ロスベルトの灯火
「お~い、こっちこっち!」
その声は石柱街から聞こえてきた。ウィーランドの目に映ったのは跳び上がり手を振り続けているミミの姿だった。その横には頭を下げるリューナがいる。
ウィーランドがここに来た理由・・・それはミミからの連絡があったからだ。石柱街にいた連中を捕らえたとのことだった。話し合いで解決はしないだろうと思ってはいたが、予想よりも早い連絡だった。
「ミミ、一応聞いておくけど怪我はないか?」
「当たり前でしょ。」
そうかとウィーランドは呟いた後、視線をリューナに向けると彼女はこくりと小さく頷いた。
「んで、こいつらが襲ってきた奴らね。まあこの街の中に他にもいるかもしれないけど。」
ミミはうんざりした様子でそう言った。
「そうか、わかった。やはり対話には応じない様子だったか?」
「はい、聞く耳を持たないです。」
「何かを為す力があるわけじゃない・・・ここの連中はどうしてそこまで・・・」
「どうやら協力者がいるようでした。」
「協力者?こいつらを手助けする者がいるということか?」
「おそらくは。ただそれがどんな奴なのかはわかりません。」
背後にいる何者かが石柱街の連中に対して何か知恵を与えていたということだろうか。しかしあまりにも杜撰な気がする。その者にとってここの住人はただの駒、もしくは軽視していい存在であることに間違いはないだろう。
「・・・面倒だな。何か痕跡が残っていないか探してみる必要がありそうだ。」
「そう思ってさ、こんなもの発見したんだよね。」
ミミが散りだしたのはエールが入ったガラス瓶。
「これが何かおかしいのか?」
見たところ、何の変哲もないエールが入った瓶に過ぎないが、ミミは凄いもの発見しちゃった、みたいな顔つきをしている。
「くっくっくっ・・・これに気付かないのとはウィーランドも甘いね。このエールの匂い・・・普通とはちょっと違う・・・気がする。たぶん。」
「ん?匂い?」
ミミから差し出されたエールの瓶の蓋を開けて、匂いを嗅いだが、いまいち匂いの違いがよく分からない。
「エールを嗜む程度に飲みはするが、いつものと違いはないように思うが・・・」
「いいや、ミミの鼻が訴えてるの。何か異様な物質が混じってるって。」
ニヤっと笑うミミの顔は何故かとても楽しそうだった。
「・・・・・そうか、お前がそこまで言うならばそうなのだろう。至急フーレインに分析してもらおうか。」
「うん、それが良いと思う。」
フーレインにもたらされたエールのガラス瓶。下戸であるフーレインにとっては鼻をつまみたくなるものだ。それほどの激臭に感じられるそのガラス瓶の中身をなんとか鑑定し終えたフーレインに感謝の意を述べたウィーランドはすぐにレモンネークへと戻った。もちろんリリフの転移魔法を使って。
「エールに含まれていたのはフルールの体液だったらしい。」
「フルールってあの白い猿でしょ?あんまりたいした魔物じゃないじゃん。」
「ああ、私もそう思っていた。だがフルールの体液には微量ながら感情を支配する特殊な魔力が含まれているらしい。フーレインがそう言っていた。」
「へえ、やっぱ詳しいんだね、フーレイン。」
ミミは感心したように頷いている。
「それが何故エールの中に含まれていたんでしょう?」
リューナの疑問は最もだ。だが答えは出ない。
「さあな。それは分からん。知らずに飲んでいた石柱街の奴らを利用しようとしたんだろう。」
「なかなか面倒な奴がいるね、ここには。」
「魔人の可能性も・・・捨てきれないな。」
「うわー・・・考えただけで面倒だ・・・」
「とりあえずレモンネーク内部の調査は続けよう。」
「そうだね。私もしばらくはここにいるから、いつでも使ってよね。ミミはここではウィーランドの下なんだから。」
「ああ、頼りにしてる。」
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「おっとバレたみたいだな。まさか辿り着くなんて思わなかったなあ。」
「そおかい?俺はあいつらならすぐにフルールの体液に辿り着くと思ってたよ。」
「うっそだあ、普通思わないだろ?だってほとんど変わらないぜ、あの匂い。」
「いや敏い奴なら気付くさ、。それくらいの違いはある。」
「えーうそだー。」
占星術でミミ達を監視しながら二人の男が話している。体液の注入に気付かれても別に何とも思っていない様子だ。自分達には辿り着かないだろうという余裕がその態度を生み出しているのか、それは定かではないが、なんとも不気味だ。
彼ら二人がいる場所はレモンネークではなく、その隣にあるロスベルトという町だ。
「どうする?たぶんバレることはないと思うけど、それじゃつまらないよな?」
「ああ、でもあそこはつい最近まで魔人が支配していた地域だぞ?」
「だからこそだろ。生き残りがいれば蹴散らすチャンスじゃないか。」
「それもそうだが・・・・・」
「おいおい・・・まさか怖いんじゃないだろうな?」
「馬鹿野郎。んなわけないだろ。」
「レモンネークを取られるわけにはいかない。ロスベルトの地位向上にはあそこは不可欠だ。」
二人はロスベルトの住人で、占星術師として日々生計を立てている一般の人間だ。何か組織に入っているとか特別な事情は存在しない。魔人の存在を知っているのも占星術のおかげだ。
「って言ってもなあ~町長がそういう気ないだろ?何ら動く気配ないぞ?」
「そこを頼らずにやるしかない。」
「あてはあるのか?俺らは占星術で見通すことくらいしかできないぞ?」
彼らの戦闘力は皆無である。これまで彼らが革命と称して行動できたのは金で雇った優秀な冒険者がいたからだ。
「もう金もねぇぞ?」
「ああ、もう底をついた。あとは自分たちの力でなんとかするしかない。」
「そういうことだな。無謀な気もするけど・・・」
片目を失い、眼帯を付けている青髪の男はベルオ。
左腕を失い、右手で魔水晶を持っているのがラグン。
二人は自分たちの棲み処である西地区の集合住宅からロスベルトの中央区へと移動した。
ロスベルトの前町長デモロスが権力を乱用し、周辺地域からロスベルトを孤立させたのはもう遠い昔のように思えるが、それも数か月前の話だ。まだそう時間は経っていないため、あらゆる復興は途上のままだ。闘技場の復活は来月から、金山での乱獲の罪から多額の借金を背負ったが、町として一年で払い終える算段はついた。このように徐々にではあるが、ロスベルトは戻りつつある。
デモロスから恐怖を植え付けられた住民らの傷も癒えはじめ、新たな町長であるジャコルは民からの支持も高い。衛兵として働いていたためか、下々の人間の生活感というのをよく理解しているのだ。
ベルオとラグンの二人もジャコルの統治に不満はない。まあ細かな改善点などは思い浮かぶけども、デモロスよりもずっとマシだ。
あいつは最悪だった・・・と口揃えて言うことも最近はなくなった。あの頃を忘却し始めているのは間違いない。それに今は目的がある。ロスベルトを大きくする、それもデモロスのような方法でなく。
「できるかな・・・俺たちに・・・」
「お?なんだ弱気だな?ベルオ。らしくないじゃないか。その発言はいつも俺の方がするのにな。」
「たまにはなるさ。こうも順調にいかないとな。」
「まあ俺たちに力はないからな。あるとすれば占星術の力くらいだ。」
「戦闘には使えない。でも、これがなかったら俺たちは何もできないだろうな。」
ベルオの言葉にラグンはこれでもかと大きく頷いた。
占星術を学んだきっかけは二人が孤児だったことが関係している。今はもうないが、当時はロスベルトの西地区に孤児院があり、そこを営んでいた婆が占星術士として名を馳せていた。その婆は今はもうどこにいるのか分からないが、当時孤児院にいた少年少女に占星術という不可思議な魔法を教えた。幼いながらもこのお婆さんは何故こんなことを自分たちに教えるのだろうかと思ったものだ。ただ今思えば、あのお婆さんは自分たちに生きる力を与えてくれたのかもしれない。孤児院にいた他の子どもたちが今何をしているのか定かではないけれど、おそらく生きていくうえで占星術が役に立っているのだと思う。
孤児院の中にいた連中のほとんどの居場所は分からないが、一人だけ未だに交流を持っている者がいる。中央区に移動したのもその人物に会うのが目的だった。
西地区から中央区には馬車を使えば数十分で到着するが、そんな金はないのでもちろん二人は徒歩で移動している。徒歩ではおよそ四十分だ。
普段から鍛えているわけではない二人にはちょっとだけ辛い距離。明日筋肉痛になっていなければいいなとラグンは思った。
「で、どこだっけ?」
「ここだよ、ここ。」
ベルオが指差したのは赤レンガが積まれて造られた巨大な建造物だ。ここは巨大鍛冶場、ナバール連合の冒険者や町の兵士らはこの鍛冶場で作られた武器を用いているのが大半だ。それくらい連合内での武器市場を占めている。
「鍛冶場か。闘技場がない今、ここは唯一の利益を生む場所だな。なんとも寂しい。」
「あいつ、今ここで働いてるだろ。行くぞ。」
「ああ。」
鍛冶場に入るとすぐに熱気が押し寄せてくる。外気よりも熱いとは相当だ。汗を額に滲むなかで周囲に市視線を彷徨わせる。
「タロウ。」
ベルオが大きな声で叫ぶが、当の本人には聞こえていない。カンカンカンという金槌を叩く音が響き渡り、ここは普通の声ではかき消されてしまう空間になっている。
「タロウ!」
「ん・・・おお、なんだ、ベルオか。どうした?」
頭に巻いている白いタオルは炭か何かでくすんでしまっている。石でできた椅子に座りながらもその小柄な体が強靭な肉体を宿していることが察せられる。
「おお、今日は話があってきたんだ。」
「そりゃあそうだろうな。何の用もないのにお前らがここに来るとは思えん。んで、何だ?」
「ああ、お前、イヌガミの構成員と知り合いだよな?」
「・・・・・おいおい、物騒なことを聞くな?」
「そうだろう?」
「まあ、それは、確かにそうだ。だが、あいつらと何かやらかしたことはないぞ?それは本当だ。」
「別に何やってたっていいよ。そいつらを紹介してほしいなと思ってな。」
タロウは一気に表情を険しくして、二人を交互に見る。
「そんなに身構えなくても。俺たちのやることは変わらない。知ってるだろ?」
「・・・ああ。でもイヌガミの力を借りようとしているのは事実だろ?」
「そうだな。」
「あいつらはヤバいぞ?関わればどうなるか分からない。」
タロウとイヌガミという組織は武器の製造の面で関わっている。イヌガミに剣や槍、弓、さまざまな戦闘具を提供しているのがタロウだ。タロウのこの鍛冶場での立場は高く、武器製造の工程を決める第一責任者を務めている。
「何を言っても無駄だな。お前らには。だがどうしてだ?冒険者の連中を雇っていただろ?」
「もう雇う金がない。契約解除だ。」
「そこまでして・・・」
タロウは目を瞑り、何事かを思い出しているかのようだった。そんな姿をベルオとラグンの二人は何も言わずにじっと見ていた。
「わかった。イヌガミの組織が拠点としてる場所を教えてやる。奴らは北地区のフローラル山麓にある酒蔵庫を拠点として活動してる。」
「フローラル山か・・・わかった。ありがとう。」
「それと、ちょっと待ってろ。そのまま行っても追い返されるだけだ。」
タロウはふうっと息を吐いてから紙に何かを書きはじめた。
「紹介状みたいなもんだ。持ってけ。話くらいは聞いてくれると思うぜ。」
「ありがとう。感謝する。」
「ラグン、ベルオ・・・気を付けろよ。」
「ああ、わかってる。じゃあ、本当にありがとな。」
二人を見送るタロウの顔つきは険しく、心の底から二人を案じているようだった。
ラグンもベルオも自分たちが危険な組織に関わろうとしているのは重々承知している。大丈夫だろうかという不安はあるが、ロスベルトのさらなる発展には彼らのような組織の力が必要になる。
「俺らみたいな経験をガキどもにさせちゃいけないしな。」
「ああ、そうだな。」
タロウが教えてくれた場所、フローラル山・・・そこは人があまり入っていかない立ち入り禁止の山だ。立ち入り禁止ではあるが、狩人の穴場になっており、猟弓を持った人がよく見かけられている。北地区は森林地帯が広がっていて、ロスベルトのなかでは開発が進んでいない地域だ。まあだからこそイヌガミは北地区に拠点を選んだのだろう。
森林地帯を抜けて、藁や木で作られた家が数件立ち並ぶ場所を抜けると、フローラル山の入り口にさしかかる。
「どこら辺か聞くの忘れたな・・・」
「ま、歩いてりゃ分かるだろ。」
と二人の楽観主義的なところは悪い作用を及ぼさなかった。すぐにイヌガミが拠点としている場所を見つけることができた。誰かが見張っているわけでなく、ひっそりとした様子だ。人がいる雰囲気はないが、ただならぬ気配を二人は感じている。
二人は自ずと近くの茂みに身を隠していた。
「ヤバくないか?」
「ああ、なんかヤバい空気が漂ってやがる。」
二人は少しの間、拠点の様子をじっと確認することにした。
しばらくすると拠点らしき建物から真っ黒な体皮を持つオークがゆっくりとした動きで姿を現した。その体には鎧を纏っており、武装しているようだった。魔物が武装している光景を見たことなど一度もないし、そんな話を聞いたこともない。
「聞いてないぞ!ありゃあ魔物、しかもオークだぞ!しかも黒いし!武装してるし!何だあれ!」
「落ち着け落ち着け。声が大きいぞ。」
「でもよ!」
ベルオは尚も焦りを抱いていた。
「一度占星術を使っておくべきだったな。イヌガミに対しての予習は必要だったみたいだな。」
ラグンは水晶に魔力を込めると、彼の周囲に紫紺の煙が立ち込める。
・・・・見えてくる、イヌガミの拠点の内部が・・・・
ラグンの双眸には倉庫のなかのオークを捉えた。いやオーク以外にも武装した魔物が数体いるようだ。
人の姿もいるようだが、人数にして二人だけ、のようだ。イヌガミの黒マントを纏う二人。あれが組織の幹部だろうか。
「なんかいっぱいいる。やばいわ、これ。」
「おいおい、冗談だろ。そんなとこを訪ねないといけないのかよ。」
「ああ、そういうことだ。だがしかしここで引くわけにはいかない。ダメもとでも頼みを聞いてもらわないと。」
「ああ・・・・ここで死ぬのは・・やだな・・・」
「祈っとこうか。死なないように。」
「占星術で自分の死期も見れるようになればな・・・」
「一流の占星術師でもそんなことできないぞ。ま、できればいいけどな。」
ふうっと二人は深呼吸をしてから茂みから顔を出し、ゆっくりと倉庫に向かって歩を進める。
黒いオークは生い茂る木々の無効に消えていったので、今は建物の前には何もいない。
一歩一歩進むたびに喉が渇き、ごくりと唾をのみ込む音が聞こえる。二人とも緊張している。もしかしたら死ぬかもしれないという現実的な恐怖が目の前にあることがこんなにも心にダメージを与えるなんて思いもしなかった。
ラグンとベルオは覚悟を決めて、倉庫へと歩き出す。侵入者だ!と言われ、攻撃されるのではないかと思ったが、その心配は無用に終わった。
話を聞かずに攻撃をしてくるような無情な奴らではないようだ。
「止まれ。何用だ?」
黒マントを羽織った赤茶色の髪の男が弓を引き絞ってこちらを威嚇していた。
「あんたらの敵じゃない。まずはそれだけ分かってくれるか。」
「ああ、で、お前らは何者だ?何をしに来た?」
「俺は占星術師のベルオ。こっちはラグンだ。あんたたちに依頼がしたくてここにきた。」
「依頼だと?ここがどこだか分かって言ってるのか?」
「もちろん。イヌガミの拠点だってことは理解してるよ。」
「ほう、誰に教えてもらった?」
「タロウだよ。あいつとは友達でね。これ、紹介状だ。」
男はベルオが差し出した二枚折の紙をゆっくりと開いた。すっるとすぐに顔を上げ、数回頷きを示した。
「確かに・・・・タロウの友達のようだな。・・・入れ。」
少し緊張しながら二人は男の案内で倉庫の中に足を踏み入れる。内部は占星術で見た通り、多数の魔物が跋扈していた。知っていたとしてもビビッてしまうのは仕方のないことだろう。それくらい非日常がそこには広がっていた。
「くくく、立派なもんだ。これを見て漏らしちまう奴も少なくないんだぜ。許容できる範囲を超えていたら人間だれしもそうなるんだ。」
「・・・そ、そこまではならないさ、絶対に。」
「まあなっちまったら話し合いも何もないからな。」
ケラケラと楽しそうに笑う男は二人の目にはとても不気味に見えた。
男は案内している最中に自己紹介をしてきた。名前はシュバイツというらしい。イヌガミの中でも頂点に君臨する至上幹部の一人で、魔物の管理を統括している代表者だと話していた。
この倉庫にいる魔物を管理しているということか。あまりにも荒唐無稽な話で、理解が追い付かないが、だが事実なのだろう。この魔物達がここで大人しくしているのが何よりの証拠だ。
倉庫の奥には小さな部屋があり、そこには机と椅子がそれぞれ並んでいた。
腰を下ろすように促され、ベルオとラグンは相手の様子を見ながらゆっくりと椅子に腰を下ろした。
「さて、では早速聞こうか。お前たちが何を依頼したいのか。」
ベルオは口の中の渇きを実感していた。緊迫感が辺りを包み込んでおり、冗談では済まされない空気が漂っている。
「レモンネークの奪還。」
「あ?」
「レモンネークの奪還をお願いしたい。」
「なかなか面白いことを言う。レモンネークの奪還だと?最近あそこでは街中に魔物が姿を現したと聞くが・・・・悲惨な状況から救ってくれということか?それとも文字通り、町長ギリアムを殺し、町を支配しろということか?」
「さっきも言った通り、俺らは占星術師だ。レモンネークに脚を運ばなくても状況くらいは見通すことができる。」
「で?」
「あなたの認識には誤りがある。」
シュバイツの訝し気な表情の中に楽しいという感情が薄くだが、垣間見られた。
「今現在、レモンネークは城塞都市ノームの支配下にある。」
「何?どういうことだ?レモンネークに攻め入ったということか?あの新たな都市が。」
「いや、その逆だ。レモンネークが支配されたのを奪還し、ノームが統治しているようだ。」
「寝耳に水だな。レモンネークの曲者、ギリアムは何をしている?」
「行方不明だ。おそらくは殺されたんだろう。」
演技ではない驚きの表情をシュバイツは浮かべる。初めて心からの感情がむき出しになったような感じだった。
「レモンネークを支配したのは何者だ?どんな奴がギリアムをバルカーを殺すことができたんだ!?」
「魔物の軍勢だ。その頂点には人間を超越した存在が居座っていた。」
「あいつらみたいな、もんか。」
「そうだ。ああいう魔物の群れが街のほとんどを崩壊させたんだ。いや正直言うと魔物のレベルはもう少し高かったかもしれない。」
「くっくっく・・・それはそれは興味深いな。レモンネークに照準を合わせる気などなかったが・・・今の話が本当ならば調べてみる価値はありそうだ。」
「お前らの頼みというのは統治しているノームをレモンネークから撤退させてほしいということか。」
「そうだな。レモンネークをロスベルトが支配するために。」
「そこだ。何故そこまでしてレモンネークをロスベルトのものにしたいんだ?」
「このままではロスベルトの発展には限度がある。必要なのは自由にできる土地だ。しかも森や山のような危険な場所ではなく安全に作業できる場所、だ。それに最適であり、用意に行き来できるのはレモンネークしかない。」
「ごもっともだが、俺たちはロスベルトのために全てを寄与するほどこの町を愛していない。」
「ならばロスベルトのためでなく、イヌガミという組織のためにやってくれ。」
ベルオの懇願に首を傾げるシュバイツ。
「・・・わからんな。お前らはロスベルトの発展が目的なのだろう?ならば意味合いが違ってくるではないか、イヌガミは決してロスベルトのために動かない。立地が都合がいいからこの町にいるだけだ。」
「それでもいい。あんた方の利益にしかならなくてもいい。ロスベルトに何かを分け与えてほしいとも思わない。ただ・・・ノームがこれ以上力をつけては困るってのが本音だ。」
ベルオの真剣な表情を射貫くような視線でシュバイツは見つめる。
「確かに、そうだな。ノームとか何とかいう都市がここのところ力を付けてきているのは癪に障るのは事実だな。」
城塞都市ノームという新たなる町?が急にナバール連合に加入してもう数か月の時が経った。
そんな都市名を聞いたことがなかったし、一年前には北方平原に建物など一つもなかったのをベルオも覚えている。
「いいだろう。だが、お前らにも協力してもらおう。お前らの占星術は使えるみたいだしな。」
「そうか・・・ありがとう。それで俺たちはあんたらに何をすればいい?まさか協力するだけじゃないだろ?」
「いや協力してもらうだけで構わない。」
突然声がしたと思いきや、部屋の扉が開き、シュバイツと同じく黒マントを身に纏った男が現れた。
「おいおい、いたのかよ・・・オーリック。」
「ああ、全部聞かせてもらった。オーリックだ、イヌガミの最高責任者を務めている。よろしく。」
「よ、よろしく。協力だけって・・・・・金、はいらないのか?」
「ああ、困ってないからな。それよりもその占星術の力を貸してもらいたい。」
ベルオとラグンの二人にとっては願ってもない話だった。お金など一切用意していなかったからだ。どれだけ無計画で、無謀なのか・・・自分たちの行為に少しだけ苦笑した。
ただ結果的に問題は生じなかった。オーリックという男は純粋にベルオとラグンの二人に占星術の力を貸してほしいだけのようだった。どうやらその意図を推し量るのは難しいようだが・・・
「お前たちの言っていることが本当のことかどうか・・・まあ信じていないわけじゃないが、確認する必要があるな。シュバイツ、頼めるか?」
「ああ、わかったよ。」
「お前たち二人を他のメンバーに合わせておいた方がいいだろうな。ちょっとついてきてくれ。」
二人はオーリックの後をついていく。外に出て、倉庫の裏の方へ向かう。森の中をひたすらにおおよそ三十分の間歩いていくと、巨人が丸太を運んでいる光景が目に入った。
いやよく見ると巨人ではない・・・あれはオークだ。オークが奴隷のように木材を運ぶ作業をしている。たまげるような光景だが、驚きはもう半減している。というかこれは慣れというものだろう。
「おっとリーダー、戻ってきたんだね。ん?その後ろの二人は?オークの餌か何かかな?」
とてもとても物騒なことをいう奴だ。ベルオやラグンよりも間違いなく若く、今まで会った二人と同じく黒マントを羽織っている。
「違う。ちょっと面白いことを提案してくれた者達だ。まあこれから行う大規模な活動の協力者になってくれるわけでな、こちらはベルオ、そしてこちらはラグン。」
二人はたどたどしくも名乗る。恐怖という感情をなんとかして押し隠しながら。
オーリックは簡潔にこれからの行動や指針をその場にいる仲間に説明した。その場にいた黒マントの三人、名前はユージン、ルヴラ、べーガメントと言うらしい。彼ら三人は説明をつまらなそうに聞いていたが、内容を把握すると水を得た魚のように表情を一変させた。面白そうだとか、良い情報さだなとか、ベルオ達を賞賛してくれるのが少し不気味ではあったが、嫌われることがなくて安心した。
「これから頼むぞ、ベルオ、ラグン。」
オーリックが握手を求めてきたので二人は逆らうことなく、笑顔でそれに応じた。
契約完了。これからイヌガミと占星術士二人はレモンネークを奪取することを目的とすることになる。




