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武神は異世界を闊歩する。  作者: カケル
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城塞都市ノーム

「こ、これは・・・・アダマンタイト?」


誰かがそう呟いた。生きている間に一度見ることが出来れば幸運だと言われる世界最高の硬さを誇る鉱石、それがアダマンタイト。確かに本でしか目にしたことのない伝説の鉱石が目の前にある。いや光り輝く刀身に使われているといった方が正確か。

こそこそと話をしながらゴブリンの集団がその長剣を食い入るように見つめている。


ここはゴブリンの里。バッハメインが首長として君臨している場所で、人間にはあまり知られていない隠れ里だ。

キロスの北に位置する森の奥深くに存在しており、城塞都市ノームと友好関係を結んでいる。タケミカヅチが欲するゴブリンの耳、そしてバッハメインが欲しているゴブリンの武器、これらの交換でやり取りをしている。そしてゴブリンの里に届けられた武器が彼らの目の前にあるアダマンタイトで作られた長剣の数々だった。ゴブリンもアダマンタイトが希少な代物だと知っている。いわゆるS級ダンジョンと言われる場所の奥の奥の奥の壁に秘めるように同化しており、たとえアダマンタイトが採掘できる地点に到着することができてもどこにあるのか分からず諦めるなんてこともざらにあるくらいだ。だからこそアダマンタイトの大量入手は絶対に不可能だと言われている。

しかし目の前にあるのはその常識を覆すような光景だった。


王であるバッハメインもさすがにゴブリンの耳の対価としてここまで高級な武器を送ってくるとは考えていなかった。どういうつもり、というのは野暮だろう。タケミカズチと名乗った彼が何者であろうと里にとっては大切なパートナーに変わりはない。これからも彼と友好関係を保つのはゴブリンの族長として一番の重要事項だろう。


 ゴブリン達は恐る恐るアダマンタイトの長剣に手を伸ばす。

 ずっしりと重々しい感覚が全身に圧し掛かる。これはこん棒や鉄斧では感じられないものだ。人間が高級な服を身に纏うと普段の自分とは何かが違くなると聞いたことがあるが、それと同じようなものなのだろうか。ゴブリン達には初めてのことで、彼らは戸惑いを感じていた。


「ゴブリン王、バッハメイン様。これからは私がこの里との連絡係となります。エルンドーと申します。よろしくお願いします。」

アダマンタイトの武器を魔導装置の収納ボックスから出して、献上する役目をタケミカヅチから直々に任命されたエルンドー。

いつも黒服を着用し、同じ神下達から礼儀の怪物と称されるほど厳格なる男だ。チュチュと同じで人族だが、そうとは思えないほどの怪力を有している。


「エルンドーか。このような素晴らしい武器を頂き、感謝の言葉もない。タケミカズチ殿にも伝えといてくれ。」


「はい、かしこまりました。我々の関係の発展のためにこれからもどうぞよろしくお願い致します。」


 今日は挨拶だけで、と言って頭を下げた後、エルンドーは里から立ち去った。


 アルミラには及ばないが、彼もまた普通ではない感じがした。

「陛下、このアダマンタイトの長剣・・・兵士の人数分用意されています。」


「これでオークの奴らにも臆することなく立ち向かうことができるだろう。さっそく皆に配剣せよ。」


「はっ!」


 それからというもののゴブリンの里はオークの里を退けて、北の森を支配する最強勢力となっていくのであった。



 


  城塞都市ノーム。

  ミミはチュチュと共に城を飛び出してノームの町を散歩している最中だった。

  城壁内部にずらっと築き上げられた建物は全てタケミカズチが神力で造ったものだ。何度見てもその規模と荘厳さに目を見張る。自らの主ならばこれが普通だと思う反面、やっぱり凄いと何度目か分からない称賛と崇拝を心の中で抱く。

外から自由に行き来することは不可能であるにも関わらず、宿屋や武器屋、防具屋の看板が掲げられている。これはミミの意向だ。いや意向と言っても何気ないひと言でそうなっただけなのだが・・・


武器屋とか防具屋とかがあった方が町っぽいですよ~。


それで一応店という概念が城塞都市ノームにも導入された。まあでもこれから外からの客を迎え入れる可能性も少なからずあるから、その時には自慢できる店があった方がいい気もする。

 ミミは店のなかをちらっと覗いてみたが、誰一人として店員はいない。誰も来ないんだからいたって仕方ないか。武器も展示されていないし、見せかけの看板だけって感じだ。


うん、やっぱなんか寂しいな。


これから外で回収した武器や防具はこの店に置いていこう、ミミはそう決めた。チュチュにも協力を頼むと、それくらいなら別にいいよと承諾してくれた。持つべきものは親友だ、うん。



それにしても多くの神下が下界へと呼び出されている。ミミやチュチュの他にも色々な種族の神下達が行き交っている。誰も彼もがミミとチュチュの姿を見ると立ち止まり、軽く頭を下げてくる。一級神下の二人に対しての当然の礼儀らしいが、ミミときてはどういう反応をすればいいかさっぱり分からず、困惑してしまう。慣れるしかないんだろうけど。


気づけばミミとチュチュは城の正門まで歩いてきていた。いわゆるノームの出入り口だ。巨大な城門には剣の装飾がでかでかと施されており、圧倒される迫力がある。ミミもこの城門の雰囲気がとても好みだった。何というか・・・・・・とても強そうな感じがする。タケミカヅチ様にお似合いだ。


城門の両側には兵士が立っている。兵士と言っても人間ではなく魔物だ。アーマーナイトといって鎧を身に纏う魔物で、頑強なる城門の番人としてタケミカヅチに選ばれた。

しかしアーマーナイトがいるのは城門の内側・・・はっきり言ってしまえば、敵への恐れなど微塵もない。

問題の外側には異なる番人がおり、それが三級神下のトーテムだ。攻撃力は微力だが、防御力はまさに鉄壁の如し。

ミミでもトーテムの守りを突破するのに時間を要するほどだ。


城門は閉じたままでトーテムの姿を窺い知ることはできない。

あれを初めて見た人は驚くだろうなとミミは自分が初めて見た時のことを思い出した。


「まあ、でもいい奴だけどね。」

ミミは小さな声でボソッと呟いた。

「何が?トーテムが?」

チュチュは口をモグモグさせながらそう言った。


「うん、え、てか何で分かったの?」


「うん、なんとなく。」


「なに食べてんの?」


「赤桃、アルミラが食べてたやつ。」


「アルミラの影響を受けるなんてチュチュにしては珍しいね。」


「まあね。これに関して言えばあいつは間違ってないね、うん。」


「へぇ、そんなに。」


 チュチュが持っていた赤桃はノームで栽培されたもの。キロスに負けず劣らずの甘さを誇り、おそらくこれからノームの生産業の主要となるだろう。最下級の神下達がせっせと畑を耕している。城塞都市ノームで農産業や畜産業を自給自足することは他の地域に頼らない町作りには欠かせない。って、タケミカズチ様が言ってたからそうなんだろう。


 ミミは畑仕事をしている神下に赤桃一つもらっていい?と申し訳なさそうに聞くと、その神下は一級神下であるミミに話しかけられたことにあわあわと口を震えさせる。その反応が失礼に値するとすぐに思い直し、近くにあった赤桃をもぎ取り、両手でミミに渡した。


「ありがとう。・・・これが赤桃か~。」


「美味しいそうでしょ?」


「うん、見た目は最高だね。」


  ミミは口の中いっぱいに赤桃をほうばった。噛んだ瞬間に溢れ出てくる果実の蜜に頬が落ちてしまうのではないかと思うほどの美味を感じた。


「・・・・・・うま。」


「うんうん、そうなんだよねぇ。これ、見た目を裏切らない旨さなんだよねえ。」


兎人族は人参が好物だという話がある。的外れな固定観念ではないが、そこまでこだわりはない。ミミも嫌いではないが、別に食べられなくても何も思わないくらいだ。ただ今回は人参と違って大好物となり得る食べ物だろう。赤桃・・・・油断ならない。


ミミが赤桃に舌鼓を打っていると直後に上空から中低音のがなるような鳴き声が聞こえてきた。

隣にいたチュチュは空を見上げ、ああと軽い感じで納得した。


「飛竜だね、あれ。」


「あらら、赤桃に吸い寄せられたかな?」


「あながち間違ってないかも。食べ物になるような作物があると思って来たんだろうね。」


「タケミカヅチ様に・・・言うまでもないか。」


「うん、こんなことでタケミカヅチ様の貴重なお時間を割いちゃいけない。」


チュチュは指を口に咥えて、思いきり音を奏でた。空を突き破るように響く高音の音色は飛竜の耳にも届いた。するとすぐに変化は訪れた。自由に飛び回っていた飛竜がチュチュのもとへと近づいてきて、地面に降り立つと、羽を休める態勢を取った。飛竜が羽を休める態勢を取るのは心を許した相手にだけだ。


「早いね~。もう飼い慣らしちゃったんだ。」


「これくらいなら一秒も掛からないよ。さすがにダーク・ドラゴンとか紅蓮双天龍とかは結構時間掛かっちゃうけどね。」


チュチュの魔物使いとしての力量には驚かされるばかりだ。兎人族と同じで非力な存在として認識されている人族の少女がこんな巨大な魔物をすぐにテイムする光景はミミにも刺激になる。ミミとチュチュは親友であり、ライバルでもある。年齢も近いし、話も合う。何よりもタケミカヅチ様を崇拝している精神が二人を通い合わせているのだ。


「じゃあ今日から君は飛竜のひーちゃんね。ひーちゃんはノームの領空を警備する役目ね。じゃあ早速任務につきなさい・・・・・それ!」


チュチュの合図と共に飛竜のひーちゃんは飛んでいく。作物を狙っていた時とはまるで違う顔つきでノームの上空を飛び回っている。


「あの飛竜がノームを守ってることはタケミカヅチ様に伝えといた方が良さそうだね。」


「うん、それは私から伝えとくから大丈夫。私がテイムした飛竜だし。」


じゃあ早速伝えてくると言ってチュチュは手を振り、城の方へと戻っていく。

ミミも別にやることはないし、戻ろうかなとチュチュと同じように踵を返そうとしたとき、城門がギシシと音を立てて、ゆっくりと開き始めた。

両扉の隙間から見えたのはミミも見知った顔だった。


「あれ、エルンドー、戻ってきたんだね。ずいぶん早くない?」


「ええ、久しぶりに本気で走りました。訓練にはちょうど良い距離でした。」

本気で走ったという割には息も切れていないし、汗もかいていない。黒服の乱れもないし、嘘ついてるんじゃないかといつも思う。

エルンドーはミミと同じ武闘の心得を学んだ武闘家だ。まあ純粋な強さで言ったらミミは負けないけど、エルンドーはとても頭がいい、それに礼節に対しての向き合い方が尋常ではないので、神下としての階級が上であるミミにも礼儀を重んじてくれる。エルンドーは確か二級神下だったはず。


「んで、どうだった?ゴブリンの里には無事着けた?」


「はい、リリフ様やアルミラ様のお陰で迷うことなくゴブリンの里へ赴くことができました。道中でちょっとした障害に出くわしましたが、問題はなかったです。」

 エルンドーは賊の身なりの者達と交戦しましたと続けて話した。


お金を持っていそうな高貴な服装のままでエルンドーがゴブリンの里に向かったと聞いたとき、ミミも変な輩に絡まれないといいけどと思ったが、その予想は当たったらしい。


「ノームの近辺には変な輩はいなかった?」


「はい、今のところは危害を加えようとする者はいませんでした。ただ、ノームに対して何か思うところはあるようで、意識はしているみたいです。」


 ・・・・・・まあそうだよね。何もなかったところに急にこんな凄い建物が現れたんだもん。そりゃあ当然気になるよね~。

 ミミは見知らぬ人物の気持ちを想像して、うんうんと同意の頷きを示す。


「では私はこれで。タケミカズチ様に届けたことをお伝えしなければならないので。」


「あ、うん。ゴメンね、引き留めちゃて。」


「いえ、それでは。」


 エルンドーは恭しく一礼してから理想的な姿勢で城の方へと歩いて行った。

「いや~、私たちもあんな感じになれるのかなぁ~、大人になったら。」

 その後ろ姿を眺めながら隣にいたチュチュが言った。


「う~ん、エルンドーが特殊なだけだと思うよ?だって他の神下達であそこまでのレイセツができてる人いないもん。」


「そうだよね。タケミカズチ様が重要視してないもんね、そういうの。」


「さて、私たちもそろそろ城に戻ろっか?もう少し時間が経てば、町もにぎやかになるだろうしね。」

  ミミは堪えることなく堂々と欠伸をした。


「そうだね。ミミも眠そうだし。」


「うん、帰ろう帰ろう。もう天界からリリアスを呼んだ時間だろうし、さっそく美味しい蜂蜜パイでも作ってもらおうっと。」


 ミミはるんるん気分でスキップしながら城へと戻り、その姿を見てチュチュは微笑ましい感情を抱いた。

 グワオオオオオ・・・・・鼓膜を少しだけ揺らす咆哮が響き渡る。城の上空を優雅に飛び回る

飛竜は周囲の警戒を怠ることなく、山や森に注意を向けていた。





  








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