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武神は異世界を闊歩する。  作者: カケル
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レモンネークの喜び

  地面に膝をつき、深々と頭を下げる男が四人・・・・・・

  彼らの格好は特段変わった様子は見られないが、意思の感じられない濁った瞳は異常だった。洗脳を命じた張本人でもあるギリアムでさえも少し困惑してしまうほどだった。

  目の前の四人の男は選ばれたレモンネークの囚人達であり、彼らは今さっき巨城の調査から戻ってきたところだった。少し意外だったのは四人とも全員無傷で帰ってきたことだ。一人、いや下手をしたら全員が戻ってくることなく命を落とすのではないかと予想していた。


「どうだった?巨城について何か分かったか?」


 ギリアムは四人に向かって言うのではなく、その横に立つバルカーに対して言った。

バルカーはギリアムの最側近で、特別な任務を担うこともあるレモンネークにとっては重要人物だ。戦闘能力を高く、非常に優秀。ギリアムも彼の働きには大いに満足していた。

何故囚人から直接聞かないのかは彼らが洗脳にかかっているからだ。もう少し効き目の薄い洗脳をするつもりだったが、思いの外、囚人に強い影響を与えるものだった。その結果、話すことさえできない能面のような顔つきから一切動かなくなったのだ。

まあ仕事をしてくれるならこいつらがどうなってもいいと割りきってはいたが・・・・・・


「内部への侵入は不可能だったらしく、外部からの情報しか得られなかったとのことです。」


「ティルクでさえ無理だったんだ。それは期待していなかったが・・・やはり巨城の存在は本当だったらしいな。」

心の底から信じるのは自らの目で見ないと不可能だが、恐らくは事実だと思われる。

「正門には見たことのない魔物がいたそうです。まるで門番のように。」


「それはティルクからの情報にはなかったな・・・」


いやはやどうするべきか。侵入不可能で、強さが未知数な門番が正門の前に陣取っている。無理矢理にでも通るなんて考えてはいけない。やはりここは交渉だろう。城の主と友好的な関係を結べれば、レモンネークが他の町よりも一歩も二歩も上へと進めるかもしれない。


「俺もここに向かうことにしよう。バルカー、お前もついてこい。」


「城の主と面会をするのですか?」


「ああ、だが喧嘩を売りにいくわけではないぞ。ただ話をしに行くだけだ。友好的な関係を築き上げるための第一歩だ。」


「畏まりました。ご同行させていただきます。」


ギリアムは他に数人の部下を選定した。腕っぷしに自信がある者というよりは知恵がある者。しっかりと考えて行動できる頭脳派の部下を連れていくことにした。何かをきっかけにして暴走されても困るからその心配がないように、だ。


次の日。

日照りが良く、気温も高い。外出にはもってこいの朝だった。

ギリアムはバルカーや他の部下達と共にレモンネークで一番高価で頑丈な馬車に乗り込み、出発した。

レモンネーク東の森を抜け、北方平原に到着したのは五時間ほど経過したときだった。

左右にうっそうと広がっていた長草や枝を広げた木々達がなくなり、広々とした空間に出たと思ったら前方に見えたのは巨大な城だった。

自らの目で見たその城は聞いていた印象よりももっと強烈な衝撃をギリアムに与える。


長年ずっとこの場所に聳えていたのではないか。そうでないとこんな建造物を造るなんて不可能だ。細部まで装飾が施されており、城の主のこだわりが見て取れる。そして間違いなく、この城にはお宝がある。


平原をしばらく進んで城の正門の前に馬車が到着すると囚人達が見たという魔物が門番として前方を遮っていた。

確かに見たことのない魔物だ。というより魔物なのかさえも分からない。生き物にも見えないが、石板のような顔面についている双眸がこちらを直視しているのを見ると、やはり生き物であることに間違いはないらしい。


「どなたかいらっしゃらないか!我々は攻めに来たのではない!ただ話をしたいのだ!私はレモンネークの町長、ギリアム ベルティーユ!レモンネークを代表してここに来た!」


ギリアムは声を張り上げて叫ぶ。どちらにせよ自分たちの存在に気付いていないわけがない。相手がどれだけ早い段階で知ったかは分からないが、ここは冷静に行動をしよう。


少しの間の沈黙が心をチクチク刺してくる。やがて正門が重々しい音を立てながら開き始める。

「レモンネーク・・・そこの町長というわけですか?」

 黒服の怪しげな人物がギリアムの目の前まで歩いてきた。服のせいで分かりずらいが、しっかりとした筋肉を持っているようだ。こちらに歩いてくる身のこなしで彼の戦闘力の高さが垣間見える。


「ああ、そうだ。戦闘の意志はない。話がしたいんだ。」


「それはちょうどよかったです。」


「ちょうどよかった?」


「はい、こちら側からレモンネークへと伺おうと思っていたところでしたので。わざわざ足を運んでくれるとは。」

  黒服の男は軽くお辞儀をした。


「少々お待ちください。今、主様を呼びに行きますので。」

  そう言って黒服の男は正門を再度潜っていった。しばらく待たされるかと思ったが、一分も経たないうちに城の主が出てきた。ティルクがこの場所で会った少年だろう。


「あなたがこの城の主か?」


「ああ、そうだよ。悪いな、そっちから出向かせちゃって。」


「いや、こんな立派な城を築かれた者に挨拶をしないなんて選択はないさ。」


「立ち話もなんだな・・・城に招待しよう。中に入ってくれ。エルンドー、メイドに上質なコーヒーを用意するのに頼んでおいてくれ。」


「はい、かしこまりました。」


 ギリアム達は馬車を城壁の隅に置き、少年に連れられて正門を潜った。

 城壁の内部は一つの町として成り立っていた。武器屋や防具屋、宿屋の看板も数件見られる。庭園の真ん中にある噴水も美しく、ここが発展した国の中だと言われても信じてしまうほどの造りをしていた。


「そういえば自己紹介がまだだったな。俺の名前はタケミカズチだ。」


「私の名前はギリアム ベルティーユだ。よろしく頼む。そうか・・・タケミカズチというのか。武の神として崇められているタケミカズチと同じ名前とはすごい偶然だな。縁起がいい。」


「よく言われるよ。」

タケミカヅチは今一人でギリアム達を迎えている。案内も自分一人でやっていて、殺そうと思えば殺せるのではないかという思いがギリアムの心にわき上がる。しかし冷静になって考えてみるとやはり・・・それは困難を極めるだろう。この少年はあえて自らが一人で出迎えることで護衛などいなくても一人で全てを鎮圧できると暗に言っているのだ。

朗らかな笑顔の下に何を思っているのか・・・想像さえできない。友好的な関係を築くこと、まずはそれが最重要だとギリアムは強く思った。


 城内の町中を歩いている人はタケミカズチの姿が視界に入ると深々と頭を下げて、通り過ぎるまでその態勢を保ったままだった。誰一人として乱れた服装をしている者はおらず、タケミカズチへの忠誠心にも隙がない。

 ギリアム達が最も驚いたのは城の前に黒い魔物が当たり前のようにいたことだ。黒い皮膚を持つサイクロプスとミノタウロスだ。思わず歩みを止めてしまい、タケミカズチに疑問に思われた。


「どうした?」


「い、いや、魔物に驚いてな。」


「ああ、普通町の中に魔物はいないもんな。まあでも襲ってこないから安心してくれ。」


「お、おお・・・そうか、それならよかった。」


 ギリアムは安堵の表情を浮かべると、それは伝播し、硬直した部下たちの身体も弛緩し始める。

 城の中も豪華絢爛で静謐な雰囲気に包まれている。階段や床の素材にはオリハルコンやアダマンタイトが使われ、細長い廊下の上を見上げると見たことのない色彩のステンドグラスが飾られていた。

タケミカヅチに仕える者が敬意を表し、ギリアム達を迎える。ただそこには油断ならない敵意みたいな感情が垣間見えて、ギリアムは背筋を伸ばす。

それから城の中を歩き続け、辿り着いたのは赤茶色の扉の前だった。


「ここは?」


「まあ、会議室のようなものだな。」


タケミカヅチは扉の取っ手に手をかける。

開けた瞬間の驚きはとてつもないものだった。多くの国々に出向いているギリアムでさえ言葉を失う豪華な小部屋がそこにはあった。タケミカヅチという少年が持つ財や名誉が凝縮されているような空間に身を縮こめる思いを抱いた。


「素晴らしい部屋だな・・・・・・ここは。」


「お、わかるか?やっぱり。ここは結構お気に入りの場所なんだ。まあ座ってくれ。」


「ああ、すまないな。」

 柔らかなソファに腰を掛けたギリアム。バルカーを除いた他の部下たちは別室で待機している。一方、タケミカズチは一人だ。


「さて、それでそちら側は何の用でここに?」


「ん、ああ・・・うちの町の冒険者から噂を聞いてな。北方平原に巨大な城が出現したと。それで調査を開始したんだ。その話が本当なら近隣の住民として挨拶をしなければ、と思ってな。」


「友好的な態度、感謝する。他の町の人間には暴力的な奴らもいて困っていてな。」


「それはそれは・・・許せない行為だな。まずは面と向かって話をしなければ何もわからないというのに。」


「ははは、同感だ。話が分かるな・・・えっとギリアムだったか?」


「ああ、ギリアムだ。ギリアム ベルティーユ。」


「ベルティーユというのはあの?」


「ああ、知ってるのか?ベルティーユ家を。」


「もちろんさ。ナバール連合の二大貴族の一つだろう。知らない方がおかしい。」


「そうか、お・・私の方も認識不足だったみたいだ。」


「いつも通り話している感じでいいぞ。これからも付き合っていく仲じゃないか。」


「それはありがたいな。これからもよろしく頼む。」


「ああ、だがそれにはこの城塞都市ノームがナバール連合に正式に加入しなくちゃならない。」


「ほう?」

 タケミカズチが話した内容で彼が何を狙っているのか、大体の予測はついた。

 

「そのために力を貸してほしいと思ってな。」


 ここで返答に時間を掛けてしまえば不信感に繋がってしまうとギリアムはすぐに察知した。


「ああ、もちろんだ。城塞都市ノームのナバール連合加入を全面的に支持しよう。なおかつ他の町にも承諾するように呼びかけよう。」


「その言葉が聞きたかった。ありがとう、ギリアム。この恩はしっかりと報いよう。」


 タケミカズチが出してきた手をギリアムは強く握り返した。

 ギリアムはホッとしていた。間違っても対立関係にならないように顔色を伺っていたが、それが吉と出たようだ。

それから即席ではあるが、歓迎の食事会が開催された。ギリアム達が来るのを見越していたのではと疑ってしまうほど豪華で凝った料理が振る舞われた。その料理は一言で言えば、美味だった。ナバール連合では味わえない料理で、ギリアムやその部下達全員が至福の表情を浮かべている。

そしてもうひとつ気になったのが、食事を運んでくるメイドの存在だ。貴族の立場として幼少の頃からメイドは身近な存在ではあったが、ここまで礼節を知り尽くし、何よりもこんなにも美しさを持っているメイドは見たことがない。それが何人も現れ、食事を載せた皿を運んでくる。

味わい深い料理と美しい女性。今ここが最高な空間であることに疑いようはない。


終始リラックスしたムードで食事の席は終わりを迎え、タケミカヅチの見送りと共にギリアム達一行は城塞都市ノームを後にした。部下達があんなにも女のことで話に華を咲かせているところは初めて見た。


他の四つの町を出し抜き、あの城塞都市と最も密接な関係を築くのはレモンネークだ。それがこれからの多大なる発展へと繋がるだろう。そのためならノームがナバール連合に加わることなど些細なことだ。むしろ軍事力の面からいえば歓迎すべきだろう。ギリアムはほくそ笑み、まだ見ぬレモンネークの良き未来を想像した。






 




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