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武神は異世界を闊歩する。  作者: カケル
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冒険者集団の襲来

  薬の臭いがツーンと鼻を刺激する。薬品を入れた大きな鉄鍋が今にも爆発しそうなほどガタガタと震えており、本当に大丈夫だろうかと心配な気持ちになる。ただ目の前にいる人物がこれくらい強く振動しないと良い薬ができないんです!と鍋の振動と同じくらい強く主張してきたので、こちらとしても何も言えない。

 タケミカズチは剣技や魔法についてならばよく知っているが、薬品の調合などの作業については素人同然だ。一応立ち会ってはいるが、何をしているのかさっぱりわからない。


「フーレイン、もうゴブリンの耳は入れたのか?」


「いえ、まだです。ゴブリンの耳は最後に投入します。そうした方が薬の効力が上がるんです。」

 フーレインと呼ばれた人族の女性は見た目はどこにでもいる十代くらいの少女に見える。でもそれは見た目だけ。実年齢は三十歳で、童顔で若く見えることにコンプレックスを抱いているのは周知の事実で、皆結構気を使っている。タケミカズチもフーレインを子供扱いしないように心がけているくらいだ。髪は後ろで一つに束ねていて、服装はいつも薬師のローブを身に着けている。


「へぇ、そうか。いや勉強になるな。」

 正直な話、薬品について学びたいとは思っていたので良い機会になっている。

 が、しかし薬への情熱がフーレインは強すぎる。タケミカズチ相手でも薬のこととなれば人が変わったような態度になる。講師となればさぞ厳しい指導を行いそうだ。


「タケミカズチ様が薬のことを学ばなくても、私がいればどんなことでも応えて見せます。」

 フーレインは自分の胸を軽く叩いた。

 彼女の忠誠心はとてもありがたい。もし敵だったらと考えるだけで憂鬱な気分になる。フーレインが作り出す秘薬は下手をすれば何千、何万の人や魔物を殺せる劇薬になり得る。それくらい危険なものなのだ。使い方次第で毒にもなるし、薬にもなる。タケミカズチからしたら出来るだけ良い効果を生み出す薬をフーレインには作ってほしいと考えている。今作っているのもその類の薬だ。


「期待してるぞ、フーレイン。」


「はい、このフーレイン アークサイファにお任せください・・・っとそろそろゴブリンの耳を投入します。」


 フーレインはゴブリンの耳を干したものを数十個まとめて鉄鍋に投げ入れた。グツグツと煮たっていた鍋は一度その勢いを収束させると徐々に粘り気を纏っていく。毒々しい色の液体だったが、何故だか次第に透明な液体へと変わっていく。それでも相変わらず粘り気は増していく。透明な液体が粘質を持つなんてあまり見たことがない光景だった。

それからおよそ三十分の時間がかかって、指先くらいの大きさの丸薬が数百個出来上がった。透明ではなく、若干白みがかっている。フーレインは丸薬を一粒指で掴んでじーっと眺める。しばらくすると納得した様子でうんと大きく首を縦に振った。


「完成です!これはなかなかいい具合ですよ、うん。大成功といっても差し支えないです、うん。」


「おお、そりゃあ良かった。ご苦労様、フーレイン。ありがとう。」


「いえいえ、何の何の。これくらいしか私にはできませんから。」


フーレインが作ってくれた白い丸薬は一定時間負の効果を寄せ付けないようにする秘薬で、天界でもかなり重宝した代物だった。下界では必要ないだろうとたかをくくっていたが、アルミラが魔人と遭遇したと聞いてそうもいられなくなった。この丸薬は対魔人専用の薬と言って良い。他で使うことはまずないだろう。魔人が放つ攻撃は普通の魔物とは異なり、魔障気という特殊な魔力を宿しており、それは普通の人間や魔物には強い毒性を持つ物質だ。例外としてタケミカヅチやアルミラがいたり、天使族や悪魔族などの伝説級の種族には効果を発揮しないが。

しかしそれ以外には毒となるので、どうしてもそれを防ぐ手段が必要となる。それがこの丸薬だ。もちろん丸薬なしで魔人と戦うことは可能だし、タケミカヅチの最上級神下ならばそれくらい余裕で果たせそうだが、丸薬を使って有利になるのであれば使わない理由はないだろう。


これを大量に生産していけば下界で魔人と相対することがあっても大丈夫だ。


「でも下界に魔人が現れるなんて想像もしてなかったですね。」


「全くだ。下界に魔人がいるのと神槍が下界に転移されたこと・・・無関係とは思えないな。」

実はというと、頭のなかに少しあった。神槍が消失した、と聞いたときにまず最初に思ったことが魔人族の仕業なのではないかという考えだ。漠然としたものだし、何の根拠もない考えだったのでその予想を口に出して吹聴することはなかったが、ずっと頭の隅には残っていた。


「はい、怪しい臭いがぷんぷんします。」


フーレインは顔をしかめて、不快げな表情をつくった。



「・・・・・・タケミカヅチ様・・・」


突然念波が飛んでくる。何事だろうかと少し訝しむが、相手はチュチュだった。


「チュチュか。どうした、念波なんか使って。」


「はい、城壁の外に大人数の集団が迫ってるようです。」


「距離は?」


「約三キロほど離れた地点です。」


「聞くまでもないと思うが、ここを目指してるのか?」


「はい、まず間違いなく。」


この城が出来て、何日経ったかもう覚えていない。確か十日ほどだったと思うが。そう考えると周囲の町が動き出すのが遅かったような気もする。


「まあたぶん、デモテルかレモンネーク、あとはロスベルト、とにかくナバール連合のどこかの町がようやく動き出したみたいだな。」


「対処はどうしましょうか?」


「正門にはトーテムを配置してるから大丈夫だとして、問題は左右と背後だな。いろいろと面倒な行動をするようならお仕置きしてやれ。そうだな・・・エルンドーやミミにも声を掛けておけ。」


「あららら、なんか厄介なことになってるみたいですね。」


「いや、願ったり叶ったりだ。おそらくナバール連合の他の町の連中だろうしな。正式にとはいかないが、俺の意思は伝えられるだろ?」


「城塞都市ノームを正式にナバール連合に加入させること、ですね。」


「ああ、下界に順応できれば神槍探しも少しは楽になるだろ。今は情報が少なすぎる。」


タケミカヅチのその言葉を聞いて、フーレインはああそういえばと思い出したような表情を浮かべた。タケミカヅチが下界に来た理由をすっかり忘れていたようだ。

・・・・・・これは皆を集めてもう一度目的をはっきりさせないといけないかもしれない。


魔法障壁が張られた城の特別区でタケミカヅチは誰にも気づかれない小さなため息をついた。








実験のためにタケミカヅチが特別区に滞在していると聞いて、チュチュはタケミカヅチに念波で連絡を取った。迫り来る集団への対処を仰ぐためだ。飛竜を飛ばしていたお陰で三キロ先の様子を把握することができたのは実際ラッキーだった。こちらにはリリフやアルミラがいるため、周囲の状況を察知できる能力を持つ者がいる。そう考えれば別に飛竜を飛ばし、周りの警戒をする必要はないが、念には念をといった考えは正しかったようだ。


「おーい、チュチュ!遊びに来たよおー!」

 ガチャンと部屋の扉が開かれると耳をぴょこぴょこさせたミミが愉快そうな様子で訪ねてきた。


 部屋の大窓の方で空を飛ぶ飛竜を眺めていたチュチュはミミの方を振り向く。

「あ、ちょうどいいところに来たね。ミミの大好きな遊びをしよう。」


「え、なになに?楽しいこと?」


「うん、この城に敵っぽい奴らが迫ってきてるみたい。」

 チュチュの話した内容にミミはやはり目を輝かせた。

「おおお、やっと来たね。前に来たらしい人たちはすぐに消えていったから、実質初めての訪問者だね。うんうん、これは暇なミミにはとても嬉しいことなのです。」


「正門にはトーテムがいるからそっちは問題ないらしいよ。」


「うんうん、ってことは横と後ろを注意すればいいんだね?」


「そういうこと。じゃあミミは一人で城の背後を頼んだよ。」


「さっすが、チュチュ。わかってるね。んじゃ、もう後ろの城壁の上で待機してるねー。」


「ミミ~!相手が手出してくるまでやっちゃ駄目だからね~!!!」


「わかってるって!!」


 ミミは大急ぎでチュチュの部屋を出ていく。本当に分かってるのかな・・・という自らの心の声を無かったことにして、チュチュも移動を開始する。


「エルンドーにも伝えないと・・・・・・・・・あ、エルンドー?あの・・・」

 エルンドーにも念波を送る。実を言うとチュチュはあまり念動魔法があまり得意ではない。ノームの外にいる仲間に連絡を取るのはちょっと自信ない・・・

 

「外敵ですね?」

 エルンドーはチュチュが言う前に理解した。敵の存在を。

「あ、気付いてた?さすがだね。じゃあエルンドーは右のほうで。」


「はい、かしこまりました。」

 念波で伝わってくるエルンドーの声だけで今も深々と一礼しているのが分かる。二級神下の中でもチュチュが最も信頼を置き、実力を認めている存在でもある。チュチュの予想では近いうちに一級神下に昇級するだろうと思っている。



 ミミは南の城壁の上で早く来ないかなとわくわくした様子で待機している。

 エルンドーは東の城壁の上で姿勢良く無表情で立っている。

 そしてチュチュは西の城壁でペットのシマリスに餌をあげていた。

 城塞都市ノームの防衛は万全。チュチュはこれから来る連中に少しだけ同情した。それと同時に攻撃してこないほうがいいよと忠告したくなった。・・・特に南の城壁からは。



  長く長く続いている森林を抜けると、だだっ広い平原が広がっていた。そのまさに中央にあったのは巨大で、荘厳で、まるで見たことのない堅牢さを兼ね備えた白磁の豪城ごうじょうだった。

  デモテルのA級冒険者であり、この冒険者集団のリーダーを務めているグラシオはその光景を見た瞬間に鳥肌が止まらなかった。A級冒険者になってまだ間もない頃にナバール連合を出て、ランドマーク帝国領土内にあるグロウステア地区の古代要塞に言った時と似た症状だ。いやそれ以上の衝撃を受けたといっても過言ではない。

  リーダーであるグラシオでさえそうなのだから彼の背後に控えるB級やC級冒険者は言うまでもなく圧倒されていることだろう。


  デモテルの町長の意向を汲んでギルド長がつくり上げた冒険者集団。もちろんその目的は北方平原に現れた謎の建造物の調査だ。

  おそらくそれをしようとしているのはデモテルだけではないだろう。レモンネークやロスベルトも調査を始めているに違いない。

馬を走らせて三十分。ようやく巨城の手前まで到着したが、行く手には巨大な彫刻が置いてあった。これ以上先には行けないようだ。それにしてもこの彫刻はなんなのだろう?眠っている人間の顔のようだが?馬を降りてゆっくりと接近すると急に彫刻の二つの瞳が開かれた。

魔物なのかどうかも分からないくらい目の前の存在を認知している者は誰もいなかった。


「お前ら慎重に進め!何をして来るか分からんぞ。」


グラシオがそう言うと冒険者達は覚悟を決めたように剣や斧、槍などの武器を構え、戦闘態勢を取る。

 ビビっているとは言え、彼らが冒険者であることに変わりはない。冒険者としての血が騒ぎ出し、目付きに鋭さが宿っていく。自分が知らない魔物と戦うことなんてナバール連合の中で活動していたら滅多にないことだ。

しかしどれだけ待っても彫刻のような魔物は一切攻撃を仕掛けてこない。ただ時間だけが過ぎていく。焦れったい感情を抑えていたグラシオだったが、彼以外は我慢ならなかったようだ。


太陽の日差しが一瞬だけ薄い雲に隠れた瞬間、グラシオの背後にいた冒険者が数人動き出した。


「おい、お前ら!待て!!」


制止する声も届かぬまま、彫刻のような魔物に向かって剣を振るう。

乱れ狂う斬撃にも魔物は何ら変わらない表情を浮かべている。劣化していたわけでもないのに剣にひびが入り、そのすぐ後に真っ二つに折れてしまった。


「な・・・硬すぎるだろ、こいつ。」


「ウゴゴゴゴゴ・・・・・・」

 城塞都市ノームの正門を守護し、絶対的な防御能力からタケミカズチの信頼を勝ち取った魔物。三級神下のトーテムだ。

 この魔物は防御だけに全てを振っているため、攻撃という概念を持たない特殊な魔物だ。攻撃をしないのではなく、攻撃という選択肢をはなから持っていないのだ。

 下界には存在しない魔物のため、そこのところはグラシオ達には理解できないが、彼らはどうにかしてこの魔物を突破しようと試みる。


 その場から一歩も動かないなら無視して正門を突き破れば・・・とある一人が思い付き、実行に移した。

 しかしそれはすぐに失敗に終わる。トーテムが急速なスピードで横に移動したのだ。冒険者の男は突如現れた巨大な壁に激突する。


「ブブブブブ・・・ムダ、ムダ、ムダ。」


 トーテムは初めて表情を変える。にやにやと愉悦に満ちたトーテムの顔つきにその場にいた冒険者全員が背筋を凍らせる。


「どうやら通してはもらえないようだな。お前ら、左右に分かれろ。馬鹿正直に正門を通る必要はねぇ。側方の城壁から侵入するんだ。」


「グラシオさんはどうするんですか?」


「俺はこの魔物をブッ飛ばす。」


 慎重に進んでいこうという考えはこの場合意味がないことに気付いた。何にしてもこの魔物は誰一人として正門を通すことはないだろう。なら真っ向から対立しても問題はない。

 グラシオは薄い笑みを浮かべる。こちらとしても手ぶらでデモテルに帰るわけにはいかないんでな・・・・・


「行くぜ、お前ら。全員でかかれ!!!!」


「おおおお!!!!!」


 士気の高い叫声が上がり、冒険者達は一斉に駆け出した。

 東西に分かれる部隊と、そのまま正門前に残る部隊があり、正門前には当然グラシオがいる。

 デモテルには三人のA級冒険者がおり、それがグラシオ、ドークス、バティウスの三人だ。この団体にはグラシオとドークスの二人が参加している。バティウスは二週間ほど前に兎人族の少女にひどい重症を負わされたと聞いた。怪我の状況は詳しくはわからない。バディウス本人が誰とも会いたくないと言っているのだ。デモテルでもバディウスの負けっぷりは噂になっていた。A級冒険者として高い信頼を得ていたバディウスの評価は急降下。B級やC級の冒険者からも舐められる始末。でもそれも仕方がない。一度の負けで誇りも自信も名声も失うなんてのは珍しいことでも何でもない。まあ正直言って、あいつがいなくても支障はない。

  

「よし・・・行くぞ?魔物野郎!」


 グラシオはいち早くトーテムに斬撃をかます。何の対策もしないで攻撃を仕掛けたら剣がすぐに折れてしまうのは重々承知している。ならば剣自体を強化すればいい。


付加魔法、グロウ。武器の耐久度を上げるC級魔法で、魔力も微量で済むので使い勝手がいい。

この状態で剣技を使えば、いくら硬いといっても少しはダメージが入るだろうと予測したが、そんなことはなかったらしい。グロウを使ったにも関わらず、グラシオが持つ剣は刃こぼれしていた。ゴーレムを倒した時でさえ刃こぼれしなかったというのに。


「こいつあ、一筋縄じゃいかねぇみたいだな。ちっ、この城のなかに何があるってんだ・・・・・・」


相変わらず腹の立つにやけた顔をしたトーテムにグラシオは絶対にここを通ってやると意地でも誓ったのだった。




























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