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武神は異世界を闊歩する。  作者: カケル
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神様VS芋虫

  芋虫。見た目だけを考えれば、ちょっと気持ちが悪い。が、天界では結構可愛らしい奴らが多い。実際に神下まではいかないまでも自分の部下にしようかなと考えたこともある。まあ神下達に猛反対されたけど。


 そして今、タケミカヅチの目の前には芋虫がいる。普通の芋虫じゃないのは一目見ればわかる。デカさが異様だ。

 名前はエグゼワームと言っていたか?天界にはいない魔物なので、強さの基準が分からない。

しかし空気感でなんとなく察することができる。

こいつはなかなかの力を持っていると。


「ミミ、この芋虫は俺が相手する。手を出すなよ?」


「タケミカズチ様、神力の方は大丈夫なの?」


「ほぼ皆無だ。おそらくこいつを倒した後にぶっ倒れる。そのあとは頼んだぞ?」


 事前に予告しておく。終わった後は間違いなく一歩も動けないし、指先一つ動かせないだろう。ミミの世話になるのは確定事項だ。


 ぶるぶると震えているテレスと気絶したままのデンスケの前にリリフとミミが陣取る。これであの二人の安全は保障されただろう。これでタケミカヅチは目の前の芋虫にだけに集中出来る。


 器の深部から微々たる神力を放出。大した量でもないのに体がだるく、重く感じてくる。神力がほとんど底をついている証拠だ。しかしタケミカヅチは気にすること無く、神力で武器を形作る。


タケミカヅチの手に刀身が青白く光輝く太刀が出現した。漆黒の霧のようなものが刀から漏れ出ている。抑えきれない刀の殺気が目に見える形となって現れているのだ。

名刀マサムネ。この世に斬れぬものはないと言われている伝説の刀。



「うわぁ・・・マサムネだぁ・・・すごーい!久しぶりですね、タケミカヅチ様!」

「ああ、ただこんなに重かったかは疑問だ」

  しっかりとした重量だ。そう長い間は振り続けられない気がする。


  ミミは久しぶりのマサムネの美しさに目を奪われる。リリフはさすがに表情を変えることはないが、マサムネが珍しい代物だとは重々承知しているみたいだ。


  タケミカヅチは試しにマサムネを一振りしてみた。大気が真っ二つになり、その場にいた全員、空間全体が二分されたかのような感覚に陥る。

  微々たる神力であるにもかかわらず、正当なるマサムネを作ることができたようだ。

  よし、やるとするか。


 タケミカヅチは目にも止まらぬ速さで疾駆する。その動きは下界に来てから人族の体に慣れていなかった以前のタケミカヅチを卒業した証。もうみっともない姿は晒さないという強い意思が感じられる。武神としてあるまじき姿はもう終わり。ここから本領発揮だ。


 ダンジョンワーム、申し訳ないが試し斬りの材料になってもらおうか。


 あっという間に芋虫の目と鼻の先の距離まで接近したタケミカヅチは流れるように刀を振り抜いた。


芋虫は一刀両断され、断面から深緑色の液体が飛び出てきた。酸性の血液は地面を音を立てて溶かしていく。

両断されても芋虫が動かなくなるわけではなかった。蠢く二つの芋虫。そいつらは断面から小さな芋虫を発生させる。小さいと言っても人族と変わらない大きさだ。十分に巨大で、数も絶え間なく増えていっている。

  あっという間に今のタケミカヅチでは対処できないほどの量になった。

  手を出すなよ!と格好つけた手前、手伝うようには言いにくかったが、これはもう仕方がない状況だ。タケミカヅチはさっきの発言を反省しつつ、リリフとミミに手伝うように命じた。

  

 有無を言わず、二人はそれぞれ対処をはじめる。

タイミングが良いのか悪いのか、小さな芋虫達はミミやリリフのもとへ向かっていく。

 ミミの方は露骨に嫌な表情を浮かべているが、そんなことで戦闘に影響が出るような彼女は柔な少女ではない。


「ホップ・・・ステップ・・・ジャンプ!!!」

 素早い初速で芋虫にパンチをかます。質量を疑ってしまうくらい軽々と吹き飛んでいき、壁に激突し、芋虫は潰れた。いやはやさすがのミミぢから。


 リリフは何やら呪文を詠唱している。それも数秒のこと。次の瞬間、数十体の芋虫の真下に魔法陣が具現すると芋虫は一瞬で凍り付いた。

 第三級氷魔法、レド シャフト。


「一個体の強さはさほど高くはないみたいですが、この数は少し面倒ですね」


「うん、まあでもやるしかないよね!」


「そうですね。選択の余地はないですからね」


 二人の奮闘で小さな芋虫は全て彼女らのもとに集まり始めている。好都合だ。誰にも邪魔されずにダンジョンワーム本体と対峙することができる。


 両断された断面からは今もなお小さな芋虫が製造されている。斬るという行為でダンジョンワームを殺すことはできないのかもしれない。


「テレス!」


「な、何だ!?」

 いきなり呼ばれたことに戸惑いを隠せない。


「このデカ芋虫について何か知っていることは?」


「知らねぇよ!ダンジョンワームはAランクの魔物だ。そんなものに会った経験なんてねぇよ!」


 うーん・・・予想通りとはいえ困った。こういう力だけではどうにもならないような相手ははっきり言って苦手だ。何が弱点なのか、情報が足りなすぎて分からない。


「・・・・・・・・・やっぱ仕方ないか」


 タケミカヅチは目を瞑り、一気に神力を放出する。

 白銀色の輝きを放つオーラを纏い、周囲の空気を少しだけ冷やす。神々しいという感情を生命に宿らせる銀光だ。


「あ!タケミカズチ様!!神力を完全に使い果たしましたね!!」


「後々のことは任せたぞ、ミミ。宿屋まで俺を担いでいってくれよ?」


「任せてください。タケミカヅチ様、思う存分やっちゃってください」


「そのつもりだ・・・!」


 名刀マサムネの刀身にヒビが入り始めた。マサムネの耐久力ではタケミカヅチの神力の具現についていけないみたいだ。天上界でもマサムネの硬度は超一流の最高クラス。それでもついていけないタケミカヅチの神力だった。


 問題ない。一撃で終わらせる。両断すれば小さいのを増殖させるのだろう?ならば塵一つ残さないくらいに消し飛ばせばいい。

  技術も何もない。圧倒的な力でねじ伏せる。

 

 心に淀みがあればどんな攻撃にもその淀みが伝播し、本来の威力を発揮できなくなる。

 タケミカヅチは心を無にする。

天津九目(アマツクメ)

 振り下ろした名刀はふっと消えるように瞬時に砕け散る。そして肉眼でもはっきりと分かる強大な力の塊がダンジョンワームに直撃する。そのあまりの衝撃に空間が歪み、破壊される。全ての視界が光に包まれ、消失していく。

 ミミは直視しないようにリリフとテレスに注意しておいた。その意味を二人はこの瞬間に理解した。

 一体何が起きたのか、リリフでさえ理解するのは困難だった。

 全てを破壊する一撃にもかかわらず、何の音もしなかった。爆発音も地面や壁が抉れる音も、何もかも。

 ただ、光が充満していただけ。


 リリフはしっかりと目を瞑り、思考に耽っていた。

 ククノチにタケミカズチのサポートをするように命を受けた時に言われた言葉を思い出していたのだ。



―――――タケミカズチは天界最強の戦闘力を持っている。しかしあやつの本気、いやそこに及ぶ前の力でさえ目にしたことのある者はほとんどおらん。そんな数少ない目撃者から一つ助言をしよう。あやつが神力を全解放したとき、絶対にその攻撃を直視してはならん。いいか?あやつの力は神の中でも異次元じゃ。それをしかと忘れるでないぞ?―――――



「・・・ククノチ様、今その意味をはっきりと理解しました・・・」


 今肌で感じた力の一端は生命を持つ存在には決して到達することのできない絶対的な壁があることに。いや壁というよりも次元というべきか。

 

 リリフが迷いの無い微笑を浮かべたすぐ後にバタッと何かが倒れる音が。


「タケミカズチ様!」


  あ、倒れたの俺か?そういえば体が一切動かない。意識がないわけじゃないからしっかりと目は開けているし、受け答えもできる。

  タケミカヅチは身体を動かそうと試みるが、一ミリも動く気配がない。まるで自分の体じゃないみたいだ。天上界で大人気のゲ-ム、だるまさんが転んだを今やったなら絶対に動かない自信がある。動かないというか動けないんだけど。


「・・・あとは運ぶの頼んだ」


「はい!任せてください!」


「すまないな。リリフもあとは頼んだぞ?」


「はい、お任せください」

 

 なんか今から死んじまうみたいだな。ただ数日間寝たきりになるだけだから、こんな大げさな感じじゃなくてもよかったかも。


テレスは心配そうにタケミカヅチを見つめる。その背中には未だに気を失っているデンスケの姿がある。


そういえばオーバは何故魔石を持っていたのか。しかも黒魔術が施された特製品を。彼はどこかからのスパイなのか、それとも何かに操られていた可能性もある。今ではもう憶測に過ぎないのだが・・・


それは後で考えよう。急速に眠気を感じ始めたのでタケミカヅチは目を閉じた。ふわりと体が浮き上がったと思ったらミミの小さな背中に乗っていた。


そこからのことは覚えていない。というより寝入ってしまったから次の記憶はベッドの上だった。もちろん目覚めてもまだ体は動きません。


つーか、やっぱり布団よりもベッドの方が好きだな、俺。



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