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武神は異世界を闊歩する。  作者: カケル
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魔人到来

   レモンネークの全てが我のもの。レモンネークを統治するのはこのウェルバックだ。町長なんて名前ではなく、ノームと同じように総帥と名乗ることにしよう。


   レモンネークの状況は一変した。ウェルバックが総帥を名乗り、ナバール連合からの独立を宣言。一方的に連合に宣戦布告をした。 

   彼の目的は連合全体を支配下に置くこと。そのためならばどんなことでもする。彼の慎重姿勢が突如変わった理由は選挙後の悪い噂によるところが大きい。事細かに計画して実行することに嫌気が差したのだ。その改心に一番心躍らせたのはゲシュラだった。これはゲシュラが望んでいた展開だ。これで心置きなく城塞都市ノームに攻め入ることができる。


  よしよし早速・・・・・


「ウェルバック様、では。」


「ああ、行ってこい。好きに暴れてもいいが・・・失敗は許されない。分かってるな?」


「わかってますよ、そんじゃ行ってきますわ。」


  ゲシュラはレモンネークの魔導京から外に出る。元々ここには町長会館があったが、数日のうちに建て替えられた。魔物を使ったからこそできた所業だ。

  そのためか、元の町長会館とは似ても似つかぬ形をしていて、ここは魔界かと思わせる空気を漂わせている。外の空気は人間にはどんよりとした重苦しいものだが、魔人には快適なものだった。

 

  街中には魔物が跋扈し、崩落した建物がそのままになっている場所もままある状況だ。なかには人間もいるようだが、ウェルバック様を支持しているのも心からの感情ではないだろう。すぐにそのメッキは剥がれ落ちる。まあ剥がれ落ちた時は死ぬ時だろうがな。


「おい、どけ。邪魔だぞ、人間。」


「す、す、すみません!ゲシュラ様!」

  今にも殺されるような表情で唇を震えさせる人族の男をバルカーはゴミを見るような目を向ける。

  ああやっぱ殺したくなるな。こんな弱小の種族がここにいるのは目障りでしかない。やはり全て殺すべきだ。

  ゲシュラは右腕を振り上げる。が、そのまま下ろして立ち去った。

「勝手なことしたら怒られるな。やめとくか。」


  レモンネークを出て、優雅に馬車を使い、城塞都市ノームへと向かう。

  車内でゲシュラは睡眠を取り、魔物の御者が黙々と馬車の上で目を光らせている。

  異常なんて起こらないからそこまでする必要はないのに、聞かない奴だ。起きたとしても殺せば終わりだ。


「もうちょっと楽してもいいんだぞ?」


「・・・・・・・」


  返答はない。というかデスピエロみたいに喋れる魔物じゃないのでそれを期待する方がおかしいか。


  そんなこんなで馬車は城塞都市ノームがあるナバール連合の北方平原へと到着した。

  おお・・という声を漏らしたゲシュラの視線の先には堅牢な城壁が南北にわたって広がっていた。壮大だった。下界に来てからこんなにも幻想的で巨大な都市を目にしたことはない。ここからは城壁と中央に聳える城しか見えないが、それは心から理解できた。


「期待できる・・・期待できるぞ、これは。くくくく・・・・」


  馬車は速度を緩めることなく、ガタガタと揺れながら城塞都市に近付いていく。

  平原に咲く花や草が揺れているのを横目に愉悦が待つ場所が目の前まで迫った。しかし城門は障害物があって確認することができない。

唸るような低音が鼓膜を揺らす。馬車を降りるとそこにいたのは魔物のトーテムだった。

ゲシュラは魔物の知識が豊富というわけではないが、トーテムがどこにでもいる存在ではないことくらいは分かる。かなり珍しい魔物だ。

何故こんなところに?しかも城門を守るように陣取っている。さながら門番のように。


「いや、あながち間違ってないのか?本当にこいつが門番をしてるんじゃないか?」

 

  ゲシュラとトーテムの視線が交差する。

  トーテムは喋ることはないが、こちらに敵対心を抱いている様子だった。

魔物のくせに生意気な奴だ。まあこの城門を死守するように口酸っぱく言われているのだろうから仕方ないか・・・

口で何を言ってもここを通してくれるわけはない、となると・・・

「ぶっとばせばいいってことか。」


ゲシュラの得意分野だ。というよりも難しいことを考えるのはただ面倒なだけで、ぶっとばすのが楽だというのが本音だ。

  ゲシュラはトーテムに殴りかかる。トーテムの巨大な顔の眉間に一発。鈍い音が周囲に響いただけでそれ以外は何も変わらなかった。


「ほう・・・・このトーテム、なかなかやるな。天界にいた奴とは少し違うようだ。」


  この個体は他のよりも防御力が格段に上だ。いや上という次元じゃない。トーテムの防御力は確かに高い、だがそれでも魔人の一撃を防ぎきるほどではなかったはずだ。

  

「なら次は本気だ。」


  トーテムの表情は先ほどと何ら変わりない。これはゲシュラの雰囲気が一変したことに気付いていないわけではない。もともとトーテムは言葉も喋らないし、表情は変化もしない。そういう魔物なのだ。


  ゲシュラの拳が紫紺の鈍光を放ちはじめた。ゲシュラは鋭い視線をトーテムに向けながら強力な一撃を繰り出した。轟音とともにトーテムの巨躯が吹き飛んで、城門に直撃した。あまりの衝撃で城門が揺らいだように見えたが、よく見るとビクともしていなかった。


  トーテムはというと顔がひしゃげていて、見るも無残な様子だった。恐らく死んでいる状態なんだと思う。これまた表情が変わらないから分かりづらい。

「よし、これで邪魔な奴はいなくなった・・・ただ今ので壊れないとはな。この城門・・・どれだけ頑丈なんだ?」


  よく見ると城門が造られている素材はアダマンタイトだ。天界と下界とでは貴重さが違う金属だ。下界ではS級クエストの報酬など凡人では絶対に得ることができないくらい貴重なものとして存在している。天界では運が良ければ天然のアダマンタイトを掘り当てることができる。一般の天界人でも手に入れられる可能性を考えれば、下界よりはだいぶ安価になる。


「下界でこれほどのアダマンタイトを・・・いやこれが天界だったとしても相当な量になるな。・・・何者だ?」

 

 ここで色々と考えていても意味はない。まずはこの城門をどうやって突破するかが問題だ。さっきの衝撃で壊れないところを見ると、やはりアダマンタイトの耐久性は侮れない。

 城門を何度か殴りつけるが、ビクともしない。

 

「面倒だが、もう一度本気を出すか。」


 そう言ってゲシュラはトーテムを倒したのと同じ攻撃を繰り出そうとした。しかしすんでのところで拳を止めた。彼のことを呼び止める声が上から聞こえたからだ。


「ちょっと!あんた何やってんの!」


「何だ?」

  ただの小娘、というのがゲシュラが抱いた印象だった。しかも生意気という形容詞がつくほどのだ。


「ここがどこだが分かってて来てんの?しかもこんな大暴れしてさ。あり得ないんだけど、ホント。」


「お前は何だ?何者だ?いや、何だっていい。お前は強いのか?聞きたいのはそれだけだ。」


「少なくともあんたみたいなクソよりは強いわ、絶対にね。」

  

「そうか、じゃあやろうぜ。」


 ゲシュラは城門の上に向かって飛び上がり、小娘に容赦なく殴りかかった。だが、その拳は小娘には届かない。その手前で不可視の障壁に阻まれた。

「魔導士か、お前?」


「だったら何?あんたに教えることなんて何もない。」


 小娘は掌をゲシュラの方に向ける。膨大な魔力を検知し、ゲシュラはすぐさま後退する。

 それと同時に小娘は魔法を行使した。大気をも焼き尽くす灼熱の業火がまるでゲシュラを追跡するように向かってくる。いやこれは確実に自分を追ってきている。気のせいではない。

  小娘が使った魔法はA級炎魔法のブルズ プロミネンスだろう。ただし火力が留まることを知らず、小娘が優秀な魔導士であることを裏付けている。

  逃げても逃げても追ってくる炎塊に業を煮やして、ゲシュラは立ち止まって炎を受け止めた。

  熱に体を支配されるが、ぐっと耐える。魔人の身体は人間とは違い、あらゆる属性にある程度の耐性を持っている。

  小娘が使った魔法くらいじゃ魔人の身体にダメージを負わせることはできない。

  

  ただし小娘はゲシュラを魔人だと認識しているわけではなかったようだ。その証拠にブルズ プロミネンスが全く効いていないことに驚きの表情を浮かべていた。


「リンダ、何を険しい顔してる。あいつは魔人だ。効かなくて当たり前だぞ。」


  小娘の背後から何者かが現れた。見たところによると少年、小娘と同年代くらいの人族の少年のようだった。


「あ、タケミカズチ様!すみません、今処分しますので。」

  

「焦ることはない。お前の力なら余裕のはずだ。下界での初めての戦闘だろう?じっくりやるといい。」


 二人で話す声が筒抜けだ。二人ともそれを気にしていないのだろうが、どうも内容が癪に障る。


俺を殺るのは簡単だ、つまりそういうことだろう?上等だ、やってやるよ。魔人の恐ろしさってやつを見せてやる。


ゲシュラは目を血走らせて、制限をかけていた力のリミッターを解除する。体を構成していた筋肉が肥大し、体から魔力が漏れ出しはじめる。明らかに今までとは違う空気だった。

何もしなくとも力が湯水のように涌き出てくる感覚。久しぶりすぎて懐かしさすら感じてしまう。魔人としての本来の力だ。下界に来てから本気を出す機会がなかったのはゲシュラを落胆させたが、今回のことでその苦渋の日々も忘れることができる気がする。ようやく楽しめるのだ、きっと。


「魔人だったんなら、今ので死ななくても当然よね。ってかなんか別人みたくなってるんですけど。」


「俺が魔人だと知ってそこまで驚いていないようだな。お前、天界の人間か?」

下界に魔人の存在を認知している者はほとんどいない。歴史学者や魔人伝説のある国の王族が伝承を見聞きしたことがある程度にしか知れ渡っていないのだ。ましてや何も関係のない連合の民衆らが知っているわけがない。

しかし小娘はゲシュラが魔人であることをすんなり受け入れた。というよりも魔人とは何だ?という表情さえ見せなかった。

つまり魔人を知っているということ。


「知らないでここに来たの?あんた、ほんとに魔人?」


小娘はあっさりと認めた。自らが天界人であることを。

ということはこの城塞都市ノームも天界から来た何者かが築いた都市だと考えられる。


「天界人ならば俺を楽しませてくれる力を持っていそうだな。」


下界に飽き飽きしていたところだ。天界に戻って暴れたいという欲求がここで解消されるとは思いもしなかった。

ニヤニヤを止められないまま、ゲシュラは再び小娘に襲いかかった。


死撃デス インパクト!」

魔力を右腕に込め、ぶん殴る。ただそれだけの攻撃だ。しかし尋常ではない威力を秘めており、小娘の生存本能を刺激した。


小娘は咄嗟に魔法を行使した。

「ヘルファイア ウォール!」

暴炎の熱壁が二人の間を阻むように作り出される。

魔人の魔力は炎壁を容易くかき消して、生まれた衝撃が城門にぶち当たった。アダマンタイトが軋む音が平原に響いていく。


「お、やはり本気を出せばアダマンタイトを壊すことは可能のようだな。」


「うわぁ、やっちゃった。タケミカヅチ様、すみません。」


「気にするな。あとで直すから問題ない。それよりもこれが奴の本気のようだ。そう考えるとこの魔人は下級魔人だろうな。」


「それなら私でもやれますね。」

小娘は城門の上から飛び降りた。ようやく戦場に降りてきた小娘に向かってゲシュラは楽しげに笑う。


「あんたが本気で行くなら私も本気でやるから。・・・私はリンダ、爆炎の魔導士。タケミカヅチ二級神下の一人よ。」

急に自己紹介をした小娘に違和感を抱いたが、それ以上にその内容に驚きを隠せなかった。


タケミカヅチの神下?ということは小娘、いやこのリンダという少女は神の使いということか。このノームという都市はもしかして・・・・・・


「ここはタケミカヅチ様が築いた神聖なる都市。あんたみたいなのが来ていいところじゃないの。・・・S級魔法、ギアノ・ラ・プロミネンス。」


平原の土が溶け出すほどの灼熱が生まれ、深い蒼色をした巨大な炎の塊がゲシュラに向かってきた。

熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い。熱すぎる。

魔人だからといって耐えられる熱さではない。これはもう地獄の底だ。こんな魔法の前に種族なんて関係ない。全てを焼き付くす業火はゲシュラを包み込む。ここは逃げるしかない。この魔法に対抗できる手段をゲシュラは持ち合わせていなかった。


足元の地面がぐにゃりと曲がり、粘性を持っているためか、思うように体を動かすことができない。

 気づけば炎塊は目の前まで迫っていた。

 こんな場所でくたばってたまるか!ゲシュラは叫びながら全身から魔力を解き放ち、炎塊を受け止めようとする。だが、リンダが放った魔法の威力を相殺することができず、のみ込まれてしまう。炎に溺れ、肉体を構成する物質全てが溶けていく。これが痛みか、これが恐怖という感情なのか。ゲシュラは呆気ない最期を迎えようとしていた。


「ただで終わると思うなよおおお!!!!!」


  自らの体内にある魔力を高圧状態にしたゲシュラは最期の抵抗を試みる。

   自爆。

   自らを爆発させて、周囲にある全てを破壊する捨て身の魔法。アルミラが使うSS級魔法ハイノドンに似ている魔法だ。

   爆風が放射状に広がり、大気を燃やし尽くす。

   

   ゲシュラは城塞都市ノームの城門前で命を落とした。




   

◇◆◇◆◇




「うあああああ・・・・危なかった・・・・ありがとうございます。タケミカズチ様」

  腰が砕けるようにして尻餅をつくリンダ。S級魔法の行使は彼女にとってもノーリスクなものじゃない。体内の魔力の枯渇で行使後は体を思うように動かせなくなるのだ。


「お、おお。怪我はないか?」


「は、はい。大丈夫です」


  タケミカズチはほっと胸を撫でおろした。リンダが奮闘しているのを城門上から眺めていたら魔人は突如として自爆魔法を行使した。魔人の体内にある魔力が急激な勢いで膨れ上がったのを見逃さなかったタケミカズチのファインプレーだった。

  対処は難しくなかったので、自爆の衝撃は全て無効化できたはずだが、多少の焦りはあった。というかまさか自爆するなんて思っていなかったのだ。魔人が自爆魔法を行使できるとは聞いていたが、それを生で見た機会は今までなかった。もっと魔人について学んでおくべきだったとタケミカズチは少し後悔した。

  

「あの魔人は何故ここに来たんでしょう」


「さあな。だが、あの魔人はレモンネークにいたウェルバックの部下の一人のようだぞ」


「その、うぇるばっくって奴の指示ですかね?」


「ん~・・・あり得なくはないが、どうだろうな。まあ、もしそうだとしたらこれで終わりじゃないだろうな」

  まだ他に災難が続く気がしてならない。タケミカヅチが考える嫌な予想はいつも当たる。


「また何者かを送り込んでくるってことですね」


「それかウェルバック本人っていう線もある。ま、可能性は低いだろうけどな。」

  

  ウェルバックが指示していたとしても、していなかったとしても新たなレモンネークが動き出したのは間違いない。

 

「そういえばレモンネークはナバール連合から独立したんですよね?」


「ああ、だが手続きなしで奴らが勝手に言っているだけだからな。正式な決定ではないはずだ」


  連合に加入している町が独立するには他の町の同意が必要なのは言うまでもない。緊急の会議さえ行っていないのに独立を宣言するのは呆れた行為としか思えない。


「街作りと並行して防衛の方も着手していかないといけないようだな」


  タケミカズチは城門付近で死んでいるトーテムに視線を向けて、そう呟いた。



  



 

 



 












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