町長会議
「どういうつもりだ!!ギリアム!!!貴様、何を言っているのか分かっているのか!!!」
「でかい声を出すな、ベルトリア。」
「あれは危険だ・・・危険すぎる。見たことのない魔物を使役し、高レベルの魔法を行使するエルフを引き連れている。もしかすると奴はナバール連合を乗っ取るつもりなのでは・・・」
「ふ、確かに彼の本当の考えは見えてこない。もしかしたらナバール連合加入が最終の目的ではないのかもしれない。だが、彼が連合にもたらすのはプラスとマイナス・・・どちらかといえばプラスだろう。」
「何故そう思う?その考えに至った理由はなんだ?」
ベルトリアはギリアムをぎろっと睨み付ける。
「・・・俺は彼の築き上げた城に挨拶をしに行った。」
「何だと?」
「あの場所はベルトリア、お前が想像している以上の場所だ。この世界、どこを見渡してもあそこまで美麗で豪華な空間はない。思い出すだけで幸福感が甦る・・・」
肩肘を張っていたギリアムを柔らかく包み込むような空気、そして瞳を癒す美しい女性と舌に喜悦を感じさせる至福の料理。ああやはり最上なる時間だった。そう思わせることがタケミカヅチの狙いだったのかもしれないが、それを理解した上でももう一度味わいたいと思う時間だった。
「二人で盛り上がっているところすまないが、私、ロスベルトはナバール連合加入の件については賛成の意を示す。」
「ジャコル!お前までか!」
「ああ、私がロスベルトの新しい町長になってまだ数日だが、ロスベルトを悪夢から救ってくれたのはその城の者だという話を聞いてな。事実だとしたら恩があるということになる。」
「事実だったらの話だろう?そんな噂話程度で判断などしては困るぞ!」
「それにギリアムやお前の話を鑑みればその城は非常に強い力の持ち主がいるとのこと。ナバール連合の弱体化に歯止めがかけられるかもしれない。」
ジャコルはロスベルトの新たな町長。緊急で選ばれた男だが、前町長の反対派として先頭を切っていたため、町民からの支持率は非常に高い。おそらく選挙もなしでそのまま町長の座に就くだろう。
元々彼は衛兵。戦いの場に身を置くことも多かったせいか、ロスベルトしいてはナバール連合全体の兵士達の戦闘力の低さや戦闘員自体の不足に危機感を抱いていたのだ。
だからこそそれを改善できるのであれば、多少のマイナスがあったとしても城塞都市ノームを受け入れるべきだと考えている。
「ロスベルトを支配されても構わないというのだな?それならばフェザーランド公国に乗っ取られるのと何も変わらないではないか!」
「支配されると決まったわけではないだろう?その意思があるとお前が思い込んでいるだけではないか?」
「最悪な状況を考えてこその言葉だ。確率はゼロじゃない。」
議論は平行線を辿る。ただこの時点で賛成派が二人、ベルトリアを抜いた他二人の町長がどのような態度を示すのかで多数が決することになる。
ベルトリアは二人の町長に目を向ける。お前らはどうなんだという視線を受けて、キロスの町長であるディーマは口を開く。
「フェザーランド公国の脅威が迫る今、手段を選んでいる時間はないと考える。わしは賛成の意向じゃ。ただベルトリアよ、お前の不安も理解できる。わしも一度、その城の主に会ってみる必要があるようじゃ。」
「私もディーマ様と同様の意見です。」
次に話し始めたのはオルフェイに代わりカロリーナの新町長に就任したニコルだった。
「フェザーランド公国に攻められれば、今度こそ連合は持ちこたえることは出来ないでしょう。そうなれば終わりです。ならないためにどうするか・・・協力関係を結ぶしかないと考えます。」
「・・・・・・お前ら全員、賛成ということだな?城塞都市ノームがナバール連合に正式に加入してもいいということだな?」
ベルトリアは念を押すように四人に問い質す。四人はそれぞれ首を縦に動かすことでベルトリアの問いに答えた。
自分一人だけが反対の意思を通してもなにも変わらない。会議は多数決制をとっており、多数派の意見が会議の最終判断となる。
この場合、城塞都市ノームをナバール連合に正式に加入させることが五つの町の総意ということになる。ベルトリアは明らかに納得していないが、意向は決まった。後は世界政府に申請をし、承諾されるのを待つだけだ。
ナバール連合に加入しようとした町はノームが初めてではない。かつてはあらゆるところにあった町や村が申請を申し立てたが、町長会議の時点で却下されるのが常だった。キロスが新しく加わってから二十年以上は今の五つの町で連合は成り立っていた。それが今変わる。六つ目の町としてノームは正式にナバール連合に加わることになるだろう。地域情勢を鑑みても世界政府がこれを却下することは有り得ないだろう。
会議は終わりを迎え、それぞれの町長は目の前にある書類をまとめ、会議室から出ていく。誰も口を開かず、一人ずつ一人ずつ・・・・・
最後にベルトリアとギリアムだけが残る。ギリアムはゆっくりと立ち上がり、うっすらと笑みを浮かべて意抜くような目でベルトリアを見た。
「ベルトリア、お前の言うこともわかる。ただまずは目先の危機についてどうするのか・・・それを考えるべきだ。それにはやはりタケミカヅチの力が必要だ。」
「タケミカズチ・・・ああ、あの少年の名前だったか・・・」
「お前もそれはわかっているんだろう?」
「ふ、フェザーランド公国もそのタケミカズチとかいう少年も何もかも信じられん。」
「信じる必要などないさ。目的が違うのは当然のことだ。それはお前と俺でもそうだろう?」
「・・・・・・・・・」
「心配することはない。俺はタケミカズチとの信頼関係を築き上げている。ナバール連合を悪いようにはしないさ。」
ギリアムが会議室を出ていく後ろ姿をベルトリアは無言で見送る。ギリアムの言葉の節々に満足感を感じた。
こいつも危険人物の一人だな・・・その野心は強大なもの。注意しておく必要があるようだ。
ベルトリアとギリアムは同じ時期に町長となり、両者ともに意識をしていた存在だった。ただデモテルとレモンネークの町の規模は異なるため、ベルトリアの名声がより世間に浸透した。ベルトリアは町長でもあり、ギルド長である。連合について詳しくない他国の人間もデモテルのベルトリアについては認知していることが多いくらいだ。ギリアムがそれをどう思っていたのか、ベルトリアには想像は難くなかった。
「レモンネークを発展させたいという思いからか・・・」
ベルトリアはギリアムが出ていった扉をじっと見つめながらそう呟いた。
町長会議が行われた数日後、世界政府へと連絡が入った。ナバール連合に新たな町が加入すると、その許可を頂きたいとの趣旨のものだった。
世界政府側の情報収集は迅速なものだった。加入するという町についての詳細を調べ、明らかになったその未知なる力。憂慮していたフェザーランド公国への対抗策として役に立つかもしれないという一縷の望みから承認の判断を下した。またそれも迅速な判断だった。タケミカヅチの予想通りの展開になり、本人もその話を城塞都市ノームの自室で聞いた。
「それは良かったな。しかし順調すぎて少し怖いな。」
誰かに邪魔をされるのではないかと思っていたのだが、そんなこともなく、自分の思った通りの展開になっていく。まあそれはそれで良いことなのだが、少しくらい刺激が欲しいとも思う。
「いえいえ、それで良いのです。神槍を探すという目的のためには時間が掛からない方がやはり良かったと思います、はい。」
メイドのリリアスがまるでタケミカヅチの心を読んだかのようにそう言った。ぐうの音も出ない正論だ。タケミカヅチは刺激を求めた自分を反省する。実際そんなことをしてる場合ではないのだ。
「ああ、そうだな。神槍を探すって目的があるもんな。ここからが本当の始まりだ。」
「はい。」
「リリアス。」
「何でしょう?」
「最上級神下を呼ぼうと思う。」
リリアスは顔つきを変える。真っ直ぐとタケミカヅチを見る真剣なものに。
「今いる神下全員に伝えてくれ。」
「はい。畏まりました。」
タケミカヅチは早速、最上級神下を呼び出すための準備に入る。ただの神下と違ってそう易々と呼べる存在ではない。大量の神力を使うため、たとえアルミラが錬成黒魔術で造り出した小天界に身を置いているとしても時間が掛かるのは明白だった。どれくらいの時間掛かるか、予想は丸二日くらいだ。
自室を出て、神下を呼び出すために造った専用の部屋まで歩いていく。城のなかでも許可された者しか立ち入ることが出来ない場所にひっそりとあり、光りもあまり届かず薄暗さが支配している。部屋の内側と外側の両方から物理攻撃と魔法攻撃を防ぐ結界が張られているのは神下を呼び出したときの衝撃に備えるためだ。これがなければ部屋が内側が破裂してしまうのではないかと思うほどの圧が生まれてしまうのだ。
初めてこの場所で神下を呼び出したとき、衝撃で部屋の壁に亀裂が入ってしまったことがあった。その失敗から学び、結界を張ることにしたのだが、アルミラは亀裂も味ですなんて訳のわからないことを言い出す始末。結界を張る、張らないで何故か小一時間話し合ったのをタケミカヅチは思い出した。
地面に幾何学模様が描かれた部屋に入るとリリフがそこにはいた。
「おう、リリフ。何だ、早いなずいぶん。」
「リリアスから聞きました。最上級神下を呼び出すと。」
「ああ、今からやろうと思う。」
「分かりました。おそらく結界が持たないと思うので強化します。」
「そうだな、頼む。」
一級神下を呼び出しても結界はびくともしてはいなかったが、念には念を入れた方がいいだろう。もし部屋が壊れたら直すのに小一時間は掛かる。それは面倒臭い。
リリフは部屋の内側から新たに二重の結界を張った。衝撃を吸収する結界で魔力をそこまで消費しない簡易的なものだ。次に自らにも結界を張る。結界が破れてしまう可能性も考慮に入れてリリフが部屋に待機するために必要な措置だ。
「タケミカズチ様、結界の方は万全です。」
「よし、リリフありがとな。今回はいつもより時間が掛かるが、大丈夫か?」
「はい、問題ありません。」
「わかった。じゃあ始める。」
それから食わず飲まずで二日間、神力を玉の形に集中させた。
タケミカズチにとっては短いと感じる二日間だったが、他の神下達にとっては長い二日間だった。




