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武神は異世界を闊歩する。  作者: カケル
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レイとラディアとアラーナと。

  誰?というか、私生きてる?


  アンデッドはカチカチと骨を震わせながら男に敵対をしている。死を招く存在の怒りは確実に突如現れた男に向いている。


「ここにもアンデッドがいるとは。面倒だな。」


アンデッドは奇怪な叫び声を上げて、男に襲いかかった。

アンデッドは一定以下の威力の物理攻撃に対する耐性を有しており、もし戦うことがあるならば魔法を駆使するべきだと言われている。その事実をラディアも何となくは知っていた。ラディアの場合は知っていても魔法を使えないので、仕方なく剣で斬りかか伏しかだけれど目の前に突然現れた男の人はそこら辺に落ちていそうな木の棒を持って、戦おうとしている。魔法の威力を高める杖という線もあるが、そうだったとしたら木の棒にもっと細工がされていないとおかしい気がする。どちらにせよ男は助けに来てくれたと考えてよいみたいだ。


アンデッドが襲いかかってきた瞬間、男は木棒を素早く振り抜いた。木の棒は粉々に砕け散ったが、同時にアンデッドは激痛に表情を歪めた。痛覚を持たないアンデッドが浮かべた苦悶に満ちた表情は新鮮で、それ以上にラディアにはその光景が信じられなかった。木の棒で殴られただけなのに瀕死の重傷を負うなんて聞いたことがない。男の持つ能力が桁違いで、アンデッドの耐性を超える力をそなえているということだ。凄いと心のなかで思ってはいるが、驚きすぎて全く言葉が出せない。

 

  続いて男は容赦なく拳をアンデッドの頭部に叩き込んだ。骸骨は砕け散ってバラバラになり、空気中に霧散した。

「これで六体目か。死霊族がこんなにはびこってるなんてこの国はどうなってるのか・・・ん?」


  男はラディアの存在に気付いた。訝し気な顔をしてから大丈夫かと口にしてきた。

  

「あ、ありがとうございます・・・・」

  ラディアはこくりと頭を下げた。


「君は?こんな暗いなか、どうしてここに?」


「あ、いえ、さっきのに追われていて・・・」


「・・・ああ、そういうことだったのか。あまり夜に出歩かない方がいいと思うぞ。今みたいな死霊がいるからな。」


「あ、あのあなたは?」


「俺はレイ ファルス。・・・・・冒険者だ。」

  

「冒険者、ですか?」

  公国にも多数存在するが、他国に比べると見劣りするレベルの者しかいないはず。この人は公国の人間ではなく、他国の?

「ああ、君は?」


「わ、私はラディア・・・ラディア ソルティアと申します。剣帝学院の生徒です。まだ学院の一年生です。」


「剣帝学院・・・確か公国の将来を担う兵士を育成する機関だったか?」


「は、はい、その通りです。」


「なら君は兵士になりたいということか?」


「・・・はい。」

  ラディアの視界に外套の薄明かりによって男の顔が映し出された。

  それはそれは整った顔だった。心が上ずるような、熱くなるような感覚にラディアは襲われた。格好良いなんていう言葉じゃ片付けられない美麗さを持ち合わせており、人間の究極を形にしたような容姿だった。


「兵士になること自体は何ら難しいことはない。どこの国だって人手が多くて困ることはないからな。だが、練度が高くなければすぐに命を落とす。自分の力を自分でしっかりと理解するべきだ。」


「まあ俺が言いたいのは、落ち着いて考えろ、ということだ。」


「あ、あの。あなた様も兵士なのですか?」

立ち去りかけたレイに慌てて声を掛けた。どうしても気になったことを聞いておきたかった。

レイは嫌な顔ひとつ見せずに立ち止まり、ラディアの方に視線と体を向けた。


「似たような存在だ。崇拝するお方を守るために強くならねばいけないのでな。まだ俺はあの方の横に控えるには弱すぎる。」


この人は誰かに忠誠を誓っていて、しかも自分の力がまだその誰かを守るのには足りないと考えているらしい。彼が本気で戦っているところを見てはいないが、アンデッドをあんな粗末な木の棒で倒した力を考えると、ラディアがこれまで会ったどんな人よりも間違いなく強いだろう。本能的な恐怖を感じるほどに。



「あ、あの、レイ様は公国に滞在しているのですか?」


「ああ、少しやらなければいけないことがあってな。何かは教えてやれないが。」


「・・・お忙しいですよね?」

自分が何故ここまで目の前の男の人にこだわりを持っているのか、ラディアは漠然とだが理解していた。

一片だけでも感じた彼の力を教えてほしいという思いと、仄かに心を暖かくする抱いたことのない感情が所以だ。


レイは疑問を浮かべた表情を隠さなかった。その目は真意を問うていた。

「出来れば私に剣を教えていただきたいです!」


「剣を?見ず知らずの俺にか?」


「先程のアンデッドを倒した時の動きや力の使い方は並の剣士では絶対に出来ないものでした。どうか私にその技の一端だけでも・・・・お願いします!」


こんなにも必死な懇願をしたことはなかったが、不思議と恥ずかしいという気持ちは皆無だった。ただ純粋に教わりたいという気持ちで一杯で、レイが首を縦に振ることを祈っていた。

レイは少しの間考え込んでいた。正直言ってレイにとってのメリットはない。ただ厄介事に巻き込まれる可能性が高くなるだけだ。それでもレイは首を縦に振った。


「時間が空くときなら構わない。それでいいのなら。」


「はい、それでお願いします。ありがとうございます。」


どこか稽古をするのに都合が良い場所はないかと尋ねられたので、東の域にあるクツナ大草原がいいのではという話をした。

レイはその提案を二つ返事で了解した。

そしてレイはついでにと自らが泊まっている宿の場所まで教えてくれた。それが何を意味するのか、少し想像してしまった自分が恥ずかしく、ラディアは顔を赤らめる。


ラディアはレイが立ち去る姿が見えなくなるまでずっと目で追っていた。

 見えなくなってしばらくしてから魔導器を取り出し、フィオーラに繋いだ。

  ラディアからの着信を待っていたかのようにすぐにフィオーラの声が返ってきた。

「・・・ラディア!ラディアなのね?大丈夫?」


「うん。大丈夫だよ。怪我一つしてないから。フィオーラの方こそ大丈夫なの?」


「・・・うん。私は全然・・・ラディアに比べたらたいしたことないよ。」


「そっか。ならよかった。フィオーラ、寄り道しないで帰ってよ?」


「わ、わかってるって。こんなことがあって夜出歩いたら馬鹿だよ。」


「うん、じゃあ明日ね。私もすぐに帰ろうと思う。」


「・・・ありがとう、ラディア。」


「いいって。」


  魔導器の通信が途絶える。

  フィオーラは複雑な感情を抱いているようだった。友を置いて逃げてしまったことを後悔している、そんな感じだった。ラディアが逃げるようにと言ったので罪悪感を抱く必要なんてないのに。


  ラディアがいなくなった路地裏にはまた新たなアンデッドが姿を現し、放浪しはじめた。






   クツナ大草原には優しく頬を撫でるような微風が吹き付けているが、今は気持ち良さなど感じている余裕はない。

   荒くなった息をゆっくりと整えてから師匠であるレイに向かって真っ直ぐに駆け出した。

   レイが手にしているのは粗末な木の棒だ。しかしその木の棒はラディアには宝剣以上の力を持つように思えた。


「はあ・・・はあ・・・はあ・・届かない・・・!」

   ラディアの剣は一度たりともレイの身体に届かない。逆にレイの得物は何度もラディアに当たっており、その回数は数えきれない。

   どうやったらこんな動きができるのだろう。しかもこれで本気を出していないというのが末恐ろしい。

「レイ師匠・・・これでどれくらい力を出しているのですか?」


「そうだな・・・一割にも満たない。正直言って力を一切出していないといっていいだろう。」


「そう・・・ですか・・・」


   レイ師匠と稽古をし始めて、これで一週間が経った。

   その間に成長した気がしないのは彼の力の底が全く見えないからだろうか。ただ自分に成長が見えないからといって悪いというわけじゃない。彼のような存在と手合わせできるのはラディアにとって幸運なことなのは間違いない。


   嚙み締めよう、感じよう、この一瞬を・・・・・



   ラディアは草原にへたり込む。疲れ切った身体はもう動かない。

「動きが教科書通りって感じがするな。だから読みやすい。剣士ならばこう動くだろうという型に当てはまってるから分かりやすい。」


「読みやすい・・・」

  そんなことを言われたのは初めてだ。自分よりも圧倒的な強者だからこそ分かったのかもしれない。

  

「もっと自由に動けばいい。」


「自由に、ですか?」


「ああ、相手に読まれないように工夫することも大事だ。」


  その後もレイ師匠との訓練稽古は続いた。


「レイさん、その子誰ですか?」

  ラディアが今日何度目かの倒れこみをしたタイミングで見知らぬ女性の声が鼓膜を揺らした。

  それまで表情を崩さなかったレイだったが、その女性を視界に入れるやいなや驚愕に満ちた表情を浮かべた。


「ん・・・何故おまえがここに?」


「タケミカヅチ様がレイさんのサポートをするように、と仰せられたので私が来たんです。さすがに独断でこんなところまで来ませんよ。」


綺麗で、かつ魅惑的な女性だった。華麗な素足をこれでもかと出して、花魁の衣装を纏っている。あまりにも周囲との環境と乖離していて、違和感がすごかった。街中で見かけたなら何か特別なイベントでもしているのかと誤解してしまう、そんな感じだった。

二人の会話はラディアをよそに続けられている。

「アラーナ、サポートしてくれるのはいいが、その格好で街中に入るつもりか?そうだとしたらあまり好ましいとは言えないぞ。」


「そうしたいのは山々ですけど、さすがに悪目立ちしちゃいますからね。街に入るときはちゃんと魔法で偽装しますよ。」


着替えるという選択肢はないんだ。あの花魁の衣装に何か特別な意味合いがあるのかな?そんなことを考えていたらアラーナの妖艶な眼がラディアを捉えた。


「さっきのを見ると、この子に剣を教えていたんですね?またいつもの癖が出てますよ、レイさん。」

アラーナはため息をついてラディアから目を離す。その目は決してラディアを侮るようなものではなく、レイに対しての呆れが大半だった。


「自覚はある。だが、公国について知るのなら民衆と接触しなければならないだろう?」


「またそんなこと言って。」


「まあいいじゃないか。それにラディアは才能があるぞ。」


「へぇ、レイさんがそう言うのならそうなんでしょうね。」


アラーナの視線がふたたびラディアを捉えた。ただ先程とは違い、体の中を隅々まで探られて分析されているような気分だった。ごくりと一度唾を飲み込む。


「タケミカヅチ様のお役に立てる人材なら文句はないですけどね。」


「長い目で見れば、なれる可能性を秘めている。」


ラディアにとっては訳のわからない話が展開されており、内心居心地が悪かった。アラーナと呼ばれる女性が自分に興味を抱いたのははっきりと分かった。ちょっと怖い。


「ラ、ラディア ソルティアと申します。よろしくお願いします。」


「ご丁寧にどうも。私はアラーナ。以後お見知りおきを。」

頭を下げたときに美しい艶のある黒髪がさっと靡く。ラディアの鼻腔を優しく包み込むような良い香りがふわっと漂ってきた。


振る舞う所作全てが美しい。こんな風な女性になるにはどういう生き方をすればいいんだろうと疑問に思った。


「・・・ラディアちゃんね。まあ、これから長い付き合いになるかもしれないから、よろしくね。」


クツナ大草原での訓練はお開きになり、次は三日後の同じ時間に集合だと伝えられた。未だにレイ師匠に訓練をつけてもらっているのを学院の誰にも伝えていない。友達であるフィオーラにもだ。別に頑なに隠しているわけじゃないが、何となく言いたくない。それが何故だかは自分でもよく分からない。


夕焼けが真っ赤に空を染め上げたところでラディアは自分の家に到着した。

「あら、ラディアおかえり。今日は早かったのね。」


「ただいま、シルエおばさん。うん、今日は予定より早く切り上げたの。」


「いつもは稽古に没頭しちゃうからね、ラディアは。たまにはそういう日があってもいいんじゃない。」


「う、うん。息抜きは大事だからね。」


シルエおばさんはラディアを引き取ってくれた親戚のおばさん。母の妹らしいが、幼少の頃に会った記憶はほとんどない。シルエおばさんは元々仕入れをする仕事をしていたらしく、ロングロデオ王国に住んでいる時期があったという。その期間とラディアの幼い頃が重なっていたためにシルエの存在がラディアの記憶に残っていないのだ。


ご飯できたら呼ぶねとシルエおばさんは微笑みながらそう言った。ラディアは家の奥に位置する自分の部屋に入り、勢い良くベッドにダイブした。ふかふかの感触が身体を包み込むと、すぐに眠気が襲ってきた。久しぶりの気持ちの良さにどっと疲れが流れていく。眠りについたのは良かったが、すぐに魔導器の着信に目を覚ました。

「・・・どうしたの?フィオーラ。」


「・・・ラディア、また現れた・・・しかもたくさん・・・!!」


「え?な、何が?どういうこと?」


  フィオーラが言っている意味がわからなかった。突然すぎてすぐには頭が追い付かなかったが、徐々にわかるようになった。アンデッドのことを言っているに違いない。


「フィオーラ、今どこにいるの?」


「学院の中に。ただ外にアンデッドがたくさんいて出られないの。他にもまだ生徒がいるんだけど・・・」

  

「教官は?」


「残ってた教官が戦ってくれてるんだけど、順調じゃないみたいで・・・結構やばいかも。あ、でもだからって来ちゃだめだからね。そのために連絡したんだから。」


「忠告するために?」


「うん、ラディアならこの時間でも訓練するんじゃないかなって思ってね。でも一つだけお願いしたいことがあるの。学院に応援を呼んでほしくて。」


「うん、それはいいけど・・・・本当に大丈夫?」


「大丈夫。絶対逃げ切ってみせるよ。」

  

  通信が途絶えた。ラディアは即座に家を飛び出して、レイが泊っている宿に急いだ。夜に出歩くのはアンデッドが出没する危険もあったが、そんなことを言っている状況じゃない。緊急事態だ。


  宿までの距離はおよそ五キロほどだったが、二十分も掛からずに到着した。

  宿の名前はいすゞ亭。よし、メモに書いてあるのと同じ。それを確認してからラディアは宿屋の扉を開いた。いらっしゃいと朗らかな笑顔で迎えてくれたエプロン姿のおばさんにラディアはレイという人物がここに泊まっていないかと尋ねたが、少し困惑した顔を浮かべてからおばさんは言いづらそうに口を開いた。

「うーん・・・教えたいのは山々なんだけどねぇ・・お客さんの情報を教えるのはちょっとねぇ。」


  宿屋のおばさんが言っていることは道理だろう。安易に情報を渡してお客に不利益があった場合、店の看板に大きく傷がついてしまう。下手をすれば営業することさえできなくなる可能性すらある。子供に聞かれたからと言って手放しでいいよというわけにはいかないのだろう。

  ラディアがどうしようかと考えている最中、宿屋の入り口の扉が開くのと同時に彼女を

呼ぶ声がした。

「お、ラディアちゃんじゃん、どうしたのぉ~?こんなところで?レイさんと一緒に寝に来たの~?うわお、積極的~!」

 今にも倒れそうになるくらいフラフラとしているアラーナと、それを肩を貸して支えているレイの姿がそこにはあった。どうやら飲み歩いていた様子だった。

「そんなわけないだろ。というよりもアラーナ、飲み過ぎだぞ。」


「レイ師匠!」


「ラディア、どうした?何かあったか?」


「アンデッドが、学院に・・・」

  ラディアが発したその言葉だけで何を意味したのか理解したレイは真剣な顔つきでわかったとだけ言うと、アラーナを部屋へと連れていった。


  一分もしないうちに戻ってきたレイは黒いコートを身に纏い、フードを目深に被って誰だか分からない感じになっていた。

「ラディア。すまないが、学院まで案内してくれないか?君の安全は保障するから。」


「はい、喜んで!」


  ラディアは強く、強く頷いた。無論言われなくてもそのつもりだったし、学院に向かわないで帰るなんて選択は頭の片隅にすら存在しなかった。

  レイとラディアは急いで剣帝学院へと向かいはじめた。


  同時刻、いすゞ亭のレイが泊っている部屋ではアラーナがすやすやと気持ち良さそうに寝息を立てていた。


  





















  

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