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武神は異世界を闊歩する。  作者: カケル
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とってかわる

レモンネークの新町長、ウェルバックは就任早々に自らの自衛兵団をレモンネークの公衛兵とした。今まではウェルバックを頂点とした民間の自衛兵だったため、給金はウェルバックが社長を務める民間組織から払われていたが、今回公衛兵となったことで民衆からの税金の一部が彼らの給金となる。民間の時代よりもずっと多い金額をもらうことができ、兵士達のやる気は格段に上昇した。町を守る軍隊を公的な組織にすることに強い反対を示す者は誰一人としていなかった。それもやはり魔物の暴走とフェザーランド公国の侵攻があったからというのが大きいだろう。

  魔物の暴走はもう起こらないのは確実だ。なぜならあれを引き起こした主犯はウェルバックの部下であるゲシュラだからだ。問題はフェザーランド公国の方だ。ギリアムから受け取った引き継ぎ書のなかに公国の侵攻は城塞都市ノームの助けがあったので難を逃れたとのこと。

  西区の魔物を排除してくれたのもノームの兵士の助力があったからこそ。彼らは今も西区の外れにある屋敷に滞在しているとのこと。それはレモンネークとノームの友好を表している。これから友好関係をどうするのかはウェルバックの意思で変えられる。ノームの総帥であるタケミカズチは今後変わらずに関係を継続しようという文が届いた。今のところは継続しようと思ってはいるが、対立関係になることは明白だ。今後は城塞都市ノームの情報を集めていくことにしよう。他の町は眼中にない。


  ウェルバックはかつてギリアムが座っていた町長の椅子に深々と腰掛けて、物思いに耽っていた。この椅子の座り心地は悪くない。だが、もっと良い権力の座があるはずだ。

  ・・・・・少し自分の意思を出し過ぎたか。まずは上に納得してもらえるようにナバール連合を支配する必要がある。

  

  コンコン。扉をノックする音が室内に響き渡る。


「入れ。」


  ガチャ。入ってきたのは秘書に任命されたキップという人族の男だった。


「何かあったか?」


「ロスベルトの町長、ジャコル氏から祝電が届きました。」


「そうか、これであとはカロリーナだけか。他の四つの町からは届いているな?」


「はい。」


「同じような文を送っておいてくれ。」


「わかりました。」


  ロスベルトの町長、ジャコルは個人的にギリアムと親交があるという。おそらくウェルバックのことを警戒している。そのため、祝電に時間が掛かったのではないかとウェルバックは踏んでいる。まあジャコルがそう感じていようが、何の問題もない。

  

「ウェルバック様。」


「何だ?」


「ギリアムはそのままにしてよろしいのですか?」


「始末しなくていいのか、ってことか?」


「はい。」


「・・・・今は野放しで構わん。殺したら面倒なことが起きるぞ。バルカーが反乱を起こす、間違いなくな。」


「それは確かに面倒ですね。バルカーの力はこの町でも相当なもの。できれば駒にしたいくらいですね。」


「ああ、だがそれは難しいだろうな。奴はギリアムに忠誠を誓っている。それが変わることはないと思うぞ。」


  バルカーの戦闘力はB級冒険者上位と同じレベルだ。下手をすればA級冒険者に勝るかもしれない。ウェルバックの公衛兵のなかにそこまで優れている人材は皆無だ。


「ただ・・・惜しいな、本当に。」

  どうにかして寝返らせることができないか一考する価値はあるかもしれない。

  

「キップよ、ゲシュラを呼んできてくれ。この屋敷の一階にいるはずだ。」


「わかりました。」



  

  前町長ギリアムはレモンネークの南区に新たな邸宅を購入し、そこに住んでいた。

  南区はギリアムに票を入れた人が最も多い地区だった。それだけが理由ではないが、それも大きな理由の一つなのは間違いなかった。

  邸宅には長らくメイドとして働いてくれているミセス ブブカと側近であるバルカーの二人も共に住んでいた。

  ミセス ブブカはギリアムが幼少のころからずっと住み込みで働いている。彼女の精神はギリアム、いやベルティーユ家に捧げられている。

  お茶や珈琲の入れ方、料理、洗濯、掃除、あらゆる家事を速やかにこなすことができるように若い頃からみっちりと仕込まれたため、メイドとしての基本的な仕事に困ったことは一度もない。

  ベルティーユ家はレモンネークに留まらないナバール連合内の有力貴族だ。連合の二大貴族の一つと世間から言われている。まあだからといって権力を振りかざすような力があるわけじゃない。昔ならいざ知らず、今の時代では連合内での貴族の意味合いは金がある、ただその一点に過ぎない。その金によって力を得ている者もいないわけではないが、そういう輩は得てして脆く、短命だ。


  ベルティーユ家が久しぶりに陽の目を見たのはギリアムのレモンネーク町長就任。今からおよそ八年前のことだ。

  もちろんブブカも就任当時からメイドとしての仕事に勤しんでいた。ギリアムの苦楽を間近で見てきて、その優れた治政に心から感嘆した。何かの長になる者に求められるのは手を汚すことをどれだけ厭わないか、だ。優しさと厳しさなんていう単純なやり方でなんとかなるものじゃない、と思う。

  

「どうされました、ブブカ殿。」


「いえ、少し考え事をしていまして。」


「ここ最近の環境の変化は著しいものがありました。それも致し方ないかと。」


「ええ、そうですね。バルカーさんも大丈夫ですか?ずっと働き詰めな気がしますが。」


「ギリアム様のためです。このままで終わるような人ではありませんよ、あの方は。」


「私もそう思います。そのために私も働かなくてはなりません。」


「ブブカ殿の力はギリアム様には絶対に必要なもの。もしもの時はよろしくお願いします。」


「もちろんです。ギリアム様の命だけは絶対に守り抜きます。」

  

  バルカーもブブカもウェルバックがギリアムを始末するのではないかと考えている。次代の王が先代の王を暗殺するのは珍しいことではない。王家とは違うが、この町でもギリアム派は無視できないほど存在しているので有り得ない話ではない。

  

  ギリアムが南区にひっそりと暮らしているという事実をウェルバック側はもちろん把握しているので、いつこの邸宅が襲われるか分からない。バルカーの数人の部下が外で周囲の警戒に当たっているらしいが、あまり意味を為さないだろう。

  ギリアム様は部屋に籠って、何かを執筆している。町長を辞した次の日から黙々と書き始めた。

  部屋の掃除はしなくてよい、という指示をもらっているため、ギリアムの顔をこの数日は一度も見ていない。食事を届ける時は部屋の扉の前にある台の上に置いておくようにと、これまた指示をもらっている。

  

  玄関の扉が五回叩かれる。五回という回数はギリアムの部下達にそうするように命じたからだ。他の人間と区別するための方法らしい。多少原始的な気がするけど。

  バルカーがゆっくりと玄関の扉を開く。そこには見覚えのある顔をあった。予想通り、バルカーの部下だった。名前は確かビックス。


「どうした?ビックス。」


「はい、ギリアム様にお会いしたいという者がいまして。」


「・・・誰だ?」 

 バルカーの顔が瞬時に険しくなる。


「どうやらロスベルトの町長、ジャコル様の使者らしいのですが・・・」


「そう名乗ってはいるが、確証はない、と?」


「俺の判断で通すのはあまりにも危険な気がしまして。」


「そういうことか。・・・わかった。私が直接出向こう。」

 バルカーはそう言うと、ブブカの方に顔を向けた。

 ブブカは一度大きく首を縦に振った。


 バルカーが邸宅を出ていくのを見送ってから邸宅にある窓の外を順々に見ていく。怪しい人間の姿はない・・・殺気も感じられない。魔法が行使される兆候もない。

総じて、異常はなかった。


「ということは本当にロスベルトからの使者かもしれないわね。」




  邸宅のリビングにはロスベルトの使者が腰を下ろしていた。

  その目の前にはギリアムの姿が。数日振りにお顔を見たが、体調は悪くなさそうだった。

「ロスベルト町長ジャコルからこちらをお持ちするようにと・・・・」


「これは・・・?天剣、か?」


驚きの表情を浮かべたギリアムは差し出された天剣をじっくりと観察する。バルカーも同じように目を見開き、信じられないという顔をしている。その気持ちはブブカにも理解できた。彼女も内心、え!っという感じだ。

 天剣は魔剣とは比べものにならないほど貴重な特殊武具だ。魔法武具店で魔剣が売っていることはあっても天剣が売られていることはまずないだろう。魔剣ですら滅多にないのだから。ただもし仮に売っていたとしても魔剣で100万シルク、天剣ならば1000万シルクはくだらない。


「はい。こちらはジャコル様がお持ちの中で最高の魔法武具でございます。天剣アルミレーディスです。魔力を込め、一振りすれば村を一つ壊滅させることができると言われています。」


「凄い・・・凄すぎる。何故こんなものを。ジャコルが魔法武具を集めるのが趣味ってのは知っていたが、これほどのものを持っているなんて・・・」

  ギリアムは口の中に溜まった唾を呑み込む。 

「それで、これを俺に渡した目的は何なんだ?」


「ジャコル様は友情というものを大切にするお方。ギリアム様にレモンネークの町長でいてほしいとお思いなのです。」


「俺に反乱を起こせと言っているようなものだぞ、それは?」

 

「あなた様がそれを起こさぬという選択をするとは思えませんが・・・」

 にやっと笑う使者を咎める者はいない。バルカーもブブカも反乱を起こすという意思を持っていた。それが民衆のためになるかどうかではなく、自分たちが頂点と崇めるギリアムのためになると信じているからだ。

「反乱を起こせば民が確実に死ぬ。その選択は得策じゃないだろう?反乱を起こして仮に勝利したとしても勢力は二分され、レモンネークはかつてない地獄絵図と化すだろうな。」


「勢力の二分は今も変わらないかと。選挙で選ばれたといっても民衆の全員がウェルバックを選んだわけではありません。ギリアム様も支持している民も多くいます。ウェルバックはそんな存在を疎ましく思っているでしょうね。」

なおも使者は話を続ける。

「ギリアム様が悩んでいらっしゃるのはタイミングですね?いつ反乱を起こすかというタイミング・・・」


「・・・何か民衆に不都合なことが起こらない限り難しいだろう。何もないのに武力を行使すれば今支持してくれている支持者を失うことになりかねん。ただ単に選挙の結果に満足できなかったから暴れ始めたと思われるかもしれないからな。」


「しかし時間が経ってもウェルバックの治政に穴がなければ機会は訪れませんよ?ここは馬鹿正直に行くのではなく・・・・」


「でっち上げてでも戦え、ということか・・・」


ギリアムの言葉に使者は大きく頷いた。


「ロスベルトは全面的にギリアム様を支持します。その天剣は本当に危機に陥ったときの最終手段としてお持ちください。」


「俺は悪魔でもなければ鬼でもない。血も涙もない恐怖の統治者でもない。少し時間が欲しいな。選択することに変わりはないが、覚悟が必要な事案だ。」


「ええ、それはもちろんです。もう一度伝えさせていただきますが、ロスベルトはギリアム様を支持します。場合によっては援軍を向かわせることができるかもしれません。そこは検討させていただきますね。」


「ああ、わかった。ありがとう。」


ブブカはソファに堂々と腰を下ろしているロスベルトの使者をじっと観察する。全く緊張しておらず、笑みを浮かべる余裕すらある。

彼は優秀だ。相当優秀だ。

ロスベルトは彼がいるだけで大きく違うのではないだろうか。これほどまでに重要な案件を任されるということはロスベルトのなかでも高い地位にいるはずだ。というかそうでなければ、ロスベルトという町が末恐ろしく感じてしまう。


ともあれギリアム様の意思は決まっただろう。あとは覚悟だけ。反乱を起こし、町長に返り咲くという覚悟。

ブブカはそのためにメイド服を脱ぎ捨て、鎧を着ることになるだろう。久しぶりの武装になる。ブブカもすぐに覚悟を決めた。その目はただ一点だけを見つめていた。




    



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