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武神は異世界を闊歩する。  作者: カケル
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両国の反応

   ロングロデオ王国、降伏。


   その報が全世界に轟いたのは戦争が始まってからちょうど一週間が経った頃だった。

   予想通りの早期の決着に驚いた者はいなかっただろうが、フェザーランド公国の力は想像を超えたものだということが一つだけはっきりした。

 

   世界を凌駕する二つの強大なる国、ランドマーク帝国とドラゴンロード王国。その二か国の重要な会議でもフェザーランド公国の侵略の話が議題に上がるなど世界はその話題で持ち切りだ。

   

「フェザーランド公国にここまでの力があるとは到底思えないが・・・ただ結果が示しているのは公国のれっきとした実力か。」

  ランドマーク帝国第三防衛大臣、マーロウ ジャスティンが深く思考しながらそう呟いた。

「必ずしもそうとは限らないでしょう。背後に公国を支援している何者かがいる可能性も捨てきれない。」

  ランドマーク帝国第四防衛大臣であり、初の女性防衛大臣のミレイ ランファンが冷静にマーロウの考えが全てではないと諭す。


「ミレイの言う通りだ。おそらく背後にいるだろうな、どでかい何かが。それが国単位なのか、ただの組織なのかは分らんが。」

  ランドマーク帝国第二防衛大臣、アモン ジェノバはミレイに賛同する。

「そうなると・・・・・我々の情報網でさえ感知できていない相手ということになるぞ?」

  そして最後に口を開いたのがランドマーク第一防衛大臣であり、ランドマーク帝国聖騎士以外の国家兵士を直轄している存在であるロビンス アルファードだ。

  彼を中心にして今開かれているのはランドマーク帝国の軍事面を担う四人の防衛大臣による定期会議。彼らの決定により帝国兵の大型遠征や援軍、派遣、さまざまな兵士の動きが決まる。

  彼らの決定は皇帝陛下の決定と等しく、陛下自身もその決定に異議を唱えたことは一度たりともない。


  ランドマーク帝国は世界の頂点に君臨する国だ。その自覚を国全体も持っているため、自国の状況だけでなく、他国の状況も常に監視している。その監視する組織として特殊情報機関ウィン・ガ―ディンが存在する。この組織を構成しているメンバーはほとんどランドマーク帝国に帰ってくることはなく、世界全体に散らばり、担当する国のあらゆる情報を取得するためスパイとなり、長期機関の潜伏を行うのが常だ。今回話題に上ったフェザーランド公国にもウィン・ガーディンのメンバーがスパイとして潜り込んでいるのは事前に確認している。にもかかわらず、戦争を開始する一端さえ掴めなかったのは非常に問題だと大臣たちは考えていた。まあ彼等には直接関係のある事柄ではない。ウィン・ガーディンの失態を罰する立場にいるのは皇帝陛下ただ一人だ。


「ウィン・ガーディンが今まで失態を晒したことはない。彼らが優秀であることは分かっている。だが、彼らを偽るほどの強者がいるのは事実らしい。」


「注意して様子を見るべきですね。これからの動き次第では世界連盟の名のもとに武力制裁を加えることも視野に入れておきましょう。」

  ミレイの言葉に他の三人も同意するように頷いた。


  

 

  一方その頃、世界を牛耳るもう一つの大国であるドラゴンロード王国でも公国の話題が持ち上がっていた。

  王国の権力者が集まる王国全体会議が月一回開かれる。その会議の中心となったのが公国の蛮行だった。


「このまま野放しにしておいていいのか?あの薄汚い国がつけあがって手が付けられない事態になったら終わりだぞ?」


「そうだ!今すぐにでも攻め落とし、報いを受けさせるべきだ!」


  強硬にフェザーランド公国に攻め入るべきだと発言する者が後をたたなかった。その理由としてロングロデオ王国の現在の王妃は元々ドラゴンロード王国の王室の人間だったためだろう。同族の人間に対しての愛着を未だに持っているからこそフェザーランド公国に怒りを覚える者も多いようだ。それはなにも位の高い者だけでなく、王国に住む平民達も同様だった。

  この王国全体会議で一番の力を持つ人間・・・それはもちろんドラゴンロード王国の女王、リグネティア ドラゴンロードだ。齢五十を超えながら容姿を含め、また若い頃から変わらない美帝でもあり、民からはッ絶大な支持を受け、彼女のためなら命を投げ出すのも厭わないという国民が大多数を占めるカリスマ性をも持つ。世界最高の王の一人。

  彼女の判断が実質全てを決める。会議という名目ではあるが、リグネティアの判断に異を唱えた者など今まで一人足りともいない。こうした方がいいのではという提案をしてくる唯一の存在が彼女の娘であるティーナ、フィルフィー、リネア、ヒルダの四姉妹だろう。逆に言えば、そうした血を引き継ぐ存在でなければ進言することすら不可能な絶対的存在なのだ。


  だからこそこうして強硬な発言をしても直接的な意味はない。少しでも女王に自分たちの意思を感じて欲しいという一心で声を高らかに上げて発言しているのだ。


「静まりなさい。」


 強い口調でなかったにも関わらず、背筋に走る悪寒を止めることはできなかった。

 一瞬にして沈黙が広い会議場を支配する。呼吸音さえも聞こえてくるのではないかと思うほどの変わりようだった。


「お前達の気持ちも理解できる。ロングロデオのスーラン王妃は私の従姉妹だ。今すぐにでもフェザーランド公国を滅ぼしたいと思う。」


空気が沸き上がるような錯覚をその場にいた者達は敏感に感じ取った。戦争を始めてくれるのでは?という淡い期待が胸に宿り、熱気が高まる。


「・・・・だが、今はまだ動くべきではない。」


リグネティアから発せられた言葉は否だった。その瞬間、高まりはじめていた熱気が一気に消失していくのが理解できた。


「それは、何故でしょうか?」

恐る恐る尋ねる男の額には大粒の汗が滲んでいた。


「優先順位の問題だ。私たちが最も恐れる存在はランドマーク帝国なのは皆理解しているであろう。こちらが動けば帝国の思うつぼだ。」


ドラゴンロード王国とランドマーク帝国は現在休戦中だ。三十年前の全世界大戦の結果で双方どちらも勝者とはならなかった。戦は長引き、当時の皇帝と国王が休戦協定にサインをし、戦争は一時的な終わりを迎えた。

休戦状態はこれまで良い方にも悪い方にも変化することはなかったが、つい最近はそれが揺らいでいる状態だ。というのも数か月前に突如として起きたランドマーク帝国兵とドラゴンロード王国魔導士の小競り合いから急激に二か国の関係は不安定になってしまった。

 両国ともに謝罪要求の声明を出し、どちらもそれを拒否。敵国に頭を下げるなど持ってのほかだと両国民までもそう思っていたようだ。


 そして、ここにきてドラゴンロードの友好国であるロングロデオが制圧されるという悪事が起きた。

 ここで戦力を向かわせれば、ランドマーク帝国が攻めてくる可能性が僅かにある。その微々たる可能性を無視することはリグネティアにはできなかった。


「陛下の仰る通りです!冷静に考えてランドマーク帝国の戦力と我が国の戦力は同等のレベルです。ここで他国のために戦力を割くのはいかがなものかと思われます。」

 フェザーランド公国との戦争に反対する一派はリグネティアの言葉で勢いを増して高らかに声を上げた。

 それに反対する者もやはりいない。リグネティアが公国を攻撃しないと決めたのだからそれは国としての最終決定だ。

 

「・・・そうだな。ああ、そうだ。その意見に全面的な賛成を示す。」


  戦争賛成派のトップがそう言うと、他の賛成派の者達も次々と頷き、賛成の意を示した。

  

  その後、ドラゴンロード王国の決定はロングロデオ王国を見捨てるに等しい行為だとランドマーク帝国は声明を発表し、両国の睨み合いが今なお続いている。





  

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




  ソイファはレモンネークの街を散歩していた。天界にいる時からの彼女の趣味であるが、下界の景色はいつ見ても新鮮で全く飽きることがない。緻密に計算された建築物は下界の人間の知能が高いことを思い知らされる。

  天界からしたら下界は未発達の地という印象は強いが、ソイファはそうは思わない。彼らの知恵は侮れないし、天界の住人が考え付かないような発想を持っている存在だと考えている。仲間には冗談を言っているように思われるのだが、ソイファは至って本気だった。もちろん天界よりも勝っているなんて一ミリも思っていないが、尊敬するべき世界なのは間違いないだろう。


「風も気持ちいいし、花の香りも心地良い・・・うん、やっぱり落ち着く環境ね。」

  ガルマやミントはレモンネークの住民と関わりをあまり持とうとしないが、ソイファは積極的に住民に声を掛け、彼らの暮らしや町長の評判について聞いて回ったりしていた。

  もちろん怪しまれない程度に、だ。ソイファに関して言えば友好的に接してくれる人が多くなるほどには親しみを感じてくれているようだ。


「ソイファやい。」


「ああ、ヨレイさん。どうしましたか?」


「いや、ねぇ、あんた聞いたかい?」

  噂話が好きな老婆。事あるごとにソイファに話し掛けてくるが、それのどれもこれもがあまり役に立たないことだ。だが、ソイファは顔色一つ変えることなく、話が尽きるまで付き合ってあげている。そのせいか、非常に好意的な接し方をしてくる老婆だ。


「いやねえ、レモンネークの住民たちにが徴兵されてるって話さ。あたしみたいな婆は関係ないけどね、若い息子を持つ母親はさぞ悲しいだろうねぇ。町全体に動揺が広がってるみたいだよ。」


「送り出す親にとっては悲痛な思いでしょうね。フェザーランド公国の攻撃に備えてのことでしょうけど、民兵として出る者にとっては死地となる可能性も高いですし・・・」


「そんなことになったらレモンネークは終わりだよ。ナバール連合の他の町から援軍は来ないのかねぇ・・・来ないのだとしたら何が連合なのかねぇ。こういう時にこそ手を取り合わないといけないだろうに。」


「ええ、その通りですね、ヨレイさん。素晴らしい考えだと思います。」


「だろう?」


「他の町が動き出さなければ、抗議するべきですね。」


「うんうん、わたしゃあ、抗議で終わらせちゃいけないと思うんだよ。もっと厳しい態度を取るべきだと思うねぇ。」


  ヨレイと話していて初めてためになる話が聞けた。彼女の考えはどうでもよく、その前に話したレモンネークが民を徴兵していることだ。民兵では戦力にはならないのは明白であり、それに頼らざるを得ないレモンネークの防衛力に不安を覚えた。


(・・・・・・ソイファ・・・聞こえるか?)

  突如として頭に響いてくる声はガルマのものだった。


(聞こえているものだと思って言うぞ。タケミカズチ様からの連絡だ。どうやらフェザーランド公国が動き出したようだ。予想通り、レモンネーク北西の方角に移動しているようだ。動きはそんなに早くはないようだが、こちらももう移動を開始したほうがいいかもしれない。)


  ソイファはヨレイと数十分話してから、その場を後にした。

  当然ガルマとミントのもとへ戻り、出発の準備をするためだ。ガルマは事前にバルカーに連絡を入れると、意外にも冷静な様子だった。


「よおおし、ようやくお楽しみの時間が来たわけだね。」


「もう少しだけ先になるとは思うけどね。」


 ミントのようにワクワクをソイファも感じていないわけではない。下界に住む人間と戦う経験をしていないため、やはり一度はしてみたいという願望はあった。ただミントのように感情を表に出すタイプではないというだけだ。

 ガルマがバルカーと話を終えてから三人はすぐにレモンネークの離れから北西方面に向けて出発した。

 バルカーの話によると、レモンネークの兵も準備が出来次第出発するとのこと。まあいてもいなくても変わらないというのが本音だが。


 三人はレモンネークを発って六時間で目的地近くの山林に到着した。凡人では到底そんな時間で移動できる距離ではないけれども、三人にとってはむしろゆっくりと移動したくらいだった。

 山林を抜けた先はロングロデオ王国とフェザーランド公国、そしてナバール連合の三つの地域が交わる唯一の場所であり、比較的なだらかな土地で進軍しやすいという利点がある。

 だからこそフェザーランド公国もこのルートを選んだのだろうが、誰もがそう思う予想しやすいルートをあえて選んだ理由が何かあるのだろうかと多少の疑問を感じる。


「ここから真っ直ぐ行った地点に駐留しているみたいだ。一般的にはここから三、四日は掛かるらしい。」


「えええ、そんなにぃ?遅すぎない?」


「それが下界の当たり前なのよ。どちらかというと私たちが非常識なの。」


「ふーん、そういうもんなんだ。」


「だからといって気を抜かないようにな。ミスをすればタケミカズチ様に顔向け出来ないからな。」

 

「言われなくても。」

  ガルマの忠告にミントはちょっと不満を持った顔つきをする。

  

「さあ、二人とも・・・始めましょうか。」


「長い戦になりそうだ。」


 三人の足は再び前に進み始めた。


 


 

   







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