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武神は異世界を闊歩する。  作者: カケル
38/53

鎮圧と完敗

魔力反応はここにあります。

リリフの一言で降り立った場所にはバディウスはいなかった。あったのは魔力を宿す短剣と、黒に身を包んだ人間のおびただしい死体だった。


「これは魔法による絶命ですね。この死に方はおそらくS級魔法ポイズンデスによるものでしょう。」

体内の魔力に致死性の魔法毒を潜り込ませる魔法。その即効性は非常に有用で、人を殺めるためだけに作られた魔法だといえる。


「S級魔法を使う存在ですか。それは下界ではトップクラスの魔導士なのでは?」


ソイファが接触した魔導士といえばフェザーランド公国の六輪の魔星くらいだが、彼らの力は公国最強だったらしい。ということはあの力は下界では最低でも弱くはない。むしろ強者だった可能性の方が高いというわけだ。国で一番の魔導士集団だったのだからその認識は常識的だろう。


「そうですね、ポイズンデスを使う魔導士は下界では最強レベルといっても過言ではありませんね。ただそれが本当に下界の人間ならば、の話ですが。」


「我々と同じような存在ですか?」

天界にいた存在が自分達の他にいるのではないか?リリフはそう言っているのだ。


「アルミラさんが下界で魔人に接触したらしいので、あり得ない話ではないかと。」


もし仮に天界にいた上位魔人だった場合、ソイファひとりで切り抜けられる保証はない。下位魔人ならともかく、上位魔人の力量は凄まじいものがある。


「これは早急に対策が必要かもしれないですね。」


「ええ、まあ魔人がいるかどうかは分からないですけど、S級魔法を使える相手が近くに存在することはタケミカズチ様に伝える必要がありますね。」


バディウスの魔力反応はこの森の先にはない。ということはここまでしかバディウスは来ていないということ。レモンネークに転移した時にも魔力反応は感知できなかったため、レモンネークに辿り着いているわけではないと思うが・・・・・・

バディウスを発見できない限り、真相は闇のなかだ。どうにかして探し出さなくてはならないが、ソイファには嫌な予感がしてならなかった。潰えた魔力反応、死んでいた暗殺者、S級魔法ポイズンデス。バディウスが無事であることをソイファは祈った。



突如としてソイファの懐にあった魔導器が反応し始める。

バルカーが持つ魔導器の魔力だった。


「はい、ソイファです。どうしましたか?」


「ソイファ様ですか?バルカーでございます。単刀直入に言いますとレモンネークで巨大な魔物が暴れています。至急応援をお願いしたいのですが・・・」


「ガルマとミントは?」


「魔物の対処をしてくれています。が、なにぶん数が多いので被害を食い止めるのが難しいようです。」


「リリフさん。」


「ええ、戻りましょう、レモンネークに。」

リリフは即座に転移門を展開し、二人はレモンネークに移動した。



◇◆◇◆◇





  レモンネーク中地区、ウェルバックの邸宅。

「処理は終わったみたいだな。どうだった、バディウス アーヴィングは?」

 麻布を使った服の上からでも屈強な肉体なのが分かる。声の主はウェルバック。この邸宅の主人であり、レモンネークの次期町長と目されている人物だ。

「いやー・・・A級冒険者だと聞いていたんで期待していたんですがねぇ、、大したことはなかったですよ。」

  ソファに深々と腰を落ち着かせているゲシュラは一度欠伸をする。

「A級冒険者といってもデモテルの中での話だ。相対的に見てもレベルは低いだろう。」


「冒険者の町って言ってもたかが知れているんですねー。ウェルバック様、違う国に行きませんか?ここはあまりにもレベルが低い。」


「ナバール連合は私の担当だ。他国には違う奴らが出向いているだろ?まずはここを支配する必要がある。」


「ちっ、ロスベルトの町長になったデモロスの野郎がもっと上手くやれば、俺たちがこんなことをする必要もなかったんですがね。」

 

「魔導士の少女にやられたと聞いたな。魔人をも殺す力を持っているということはおそらく城塞都市ノームの輩だろう。」


「ノームはやっぱり天界にいた奴らが造ったものなんですか?」


「じゃないと説明がつかないだろう。何もなかった北方平原に突如として現れた城塞・・・天界に伝わる何かしらの魔法じゃないと無理だ。下界の魔法では考えられない事態だ。」


「狙ってみるのも悪くないんじゃないですか?」

  退屈。ゲシュラの頭にはその言葉しか浮かばない。何かもっと血が沸騰するような興奮を感じたい。

  それはこのナバール連合では感じられない、そう諦めていた。一つの可能性を除いては。それが・・・城塞都市ノームの存在だ。数か月前には確かにまっさらだったナバール連合の北方平原に姿を現した頑強な歳。外から城門のなかを確認することは不可能で、門の前には得体の知れない魔物が立ち塞がっているという。

  ゲシュラはそれを聞いたとき、新鮮な驚きと同時に喜びが込み上げてきた。

  やっと退屈な日々から解放されると、そう思ったのだ。


  だが、我が主は慎重だった。デモロスの失敗が大きく響いているのは言うまでもない。あれが無ければ上から連合の支配を催促するように言われることはなかっただろう。上に君臨する者達は我が主にとっては背中も見えない存在らしい。ならばゲシュラなどただの駒でしかない。代わりはいくらでもいるただの駒。それも今だけだ、絶対に自分が上の存在になるという野望をゲシュラは持っていた。


「お前の気持ちも分かるが、あの城塞都市は不気味すぎる。下手をすれば殺られるぞ。」


「ウェルバック様の差し金だとは思わせませんから。何かあっても俺の独断ってことで。それなら問題はないでしょう?」


「お前が万が一にも負けたときのことを考えろ。低級の洗脳魔法は無効にできるかもしれんが、高位の洗脳魔法を覚えている者がいればどうなるか・・・」


「捕まった場合はヤバイでしょう。でももう無理だと思ったら自爆するだけですよ。」


魔人には自らの体内にある魔力を一時的に高圧状態にし、爆発させるという自爆魔法を使うことができる。命を代償にした強力な攻撃魔法であるが、もちろん極限状態にならない限り、そんな魔法は使わない。好き好んで死のうと思う自殺願望を魔人という人種が備えているわけではないのだ。


「勝手にしろ・・・と言いたいところだが、俺がレモンネークの町長になるまでは最低でも待て。」


「じゃああと二週間くらいですかね。」


  ウェルバックがレモンネークの町長になるのはもはや確定事項だ。民衆の心はもうギリアムから離れている。


「二週間後に動き出すのなら文句は言わん。」


「わかりました。そうします。」


「それで・・・魔物の方はどうなった?」

  

「問題ないですよ。ウェルバック様が正義の味方になる機会はしっかりと準備されています。」


 バディウスのおかげで多くの人材を使い、ウェルバックという人物像を良く見せることができた。そして最後の一手がこの魔物の暴走だ。これはバディウスには用意できない舞台。適任なのはゲシュラだった。


「そうか、なら行動しようか。」


「はい、ただ急速な勢いで魔物を処理している勢力があるそうです。レモンネーク西方面は魔物の数が極端に減っていっています。」


「ほう、それは興味深いな。まあ全ての魔物を倒すことはできないだろう。俺は中央、北、東を短刀しようか。」

 ウェルバックは思い出したように言葉を続ける。


「・・・そういえばギリアムは動いているのか?」


「ギリアムの配下にいるバルカーが先頭になって動き出しているようです。」


「予想通りだな。配下にだけ任せて力無き将は後ろに引っ込んでいるというわけか。武力のない町長などいるに値しない、くくく、それが分からんのかな。」


  ウェルバックが書斎の窓を開け放つと、遠くから微かに叫び声が聞こえた気がした。


  そろそろ出ないと手遅れになる。犠牲を最小限にしなければこのプランは無意味なものになる。それでも数十人、多くて百人を超える犠牲は出るだろう。まあ許容範囲内だ。

  ウェルバックはゲシュラを邸宅に残して、急ぐ演技をしながら中央区の民衆が避難している場所に向かった。

  使われなくなった古い大倉庫。かつては町の祭事で使われる道具などが保管されていたため、およそ数百人が余裕を持って過ごせるくらいの広さがある建物だ。錆びがひどい鉄扉を開けると、案の定そこには子連れの女性や歩くのもやっとな老人が身を寄せていた。

  その誰もが扉を開けたのがウェルバックだと知ると胸を撫で下ろしていた。

「君たち、怪我はないか?」


「ええ、大丈夫です。ここにいる皆は無傷です。ただ、まだ避難できていない人が多くいます。その人達をどうか助けてやってください。」


「ああ、もちろんだ。任せておけ。この大倉庫にいればとりあえずは安全だ。ここの防備はこちらで手配する。安心してくれ。」

  努めて笑顔でウェルバックがそう言うと心の緊張が解け、涙を流す人もいた。

  ウェルバックにとっては倉庫内にいる人間に死んでもらっては困る。彼らは貴重な一票を持つ有権者だ。それに中央区は町の権力者が集まる地区であるため、中央区の支持を獲得できれば相手よりも十歩も二十歩も先に行ける。まあ今の段階で中央区のほとんどを手中に収めているんだが。念には念を、だ。


  大倉庫の守りに自衛兵団の部下達を十数人配備した。彼らにとってウェルバックは良きリーダーであり、憧れの存在だった。だからこそウェルバックには使い勝手のいい駒だ。これをもっと増やしていけば民衆を徴兵することなく、軍事力を賄えるはずだ。

  徴兵を一切禁止する、民衆を守るのが町長の仕事だ!と声高々に宣言し、大きな支持を得たのだから実行しなければギリアムに取って代わられる可能性も無きにしも非ず。

「民主的というのはかなり面倒だな・・・・・・」


「どうかなさいましたか?ウェルバック様。」


「ん?ああいや、中央区以外はどんな様子なのか、と思ってな。」


「そうですね。西区は何やら魔物の数が劇的に減っているようで、もうそろそろ全てを駆除できそうだという話を聞きました。」

  ゲシュラから聞いた話と一緒だ。何者か分からないが、ゲシュラが用意した魔物を倒すほどの実力者が西区にはいるらしい。


「そうか、ならば西区は大丈夫そうだな。」


ウェルバックは中央区に入り込んでいた魔物をすぐさま排除した。幸いにも中央区には魔物が大量に入り込んではいなかったため、対処は容易だった。


「・・・・なんとかいけそうですね、ウェルバック様。」

中央区の鎮圧に満足げな表情を浮かべる部下に対してウェルバックは対照的に険しい表情を崩さなかった。


「いや気を抜くのは早いぞ。この魔物の猛攻がいつまで続くのかは分からないんだからな。」


「・・・何故急にこんなことが。」


「それを考えるのは後だ。南区へと向かうぞ。」


「はい!」



ウェルバックの自衛兵団と実質上犬猿の仲だと思われているバルカー率いる衛兵団だが、緊急事態の時まで争うべきではないという考えはあるようで、今回ばかりはウェルバックと密に連絡を取り合っており、北区の魔物の掃討へと急ぎ向かった。

それを踏まえてウェルバックは南区へと向かった。東区を後回しにしたのは入ってきた情報によると南、北、東で最も被害が少ないのが東だったからだ。かといって長い間、放置してしまえば危険なのは明白。南区を掃討し、すぐに東区に向かうべきだろう。


ウェルバックは中央区から南区に馬を走らせる。

「ティルクが戻ったという情報は?」


「いえ、まだです。ですが連絡が取れていない状況ではないので、あと数時間もすれば戻れるとのことです。」


「それでは東区の対応には間に合わんな。やはり早急に終わらせて俺が向かうしかないか。」


「ウェルバック様ならばやれます!」


「俺だけじゃ無理さ。だからこそ・・・お前にも期待しているんだ。しっかり頼むぞ。」


「はい、お任せを。この身が果てようともウェルバック様の命、成し遂げて見せます!!!」

そんな馬の上でのやり取りによって背後の部下の士気も上がる。ウェルバックへの忠誠は強く、決して壊れない鋼のようだった。


南区へと到着した自衛兵団は中央区との被害の差に驚きを隠せなかった。中央区の被害など序の口で、他の区はその何倍も酷かった。これが魔物の恐ろしさなのだと理解させられる光景が目の前に広がっていたが、それで心が折れるほど自衛兵団は軟弱ではない。

剣を抜き、叫ぶ。猛獣の咆哮のような力強さがある。


「魔物を駆逐せよ!!!!」


ウェルバックの言葉が突撃の合図となった。

 おおおおおお!!!!という絶叫と共に剣を振りかざし、魔物を切り倒していく。

 

 ゲシュラが用意した魔物は弱兵には多少きついオーガやグリフォン、デュラハンなどが多く、レモンネークの現有戦力では全滅させるのはギリギリ難しい。ゲシュラもその微妙なラインを選んだそうだが・・・・少し強すぎるのではないか?

  その疑問の正しさを象徴するかのように倒されていく自衛兵団の部下達。このままでは部下全員が殺られてしまう。部下に愛情を持っているわけではないが、いなくなると後々困る。少しだけ本気を出そうか。

  

  ウェルバックは魔人の力をほんの微量だけ解放する。人間の気分を害さないくらいの力だ。違和感を感じる者はいないだろう。もしいたとしたらそいつも間違いなく魔人だろう。

  剣技を使うことなく一振りでオーガを屠る。その姿に驚愕した部下達だったが、すぐに歓喜の表情を浮かべる。我らのリーダーはこんなにも強い!と心から確信することができた表情だ。それがまた部下達の士気を高める要因になる。


逃げ惑う民衆を助けながら魔物を倒すのはなかなか骨が折れる作業だった。やはりもう少し魔物のレベルを下げるべきだった。ゲシュラに言っておかなかったことを今更ながら後悔した。



南区の魔物を鎮圧するのに一時間以上の時間を要した。予想よりも時間が掛かってしまったが、数人の犠牲で抑えることができたのは収穫だった。


「南区の民衆を中央区へと誘導してくれ。またいつ魔物がやって来るか分からんからな。くれぐれも警戒は怠るなよ。」


「はっ!了解しました!」


ウェルバックはそのまま東区を同じように鎮圧させた。そのタイミングでバルカーから北区の鎮圧成功の連絡が来た。

瓦礫の山と化した家々の残骸を見て、涙する住民達をウェルバックは励ます。

自分自身でも信頼を勝ち取っている実感というものが感じられる。この出来事を通じて、現町長派の人間も一定数はウェルバック派になびくだろう。そうすればウェルバックが選挙で負ける確率は万に一つもない。


ギリアムの統治への不満は魔物の暴走で表面化しはじめた。それを狙ってのことではなかったが、ウェルバックにしたら幸運だった。

魔物が暴走し、襲ってきたときの対応が遅いという声もあった。ウェルバックが先頭に立って引っ張ってくれなければ犠牲者はもっと増えていただろう、と民衆は確信していた。


雑務を終え、帰宅したウェルバックを迎えたのは満面の笑みを浮かべたゲシュラだ。彼は計画の成功を心から喜んでいる様子だった。愉快なショーが見れて楽しかったという気持ちもあるのだろう。

「ゲシュラ、お前の感覚は下界とはかけ離れているようだぞ。」


「といいますと?」


「用意した魔物が強すぎて部下が苦労していた。そのせいで何人か死んだぞ。」


「それはそれは。下界に合わせるにはゴブリンやコボルトでないとダメということですかね。ですがなんにせよ、上手くいったと考えていいんじゃないですか?」


「ああ、あとは裏での行動が明るみに出なければ確実だろう。」




一方その頃、対陣営でもあるギリアムは頭を抱えていた。

バルカーや西区にいたタケミカズチの配下の者が魔物退治で健闘してくれたとはいえ、ほとんどがウェルバックの手柄にとなった。確かにウェルバックの戦闘力は目を瞠るものがあるので、その部分は素直に認めざるを得ない。だが、それは指揮する者とは違った能力だ。上に立つ者に求められるのは別にある、ギリアムはそう思っているし、客観的な事実でもあるだろう。だが、今回の場合は当てはまらないらしい。民衆が望んでいるのは強きリーダーだ。誰にも負けない強さを持ち、カリスマ性に富んでいる人間。そう、あのウェルバックのような。


  傍に控えるバルカーは申し訳なそうな顔でじっと動かないでいる。

「申し訳ございません、力及ばず・・・」

  

「いい、お前のせいじゃない。それにまだ選挙は終わったわけじゃないぞ。」


  ギリアムは自分の言葉に心の中で苦笑した。思ってもいないことを口にしている自覚があったのだ。

  バルカーもそれを内心では理解していたが、ただ一度頭を下げるだけで何も言わなかった。


「それから西区で奮闘してくれたノームの兵士にも感謝しなくてはな。彼らに色々と頼んでくれていたのだろう?」


  バルカーがギリアム再選のため裏で動いていたのは知っていた。結果はおそらく身を結ぶことはないが、良い部下を持ったとギリアムは誇りに思っている。


「はい、彼等には迷惑を掛けました。」


  ソイファからデモテルの冒険者であるバディウスが関与しているとの報を受けたが、その客観的な証拠まで見つけることはできなかったようだ。洗脳魔法での発言は確たる証拠とはならない。

  ウェルバックがバディウスを処理したことは想像に難くない。バディウスの実力は相当なものだ。それを理解しているからこそウェルバックが末恐ろしく感じた。

「ウェルバックへの手続きを裏で始めよう。バルカー、手伝いを頼めるか?」

 

「はい、かしこまりました。」

 

 二人の間には長らく町を引っ張ってきた緊張感はなくなっていた。






  




  





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