燃えるドラゴンと不幸 3
誤字・脱字あればすみません。
(はぁ、ここまで来れば大丈夫か)
ファルアの森だったと思われるところまで逃げてきた俺は膝に手をついて息を整えていた。この森にある木は全て途中で消されたように上半分だけが焼き焦げていて、動物たちは一匹も見当たらない。
(こんな風になってたのか、悪いことをしたな)
少し罪悪感を覚えつつも、近くにあった大きな木の根元に身を隠した。フェイルスたちはファルアの森に入った後から見かけていない。
(もしかしたら木が邪魔でうまく動けないのかもな)
とはいえ、葉っぱは全て燃えてしまっているので上からは丸見え、フェイルスたちが飛んできたらすぐに見つかってしまうことは目に見えている。
(もう少ししたらまた移動だな。とりあえず、違う街か森とかがあればいいんだが)
などと今度のプランを考えていた時、俺の前に不意に一匹の白い猫がふらりと通りかかる。それは凄く蠱惑的で見るものを呑み込むような美しい猫だった。俺は思わず息をするのも忘れるくらいに見入っていた。
(本当に猫は可愛いな。異世界に来て、初めて良かったと思えるぜ)
友達のいなかった俺にとって動物は唯一の友達で、救いだった。中でも猫は自由で媚びないところに惹かれ、一番好きな動物だ。
(人と一緒で、動物と関わるのもあまり得意じゃないから猫が良いってのもあるけど、それを無しにしても俺は猫派だな)
そんな聞かれてもないのに犬派か猫派か理論を一人で繰り広げていた俺の前で急に白い猫が倒れた。
「どうした!? 大丈夫か?」
あまりにも急に倒れたので、慌てて近寄ると猫の右後ろ足から血が流れ出ていた。それもかなりの出血で、猫は痛そうに小さくないた。
(早く手当てをしないと!)
俺はすぐさま持っている大きい方のバッグから、救急セットを取り出した。
(早く止血させないと!)
救急セットの中からガーゼを取り出し、血が出ているところを押さえる。ちょうどその時、フェイルス達に見つかってしまったようで、上空では大気を震わすようなフェイルス達の咆哮が聞こえる。
(ちっ、タイミング悪いな。とりあえずこいつを助けてやらないと……やっぱり街に戻るしかないのか)
俺はそう考えつつも、出血が止まらない猫の足にガーゼの上から包帯を巻き、テープでしっかりと止めた。
(あとは病院で診てもらうべきなんだが、動物病院みたいなのがあるだろうか……っ!?)
刹那、俺の背中で何かが爆ぜた。そのあまりの衝撃に俺は声にならない悲鳴をあげた。
(あ、熱い……直撃したのか……)
背中を見れば制服は焦げて剥がれ、皮膚までもが真っ黒に染まっている。多分フェイルス達が炎を放って来たのだろう。凄い疼痛に思わず目の前が霞む。
(うぐっ、凄い痛いけどとりあえずこいつを助けてやらないと……)
俺は全身の力を振り絞り、猫を抱き抱えて可能な限り早くにその場から離れた。直後、二発目が放たれ、俺の後ろの方の地面に当たった。そのまま俺はフェイルス達を見ることもなく街の方へ一直線に走り出す。
(あの攻撃をもう一度受けたら死ぬだろうな。その前にこいつをどうにかしてやりたいんだが)
フェイルス達は怒りに身を任せて、攻撃の手を止めずに炎を放っている。その全てが近くの木にあたり次々に燃え出す。
(危ねえ、あいつら自分の森なのに御構い無しかよ)
それでも、前に進むしかない俺はただひたすら走る。しかし、街に入る直前俺は足を止めてしまった。ある懸念が俺をこの先に行かせまいと通せん坊しているのだ。
(このまま街に入れば、ダハテコシティは、エリナはどうなる)
自分の森すら焼き尽くすようなドラゴン達が街に入ればどうなるのか、それは子供にでも分かる簡単なことで、俺は近くの木の根元に座り込んだ。俺の手の中では美しい猫が眠っている。
「ここは街から近いから、ここにいればきっと誰かが助けてくれるよ」
猫はまるで返事をするかのように小さくないた。俺はそっと頭を撫でてやり、自分の座っていた場所になるべく隠すように置いて、来た道を全力で戻った。フェイルス達は真上にいたようで、すぐに見つかり炎を放たれる。それをなんとか躱し、出来るだけ遠くへと走り続けた。
*
気づけば俺はあの白い猫と出会ったところの近くまで戻っていた。向こうでは燃えている木が見える。フェイルス達はうまく撒いたようで、遠くで微かに爆発音のようなものが聞こえるものの見つかったわけではないようだ。俺はそのことに一安心しつつ、近くにあった木の前に座り込んだ。
(もう、動けない……な)
背中の火傷の痛みと森を全力往復したこととで、俺の体はボロボロだった。
(まだ異世界に来て一日も経ってないのに、こんなに不幸が続くとは思わなかったな)
だけど、それをただの不幸だったで片付けることは俺には出来なかった。森を焼き、バタフライナイフを奪い取り、ドラゴンを怒らせた。考えてみれば自分の方がよっぽど周りを不幸にさせているのである。そして今回の不幸な原因も自分にあるのだ。
(結局、自業自得ってことか……まあ、後悔はしてないけど)
自分に自信が無かったり、不確かな未来に何となく不安を抱くことはあっても後悔をしないことだけが俺の誇りといっても過言ではない。
(だけど強いて欲を言うならーー)
「も、う……少し、長く、い、生きた、かった……な」
もう声すらうまく出せない俺は、目の前のフェイルスに自らを嘲るような笑みを浮かべた。
「死ぬ前に言いたいことはそれだけか」
フェイルスはそう言った。しかし俺はその問いにすら答えることが出来ず、次の瞬間フェイルスの鋭い爪が心臓に深々と突き刺さった。自分の生命が口から溢れ出て、徐々に孤独が膨らむのを感じながら、霞んでいく視界。
(もうこんな思いは御免だな)
俺はそんなことを思いながら二度目の死を味わった。
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