
「うん。」
目を瞑って、フウマが立てている指に私の人差し指を載せる。
触った感触が綺麗に伝わってきた。
今度は左手の小指を立てて、フウマの指に近づけて触る。
これもちゃんと触れた。
あ、フウマが両手を上げて、手のひらをパーの形にこっちに向けてるハイタッチならぬミドルタッチね。よしよし、ちゃんと判るよ。
こっちも目を瞑ったまま両掌をフウマのそれに合わせる。
そして目を開く。二人の手のひらがちゃんと合わさってる。
「姉さん、どう?」
「目で見てたものをエーテルの流れに変えただけに感じる。目で見てないときの違いが良く判らないよ。」
「そこまで形が判るんだ。色とかも判るの?」
「私の中では、暗い中に青白い光が粒粒あって、線を描いて流れてる感じ。形は判るし、近づけば輪郭もしっかり見えたよ。目で見てないけど。」
「疲れたりしてない?多分、魔力を使ってその状態をみてるはずなんだよ。」
「光学迷彩とか飛行術のときと同じ感じ。魔力切れになりそうな疲れは無いね。」
「じゃぁ、まだ練習を続けても大丈夫かな?」
「うん。」
「そしたら、次は、目の見た認識とエーテルの流れの認識を合わせていくよ。目を瞑ったまま行動しなきゃいけないと、罠とかエーテルの流れていないものがあると、ダンジョンの他の作業で困るだろうからね。
先ずは、俺の手のひらに、普通にパンチしてみて。」
「こう?」
ぎゅって、握りこぶしを作って、駆けっこの勢いで縦にこぶしをフウマの手のひらに当てる。うん。ペチって音がしたね。なかなかいいんじゃない?
「・・・。」
「フウマ、どうしたの?」
「うん。人間、得手不得手ってあるから気にしないでいこう。地下二階では姉さんが苦労する敵はいなさそうだから、そのナイフで<スライム>を倒してみようか。目で見ないで、エーテルの流れをみて、そこに自分のナイフをエーテルの流れで支えて差し込めば倒せるはずなんだ。」
「フウマ、パンチの練習は?」
「気にしないで。先ずはスライム倒してみて。」
「分かった」
スライムに練習前よりもゆっくりした勢いでナイフを突き立てる。
そして、魔石に向かってそのまま押し込む。
今度は力も勢いもないのにズブズブとスライムに刃が入っていって、魔石に到達。
スライムがぶにょんって弾けるとともに、小さな魔石が落ちてきた。
「フウマ!出来たよ!フウマ先生、ありがと!」
「姉さんが喜んでくれて、俺も嬉しいよ。」
<<みんなどこ?>>
<<地下3Fの階段2つと、地下1Fへ行く階段1つ見つけました>>
<<いろいろ見つけたね>>
<<はい。索敵して、敵を倒さずにMAP作成に注力してました>>
<<ステラお姉ちゃんは、MAP書くの速いんだよ>>
<<フウマと一緒に、地下1F行くところで合流したい。どう進めばいい?>>
<<あ、はい。えっと・・・。>>
敵は弱そう。罠も無さそう。ここの階層には日記みたいなメモないかな?
一応合流したら聞いてみよう。それより、別の地下一階への階段が見つかったのは大きい。きっとそこに何らかのヒントかメモが残ってるはず。
「ステラさん、ユッカちゃんお待たせ。」
「お姉ちゃん、スライムの試練は?」
「フウマのお陰で倒せるようになったよ。パンチはダメだけど。」
「次はパンチの試練?」
「あんまり試練は無いといいな。」
「姉さん、なんで先に上に戻るの?」
「多分、何かがありそうだから。」
「じゃ、俺行ってくるよ」
フウマが上に行く梯子で地下一階へ先に侵入する。男の子は頼りになるね。
<<姉さん!おかしい!真っ暗なんだ。>>
<<明るくしてみて。危険がなければ、天井にメモが残ってないか確認して?>>
<<危険は無さそう。天井に文字が残ってる。みんなも上がってきて確認して>>
みなでゾロゾロと梯子を順番に上がる。最初に入った地下一階はあれだけ明るかったのに、ここは真っ暗なんだね。地下九階と同じく真っ暗闇だ。フウマの言う通り、天井にメッセージがある。
効き目があると
有利に進むよね
がんばれどんな
化け物がきても
浄化して進もう
「ステラ、なんか思い当たることある?」
「ええと・・・。浄化して倒せる魔物ってゾンビとかの一部で、それも低級の魔物だけと思います。
上級になると、浄化にも耐性を備えてきますので、その耐性自体を剥ぐには別の高位の魔術や物理ダメージで隙を作らないといけないですわ。
私たち自身が状態異常になったときには、ある種の浄化が効果を示すと思いますわ。」
「フウマとユッカちゃんも同じ感じでいいかな?」
「浄化が全部に効くってのは無いな。」
「エーテルの流れを止める魔法と、浄化の魔法を間違えて覚えたのかも?」
「みんなありがとうね。じゃ、このメモも記録して、地下三階に進もう。」
「「「ハイ」」」
いつも読んでいただいている皆様には感謝しています。
今後とも頑張って続けたいとおもいます。
今のところ、毎日少しずつ22時更新予定。
手間な方は週末にまとめ読みして頂ければ幸いです。




