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武神は異世界を闊歩する。  作者: カケル
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留学?

晴天に恵まれた夏のとある日。暑さなんて全て吹っ飛んでしまうような光景が目の前にある。

フェザーランド公国の剣帝学院に通っていた一人の女生徒、ラディアの知っている世界にこんなにも堅牢で、神聖なる場所が存在するなんて思いもしなかった。まるで公国の聖書に出てくるような神様が住んでいる神殿のような巨城がそこにある。


空には巨大な飛竜が数十体飛んでおり、それがこの城の周囲を見回っている存在なのだとすぐに理解した。ラディアは思ったよりも飛竜が飛び回る音はうるさくないんだなと呑気なことを考えてしまった。


都市部に入るには目の前にいる魔物の側を通らなくてはならないようだ。目に入った瞬間に悲鳴をあげそうになったが、ぐっと堪えた。彫刻のような巨大な顔がこちらを無表情で見つめてくる。


「そんな硬くなる必要はない。襲ってくることはないから安心しろ。」


「あ、は、はい。」

  そうは言われてもすぐに緊張を解くのは難しい。未知なる魔物を初めて見たのだからそれも致し方ないことだろう。というよりもラディアのそれが正常なのだ。

 

  ラディアの先導係としてレイが同行している。

  ラディアがレイに連れて行ってくれるように頼み込んでから数週間が経った。剣帝学院の学院長は相当な権力の持ち主なのは知っていたが、現学院長は公国の思想に染まり切っておらず、神の啓示だの何だのと言って、話の腰を折ることもなかった。そんなって学院長にレイがラディアを剣帝学院からの留学生として認めてくれるように頼み込んだところ、これが許可されたのは驚きだった。どんな手を使ったんだろうと今でも気になっている。


  学院長を目にしたことはほとんどないが、本当に大丈夫だろうかと学院長の身が少し心配になる。自分が心配したところで何かが変わるわけではないのだが。  


  レイは背丈をゆうに超える巨大な門の前に立つと、それを待ち構えていたかのように門がゆっくりと開きはじめる。ラディアはこの先に何が広がっているのか、楽しみと同時に若干の恐怖を感じながら門が開き終わるのをじっと待った。


「今日だったのね?ラディアちゃんが来る日は。」


  門の上から飛び降りていたのはラディアも見知った顔だった。


「アラーナか。まだここにいたのか?次はグロウのもとへ行くんじゃなかったのか?」


「ええ、でも元々ピッツバーグは敵対関係のある国じゃないから急ぎじゃないのよ。それよりもラディアちゃんが来る日ならそのお祝いをしなきゃね。そっちの方が大事。」


「それは後々だぞ。まずはタケミカズチ様と面会させる。」


「わかってるわよ。それが最も大切なことなのは。」


「ならいいが・・・」

 お祝いという言葉にレイは困惑していたようだった。それはラディアも同じで、ノームの人間からしたら別に祝福することでも何でもないはずだ。どちらかといえばむしろ迷惑だと思う方が多いのではないか。



門のなかに足を踏み入れたレイについていき、ラディアも深呼吸を一度してから歩き始めた。


目の前に広がっていたのは、楽園だった。

幻想的な噴水の広場や見たこともないような技術で造られた庭園、そんな自然の美が表現されている場所もあれば、まるで檻のない動物園のように何の隔たりもなく野に放たれた魔物達の姿もある。そこだけを見ると危険な気もするが、魔物達は一貫して穏やかな雰囲気に包まれていた。


歩いていると武器屋や防具屋といった見慣れた店が軒を連ねているのが視界に入った。

レイ師匠によると旅人が許可なく入ることは禁止されているという。今まで旅人や冒険者といった存在が門のなかに入ったことはないらしい。武器や防具の店の存在理由は内部の人々に対しての販売なのだろうか。


「どうだ?印象は。」


「凄い以外の感想が見つかりません。すみません、語彙力がなくて。」


「正直言って俺は物足りない。タケミカヅチ様が造られた町ならばこの世で最高であることに間違いはない。あとは町を作る我々の力不足が大きい。」


こんな立派な建造物を作り上げて尚、納得言っていないなんて驚きを通り越して、もうよく分からない。

生きている世界が違う、ラディアとレイ・・いやここの住人は。

ナバール連合全体がここまで発達しているというわけではないのはノームに向かう途中に通ったロスベルトの町を見れば分かった。ロスベルトはただの町。印象深い何かがあるわけじゃない公国にも普通にある町だった。

だからこそノームの神秘的で豪華絢爛な町の様子を見ると、その違いに驚かされたのだ。


城へと一直線に向かう大通りを歩いていると通りすがりの人達がこちらの方に視線を向けてくる。その目は珍しいものを見る目だ。好意的でもなく、嫌悪が混じっているわけでもない。


「あいつらも全員、タケミカヅチ様の神下だ。」


「・・・そうなんですねぇ。」

なんて言いながら神下って何?というのがラディアの本音だ。

それを悟ったのか、レイはああ、すまんと一言呟いた。


「タケミカヅチ様は武の神、戦の神だ。そして俺達はタケミカヅチ様を崇拝する天界人になる。」


武の神?戦の神?天界人?またも知らない単語が続出して、頭がこんがらがる。


「要するにあいつらはみんな、この町の民ってことだ。」


「どれくらいの人数いらっしゃるんですか?」


「ここにいるのは、今のところ五十四人だったかな、人間は。」


「町としてはあまり多くないんですね。」


「そうなのか?普通はもっと人がいるものなのか?」


「そうですね、普通はもっと多いような気がします。それにノームのこの豪華さを見たら大国並、それ以上のような気がしますので人がもっといてもいいんじゃないかと。」


「確かにデモテルなんかと比べると活気の面で劣るような気はする。」


「今の話はなかなか参考になったよ。外の人間じゃないと気付けないことかもしれない。」


ラディアには何かためになることを言った覚えはなかった。単純に感じたことだった。おそらくここに初めて来る人がいれば皆そう思うだろう。


  長い大通りを抜けると、すぐに城に続く門が見えてきた。こちらは外界との隔たりを意識した厳重な造りではなく、緻密な芸術品のような、人の目を楽しませる造りをしている。華やかさと共に幻想的で夢見心地な空気に彩られ、全ての感情が溶け出してしまう、そんな感じがする。

惚けたような顔で門を見つめたままのラディアにレイから声が掛かる。

はっと意識が戻ってきたように前を見たところ、レイの姿は門の中にあった。

門が開け放たれたことにすら気付かなかったラディアは慌てて、レイのもとまで走っていった。

門を潜った先にまた門が現れる。それは城内に続く門。

レイがなにもしなくとも、生き物のように門は開きはじめる。


白銀に包まれた空間の中央部に巨大な石板が置かれている。ラディアが知らない文字で何行も書かれており、その文字全てが青白く発光していた。その石板を背に左右に伸びる階段があって、曲線を描きながら二階へと続いている。

ラディアは魔法的素質を持っていない。だが魔力が体にないわけじゃない。剣技を使う際も微々たる量だが、魔力を使っている。それでも魔導士や魔法剣士などの人達よりも魔力を感知できる感覚は鈍い。にもかかわらず、ラディアは今までの人生の中で最も魔力を感知していた。邪悪な魔力ならば吐き気を催してしまう者もいると聞くが、とても暖かな魔力だ。全身が安らぐような・・・まるで快眠後の朝を迎えた心地よい感覚だ。


「・・・・・・すごい。」


「レイ様、お迎えに上がりました。」


「エレシア、タケミカヅチ様はもう?」


「はい、二階の客間でお待ちです。」


「では行こうか。」


ラディアの目の前には長い艶やかな金髪をなびかせたメイドがいた。アラーナを目にしたときも感じたが、やっぱり美しい。見たことがない美しさで、思わず目を奪われる。


「・・・・・・・・・あ、は、はい。」

恭しく一礼したエレシアと呼ばれた女性の髪に見惚れて、レイへの返事が遅れてしまった。何だ、こいつ?とか気持ち悪い!とか思われていないだろうかと少しだけ心配になる。同姓なのに心を動かされるなんて初めての経験だった。


エレシアを先頭に二階への階段を上り、天井の高い廊下を歩いて行き着いた先には一人で開けるのも大変そうな扉があった。

エレシアが扉にそっと触れると波打つように光が広がっていった。

「タケミカヅチ様、ご案内致しました。」

エレシアは扉に向かってそう伝えた。が、何も返ってはこない。


「入るように、とのことなので、どうぞ。」


レイはこくりと頷き、ラディアは少し戸惑いを見せた。

しかしその戸惑いはすぐに掻き消される。


ゆっくりと開いた扉の先には人の背丈をゆうに超える巨大な剣が二振り、交わるようにして飾っていた。白銀に光り輝き、剣からは魔法的な力を感じる。ふかふかで間違いなく高級な赤いカーペットを遠慮がちに踏みつけながら歩いていくと、荘厳な椅子にもたれかかった少年が目に入った。ラディアの年齢と大して変わらないと思われるその少年は表情を変えることなく、こちらを見ていた。


少年のいる場所は少し段差になっており、ラディアを見下ろすような形になっている。明確な地位の差をその段差が示しているようで、少しだけ怖かった。


「タケミカヅチ様、レイ様と、そのお付きであるラディア様をお連れしました。」


「ああ。レイ、久しぶり・・・でもないか。どうだった?フェザーランド公国は。良い観光ができたか?」


少年が明らかに年上であるレイに対して上に立つ者としての態度を示していることで、この人がレイ様が崇拝する人なんだとはっきりと理解した。


「アラーナは楽しんでいたみたいです。私はあまり肌に合いませんでした。」


「そうか。国民の様子はどうだった?」


「何もなかったかのように日常が続いている様子でした。国が起こした戦争なのだから正しいことなんだと思い込んでいる者が多いのかと。」


「過激な信仰心だな。俺が言うのもおかしいが、かなり狂ってる。」

レイはタケミカヅチの言葉に返答しなかった。はたから見ればタケミカヅチ様を崇拝する我々も過激な信仰心を持っていると思われているだろうから、まあそれはそれで事実なのだが。


「それで、彼女がお前の言っていた?」


「はい、公国の剣帝学院に通っていた生徒です。公国の悪心に染まっておりません。」


タケミカヅチの目線がラディアを射抜くように捉える。ピリピリとした感覚がラディアを襲うが、なんとかその目線から逃げないように踏ん張った。


「ラ、ラディア ソルティアと申します。このたびはご訪問させていただきありがとうございます。」


並々ならぬプレッシャーに押し潰されそうになりながらもラディアは臆することなく自己紹介をする。


「俺は城塞都市ノームの総帥を務めているタケミカヅチだ。よろしく。」


「よ、よろしくお願いします!」


 どんな印象を持たれているのか・・・表情だけでは読み取ることはできない。だが少なくとも悪い印象を持たれてはいないようだ。今の対応が目上の人間に対しての正しいものなのかどうかは分からないので、ラディアは心の中ではおどおどしていた。


「剣帝学院というのは兵士を育てるための機関だろう?ということは君・・・いやラディアは剣を学んでいるのか?」


「はい、ご期待して下さっている実力はないかもしれませんが、日々鍛錬に励んでおりました。」


「将来は公国の兵士として国を守る立場になりたいのか?」


「はい。」


 他国から公国がどんな風に見られているのか、知らないわけではない。それでも自分の故郷はフェザーランド公国だ。公国には大切な家族や友人がいる。そんなかけがえのない存在を守るためにラディアは剣を学んでいる。そんなことを口に出すことは一切ないが・・・


「公国は今、俺たちと敵対する立場だ。それを理解してそう言っているんだな?」


「はい。」


「よし、わかった。じゃあレイ、お前が面倒を見てやれよ。最低でも公国のなかで敵なしくらいにはしてやるんだ。」


「わかりました。」


  レイはできませんとも無理ですとも言わず、即座にわかりましたと言い切った。

  タケミカズチからの言葉を拒否することはあり得ない。レイにはそういう意思が感じられた。だがそれ以上にラディアを強くすること自体に自信を抱いているようだった。

  

「よろしくお願いします!」


「ああ、これからよろしく頼む。」



 フェザーランド公国からの留学生という異例で前例のない立場のラディアだが、彼女がこうしてノームへと来たおかげで公国との間に話をする余裕が生まれた。ほとんど戦争状態だったナバール連合とフェザーランド公国の間にはしばしの静寂が訪れ、公国からの派兵は一時中止の状態となっていた。


 ラディアはそれについて深く思うことはない。何を言ったところで公国の根っこにある意思が変わることはないからだ。自分にできることはいつか変えられるほどの力を持った時に公国は正しい方向に導くことだ。そのために力をつけなければならない。戦闘も、他国の知識もそれは同様だ。


「どうかなさいましたか、ラディア様?」


「あ、いえ、すみません。ちょっと考え事をしてまして・・・」


 エレシアに使用する部屋へ案内している最中にぼーっとしてしまったことをラディアは謝罪する。


「わからないことがあれば、何でも聞いてください。ラディア様の補助役は私が努めさせていただきますので。」


「お願いします。エレシア、さん・・・?」


「はい、エレシアとお呼びください。」


 綺麗すぎて緊張する。あと間近で見ると肌がきれいで、目がぱっちりしてる。おとぎ話の中に出てくる女性のような感じ。

 同じ女性として少し落ち込むほどの美貌だ。ラディアがため息をつくのと同時にエレシアは足を止めた。

 部屋を開けると、そこはまるで貴族が住むような大豪邸の一室のようだった。開いた口が塞がらないラディアだったが、今までの光景を見てきたせいで免疫が付いたのか、現実に復帰するのは早かった。


 部屋に背丈を大きく超える窓があり、そこからの景色は言葉にするのが難しいほどの絶景だった。


「始まるんだ。」


 ラディアは新たな場所で鍛錬に励むことを楽しもうと心に誓った。


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