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神に愛されている俺が一番不幸な訳 〜愛を知らない最強ボッチの伝説〜  作者: 鷹宮 真
異世界生活の始まり ~大いなる歴史~
15/19

森で迷子とは不幸

「はぁ疲れた。何処なんだ、ここは……?」


 リリィとの生活を始めて二日目にして、リリィから聞いた近くの町、ホートクシティに向かって歩き始めた俺たちだったのだが、現在その道中の森、ウォルターの森にて絶賛迷子中である。


「私も分からないのですぅ」

「まあ、仕方ないよな」


 なにせ、辺り一面、木ばっかりで、ホートクシティの場所も目印になりそうなものも一切ないのだ。


「どうしてこんなことに……」




 ーー遡ること七時間前。


 俺たちは早々に次の町に移動することを考えていた。そこで、リリィから借りた地図でホートクシティが一番近いことが分かり、出発しようとしていたのだが。


「全く分からないのか?」


 ホートクシティに行くためには、まずウォルターの森というところを通らなきゃいけないのだが、リリィはどう行けばいいか分からないらしい。


「すみませんっ、実際にウォルターの森に行ったことがなくて…」


 ダハテコシティがあったと思われるここの南側は海に面しており、東西北を三つの森が囲む形となっている。それで、全焼した東のファルアの森を抜いた西と北のどちらかがウォルターの森なのだが、全く見分けがつかないのである。


「この地図を見ても、どうにも分からなくて」


 リリィから借りた地図にはウォルターの森が、ダハテコシティの門の先にあると、記されていた。


「確かに……」


 しかし、そのダハテコシティが無くなった今、門があった場所も設置されていた方位を確認する方法も持ち合わせていないのである。


(せめて、ウォルターの森がある方角が分かればな)


 それから、考えること一時間。俺たちは何となくで北にあった森に入ってみたのだが、進んでも進んでも、木ばっかりで挙げ句の果てに来た道も分からなくなり、六時間も途方に暮れ、今に至る。


「もうすぐ、暗くなるな。とりあえず、今日はここに野宿にするか」

「はいなのですぅ!」


 テントを張り、近くから拾ってきた木の枝に火を付け暖をとる。


「ここはウォルターの森であってるのだろうか……」

「えーと、ウォルターの森にはシャセミンの滝っていうところがあるので、それを探してみるのはどうですかっ?」

「なるほど。じゃあ明日からはシャセミンの滝を探してみるか」

「はいなのですぅ!」


 俺たちは明日に備えて、早めに寝ることにした。狭いテントに少女と二人、毛布を掛け合うというのは未だ慣れず、しばらくは熟睡出来そうにないなと思った。



 隣にいる美少女の寝息で、一向に寝むれず、気がついたら朝日が出てた、なんて、俺の人生でこれから何度あるだろうか。まあ、既に何回も死んでしまっている訳なのだが。

 まだ、ぐっすりと眠っているリリィを起こさないように、こっそりと毛布を出た俺は、前世の時の日課だった朝のトレーニングを始めることにした。


(といっても、あんまり遠くまで行くのは、帰って来れなさそうだし……)


 そんなこんなで、テントから5メートルくらい離れたところをスタート地点にして、5メートル間隔に並んでる木で、大体20本目くらいのところを折り返し地点に定めた。


(【疾風】(アクセル)はまだ使えないし、とりあえず少しでも速く動けるようにしなきゃな)


 目標を50往復と定め、木をジグザグに走っていく。


(体はちょっと鈍っているけど、まぁまぁ動けるな)


 体感時間で30分くらいで50往復終えた俺は、次に手頃な大きい木を見つけると、突き1000回、蹴り1000回、その他思いつく限り、諸々の打撃を1000回ずつ繰り返していった。


(よし、次は確か武器を使った練習だったっけ)


 あらゆる角度から打撃を加えすぎて、若干細くなった木から一本枝を拝借し、今度は素振りをする。


(次はーー)







 それからも色々なトレーニングをして、終わったタイミングでちょうどリリィが起きてきた。


「おはようですぅ」

「おはよう」


 近くにちょうど良く川が流れてあった。とかは当然ないので、飲む用に持っている水を新品のタオルに染み込ませ、それと乾いた新品のタオルをリリィに渡す。


「ほら、この濡れたタオルで顔拭いてから、乾いたので顔拭いて」

「はいなのですぅ」


 俺も同じように顔を拭いて、拭き終わったタオルを近くの枝にかけて乾かした。

 ちなみに先程までのトレーニングは前世で日常的にこなしていたので、汗は一切かかなかった。


「何をしていたのですかっ?」

「いや、特に。早く起きちゃったから、少し体動かしてただけ」

「そうなんですね。空気が震える音が凄くしてたので、何事かと思いましたぁ」

「そうだったのか。ごめん。次からは静かにやるよ」


 リリィは風属性魔法専門の魔法使いということを思い出し、少しうるさかったかなと反省する。


(空気の流れに敏感なんだな)


 次からはもっと離れたところでやろうと考えていたら、リリィが申し訳なさそうな顔をしていた。


「いえいえ、気にしないで下さい。私、少し耳が良くて……」


 どうやら、自分がクレーマーに思われてないか心配しているようだ。


(というか風属性魔法使いとかじゃなくて、普通に猫耳のおかげだったのか)


 ただの可愛いアピールだと思ってた猫耳が、ちゃんと機能しているらしい。


「耳良いんだね」

「え……あ、はいなのですぅ」

「うん。あ、えーと」


 まだ、少ししかリリィと過ごしていないのだが、一つ分かったことがある。


(やばッ、会話が続かない)


 子供ということもあって緊張せずに喋れているとは思うのだが、何如せん、話す機会が少なかったので、会話のキャッチボールが出来ないのである。


「……そろそろ朝ごはん食べる?」

「はいなのですぅ」


 とりあえず、問題を先送りにして、朝食をとった。



「リリィ、耳良いんだったら近くに水の流れる音とか聞こえたりしないかな?」

「あ、はいなのですぅ。ちょっと待ってて下さい」


 リリィは目を閉じて、耳をピクピクと動かしながら聞き耳を立てた。しばらくの間、無言の時間が流れる。すると、急にリリィは肩を震わせて、勢いよく振り向いた。


「どうしたんだ?」

「……来るのですぅ」

「何が?」

「えーと、多分この音は……いや声は……」


(声?)


 俺の頭に嫌な予感が浮かぶ。それに呼応したかのように、俺の背後で地面を踏みしめる音がした。


(何かいる。しかも複数……)


 ゆっくりと振り向くと、そこには前世で読んでいた異世界系作品でよく見かけるあいつらがいた。


(ご、ゴブリンだ……怖っ)


 身長が俺の半分くらいしかなく、所々壊れた鎧を身につけ、棍棒や槍のようなものを持っていて、肌が緑色の小人。そう、ゴブリン。

 顔はワシ鼻で耳が長く、ギラギラとした目つきのそいつらが、その醜い顔で俺たちを舐めまわすかのように、凝視していたのだ。


「怖いのですぅ」


 リリィは俺の後ろに隠れ、左腕をガッチリと掴んだ。どうやら、俺がなんとかしなきゃいけないようだ。


(やれやれ、これは骨が折れそうだ……リリィによって)


 尚も悲鳴を上げ続けている左腕を、そのままリリィ預け、俺は懐からバタフライナイフを取り出した。


(バタフライナイフ、懐にあってよかったぜ)


 恒例のようにカッコつけながら刃を出す。その時のカチャカチャという音に、ゴブリン達は少し嫌な顔をした。

 その嫌な顔をしたまま、徐々に間隔を狭めてくる20匹前後のゴブリン達。

 いつのまにか、俺たちは囲まれて、逃げ道を断たれてしまった。


「……リリィの魔法とかって、使えないの?」

「私、他人に向けて魔法を放つのが苦手で……すみませんっ」

「そっか、分かった。じゃあ、隠れてて」


(アレ? 俺に魔法打ってなかったっけ……?)


 リリィを近くに抱き寄せ、ナイフの先を目の前のゴブリンに向ける。

 刹那、背後のゴブリンが棍棒を振り下ろしてきた。それを右腕で受け止める。


(痛えっ、ナイフに当たらなかった)


 後ろにいるゴブリンを上段後ろ回し蹴りで蹴り飛ばす。ゴブリンはそのまま、木にあたり目を丸くした。


(1匹自体はそんなに強くないな)


 ゴブリン達は目を大きくして驚いているが、リーダーのような雰囲気のゴブリンが号令のようなものをして、それを合図に横にいた槍を持った奴らが一斉に、突きを繰り出してきた。


(ひとまず、リリィを逃さなくては……)


 右からきた槍をナイフでいなし、その流れで半回転しながら左からきた槍を蹴り飛ばす。そして、そのまま左から来たゴブリンの顔に蹴りを打ち込み、その後ろから来た槍持ちゴブリンにぶつける。その他何本かは体を逸らし交わした。

 しかし、それでも何本かは避けきれず、俺の腕や腹に突き刺さり、行動を止めた。


(痛ッ! ……ふぅ、急所は外したから、まだ死なないだろ)


「だ、大丈夫ですかっ?」

「大丈夫ではないかな……リリィ、悪いんだけど、ちょっと隠れてて貰えるかな」

「は、はいなのですぅ!」


 リリィを槍の刺さっていない方の腕で抱き抱え、槍を失ったゴブリンの方に突っ込んでいく。

 武器を持たず逃げ出そうとするゴブリン。その背中をバタフライナイフで切りつける。吹き上がる血飛沫。真っ赤に染まるナイフ。リリィは目をそっと両手で隠していた。

 左にいた3匹のゴブリンを片付けた俺は、一先ず近くの木にリリィを下ろした。


「ここで待ってて」

「え、翠さんはどうするのですぅ?」


 リリィが心配そうに聞いてくる。その目には心細いというような感情が見てとれた。


「なんか、1匹自体はそんなに強くないから、倒してくるよ」

「だ、大丈夫なのですかっ?」

「分からない。けど、テントとか壊されたら嫌だから」

「ああ、なるほどですぅ」


 目の前にいるゴブリンは残り約15匹。その奥にテントが見える。どうやら壊されてはいないらしい。


(バタフライナイフも、血で切れ味が悪くなっているし、どうしようか)


 そこでふと、自分の腕を見る。アドレナリンのおかげか、何とか痛みに耐えれてる俺の腕には2本の槍が深々と突き刺さっていた。どうやら骨を貫通したらしい。


(……こういうの見ちゃうと痛みを思い出しちゃうよな)


 猛烈な痛みに頭が割れそうになった。苦痛に顔が引きつる。思考の大半が突き刺さる槍に取られ、神経が集中する。その結果、より痛みを感じるという負の連鎖。思わず、口から苦悶の呻き声が漏れ、呼吸も荒くなる。


(ああ、ヤバイっ……痛いッ、痛いッ、痛いッ……はぁ、早く治療しなきゃ……)


 俺は痛みに何とか耐え、ゴブリンと対峙する。腹にも槍が突き刺さっているせいか、口から血が逆流して流れ出た。


(リリィがいるんだ……まだ、死ぬ訳にはいかない)


 ゆっくりとしかし、確実にゴブリンに近づいていく。そして、一番手前にいたゴブリンが棍棒を持って走って来る。刹那、目の前にいたゴブリン達が一斉に姿を消した。


「えっ!?」


 後ろからも疑問の声が漏れる。


(ど、どういうことだ……何故、いや何処にゴブリン達は行ったんだ?)


 そこまで考えたところで、頭から血の気が引いて、俺はその場に倒れこんだ。


(まだ、死ねない。死ぬ訳にはいかないんだ……)


 段々と瞼が重くなり、視界が暗くなっていく。少し離れたところでリリィが駆け寄ってくるのが見えた。


(リリィ……)


 ーーそこで俺は気を失った。








誤字・脱字あればすみません

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