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武神は異世界を闊歩する。  作者: カケル
37/53

新たな面倒事2

   地面は綺麗に舗装されて石畳が敷き詰められている。石畳の隙間から雑草の一本すら確認することはできず、スラムとの天と地の差にさすがのクレマンも苦い顔をする。スラムに住み、現状を知っているからこその感情だろう。今はクレマン自身もスラムに住む弱者なのだから。


「スラムでの生活に苦労はない?」


「ないといえば嘘になりますが、まあ食うもんには困ってないんで大丈夫ですよ。」


 強がりではない、本音だ。泥水と木くずだけあれば食の面では事足りる。しかし本当の人間達はそうもいかない。食事もままならずに栄養不足で死んでいった者を何人か知っているし、その中にはガキや若い女もいた。あれは酷い光景だった。思い出すだけで今でも胸糞悪い気分になる。

クレマンは新入りだから、まだ悲惨な出来事に慣れていないだけでもう何年もスラムで暮らす者にとってはああまたか・・と珍しいことでないらしい。

朝が来たら死んでいた。その言葉を聞けば土に埋めてやるという作業だけはする。墓なんぞ作る余裕はないし、材料もない。せめて出来るとしたらボロボロの木の板に死んだ者の名前を書くことくらいだ。名前すら分からないってこともたまにあるけど。


「貧富の差がここまで激しいとは思いませんでした。」

デモテルは活気溢れる剛健な町だというのはソイファの勝手なイメージだったようだ。いや間違ってはいないが、それは一側面でしかなかったということだろう。


「デモテルは知っての通り冒険者の町。弱肉強食であり、自らの力で稼がなければ町からはなんの保証もないですからね。出来るべくしてスラムはできたんでしょう。」


「町長はスラムをどうするつもりなんでしょうか?」

決してソイファはスラムに住む人間に同情したわけじゃない。純粋に町長がスラムの行く末をどうしようとしているのか気になったのだ。


「今のところ町長はスラムを放置してやすな。関心がないんでしょう。あんまりにも規模が大きくなり過ぎたら縮小していくんでしょうけどね。」


「デモテルの社会構造上、スラムでしか生活できない人は今後も増えていくでしょうね。」


「違いないですね。」


もちろんデモテルではない町や村に移住する者もたくさんいるが、それすらも叶わない金銭的弱者や身体的弱者、複雑な理由を抱えた者はデモテルのスラムで生活していくしかない。

クレマンは一緒に過ごして、いろんな事情を抱えた弱者に出会った。それは今後も増えていき、それに終わりはない。考えただけでクレマンは憂鬱な気分になった。


「おっとここですよ、バディウスの屋敷は。」


クレマンが立ち止まった先には巨大な屋敷が四方に広がっていた。デモテル屈指の冒険者になればこんな立派な家に住めるんだと子供に言い聞かせる親もいるという。それくらい豪勢な屋敷となっていた。

クレマンは躊躇することなく、屋敷の扉を叩く。こんなに巨大ならばノックさえ聞こえないだろうと思ったが、そんなこともなかったようで中から物音がガタガタと聞こえた。

間違いなく中に人はいるが、扉が開く気配はない。


ふとリリフは異変を感じ取った。


「裏に回りましょう。中にいた人が顔を出してくれてますよ。」

リリフを先頭にすかさず屋敷の裏へと回り込む。敷地が広く、移動するのも大変だろう。しかも独り暮らしとなれば尚更意味のないものだ。


「あ、ありゃあ、誰だ?バディウスじゃないみたいだが・・・」

  背を向けて逃げていく後ろ姿を見てクレマンは首を傾げる。


「捕まえればすぐに分かりますよ。リリフさん、私が行ってよろしいですか?」


「ええ、お願いできますか?」


 ソイファはひとつ頷くと目の前から一瞬にして消えた。

 男を捕まえて戻ってくるまで三分も掛からなかった。


「ひいいいいいいいいいいい!!!!!何なんだよう!!!!」


「正直に答えてくれたらすぐに終わりますよ。バディウスはどこですか?」


「し、知らねぇよ!」


「ならばこの屋敷で何をしていたんですか?」


 男は黙秘を続ける。リリフは溜息をついてから魔法を行使した。すると洗脳魔法はすぐに効果を発揮した。夢うつつな表情で男は頭をゆっくり揺らしている状態だ。

「もう一度聞きます。バディウスはどこにいるんですか?」


「レモンネーク・・・に向かってる・・・」


「具体的な場所はわからないと?」


「まだ発ったばかり・・・近い・・・」


「何をしにレモンネークに?」


「ウェルバックに会いに行くと・・・」


「思い切ったことをしますね。それは何のために?」


「報酬・・・もらいに。」


 バディウスがウェルバックの支持を上げる単に裏で動き、その成果に見合う報酬を受ける。そういうことだろう。

  目の前の男は今回の件の詳細についてよく知っているようだ。何者なのかは分からないが、これはこれで都合がいい。

  それから疑問だったことを全てぶつけた。洗脳魔法のおかげで何もかも包み隠さず、男は答えてくれた。

  ウェルバックはこの数年で地道にレモンネークで名を売った。魔物退治や盗人捕縛、町議員の汚職告発など住民に寄り添った行動を取り、一気に民衆の支持を得た。

  しかしそれは全て自作自演、バディウスらデモテルの冒険者に依頼して作り上げた偽りの偉業だったのだ。

  魔物をレモンネーク近辺に放ったのも冒険者、捕縛された盗人もデモテルの名もない冒険者が務めたらしい。町議員は元々ウェルバックに近しい人物で、ウェルバックの指示で汚職をしていた。それを自らが明らかにするという茶番を演じていたのだ。


「ウェルバックのもとに直接赴くなんて無茶しますね。」


「直接でないと報酬を誤魔化される可能性もありますからね。」


ソイファはリリフの言葉に強く頷いた。自分で受け取らなければ気が済まない。特に冒険者という人種ならばそう思うのだろう。


「レモンネークで待っていましょうか?」


「ウェルバックと接触する前にバディウスを捕縛するべきでしょう。」


  バディウスが報酬を受けとるタイミングで尋問するのが最も効果的だが、どのように報酬が受け渡されるか未知のため、やはり接触する前が最善だろう。


「ああ無視して申し訳ないですね。それであなた自身はこの屋敷で何をしていたんですか?」


魔法道具マジック アイテム、とこしえの鏡を手に入れようかと。あれは貴重な魔法道具なので高く売れると思いまして。」


天界にはない魔法道具だ。まるで聞いたことがない。ソイファもリリフもその存在がどういった効果を持つのか気になった。

男にそれを尋ねると、すぐに答えは返ってきた。


「A級の幻術魔法、洗脳魔法などの精神に害を及ぼす特殊魔法の無効果です。」

便利だが、そんなに珍しい魔法道具でもない気がする。天界にはそれに対応するような天石がごろごろと道端に落ちているし。

それでも下界のような発展途上の世界では当たり前に存在するものではないのかもしれない。そのとこしえの鏡が高値で売れるのならばそういうことなのだろう。


逃げようとしていた男はバディウスの手下の一人で自分も冒険者を生業にしていたが、あまりにも稼ぎがなく追い込まれていたらしい。だからといって同情だとか、その他の感情を抱くことは決してないが、彼が逃げ出した理由が分かって納得した。


男にバディウスの家で寝ているように、と指示を出してリリフとソイファはバディウスを追うことにした。まあ追うといってもレモンネークに転移して、待ち受けるだけなのだが。

クレマンと別れたあと、すぐに二人はレモンネークに転移した。




◇◆◇◆◇




レモンネークは数年に一度の選挙モードに突入している。立候補者が正式に公示されるのは二日後だが、民衆にはもはや現町長ギリアムと自衛兵長ウェルバックの一騎討ちなのは明白だった。

反体制派と現体制派が衝突しないように、と自衛兵長ウェルバックの指示のもとでレモンネーク自衛兵団が町中の見回りを強化している。そのおかげかどうかは分からないが、今のところ衝突らしい衝突は起きていないようだった。その現体制派にも配慮するウェルバックの姿がよりいっそうレモンネークを治める者にふさわしいという声を生み出し、支持の波を大きく広げた。現町長であるギリアムの評価は良くもなく悪くもない。悪くないなら現状を維持する、それが民衆の選んだ結論だった。そのためここ数年はギリアムが町を統治している。

一時期、優秀な騎馬兵を持つティルクが町長候補に躍り出たが、当の本人は全くといっていいほど町長という地位に興味がなかったため、反体制派が彼を押し上げることはなかった。


そこでティルクと共に優秀であり有名であったウェルバックの名前が挙がったのだ。どうにかして体制を一変させ、レモンネークを豊かにするべきだという革新的な考えが主流になりつつあった。

レモンネークに向かい、歩を進めるバディウスにはつまらない争い、としか思えなかった。

今はただ金が欲しい。その気持ち一つでウェルバックの野望に手を貸すとみるみるうちに彼はレモンネークの有名人となっていった。


「報酬の金額は50万シルクか・・・本当にそんな金額を用意できるのか?」


 協力する代わりに受ける報酬は50万シルク。ウェルバックが自ら申し出た50万シルクだ。用意しているかどうかの心配は無用だろう。もし仮に50万シルク用意できなかったとしたら協力関係は破綻する。ウェルバックがそんな愚の骨頂なる行動を取るとは到底思えない。


 レモンネークとデモテルの中間地点、城塞都市ノームの南西方面に差し掛かったちょうどその時、バディウスは異変に気付く。

 森の様子がおかしい。妙に殺気立っている気がする。長年の間、冒険者をやってきて培われた感覚は見えない敵に対して非常に鋭敏だった。

 

 何かがいる・・・・・・?


 それが人間なのか魔物なのか、その判別は全くできない。だが、この殺気を向けられているのが自分であることは理解できた。


「何者だ!?隠れてないで出てこい!!」

 葉が揺れるほどに大きなバディウスの叫びに反応した者は誰一人としていなかった。

 バディウスが周囲の警戒を怠らず、ゆっくりと前に進み、一歩二歩三歩と・・・そして四歩目を出そうとしたその瞬間、光る矢尻が凄まじい速度でバディウスの喉元目掛けて飛んできた。


ただしバディウスは焦りを一切見せない。死と隣り合わせの危機が訪れることなど彼にとっては日常茶飯事だ。


風を切り、鋭突なる鉄矢がバディウスの後ろの木に突き刺さった。

「甘い。」

その一矢を皮切りに次々と矢の雨がバディウスに向けて降り注ぐ。


背負っていた大剣をまるで木の棒のように難なく振り回し、迫り来る矢を次々と打ち落としていく。


「・・・・そんな攻撃じゃ俺は倒せないぞ?」


こんな深い深い森の中で襲われるとは思わなかった。山賊や盗賊の類いか?いや、それにしては数も多い。バディウスは自分の周囲に散らばる矢に視線を落とす。


「誰の差し金だ?」

バディウスの呟きに反応する声はない。

ならば、無理矢理にでも言わせるまでだ。


バディウスは巨体とは思えない速度で駆け出す。なおも放たれる矢はその動きに追い付くことができない。


バディウス アーヴィングはデモテルに三人しかいないA級冒険者だ。冒険者の後輩には尊敬の念を抱かれ、民衆にも期待されていたにもかかわらず、兎人族の少女に苦渋を嘗めさせられたあの日から全てががらりと変わってしまった。そんな粉々に砕かれていた誇りや意地を今ここで取り戻しつつある。


  バディウスの移動速度に森の奥から驚きの声が上がる。

  この程度で驚くとはたかが知れている。誰の差し金かは知らないが、舐められたものだ。


「武剣、大強波!!!」


 バディウスは大剣を振り回し、衝撃波を生み出す。周囲の木々たちが暴風によって大きく揺れ動き、いくつかはそのまま倒れてしまう。

大強波は初級剣技ではあるが、広範囲に影響を与えられて尚且つ技を使う人の練度によって威力が大幅に変化するため、バディウスは修行をする度に大強波を行使し、自分の力を確認している。今もとりあえず使ってみた程度に過ぎないが、初級剣技とは思えない威力を生み出した。


薙ぎ倒された木々の下敷きにならないように必死になって隠れていた敵が姿を現す。

木の下敷きになるか、バディウスに殺されるかの二択。しかしどちらも待っているのは死、だ。


「選ぶもなにもないか?反射的に体が動くもんな?」


全身を覆うほどの大きさの漆黒のマントをなびかせて男たちは射抜くようにバディウスに視線を向ける。

まるで親の敵だな。俺がお前らに何をした?そう問いたい気持ちをぐっと堪えて、バディウスは口を開く。


「これは誰の差し金だ?・・・・言いたくないなら言わなくてもいい。ただしその場合どうなるかは理解しろよ?」


返ってくる言葉はない。その代わりに先程よりも強い殺気を向けてきた。答える必要はない、ということか。


「なら殺すだけだ。」


バディウスが切りかかろうとした瞬間、暗殺者たちは陣形を変え、バディウスを囲むような形を取る。

 特殊技法、インソムニット。

 暗殺者にとっては欠かせない技だと言ってよい。自分の身体能力を100%まで引き上げる技法で、習得するのに一年以上は修業する必要があると言われている。が、実際はどうなのかバディウスは知らない。自分で使えない技について学ぶ意味がないからだ。


 インソムニットを行使した暗殺者の動きは見るからに違った。褒めるわけではないが、自分の最速と変わらない動きだ。

  しかもこの数だ、油断したらやられるかもしれない。


  時間差で攻撃を仕掛けてくる暗殺者の手にはそれぞれ短刀が握られている。装備品としては大したものじゃないが、軽量で使いやすいものだ。あえてこの得物を使用しているのだろう。

   

  ・・・・・・・やはり素人じゃない。プロの暗殺者か?


  バディウスを翻弄するには十分だった。彼がA級冒険者であったとしても最強というわけじゃない。げんに兎人族の少女、ミミにワンパンでやられているくらいだ。

  一対一で倒すのは難しいかもしれないが、複数いれば勝てない相手ではない。暗殺者達は手ごたえを感じていた。


  一方のバディウスは手をこまねいていた。暗殺者のしっかりと統率の取れた連携には隙がなく、奴らをまとめて倒すのは難しい。かといって一人に集中すれば、バディウスの方に隙が生まれそこを突かれる。

   どちらも決定打を出さないまま、均衡した状態が続いていた。だが、バディウスも暗殺者も人間だ。永遠に戦っていられる肉体を持っているわけではない。疲労の影響が必ずどこかで出てくるはず。そこが狙い目になる。バディウスはそう思っていた。しかし・・・・・・


「何だこいつらは・・?無尽蔵すぎるだろ!」

 

  暗殺者は特別な訓練を受けている。A級であるとしても一介の冒険者であるバディウスとはモノにしている体力が根本的に違う。  

  どんなに時間が経っても動きが鈍ることはなく、逆に鋭さが増しているような気がする。

  バディウスの動きが怠慢になってきているため、そう思ってしまっただけなのだが、危険な状態であることに間違いはない。やばい、心の中で呟く。自らの状況は客観的に見ても不利だ。


   一か八か・・・・やるしかない!

  

   バディウスはアイテムボックスから短剣を取り出した。何の装飾も施されていないどこにでもありそうな短剣だが、彼が持つ武器で最も価値あるものだ。

巨体に大剣は釣り合うが、巨体に短剣はパッと見て非常に不釣り合いだ。

魔力が込められた短剣を右手に所持し、自分の中にある微々たる魔力を注ぎ込み、混合させる。すると短剣は淡く発光し、光はバディウスの全身を包み込んだ。

短剣、ベストフルダガーは込められた魔力が持ち手の身体能力を大幅に向上させるという特殊性を持っている魔法武具だ。バディウスは魔法をほとんど使えない。使えたとしても最低ランクのD級魔法程度。剣士としての技術しか学んでこなかったのだから当たり前の話だが、何よりも才能がなかったのだ。剣士としての才能と魔導士としての才能は全く異なる。どちらにも適性を持つ人間などほんの一握りしかいない。そういう人間はバディウスを超えたS級レベルの冒険者に多い。

S級は人外だ。あんなのは手の届くようなレベルじゃない。

能力を向上させたバディウスでさえも決して届かない高み、上には上がいるという事実を心に刻み込まれた苦い経験。強者と相対したときの思いがバディウスのなかにじわっと広がっていった。

「久しぶりの感覚だな・・・・複数であっても目の前の暗殺者共は勝てるか分からない強敵だ。この感じもおかしくはないということか・・・・」


地面を思いきり蹴り出すと、巨体が今までの倍の速度で暗殺者に迫った。左手に大剣を、そして右手に短剣を持ったバディウスの一撃をまともに受ける。対処する時間を与えない正確無比な一撃で、仲間が一撃で殺されたことを頭で理解してから初めて他の暗殺者達は行動を開始する。

しかしそれでは遅い。バディウスは流れるような動きで次の狙いに接近する。

暗殺者はダガーで即座に切りかかるが、風のように避けられて全く意味をなさない。

焦りが動きに現れている。陣形もバラバラ、一人一人の動きを見ても隙が見える。ここが好機だろう。


バディウスは二人目を大剣で薙ぎ倒すと、三人目を蹴りで気絶させる。向かってきた四人目の攻撃を短剣で受け止めて、頭突きをかまし、大剣で吹き飛ばした。


「自らを強化した結果がこういうことか!さっきとはまるで別人だぞ!」


暗殺者らしからぬ慌てた様子で叫んだ。それが彼の最後の言葉となった。バディウスの短剣が暗殺者の喉元を掻き切った。これで五人目。数えたらあと六人の暗殺者が確認できた。バディウスは深い溜息を一度ついてから気合を入れて、再び駆け出した。


暗殺者との攻防は一時間にも及んだが、結果的にバディウスの勝利に終わった。だが彼も無傷ではすまなかったし、身体能力の強化の影響で全身の痛みが酷かった。これで追撃があれば確実に負ける、そう感じてしまうほどの疲労感だった。


  まだレモンネークまでの距離はある。数時間で到着するほどの距離ではない。どんなに急いでも一日中歩かなくてはならないだろう。傷を癒す回復魔法ヒール、疲労を癒す回復魔法ノアヒール、そのどちらかでも使えれば話は違ってくるのだろうが、バディウスにそんな技能も知識もない。それを行使してくれる連れもいない。兎人族にぶっ飛ばされてから周囲の人間は霧のようにいなくなった。慕う者も、こき使っていた者も、こんな奴に?という思いがあの一件で頭を擡げたのだろう。

  あれがなければ自分の隣にはデモテルの冒険者の誰かしらがいただろう。いや、あれがなければウェルバックに手を貸すこともなかったかもしれない。


  バディウスはふっと微笑を浮かべる。

「これも運命、というやつか・・・」


  ぐったりと倒れている暗殺者数人の生存を確認してから、彼らをまとめて縛り上げた。


「おい、おい・・・・おい!起きろ!」


「う・・・ぐ・・・お、お前は?」


「それはこっちが聞きたいことだ。お前は何者だ?」


「ああ、そうか・・・・俺たちは・・・負けたのか・・・ははは、滑稽だな、俺たちは。」


「お前の感想など聞いていない。俺の質問に答えろ。お前は何者なんだ?誰の差し金で俺を狙ったんだ?」


「・・・・・・・暗殺者の掟を知らないわけではなかろう?・・・・・俺は死んでもそれは守る・・・」


「く・・・」

 バディウスは他の気絶している者に目を向ける。


「無駄だ・・・他の者もその掟を破ることはないだろう。暗殺者に身を染めた者は死んでもそれに従うだろうな。」


  魔法で洗脳することができるならば質問に答えさせるのは難しくないだろう。だが尋問するだけでは絶対に口を割らない。拷問を受けたとしても同じ結果が待っている気がする。それほどに意思は固いということか。


「・・・・まあいい。誰の差し金であろうとそいつの思惑は潰えた。俺を殺すことはできなかったということだ。」

  ウェルバックの仕業というのが最も可能性が高い。確かめる方法はレモンネークに行って、ウェルバックと対面することだ。彼の初見の反応をしっかりと観察すれば真相は掴めるだろう。

  

  待っていろよ、ウェルバック・・・


  バディウスは暗殺者をもう一度気絶させ、その場を後にする。

  数人は生きたままだが、本当は殺した方がいいのかもしれない。情報を得られないと分かった今、彼らが生きていても別に意味はない、というよりも今後不利益になる確率の方が高いだろう。だが、その時間すら今は惜しい。一刻も早くレモンネークに赴くことが一番の行動指針だ。



「あらら、派手にやられたねぇ。こりゃあウェルバック様も驚くだろうな、くくく。」


「な・・・・・・」


  バディウスのすぐ後ろに突如として現れた影は倒れた暗殺者達を見て、微笑を浮かべる。

  急に現れた危険な存在にバディウスは直ちに戦闘態勢を整える。バディウスの視界に入ったのは黒いスーツを身に纏った長身の男。見たところによると種族は人族・・・いや決めつけるのは早計か。


  ただ一つ絶対的に分かることがある。それは・・・・・この男は危険だということ


「お、お前は何者だ!」


「おっと・・・これはこれは。無視してすみませんねぇ、A級冒険者バディウス アーヴィングさん。俺の名前は、そうですね、ゲシュラと呼んでくださいな。」


「貴様も暗殺者か?」


「貴様って、ゲシュラって名乗ったんだからそう呼んでくださいな。まあその質問への答えはノーです。俺は暗殺者なんて恥ずかしい職に就いてはいません。」


「ならお前は何・・・」


「バディウスさん、あなたを始末する者です。・・・・・・ああ!でも暗殺者ではないですからね、そこはもう一度しっかりと言っておきます。」


「俺を始末?・・・やはりウェルバックか、ウェルバックの野郎が俺を・・・」


「ん、そうです。バディウスさんはここで死んじゃいますから真相を冥土の土産にでもしてくださいな。あなたを殺そうとしたのはウェルバック様の差し金です。暗殺者を差し向けたのは俺ことゲシュラですけどね。まあちょっとバディウスさんの力量を見誤っちゃいましたけど、ははは。」


  バディウスは先ほど使った魔法武具の影響で体の怠さを感じていたが、今はそんなことを言ってられない状況だ。もう一度ベストフルダガーを取り出し、自分の魔力と短剣の魔力を溶け込ませる。


「お、やる気ですねぇ。そうでなくては面白くない。ただ・・・・・俺もちょっと時間がないので三秒で終わらせるよ。」


「三秒だと、できるわけが・・・」


  え・・・・・?視界が暗転し、意識が消え失せるその瞬間を感じ取る。恐怖を抱く暇もなく、バディウスは死んだ。どすんと巨体が倒れる音だけが森の中に聞こえると、木の枝に止まっていた名も無き鳥が羽ばたいていく。

  ゲシュラはふうと一息ついてから巨体を持ち上げ、ゲートを開く。


「一応持ち帰るか。ま、このまま獣の餌にするのも悪くないが、ウェルバック様がこの肉の塊を活用するかもしれないしな。」

  帰ろうとしたゲシュラは忘れものに気付く。いや物というか事か。

  ゲシュラの手が気絶した暗殺者共に向けられると、すぐさま死が訪れた。静かなる死だった。

「よし、これで大丈夫だな。生かしておくと面倒になりかねない、うん。」

  暗黒のゲートの中に消えていくゲシュラ。森の中に静寂が戻る。その場にあるのは名前も分からない暗殺者の死体とバディウスが持っていた短剣だけだった。

















 















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