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神に愛されている俺が一番不幸な訳 〜愛を知らない最強ボッチの伝説〜  作者: 鷹宮 真
異世界生活の始まり ~大いなる歴史~
12/19

蘇りとは不幸なり

誤字脱字があればすみません

目が覚めると俺は、あの真っ白い空間にいた。死ぬ直前失明した左目は開かないようで、右目で周囲を見渡すが当然何もない。ただ目の前にはニコニコとしているフェーラがいる。


「お待ちしておりました」

(待つな、待つな。はあ、ここに来るのも3回目か。長生き出来なくて済まないな)

「いいえ、全然です。むしろ会えて嬉しいです!」

(そうか、ところでこの目って治したり出来るか?)


俺は自分の左目を指差し言う。フェーラはあららと言い、俺に思いきり近づいてくる。


(え? えぇっと、どうして近づいてくるんですか?)

「ちょっと目を見させて下さい」

(あー、そういうことね。分かった)


フェーラは俺の胸にピタッとくっつき、俺の方が背が高いせいか見上げている。このままでは見にくいのではないか、と思い下を向いたら、ちょうど俺を見つめるフェーラの顔が近くにあった。


(近すぎませんかね?)


しかし、フェーラは答えずジッと俺の目を見た。いや、正確に言うと俺の失明した目を右手で思いきり広げて、俺の目の奥を覗き込んでいたのだ。左目の周りの神経が切れたのか、触られたことに気づくのが遅れた、というわけだ。


(もしもし、近すぎませんかね!?)


その距離5cmあるかないか、フェーラが少し動くたびに鼻先がくっついたり離れたりしている。


フェーラは凄く美人だ。銀髪の長い髪の毛に翠玉のように輝く緑色の瞳、肌は透き通っていて、しかも至近距離にいて気づいたことだが、凄くいい匂いがする。今まで嗅いだことのない匂いだから言い表すのが難しいが、とにかくいい匂いだった。俺の鼓動は早くなる一方だ。


(あの! 聞いてますか!?)

「あ、すみません! 夢中になってました」


そこでフェーラは自分と俺の距離に赤面し、すぐさま飛び退いた。


「すみません! 本当にすみません!」

(いや、まあ。もういいよ。それより治せそうか?)

「えっ、あぅ、それが……」


フェーラは言葉を濁す。それを俺は躊躇わずに言葉に出した。


(治らなそうなのか?)

「はい、治すのは難しいですね。そもそもこの空間は全てのものを自動的に元あるべき形に復元するはずですから、この空間に来て治らないのは異常事態で私でも治せないかと」


つまり、失明した人は目が見えるようになり、心を失ったものは感情を持つ的なことだろう。それで、俺は異常で治すのが難しい。


(そうか。なら、この左目ではもう何も見えないのか……)

「いえ、治すのは難しいですが、一つだけ、まだ方法があります」

(本当か! なら、それをやってくれ!)


俺はすぐさま飛びついた。期待に心を躍らせているとフェーラはおもむろに自分の左目に手をのばす。嫌な予感がする。


(えぇっと、ちなみに方法を聞いても?)

「私の左目をあなたに移植します」


そう言い、自分の左目をもぎ取るフェーラ。といっても一瞬のことですぐさま左目が再生した。


(この空間では何でも再生するんだったな)


思い出して納得する。それから当然の疑問を口にする。


(でも、それなら、その片目からでも復元してフェーラが二人になるんじゃないのか?)

「はい、そのままだったらもう一人の私が出来ちゃいますね。だから、こうして魔法で別空間を作って入れるんです」


見れば、フェーラの左目が緑がかったジャンボン玉のような球体に入っていた。いい感じにボヤけてて左目がはっきりとは見えなくなっていて安心する。


(へぇー、そういうもんなのか)


そして、近づいてくるフェーラを見て思い出す。


(そういえば、移植って……痛くない?)

「一瞬なので大丈夫ですよ」

(つまり一瞬痛いってことだよな)


フェーラは黙って近づいてくる。


(いやいや、せめて麻酔とかかけましょう? 痛いのは嫌なんだけど……)


思わず後ずさる俺。


(ね? ちょっとタイム! )


ついにフェーラに捕まった。そしてフェーラは手にしたそれを俺の左目に持っていきーー


「や、うあっ、いやぁぁぁぁぁッ!!」


俺に左目が出来た。





(痛かったんだが……)

「まあ、いいじゃないですか。無事左目が出来ましたよ」

(出来ましたよ……って、もう見れるのか?)

「はい、開けて見てください」


俺はゆっくり左目の瞼を開いた。急に光が入ってきたからか、目に痛みがはしる。しかし徐々に慣れていき二つの視界が重なった。


「良いみたいですね。鏡で見てみますか?」

(そんなものもここにはあるのか?)

「ある、というか生み出せる。ですかね」

(へぇー、頼むわ)


するとフェーラは指を鳴らした。こないだの時計同様に鏡が現れる。


(そういえば、そうだったな)

「え? 何がですか?)

(いいや、何でもない)


魔法というのが存在することを思い出し、だからこの空間には物がないのだと納得した。必要になったら作り出せるのだから。


(蘇生魔法とかもあるのかな。そうすればーー)


そこで俺の脳に靄がかかっていることに気づく。何か大切なことが抜けているような、そしてそれに異常を感じていなかった自分の不自然さに違和感を感じ始める。


(何か忘れているのか?)

「どうかなさいましたか?」


しかしフェーラに話しかけられたことにより考えを停止する。


(あれ? 今、何を考えていたっけ? まあ、何でもないだろう。気のせいだ。それより鏡を見せてくれ)


フェーラから鏡受け取り、覗き込む。そこには黒髪で、前髪が目にかかるほど長い、そこそこカッコいい顔が映る。もちろん俺だ。しかし、一つだけいつもの顔と違う。俺は自分の目を見て驚いたのだ。


(左目が赤い!?)


俺の目はもちろん、ごく普通の黒色だったはず。右目だって黒色のままである。しかし、フェーラの目を移植した左目は、黒でもフェーラの瞳と同じ緑でもなく、人の血のようにドス黒い赤、暗赤色だったのだ。


(なあ、何で俺の目が赤になったんだ?)

「うーん、それは分かりませんが見えるのなら問題無いではありませんか?」


少し考えてから、どうでもいいことだとばかりにそんなことを言ってくる。この女神は少し変わっていると俺の中でフェーラの見る目が変わった。


(まあ、それもそうか。ありがとうな)


そして、俺自身も瞳の色にこだわりなんてものは無く、むしろオッドアイとかカッコいいじゃんと思い、この話は終わった。


「では、そろそろ時間なので行く準備をして下さい」

(ああ、次は長生きするからな)


フェーラは俺の額に手を当て、白い光を放つ。そして、そのまま光に全身を包まれた体は軽くなりーー


(行ってきます)

「いってらっしゃい」


一瞬の暗転のあと、気がつくと俺は何も無い荒野に立ち尽くしていた。





そして、全てを思い出す。エリナさんを、金髪を、フェイルスに殺されたことを。





ーー俺の頬を一粒の涙が伝った。

読んでくれてありがとうございます

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