裁きの時
第1章 血塗られた血族
前説
都市伝説のような生き物が存在する世界で
悪事を働く者に裁きを下す者がいる。
北欧ではエクソシスト、極東の国では陰陽師。
これは極東の女陰陽師の話である。
本編
「丑三つ時、人ならざる者現る」か、
屋根に佇む1人の女が呟く。
「ん?」
ポケットの携帯が鳴る。
「もしもし」
電話口から男の声が返ってくる。
「澪、何をしている?黄昏ている暇があるのか?
そこから2キロ先に…」
その先の言葉を遮るように
「あんたに言われなくたって分かってる」
「それなら早k…切りやがった」
少し息を吐き、2回ジャンプすると
屋根と屋根を飛び越え駆けて行く。
陰陽師の資格を持つ東雲寺澪は夜更けになると
現れ悪さをする妖怪や物の怪の類を倒していく。
それが彼女の仕事だ。
澪は一瞬、肌がピリッとしたのを感じ取り
そこで立ち止まった。
「いる」
人の形をした妖怪が民家の窓ガラスを
砕いている。
澪は屋根から降り一気に近づいて
妖怪の肩に触れた場所に刻印がされる。
「ごめんなさい。だけど、あなたはここにいるべきではない」
澪の存在に気付いた妖怪が襲いかかる。
「残滅せよ。死告の呪」
その言葉を言い終わった瞬間、妖怪の体が爆散した。
再び携帯が鳴る。
「反応の消滅を確認した。仕事は終わりだ。帰って来い」
「分かった」
帰路を歩く途中、ふと思う。
強い力で封じ込め悪を祓う。
澪は自分の方が人ならざる者なのではないかと
感じていた。
陰陽師になって2年が過ぎた。
だが、本当にこれで良いのか
人ならざる者の魂を救う事は出来ないのかと
常に考えている。
誰かが答えを示してくれるまで
この疑念は晴れないかもしれない。
あくる日
大きな会議室で話し合いが行われていた。
「吸血鬼…ですか?」
神山桂が首を傾げる。
少し白髪がかった頭をした中年の男性が眉間にシワを寄せている。
「そうだ」
陰陽師が所属する神龍機関への招集がかかったため
澪と桂は京都に出向いたのだ。