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武神は異世界を闊歩する。  作者: カケル
31/53

調査と障害

ピッツバーグ王国の巨城へと連れていかれる反乱軍一同のなかにグロウやキコらの姿もあった。

抵抗しようと思えば抵抗することができた。しかし聳え立つ巨城にとても興味があったのも事実。グロウは大人しく連行されることを選択した。

中央区画のさらに奥にある黒曜石の大門は誰もかれもが通ることのできない神聖なる通り道。掃除が行き届いている通路に筋骨粒々な兵士達が目を光らせている。ただの兵士ではない。精錬された気を放ち、一人一人が実力者だとすぐに分かる。


案内されたのは反乱軍がいっぺんに収まるほどの広間。数百人がごった返し、グロウにとっては心理的に苦痛な時間だった。


「け、退屈な時間だぜ。何で俺がこんな奴らの見張りをしなくちゃならん!」

  鋼のような筋肉の上に金属の重装備を身に着けた牛人カウ族の大男が不機嫌な様子でそう言った。  

「まあまあ。国王陛下に直接頼まれたら断れないでしょ、やっぱ。」

  その隣にいるのは小柄な兎人らび族の少年だ。二人とも王国の兵士という感じはしない。国王に対する絶対的な忠誠がないところを見ると、他国に人間なのかもしれない。


「ジルよ、お前はどう思った?国王バルト・シャングリ・ラを。」


「どうって・・・強そうな雰囲気はぷんぷんするね。さすがは一目置かれる存在なだけはあるよ。オッグ的にはどうさ?」

 大男にジルと呼ばれた兎人族の少年は少し考え込みながら言った。


「間違いなくこの国の中では最強だろう。それは疑いようがない。だが、勝てないかと言われればそうは思わんな。」

 大男の名前はオッグ ファリオン。国を問わず、彼の名声は轟いている。数少ないS級冒険者の一人でグランツ帝国の冒険者ギルドに属している。グランツ帝国の冒険者ギルドはギルドの総本部でここから分化していったことで他国にもギルドが生まれたという流れだ。


「へぇ、自信ありげだね。」


「逆に聞くが、俺が負けると思うか?」


「う~ん、勝負は時の運。何があるか分からないのが面白いところじゃん?」


「くくく、確かに。自信を過信に変えてはいけないな。・・・本当にお前は掴みどころがないな。」


「それ褒めてないでしょ?」


「ああ、印象を口にしたまでだ。」


 オッズの隣にいる兎人族の少年、ジル サンダルも同じく冒険者。彼のクラスはA級。最弱の種の一つとされている兎人族で最も冒険者としてのレベルが高く、実力も伴っている。その証拠にこうしてオッズの相方として各地を転々としているのだ。


「それはそうとジルよ、あいつの空気・・・ちょっと違わないか?」


「お、やっぱり気付くの早いね。あれはなかなかだよ。」


 オッズとジルの視線の先にはエルフのイケメンがいる。壁にもたれかかりながら辺りを観察しているようだ。


「こんな反乱兵どもの中にあんな空気を纏っている奴がいるとはな。驚きだぜ。」


「どうする?結構お金になりそうな気がするけど。エルフだし。」


「金はいい。それよりも俺とどっちが強いか、それは確かめたいな。」


「ふう、本当に戦闘狂だね。」


 オッズとジルは大広間の入口の前で話をしている。反乱兵たちはその姿に注意を向けているが、オッズのただならぬ雰囲気に戸惑いと恐怖を抱き、いつまでたっても落ち着かない。

 反乱兵は王国に直接的な敵意を持っているわけではない。もちろんいち貴族の横暴を止められない王国の影響力の弱さを嘆く者は多いが、一番の問題はその貴族自身だと皆分かっているからだ。


 そんな反乱兵に視線を向けながらグロウの意識は両扉の前に立つ二人に向いていた。

 面倒なことにグロウはあの牛人族と兎人族にマークされたらしい。彼の鋭敏な感覚がそれをしっかりと捉えた。


多少の面倒臭さを抱きつつ、広間で待機を続けていると突如として両扉が開け放たれる。その先にいたのは宰相ロストワールだった。


「お待たせしてすまない。話がついたのであなた達は自由の身だ。」


「話がついたってのは・・・どういうことだ?ジャミールの処罰が決まったってことか?」


「ジャミールがしたことは許されることではない、が・・・あなた方の行動も誉められたものではない。」


「何だと?」


「双方どちらにも処罰を与えないということを国王は決定した。これは最終決定だ。どうか理解してほしい。」


騒然となる大広間にそれはそうだろうと納得の表情を浮かべるグロウ。処罰を一切与えないという選択がまた大きな波乱を巻き起こすと国王も分かっているはずだ。それなのに何故という疑問がもたげた。

  しかし目の前の出来事がどうでもいいと思ってしまうくらい重要な案件がグロウに飛び込んできた。頭に響いてくる揺れを捕まえる。・・・・・・念波だ。しかも城塞都市ノームからの。


  グロウは周囲の様子を確認して、騒ぎが起きている入口付近からなるべく距離を取ってから念波を受信した。

「はい、グロウです。」


「・・・・・・おお、グロウか。久しぶり・・・ってほど久しぶりじゃあないか。」


「タケミカズチ様。申し訳ありません。ご連絡の方が遅れてしまい・・・」


「気にするな。情報はすぐにでも欲しいが、急いで重大なミスをする場合もあるからな。焦る必要はないさ。」


「慈悲深き言葉に感謝の言葉もありません。」


「そうかしこまるな。それでお前は今、ピッツバーグ王国に?」


「はい、中央区画、王城にいます。」


「王国の中心にいるとはな。さすがはグロウだ。」


「はい。ただどうやらここには目当ての神槍はないようです。」


「そうか・・・わかった。他に何かわかったことはあるか?」


「神槍かどうかは定かではないですが、フェザーランド公国の国宝に二振りの槍があるそうです。可能性としては低いですが、現段階なら調べる価値はあるかと。」


「そうだな。それはこっちでなんとかしよう。グロウはピッツバーグで情報収集を続けてくれ。神槍に関してはもちろん、他にもピッツバーグの内情についても調べてほしい。近隣国の情報を知っていて悪いことはないからな。」


「了解致しました。」


「変な奴に絡まれたらお前の判断で処分していい。」


「はい。」


  タケミカズチからの念波は途絶えた。周囲の喧騒はいまだに続いており、非難の口撃をロストワールは一身に受けている。ただし表情は何一つ変わらず、反乱兵に心を寄せる気すら感じられない。

  数人の男たちがロストワールに殴りかかろうとしたその時、待てという重低音の声が響き渡った。


「ルイス・・・」


「それをすれば大義すらなくなるぞ。俺たちの目的はそいつを殴ることじゃない。ジャミールを殺すことだ。」

  リックの親友であるルイス ヴィンセントは父であるワグナ ヴィンセントを失った。その元凶がジャミールだったのは言うまでもない。一攫千金を狙ってジャミールのもとへ仕事をしに行った父を馬鹿にしていたし、見下していたが、まさかそのまま帰らぬ人になるとは想像していなかった。父を愛していたわけではないが、こんな風に死んでしまうほどの悪人でもなかった。せめてもの復讐を果たすためにルイスはリックと共に立ち上がった。


(俺は父のために動いているのか?いや、それ以上にリックの力になりたいのかもな・・・)


  ルイスの力強い言葉によって非難の言葉は収まりを見せ、新たなる復讐の炎が反乱兵それぞれの心に灯った。それは決して国王の力であっても消すことのできない激情の炎だった。

  それを見てロストワールは心から感心した。反乱兵をまとめる存在がここまで優秀な理の力を持っているとは想定していなかったのだ。


「・・・・・・面白い。これは一筋縄ではいかないかもしれないな。・・・もう君たちは自由の身だ。中央区画にはあまり長居しないようにお願いしたい。」


  厳しい視線に晒されても動じずにロストワールは不敵な笑みを浮かべて、その場を後にした。

  引き返す時に扉の前にいたオッズとジルに付いてくるように指示をすると二人もようやく解放されることに意気揚々と喜びを露わにした。



「私・・・どうすればいいんだろう・・・」


「アローマ・・・」

 キコはアローマの背中をそっと支えている。この場にいる者で彼女たち二人とグロウはジャミールに対しての悪感情を持ち合わせていない。アローマにとっては実の父親だ。それに彼女の前では憎まれるような行動をしない良い父親だったという。だからこのような状況を受け入れるのは難しいのだろう。

 グロウは少し驚いた。アローマは自分に対しての周囲の視線に気付いていなかったことに。おそらく父親のことで色々な場所で苛まれていたに違いない。彼女に非は無くとも、周囲は忌避するようになるだろう。それが醜き人間というものだ。そこに気付かなかったのか・・・もしくは見て見ぬふりをして抑え込んでいたのか。

  どちらにせよ、これからは向き合っていかなければならなくなった。この運命から逃げることはできないだろう。


  グロウはキコとアローマを連れて兵士たちが出ていく流れに乗じてその場を後にする。

「ジャミール公爵のもとへ戻るのは危険だと思う。」


「・・・私もそう思うよ。」

 グロウの言葉にキコも心配そうな顔つきで同意した。


「じゃあ・・・私、どうすれば・・・」

 危険だというのはアローマも理解していた。あの崩壊しかけている屋敷に戻りたいと思うのは自殺行為だと。


「中央区画から一度出ることを薦める。」


「てことは?」


「キコはどこに住んでいるんだ?」


「私は一人で暮らしているんで、問題ないですよ。ただ・・・場所が場所なんで、ちょっとアローマには合わないかもしれないけど。」

「贅沢は言ってられないだろうし、一回そこで落ち着いた方がいいな。」

 

 選択権なんて自分にない。アローマに帰るところはないのだから。

「・・・そう、ですね。キコ、ごめんね。少しの間だけお邪魔するね?」


「ううん。気にしないで。ずっといてもいいくらいだよ?」


「・・・ありがとう。」


「さ、行こう。案内するから。まあちょっと遠いけど。グロウさんはこれからどうするの?」


「もう少しだけこの国にいるよ。何かあったら魔導器で呼んでくれるかい?」


「うん、わかった。」



立ち去る二人の後ろ姿を見送ってからグロウは中央区画に残り、周囲を観察しながら歩き続ける。

 目的地があるわけではない。ただ単に街並みを記憶に植え付けているのだ。地図で見るのは簡単だし、何がどこにあるのか記憶するのもそう難しいことじゃないだろう。だが今重要なのは自分がこの国を知り尽くすこと。タケミカズチ様にこの国について問われた時に全て返答できるように事細かに頭にインプットする。


「ここがティロス伯爵邸・・・・・そこがローグ子爵邸・・・」


 屋敷の外観を見るだけでそこに住まう貴族の趣味趣向が感覚的に理解できるようになるまで中央区画の内部を観察し続けた。

 一度見たことは忘れないなんて・・・そんな万能な頭はさすがに持っていない。魔法によって長期的な記憶として頭に植え付ける作業を延々と繰り返しているだけだ。

 

「怪しい輩がいると聞いて来たが、思わぬ良敵に当たったようだ。」


  グロウの背後から聞こえてきたその声の主は城の中で見た大男だった。あの時、グロウの存在を注視

していた男。こんなに早く再会するとは思っていなかった。できれば関わりたくないが、この状況ではもう無理だろう。


「どちらさん?」


「おや、あまり忘れられるような顔じゃないと思っていたんだがな。」


「物騒な空気を纏っているようだけど、ここで騒ぎを起こすと何かと面倒だよ?」


「クエストは達成してるし、報酬も受け取った。俺はこの国の人間でもないし、別に問題ないだろう。」


 そう言うと男は背負っていた巨大な剣を振り下ろした。地面を抉り、重々しい金属音が響いた。


「整備するのにもお金がかかるぞ。」


「そんな心配してどうする?」

 有無を言わさず、男はグロウに襲い掛かろうとしたが、すぐに足を止めた。


「・・・そういえば名乗ってなかったな。俺はオッグ。オッグ ファリオンだ。」


「律儀だな。名乗ってからじゃないと戦わないのか?」


「それが俺の主義でね。」


 再び戦闘態勢を取るオッグだが、依然としてグロウに戦う意思は見られない。

 

「その主義は貫いた方がいいだろうな。ただ・・・ここでは駄目だな。」


 グロウは一気に来た道を戻る。動物をも超える速さで角を曲がり、逃走を図る。加速魔法を使用していないにもかかわらず、人外なる速さで駆けるエルフにオッグは驚きのあまり、笑みをこぼした。

 オッグも大柄の割に俊敏だが、そんなもの霞んでしまうほどだった。


 グロウは逃げ切ろうなどとは考えていない。場所を変えるための移動なので背後にいるオッグが自分を見失わないように配慮しているつもりだ。

 案の定、一定の距離を保ったままで中央区画を抜けることができた。

 外部地域のできるだけ民家がない平坦な場所に移動したグロウは薄暗くなりつつあった空の下でオッグと向き合った。

 やけに人通りが少ない。古ぼけた井戸が寂し気に存在するだけだ。


「よし、ここならいいか。」


グロウは弓を引く。もちろん両手ともに何も持っていない。それを見てオッグは感覚で危険だと判断し、右方にあった大木に身を隠した。

 その判断は間違っていない。もしもグロウに視認されたままだったなら、今頃オッグの身体はバラバラになっていただろう。

 実際にグロウもオッグの判断に感心した。咄嗟に障害物に身を隠す選択をしたのはただの幸運だったのか判断しづらいが、最高の結果となった。

 視認できなければ無影弓の効果は一切消え失せる。それでもグロウは弓を引くポーズを崩すことはなかった。少しでも姿を見せればすかさず射抜く。



 オッグは樹齢何年になるのか分からないその大木に感謝した。木の背後にいる今はおそらく大丈夫だ。エルフの男が弓を引く格好をしたその瞬間、感じたことのない悪寒が走った。すぐさま大木に隠れたが、考えがあっての行動じゃない。反射的に体が動いたのだ。

 奴は危険だと頭の中で判断している自分がいるが、そう感じれば感じるほど楽しくなってくる。

 オッグは笑みを浮かべて、攻勢に出る。

「アース クエイク!!!」


 放たれた土魔法はグロウの前方の地面を隆起させ、それが次々と伝播していった。

 相手の姿を見ないで正確に相手の位置を掴むほどオッグは起用に魔法を使えるらしい。あんな見た目でも細かな技が得意なんだなとそんな感想をグロウは抱いた。


「足場を不安定にして狙うのを難しくさせたのか?」


  グロウの呟きと同時に大木の後ろに隠れていたオッグは無駄のない動きで姿を現し、大剣を構えてグロウのもとへ駆けてきた。

  

「狙い撃ちしなくても、見えてればいいんだよ。」


  グロウが矢を射ると、大剣を持ったオッグの腹に風穴が開いた。そのまま身体が弾け飛ぶと思ったが、グロウの予想は外れる。オッグの身体は泥のように溶け始めた。形状は跡形もなく消えて、ただの粘質を持った液体と化した。

  グロウが魔法で義体を作ったのだと気付いたときにはもう遅かった。オッグは地面を堀り進め、ちょうどグロウの背後を取ると、そのまま大剣でグロウを突き刺した。突き刺す瞬間に即座に加速魔法を行使し、確実性を上げた。


「くくく、これでどうだ?」


 オッグの得意げな顔が小刻みに揺れる視界の中に映る。間違いなく自分が勝利を手にしたと思い込んでいる顔だ。確かにグロウが下界に降りてきてから出会った相手の中では最も強いのは疑いようがない。

 それでもこのレベルで勝ち誇るのはどうかと思った。 

 グロウは腹部に突き刺さった大剣を無理やり抜いて、距離を取っていたオッグに向かって投げた。俊敏な動きでそれを避けたオッグだったが、死んでもおかしくない出血をしても変化のないグロウの姿に驚きを隠せない様子だった。そこで呆然とせずに次の攻撃に移ったオッグはやはりS級冒険者としての資格を具えていると言えるだろう。


  オッグの得意魔法は土属性の魔法だ。全ての属性魔法を操り、その全てがマスタークラス、いわゆるS級である魔導士はそういない。世界屈指の魔法大国であるドラゴンロード王国の中でさえ少数しかいない。

  そのような者と比べて、オッグは自分に魔法の才能がないことを早くから理解した。ならばそうするのか・・・天才的な資質の前に平均的な能力向上は意味を為さない。やるべきことは一つに特化することだ。オッグの場合それが土属性の魔法だった。彼の魔力に相性も合っていたので、予想以上に早い段階でS級ランク魔導士に昇格した。


  オッグは地面に両手を叩きつけた。

  土魔法クレイシンク。オッグとグロウの間の地面が陥没し、二人の視界が揺らぐ。

  続いて剣突の巨石が出現し、グロウに襲い掛かる。

  土魔法ストーンエッジ。

  魔法行使の速度といい、連続行使による遅延もほとんどない完璧な流れだ。


「すばらしい。」

  グロウはただその一言だけ呟いた。後方に移動して上手く突石を避けていたグロウの目の前にオッグの拳が迫る。


  オッグがS級冒険者になれたもう一つの要因・・・それは彼の近接戦闘のレベルの高さだ。本来ならば魔導士は後方からの攻撃や支援が役割だが、彼の場合は剣士や武闘家と同じように近接戦闘をメインにして、その中で魔法を行使していくスタイルだ。このスタイルで困難と思われたクエストを次々に踏破し、S級に上り詰めたのだ。

  グロウに迫り来る拳にも力が入っていた。全身の意識を右の拳にだけ集中し、多大な魔力を宿す。


「あまり近接は得意じゃないんだが・・・」


  グロウがふっと笑った後すぐにオッグの強烈な一撃が顔面に直撃した。

  まるで弾丸のような速度で吹き飛んで、巨大な樹木に全身を打ちつけた。その勢いで地面の土埃が宙を漂い、薄暗い空をぼやけさせる。

ぜえぜえと肩で息をしながらオッグはなおも油断することなく、視線の先で動かなくなっているグロウの様子を確認する。


「今度こそ・・・死んだか?」


その問いに答える声は聞こえてこない。静かな夜風が頬を撫でるように吹いているだけだ。


「ふー・・・思ったよりも呆気なかったな。」


  オッグが大剣を背負い直し、動かなくなったグロウのもとへ足を向けようとしたところ、何やら聞いたことのある声が耳に届いた。後ろを振り向くとそこには見知った顔があった。


「ジルか・・・ずいぶんと遅かったじゃないか。」


「どれだけ探し回ったと思ってるんだ?てっきり中央区画の中にいると思ってたよ。まさか出てるとはな。」


「もうすぐ騒ぎになると思うぞ。」


「だろうね。この凄惨な有様なら当然だよ。で、勝負はついた・・・みたいだねどうやら。」


「ああ、思ったよりもたいしたことはなかった。まあ最近戦ったなかじゃあ強かったがな。」


「へぇ、そりゃあ見たかったな。後でいろいろと聞かしてもらうよ。」


「ああ、たっぷりとな。」

  オッグとジルは得意げな様子でその場を後にした。

  ぼやけた視界の先にいた二人が去っていくのを確認してからグロウは寝起きのように一度伸びをした。最近の運動不足解消にはなったし、グロウはこれで満足だった。

  どうやらあの二人組はこの国から出ていくようだし、もう会うこともないだろう。

「それにしてもちょっと弱すぎたか?・・・俺。」

  自問自答してみるが答えは出ない。オッグを倒すこと、ないし殺すことは難しくはなかったように思う。もちろん下界に来てから手合わせした者の中では一番強かったことに間違いないが、それでも天界にいる猛者に比べれば実力不足は否めない。

  ならば何故オッグを相手に圧倒しなかったのかというと、目立つのは良くないと思ったからだ。

  今までの行動を監視している者がいたらどの口が言うと思われるかもしれないが、あの名高い有名冒険者を倒すことはそこら辺の賊を始末するのとはわけが違う。想像すらしていなかった謎の組織から面倒くさいやっかみを背負いかねない。

  そういうことを考えて、最終的に負けた方が良い方向に進む気がした。


「頼むから長居はしないでほしいものだな。」

  これでピッツバーグ王国に残られたんじゃ今ここで負けた意味はない。グロウは残るなよ残るなよと心の中で何度か呟いた。


  口の中に入った木くずを唾と一緒に吐き出して、いったん微量の魔力を解放する。薄い靄がグロウを優しく包み込むとすぐに服の汚れが消え失せ、巻き戻ったように元通りになった。


「あとは傷の方か・・・まあそれはじきに・・・」

  治癒魔法をかけていないにもかかわらず、裂傷が消えていく。

「さすがはネフェルティ様の加護。相変わらずの治癒効果だ。」


  ネフェルティとはタケミカズチ最上級神下の一角である。彼女の加護は全神下に宿っており、その宿った魔力が切れない限り、どんな傷も治る不死身の身体となる。タケミカズチの神下は戦闘で死傷することは半永久的にない。


  面倒な冒険者に付きまとわれる心配もなくなったグロウの足はそのままピッツバーグの外部地域にのびていた。中央区画の街並みや道なりについてはおおかた記憶した。わざわざ城に侵入して情報を盗み取るほど時間に追われているわけでもないし、今は外部地域にある貧民街について興味を持っている。キコがどんな暮らしをしているのか、少し気になったのだ。

  グロウが魔法の行使で荒れた土地から少し離れた時、何だこれは!という大声が聞こえてきた。おそらく通りかかった付近の住民だろう。平地だった場所が目も当てられない様になっているのだから当然の反応だろう。

「とりあえずここから離れた方がいいな。嫌な予感がする。」

  グロウはローブに付いているフードを被り、不審がられない程度の速さでその場を離れた。

  本格的な夜の気配が訪れていて、そのおかげかグロウの姿を目撃した者はいなかった。







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