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武神は異世界を闊歩する。  作者: カケル
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冒険者集団の襲来Ⅱ

東側の城門へと向かった冒険者達の筆頭に立つのはデモテルA級冒険者のドークスだ。まだ二十代の若者で将来はデモテルを飛び越え、大陸でも名だたる冒険者になるに違いないと言われるほどの才能の持ち主、それがドークスだ。

グラシオが彼に剣を教え、冒険者になることを薦めた。デモテルはひとつの町に過ぎない。民間の警備兵はいるが、ドークスの剣の腕はもっと刺激のある場所で使われるべきだと、グラシオがドークスに言ったのだ。

その結果、ドークスは冒険者になった。五年前のちょうど今頃だ。五年という期間でA級にまで昇格したのはデモテルでは初めてのことだった。


ドークスにとっても今回の北方平原の緊急クエストは驚きの連続で、東の城壁に向けて馬を走らせている今もその心持ちは変わっていない。

城壁に沿って移動しているが、入り口らしい扉は見当たらない。どうやら正門でしか行き来は出来ない造りになっているようだ。


「・・・・・・ということは・・」


ドークスは馬をゆっくりと止めて、東の城壁の上を見上げる。

ここを上っていくしか方法はない、か。

どうすればいいかと迷うことはなかった。ドークスは剣士でもあるが、同時に魔法の心得を学んでいた。

簡単ではあるが、精密な魔力操作が必要なあの魔法しか、城壁を上る手だてはない。


「クリエイト魔法・・・・・・石膏階段。」


地面がうねるようにして変形していく。段々の階段状の物体が着実に造り上げられていく。まるで巨人が粘土遊びをしているかのような光景だ。

確かに通常の魔法よりか魔力を操る作用が魔法の出来、不出来を決めそうだ。


もう少しで城壁の上と繋がると思ったその時、一閃の雷撃が迸った。すべてを崩壊する蹴撃がドークスの魔法を打ち破った。

階段はなにもかも消え失せ、薄い黒煙だけが立ち上っているだけだった。

何が起こったのか・・・雷が落ちた?そんなわけはない。気象を考えてもそれはない。だったら何が・・・・・・

 ドークスが思考を巡らせていると城壁の上から降り立つ存在が目に入った。


「許可なく侵入しようとするのはいただけませんな。」


「あんたの仕業か?」

  

  ドークスは城壁から飛び降りて目の前に着地したエルンドーに向かって努めて冷静に尋ねた。

  エルンドーを初めて見た者はその礼儀正しさと共に、彼の年齢がいくつなのか疑問を覚えるだろう。まさに年齢不詳。ドークスもまさにそう思っていた。


「何もせずに立ち去ってくれれば、こちらも手を出さずに済むのですが。」


「ここまで来てそれは無理な話だ。デモテルの上の奴らから言われてるんでね。ここを調査するように。」


「その気持ちはわかりますが、この城はわが主が住まう場所・・・死んでも通すわけにはいきません。」


「主?そうか、やっぱりここは領主がいるれっきとした城ということか。」


「誰も住んでいない廃城だとでも思いましたか?愚の骨頂ですよ?」

 エルンドーは右手を背中に回し、左手で拳を作ると、それをドークスの方へ向けた。

「ふん・・・まあどちらにせよ、ここを通るためにはあんたを倒さないといけないみたいだな。」

 ドークスもエルンドーが構えた瞬間に腰に携えていた長剣を抜き出した。


 ドークスの背後にいる冒険者達も武器を構えるが、二人の空間におよそ入っていける気がしなかった。自分たちが加わればドークスの足手纏いになってしまうことは明白で、この中で最も年下のA級冒険者を見守ることしかできないことに多少の歯がゆさを感じていた。


 ドークスとエルンドー、どちらが最初に駆けだしたのか目視では判断するのは難しかった。それくらい二人は同時に動き始めた。

 無駄のない華麗な動きでドークスは自由自在に長剣を振り回す。一度でも隙を見せればその首を刈り取る。その意識でドークスは剣を振るう。


エルンドーは振り下ろされる剣を避けつつ、ドークスに左拳を打ちつける。こちらも動きに一切の隙が見当たらない。


ーーー強い。この男は間違いなくA級冒険者になれる器だ。


しかしどうしても勝てない相手ではないと思った。武闘家としてのレベルは高いが、それは速度に特化している。攻撃力は並といっていい。これくらいなら一発入っても骨が折れるくらいで済むだろう。

これは決して油断ではない。計算した結果によるものだ。


確実に勝利を収めるにはやはり、剣技を使う必要がある。しかもタイミングが非常に重要になってくる。どこで使えばより確実に仕留められるか・・・・その判断が重要だ。

ドークスは刹那の時間でエルンドーの全身の正確な動きを視る。


右足が、動き・・・そして左腕が上がる・・・・


エルンドーの攻撃を予測。ドークスは大きく目を見開いて、一気に駆け出した。

心臓の鼓動が徐々に速くなり、血が全身を巡っていく感覚を覚える。


剣技、流星乱舞。

数秒の間に何十、何百もの乱刃が狂気のごとく舞い踊る。

全身を切り裂くのには十分すぎる威力を持つ攻撃がエルンドーにぶつかると思ったが、そうはならなかった。

何百もの刃を全て蹴りで受け止める。その速さは到底人間のものとは思えない。


こいつ、化け物か?ドークスは目の前の男の危険度を格上げする。さっきまでとは明らかに違う。ドークスがどんな攻撃をして、どんな力を持っているのかを見極めようとしていたのか。定石と言えば定石だ。ただそれ以前に自分が手のひらで遊ばれていたことに少しの苛立ちを感じた。


「あんた、本気出してないだろ?」


「本気、ですか?そうですね、出さなくてもいいと判断しました。決してあなたを舐めているわけではありませんよ?」


「どうだか。」

ドークスは苛立ちを抑えて、突風の如き速さでエルンドーの背後を取る。斬閃を与えようとしたが、その一撃はまたも当たらない。

蹴りで受け止められるが、ドークスは切り替えて次の攻撃に移行する。

A級冒険者としての誇りがドークスに火をつける。はあああ!という気合の入った声が轟く。


「おぶ・・・・・・」

そのすぐ後にドークスの潰れた声が聞こえてきた。

肉体能力の差とか、そういったレベルの話ではない。薄れゆく意識の中で自分が大変な相手を敵に回してしまったことを強く悟った。恐怖、そうだ・・・初めてランドマーク帝国の聖騎士に会ったあの時と同じ感じだ。


どさっと地面に叩きつけられたドークスの体はピクリとも動かない。それを見下ろしているエルンドーの右足は雷撃を纏っている。


「次に餌食になる人はどなたで?」


ドークスがやられた時点でもう他の冒険者の気力は削がれた。どうしたらここから逃げ出すことができるか。彼らは皆それだけを考えていた。

誰も背を向けて走り出さないのはそれをすれば殺されるのではという不安を拭い去ることが出来ていないからだ。

エルンドーは何もせずに立ち去ってくれないかと口にしていたが、それが本当の話なのかが分からない。


そんななか一人の冒険者が思いきって背を向けて走り出した。他の者は彼の背中を目で追う。どんどん遠ざかっていく背中に希望を見いだした冒険者達は次々と逃げ出していく。誰も倒れたドークスを運ぶなんて無謀な行動をしようとしない。


「やれやれ・・・この者の処分はどうすればいいやら。」


エルンドーにとってみれば、ドークスを運んで逃げてくれた方が面倒が少なくて済んだ。冒険者達が自分を怖がって一目散に逃げていった気持ちは理解できなくはないが、仲間を捨て置き逃げるという選択肢を取るとはさすがに予想し得なかった。


これにて東の城壁の防衛はあっさりと成功した。






西の城壁へと向かった冒険者集団に目立った存在はいなかった。ただそれはグラシオやドークスといったデモテルの強者と比べればの話だ。

ナバール連合の中で比較すれば冒険者としてのレベルは高い者達ばかりで、彼ら自身もその自負を抱いていた。

西の城壁付近に出入りできる門は存在しておらず、入るにはやはり城壁の上になんとかして上らなければいけないようだった。

城壁を破壊して侵入する手も考えはしたが、素材が硬質で無理な話だった。

上へ上がる手段がなく、手をこまねいていると突如として地面が盛り上がり、モグラのような魔物が現れた。正門にいた城壁を守る番人のように間に立ち塞がっている。

ダンジョンで突然出てくる魔物として憎まれているドリモゲラだ。一個体だけならたいして苦にもならない強さだが、大量のドリモゲラを相手にするのはB級やC級の冒険者には難しい。予想した通り、剣を抜く暇もないまま襲われ始める冒険者達。なんとか態勢を立て直し、何匹かを屠るが、撃退する数はドリモゲラが増えていく数には到底及ばない。血走った目を冒険者に向け、舌舐めずりして獲物を殺すのを楽しんでいる様子さえある。


ヤバイぞ・・・どうする?

慌ただしいなかで一人の冒険者が迷いながらも活路を見いだす。

懐のなかにあった魔石を思いきり投げつけた。真っ赤な魔石が碎け散り、焼けつくような閃光が迸ったかと思うとドリモゲラは小石のように軽々と吹っ飛んでいった。




大爆発。




地面さえも抉り取る衝撃にドリモゲラだけでなく仲間の冒険者も巻き込まれた。

全てを一掃することはできたが、爆発によって城壁に傷はついていなかった。

魔石の爆発でさえ傷がつかないなんて一体どんな素材で出来ている壁なんだと考えようとしたが、すぐにその解答に思い付く。

アダマンタイト。この世で最も硬いと言われている金属を加工して築き上げられた城壁なのだろう。


男は懐にもうひとつだけ残っている魔石に触れる。デモテルの冒険者ギルドから盗み出した二つの魔石。数か月前に町内では大きな問題となっていたが、その話題も時間と共に皆忘れていった。

その犯人がこの男だった。

この時のために使う気なんてさらさらなかったが、城の荘厳さに目を奪われ、この中に自分が今まで見たことのないような宝が眠っていると確信した。


「アダマンタイトの城壁だとするなら、破るのは相当困難だ。魔石の爆発程度じゃ無理だな。」


岩石や鋼鉄の壁なら容易く破壊できるが、アダマンタイトならば爆発の威力が低すぎる。

やはりこの城壁に上らなければいけないらしい。


男がそう思い、憂鬱な気分で壁を見上げると巨大な魔物が地面にドガァンとものすごい音を立てて地面に着陸した。

けたたましい咆哮と強い血の臭いを帯びた吐息が男に振りかかる。一瞬にして恐怖という感情が上限を越え、自分が何故今ここにいるのか分からなくなった。頭と心が機能を停止したのだ。本当に一瞬で。


「ふふ、やってくれたね。私のドリモゲラ達を一匹残らず殺すなんて凄いじゃん。まあ、許さないけどね。」


弱いけど地面の探査をさせるのに使い勝手のいい魔物だったのに。まさか魔石を使うとは思いもよらなかった。ドリモゲラを一掃できても自分達の仲間さえも無差別に殺してしまう方法を選択するなんてさすがにチュチュも呆れてしまう。


数ある選択肢のなかで最も無意味で非道なやり方だ。チュチュが言える義理ではないが。

チュチュは火竜の背中に乗って、くつろぐためのクッションを置いて横になってリラックスしている。


少女が舐めきった姿をこちらに向けていることに怒りを覚えるほどの余裕は男にはなかった。目の前にいる最強の存在からどう逃げればいいのか、それだけをひたすらに考えていた。


男は懐にある魔石を再度握り締める。

投げつけて・・・一目散に逃げる・・・大丈夫・・・いやそれしか方法はない。


決意を固めて男は懐から魔石を取り出した。

「魔石でしょ?投げたって逃げ切れるわけないじゃん。だってミミが相手してあげてるんだから。」


「な、う、うるせぇ!!!」


自分がしようとしていることが相手には筒抜けだった。その事実が男の感情に焦りと乱れをもたらし、意固地な行動を起こさせた。


魔石を放り投げ、そのまま全速力で逃げ出した。

多大なる犠牲や貴重な魔石よりも自らの命が一番大切だ。

紅き閃光がビカッと輝き、空気を深紅に染め上げると灼熱の如き爆発が発生する。

男は背中に焼けるような痛みを感じながらもそれに耐え、懸命に足を動かす。止まったら死ぬ、止まったら死ぬと自分自身に言葉をかけながら。


「うわぁ、本当に逃げた。つまんないの。」


チュチュは面倒だなと思いながら火竜の背中をポンポンと軽く叩いた。すると天を貫くような咆哮を上げ、逃げる男の背中を獲物として狙い定める。


「よし、じゃあやっちゃ・・・・」


「チュチュぅぅ~~!!!!暇ぁぁぁ~~~~!!!」


「ミミ!?南の城壁は?」


「誰も来ないよ!一切来ない!楽しみにしてたのに!チュチュ分かってて南に配置したんでしょ!?」


「そんなわけないじゃん。でもそっか、南には誰も来てないんだ。そうだ、ならあの逃げてる男はミミにあげる。」


「え~、う~ん・・・逃げてる奴に興味はないんだけどなあ。」

立ち向かってくる相手をボコボコにすることにやりがいを感じる。それがミミのやり方だ。逃げていく相手に拳を向けるのは実際つまらない。


「いいの?あいつはタケミカヅチ様が造り上げたこの絶世なる建造物を壊そうとした不敬極まりない奴だよ?」


「そうだね、はい死刑確定。」


直前までは渋っていたミミだが、チュチュに諭されやる気を出した。というよりもやはりタケミカヅチが神力で造った建物を壊そうとしたことを許せるはずもなかった。

あり得ない行動、死に値するのは明白。


ミミは音速と変わらぬ速度で逃げる男のもとへと駆け出した。

もう距離なんてものに意味はない。ミミに追われたらどんなに離れていても逃れることはできないだろう。


男の背中が目と鼻の先まで近付き、ミミは殺すことも厭わない力でその背中を殴り付けた。


兎神撃鉄ラパン ショット!!!!」


鋼鉄など遥かに越える硬さを誇る兎の一撃は男の背骨を粉々に砕き、体を爆散させた。

衝撃波が巻き起こり、周囲に広がる平原を陥没させ、土や石が上空へと舞い上がった。


生死など一見みればすぐに理解できる。それほど悲惨な光景だったが、ミミの顔色は晴れやかに優れていた。


「あらら・・・ミミ、ちょっとやりすぎじゃない?これじゃここで戦闘が起きたって丸わかりだよ。」

ミミの隣に火竜に乗ったチュチュがやって来る。


「直せば大丈夫。」


「自分で直しなよ?」


「えー・・・少しくらい手伝ってくれても・・・」


「いやだ。面倒くさいもん。んじゃ、頑張ってね。ふふふ。」


「ちょっと~~~~。」

離れていくチュチュにミミは駄々っ子のように足をバタバタさせて、なおも懇願していた。





















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