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武神は異世界を闊歩する。  作者: カケル
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アンデッド

アンデッドの群れが学院の敷地に押し寄せ、公国は慌ただしい喧騒に包まれた。帰らずに残っていた生徒や教官が学院内から身動きが取れなくなっている。外部の兵士達が彼らを助けるために学院に迫り来るアンデッドを撃破していくが、一個体の強さは兵士以上の場合もあり、なかなか思うように進んでいかない。

焦りが募る彼等の横をラディアに連れられたレイが通り過ぎる。ここを通ってはいけない、という声は聞こえなかった。兵士たちには周りを気にする余裕はなかったようだ。

焦りは決断の遅延を生み出してしまう。それは今回のような救出を主とした目的の場合に取り返しのつかない事態を引き起こす可能性もある。


アンデッド側と人間側に分けるのだとしたら、間違いなく人間の方が劣勢に立たされている。レイにとってアンデッドは邪魔な存在。公国の人間に思い入れがあるわけではないが、どちら側に立つかと言われたならば迷わず人間の方に立つと答えるだろう。


レイは堂々と学院の敷地へと足を踏み入れる。場所が分かったのでラディアに帰るように言ったが、彼女は首を横に振って応じようとしない。


仕方ないと諦めてレイはそのままアンデッドの群れに向かって歩き出した。アンデッドには知性がない。基本的にはそうだ。けれどもそれは低レベルの、という前置きがあればの話だ。知性があるアンデッドもこの世には存在している。まあ、下界にもいるのかどうかは定かではないが。


背後から近付いてくる生の空気に気付いたのか、アンデッドの群れはレイの方を振り向いて、じりじりと接近してきた。

アンデッドを迎え撃っていた学院の教官や公国の兵士達はみな、息も絶え絶えの様子で、今にも倒れそうだ。

より強い生気を持つ者に惹かれる特性がアンデッドにはあるので、他の死に損ないは無視してレイに向かっているのだろう。


ぷるぷると小刻みに震え出したラディアを気にかけることなく、レイは歩く速度を緩めない。しかしその眼光は徐々に力強さを増していた。ゆっくりと腰に携えた太刀を抜くと、白銀色の輝きが周囲を照らし出す。


「これを使う必要はないが、すぐに終わらせたいのでね。」


ラディアには目の前にいたレイが一瞬で姿を消したように見えただろう。瞬きをしたその一瞬でレイはアンデッドの群れの中央付近まで移動していた。


刀を一度振るうと十体以上のアンデッドが斬られ、消滅する。

剣技を使用しているわけじゃない、純粋な斬撃だ。

このなかに知性のあるアンデッドが潜んでいたらしく、驚愕に満ちた表情を浮かべる個体がいた。

 その個体から目を離さず、レイは他を無視して知性を持つアンデッドに斬りかかった。

「く・・・アブない・・・」


「お前、知能アンデッドだな。その反応速度から見て・・・上位ランクアンデッド、レギオワイトといったところか。そのスケルトンの姿は魔法で偽装しているのだろう?」


「ほお、よくワカッタな。キサマはホカとはちがうみたいだ。」

 スケルトンに見えていた身体は白い霧に包まれてからすぐに姿形を変えた。紫紺のローブを身に纏った巨大な白骨がスケルトンの群れのなかに突如として現れた。


「何なんだ!あれは!」


「なんて邪悪な気を放っているんだ・・・ああ、神よ!ご慈悲を!」


 気付けば白色のローブを着た公国の神官が近くまで来ていた。スケルトンを神聖魔法で消失させていっているが、いっこうに数が減っている様子はない。

 正直いてもいなくても変わらない。むしろいない方がマシだ。

 

 公国の神官にはもっとレベルの高い者はいないのだろうか。横目で見ていても行使される神聖魔法が低ランクすぎる。もちろん神聖魔法の習得は炎系や水系などの魔法よりも難しいが、ここはアンデッドを最も憎むフェザーランド公国だ。神聖魔法をもっと重要視するべきなのではないか。


「ナニをヨソミしている!」


「大きなお世話か。すぐに終わらせるぞ。」


「できるものナラやってミロ!闇魔法、デスフォートレス!」


  A級闇魔法か。効果は確か・・・一定範囲の生命を正方形の敷地に閉じ込め、闇魔法への耐性を低くするだったか。

  レイは魔法をほとんど使えないが、魔法の種類や効果を熟知している。

  この魔法自体は攻撃性を持たない・・・ということは・・・

  

「闇魔法、シャドウ ブレイク!」


  周囲にいる数体のスケルトンを犠牲にして、大きな影を生み出すとその影がレギオワイトの手に集まっていく。漆黒の影が深淵を作り出し、細長い剣のような形になった。


  影の剣が振り下ろされ、レイはそれを軽々と受け止める。

  凡人ならば受け止められず、潰されて終わりだ。 

「レギオワイトにしては魔法行使のスピードが速いな。だが・・・」


  レイは腰にある二本目の刀を鞘から抜いた。次の瞬間、二振りの銀閃がレギオワイトの身体を静かに両断し、地面に崩れ去った白い骨の残骸の落ちる音が空しく響く。

  親玉がいなくなったそんな状況下でも知性のないアンデッドであるスケルトンは彷徨い続けている。

 誰もが息を呑むほどのあっけない幕切れだった。あんなにも邪悪な存在を簡単に消し去ったことに神官達は歓喜と共に恐れも抱いた。

「あとは・・・・スケルトンだけだな。これは神官に任せるとするか。」


学院での騒ぎを聞きつけて続々とやってくる神官達。三十を超える人が集まってきていた。これならば低ランクの神聖魔法でもスケルトンをすべて排除できるだろう。


レイはラディアを伴って、その場から離れた。


「レイ師匠、さすがでした!」


「ラディア、この国の神官達のレベルはあんなものなのか?」


「は、はい。基本のレベルはあのくらいだと思います。ただ神官長はもっと凄い魔法を使えると聞いたことがあります。」


「神官長か。公王の次に権力を持っていると言われている存在だな。確か今は二十八代目だったか?」


「はい、二十八代目神官長、ヴァイス アルクベイク。わずか二十一歳で神官長に上り詰めた天才です。」


「会ったことはあるのか?」


「とんでもない!お目にかかれたら幸せになれるなんて言われている人ですから。そういう機会は今まで一度もなかったです。」


「さっきのような問題の時にも神官長は出てこないのか?」


「そうですね、出てきたことはないです。でもアンデッドが街のなかに現れるのなんて今回が初めてですから、この場合は出てくるべきだと思うんですけど・・・・」


「気になるな。神官長か。」


二人がそうこう話しているうちに神官とアンデッドの攻防は終わりに近づいていた。神官達の顔色を見ると明らかな疲労の色が見て取れたが、歯をくいしばり魔法を唱えている。

彼等の頑張りでアンデッドの数は残り数体にまで減っていた。


このままいけばあと数分で終息するだろう。この場にいれば面倒事に巻き込まれるかもしれない。が、それはそれで都合が良いかもしれない。タケミカズチ様からは目立っても別に構わないというお言葉を頂いている。


 レイが予想した通り、神官たちはアンデッドを始末した後にレイの元へと向かってきた。感謝の言葉と共に何者なのかを尋ねてきた。彼らがレイに向ける目は必ずしも好意的なものだとは言えなかった。露骨に怪しげな視線を向けてくる者もいる。まあでもそれも仕方ないだろう、アンデッドと戦っている姿を見ていたとしても得体の知れない存在に違いはないからだ。


  レイは自分のことを冒険者だと名乗った。納得顔を浮かべる神官達。ただ冒険者と聞いて、彼らは誰もが思う疑問を同じように抱いた。それはアンデッドを倒せるくらいのレベルの冒険者が公国にいただろうかという疑問だ。その質問がなされたとき、レイは少しだけ悩んだ。だが、偽ることなく本当のことを伝えた。


「俺は城塞都市ノームの冒険者だ。」

  レイは間違いなく冒険者だ。タケミカズチ神下のなかで現在では唯一の冒険者。ノームの冒険者というのは多少語弊がある。実際にはデモテルの冒険者ギルドで登録したE級冒険者だ。

  レイの言葉にすぐさま声を荒げ、魔法を行使する準備に入る神官達。それもそうだ、ノームはナバール連合のなかにあるに一つの町だ。つい先日、公国が攻め入った地域の人間ということになる。つまりは敵だ。


「貴様、公国に何をしに来た!スパイか!」


「別に取って食おうってわけじゃない。公国とは和平を結びたいと我が総帥は考えておられる。」


「何を言っている。嘘も程度を考えろよ。」

  神官は敵意に満ちた表情を浮かべる者が大半だった。ラディアも呆気に取られている様子だ。確かにラディアには詳しい話を一切していなかったから、全てが驚きだっただろう。



「客人であろう?あまり無礼な態度を取るのは控えよ。」

 

 神官達との睨み合いが中断となるきっかけをつくった声の主は白銀のローブを身に纏っており、公国の中で賢者と崇められている存在だった。公国での地位は副神官長、名前は確か・・・・


「こ、これはセロイ様!お疲れ様でございます。ご足労ありがとうございます!」


  神官達は態度を豹変させ、表情を強張らせたまま頭を低く下げている。話には聞いていたが、副神官超の権威も神官長と同等なほど高いのは本当のようだ。


「あなたがノームの使者ですかな?」


「使者という言葉が正しいものなのかは分からないが、まあそんなものだと考えてもらって構わない。」


「あなた・・・いやあなた方の目的は何ですかな?」


「公国が起こした過ちを我が総帥はお許し下さるそうだ。公国側には何の制裁も課さない対等な関係でありたいと願っている。」


「ロングロデオ王国は支配したのは、そうするようにとの神の思し召しがあったからです。ナバール連合についても同じです。それを否定することは私たちにはできないのです。」


「ということはつまり、再びナバール連合に攻め入る・・・ということか?」

 レイの眼光は鋭く光り、セロイを射貫く。


「・・・・そう判断していただいて構わないですよ。」


「それは公国の最終判断なのか?副神官長という立場で国の行く末を決めてしまっていいのか?」

  正直言うと、レイは本気で心配していた。こんなにもあっさり申し出を断られるとは思わなかった。断られるにしても何日かの検討を経て・・といった感じだと予想していたので、多少の困惑があった。


「そう思うのも無理はないでしょう。けれども、そういうことではないのですよ。誰に聞いたとしても同じ答えが返ってきますよ。たとえ公王様であっても。」

  そういう国なのですと話すセロイに対してレイは何を言っても無駄なことを悟った。想像以上の信仰心。彼らがどんな存在を信じているのか正確にはよくわかっていないけれど、それは彼らにとっての全てで、絶対なのだ。信仰心が原因で最悪な結果が生まれたとしてもそれが運命だと受け入れる、そんな国民性が心の底まで根付いている。レイは彼らが非常に面倒な存在に思えた。


「そうか・・・できれば公王と面会したいと思っていたが、この感じだと無意味なようだな。この国にいる意味もほとんどなくなったようだ。」


「そうですか・・・それは残念です。最後に遅れまして、アンデッドの退治をしていただきありがとうございました。」

  セロイはレイに向かって礼をしたあと、神官達に引き上げるように促した。


「ふう、この国での活動も思った以上に早く終わったな。・・・・アラーナ!」

  レイは空高く声を張り上げる。


「そんなに大きな声を出さなくても聞こえてますよ。」

  

「酔いは醒めたか?」


「魔法で強引に醒ましました。」


  アラーナは怪鳥フルスミーティアに騎乗し、上空からいきなり姿を現した。ただ姿を隠す魔法ミラージュを解除しただけで、彼女は怪鳥に乗ってずっと空を飛んでいたのだ。


「もう帰るぞ。聞いていただろう?」


「説得を試みることはしないんですか?」


「そこまでする必要はない。介入する意味なんてないからな。相手がどうするかをタケミカズチ様にお伝えすればそれでいい。」


「ふ~ん、わかりました。でもちょっと残念ですね。もう少し公国を堪能したかったんですけど。」


  昨日の飲んでいる様子を見ると、アラーナは下界での初めての遠出で浮かれているようだった。あんなに飲み過ぎた姿を見たのは久しぶりな気がした。


「まあそういうな。他の国に行く機会もまたあるさ。」


「それを楽しみにしておきます。タケミカズチ様にこっそり頼んでみようかしら。」


  レイとアラーナの話を黙って聞いていたラディアは二人を交互に見て、何かを懇願しようとしている。


「すまないな、ラディア。お前に教える機会がなくなってしまった。この一週間はなかなか楽しかったぞ。」


「あ、あの!!!!」


  声を裏返したラディアは大きな決断を下したかのような顔でレイを正面から見つめる。

  レイは黙ってラディアが何を言うのかを待った。


「私も連れてってもらえませんか!」


「わーあ、思い切ったことを言う子ね、この子。面白いじゃない。」

  アラーナは微笑を浮かべた。彼女の中でラディアの評価が上昇したようだ。レイも同じように驚いていた。冗談で言っているわけじゃないのは顔を見れば分かる。いろんなものを失ってでもついていきたいと言っているのだろう。だが、レイの判断では決めるのは無理だ。タケミカズチ様の許可が必要だろう。


「こちら側に来てしまえば普通にはもう戻れないぞ。」


「はい、それでも。強くなりたいので。」

 

  沈黙、そして空気は緩和する。


「ここで決めることはできない。実際俺が決められることではないからな。だが、そうしてもらえるように俺から総帥に懇願しよう。」


  ラディアの笑顔とアラーナの笑顔が視界に入る。一番うれしそうなのは何故だかアラーナだった。




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