燃えるドラゴンと不幸 1
不定期投稿です。
誤字・脱字があればすみません。
ドラゴン。
全身が硬い鱗などに覆われ鋭い爪と牙を持ち、口から毒や炎を出すとされる架空の生き物。ゲームやアニメ、漫画では当然見かける機会が多く能力や色も多岐にわたる。翼を持っているものが多く空を飛ぶことも出来、強力あるいは超自然的な力をもつ幻獣の王というイメージは大抵の人が持っていることだろう。
そんなドラゴンが俺の目の前に存在している。
(ドラゴンってぶっちゃけデカイ蜥蜴や蛇みたいなものだと思ってたけど、本物って……かっこいいな)
俺の視線の先にいるドラゴンは全身が赤い鱗に覆われていて、既に日が沈みかけてた空を昼のように照らすくらい眩しく炎を纏っていた。腹には大きな傷跡が三つ斜めについており、目は真っ赤に染まっている。
(それにしてもどうしたのだろうか? 少し様子が変だな)
そのドラゴンはさっきから上空に向かい口から炎を上げ、それから雄叫びを上げるという一連の作業を何回も繰り返していた。
さすが幻獣の王というところか、雄叫びを上げるたびにエリナのギルドだった瓦礫を粉砕し、周囲の店も次々に壊していく。住人たちはとっくに逃げたらしくドラゴンの近くには俺とエリナの二人しかいない。
「こ、このド、ドラゴンど、どうしたんでしょうか?」
「え、私に聞かれても分かりませんよ」
「そ、そうですよね……それにしてもド、ドラゴンってふ、普通にいるものなんですか?」
「え? 普通にいる訳ないじゃないですか。このドラゴンは多分ファルアの森に祀られているファイアドレイクのフェイルス様でしょう。普段は森の中の沼地にいるらしいのですが実際に見るのはこれが初めてです」
そう話すエリナの目は恐怖半分、好奇心半分といった感じだった。
(やはりドラゴンは珍しいのか)
そう言われてみれば確かに伝説としてよく描かれている気がする。中でも「火の竜」を意味する名前のファイアドレイクは「火の精霊」と同一視されることがあり、炎を使うらしい。
(それにしても異世界生活始まってすぐに出会えたってことは、二つの俺の人生合わせても類を見ないほどの幸せなんじゃないか……!?)
こちらも珍しく興奮していた俺だった。しかし無情にもそんな幸せは長く続かなかった。
「そんな嘘でしょ……!? 」
遠方から二匹のドラゴンがこちらに飛んでくるのが見える。どちらも目の前のフェイルスと同じく、赤い鱗に炎を纏っている。片方は片目に傷があり、もう片方のドラゴンは両手に傷があった。傷をつけるのが竜の中では流行らしい。
(なんでドラゴンがまた来るんだ!?)
二匹のドラゴンは何回か俺たちの真上を旋回した後、フェイルスの横に着地した。そしていきなり炎を口から吐き出した。俺たちに向かって。
「きゃっ!!」
間一髪、俺はエリナを抱き寄せ横に跳んで避けることが出来た。制服の後ろが少し焼けたのが分かる。
「くっ! いきなり何なんだ!?」
それでもドラゴンたちは炎を吐くのをやめない。目に付くもの手当たり次第に破壊していく。俺たちはひとまず近くにあった大きな瓦礫の後ろに隠れた。
「大丈夫か?」
「はい、なんとか」
「そうか、良かった。それにしてもドラゴンって普段からあんなに凶暴な性格なのか?」
「そんなはずはないと思うのですが……だってもし、普段から凶暴な性格ならこの街はとっくの昔に滅んでいるだろうし……」
「確かに、それもそうだな。なら、どうして暴れているんだろう? エリナは分かるか?」
聞かれたエリナはうーんと口元に手を当て考える。
「……例えば、何かに怒っている。とかですかね?」
「なるほど。だけど仮に怒っているとして何に怒っているんだろうか?」
「そこまでは流石に分からないですね」
「だよな。なら直接聞いてみるか、ドラゴンに。話せるか分からないけど、何とかしてみる」
「直接!? 危ないから辞めた方が良いーー」
「大丈夫だ。俺、割と運動神経いい方だから攻撃だって避けれるし、それに無理そうだったらすぐ戻ってくるから。エリナはここで待ってて。それじゃあ、ちょっと行ってくる」
「え、待っーー」
俺はエリナを瓦礫の陰に隠すとドラゴンの元に一直線で向かった。途中、ドラゴンたちが炎を放ってきたが持ち前の運動能力で全て回避し、ようやく三体のドラゴンの前にたどり着いた。
フェイルスを中心に左右にあとから来た二体が立っていて、フェイルスはずっと俺がここにたどり着くまでの間動かなかった。
「いやー、暑い中わざわざ御足労頂き誠に感謝致します。して、本日はどのようなご用件でしょうか」
俺はどっかの旅館の支配人のように丁寧にドラゴンに話しかけた。
「ワシの森が無いのじゃが、お主たちのせいではあるまいか」
人の言葉を話せるというか脳内に直接語りかけてくるような喋りでフェイルスの声が聞こえる。あとフェイルス様はかなり歳をとっているらしい。
「森……ですか? それってフォリトの森でしょうか?」
「ファルアの森なんじゃが……まぁ、よい。今日ワシが眠りから覚めた時のことなんじゃが、森が山火事にでもあったかのように荒れ果てていたのじゃ。こんなことが出来るのは人間しかいないと思うて近くにあるこの街に来たのじゃが心当たりは無いかね?」
「さ、作用で御座いますか。わ、私もこの街の住人じゃ無いもので、別の者を呼んできますので少々お待ちください」
「うむ」
俺は足早にエリナのところまで戻った。後ろから炎を浴びせられるかとも思ったがそれよりも優先しなきゃいけないことがあったため、気にする余裕がなかった。
「ーーエリナ、逃げよう」
俺はエリナの耳元で出来る限りの甘い声でそう囁いた。
「え、話はどうだったの?」
全くの完全スルーである。
「あいつらは人じゃない。言葉では分かり合えないのさ。だからーー」
「待って。じゃあ私が話してみる」
「え、何で?」
「だって私の街をこんなにしたのよ。それにギルドも。せめて理由を聞かなきゃ許せないわ」
「いや、でも危ないし……辞めた方が良いんじゃない?」
「何でそんなこと言うの? さっきまで何とかしてみるって言ってたじゃない」
エリナに詰め寄られた俺は思わずそっぽを向いてしまう。
「い、いやー、それはそうなんだけど……世の中には理解し合えないことだってあると思うんだよな。だから今回は諦め……ってあれ、いない」
振り向くとエリナはいなくなっていた。
「あれ、何処いったんーー」
視線の先。それはさっきまで俺がいた場所である。つまりーー
エリナは三体のドラゴンの前にいた。
読んでくれてありがとうございます