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武神は異世界を闊歩する。  作者: カケル
19/53

魔物と赤桃

  アルミラが引き起こしたロスベルトの一件はナバール連合の中だけでは収まらないほど話が拡大していた。

特に近隣諸国であるピッツバーグ王国とフェザーランド公国では国の重鎮達が緊急で会議を行うほど切迫した状態だと判断していた。アルミラの件と合わせてカロリーナのキマイラ問題も議題に上がるなど連合内の異常事態が世界に伝わったのだ。


しかし最も反応したのは世界政府だった。

世界政府は世界全体の秩序、国家間の紛争の解決などを目的として設立された組織だ。世界全体を統率するための法を公布し、施行する役目もある。

ナバール連合に調査員を派遣することを決定したのも世界政府の存在意義としては理解できることだ。


 ロスベルトに世界政府の調査員が来たのはアルミラが起こした騒動から二日後のことだった。

 さすがにそんな長い時間、アルミラもロスベルトに滞在してはいないので、鉢合わせするなんてことはなかったが、アルミラについての情報を調査員が知ることになった。

 中央広場で起きた出来事も住民らの見聞で世界政府の耳に入ることとなり、本格的にアルミラという存在を危険視し始めたのが透けて見える。


 そんな当の本人であるアルミラは今、キロスの大農園まで足を運んでいた。少女の見た目であるが、アルミラの年齢は百七歳。ただ舌の方は見た目と同じで甘いものが大好きらしく、大農園で老人から赤桃をタダでもらっていた。


「いやおいしい。これはおいしいよ、バルケットさん。」


「そうかそうか・・・おいしいか。キロスでもわしの作った赤桃は特別美味じゃからな。」

  自分が作った赤桃によほど自信があるようで、バルケットは曲がった腰を反らして胸を張った。


「そういえばさっき、ロスベルトから来たといっておったが、大丈夫だったか?」


「へ?何が?」


「いやなに、噂で聞いたが、ロスベルトの町長が白昼のうちに殺されたと聞いたからな。」


「ああ、うん。大丈夫だったよ。そんな騒ぎにもなってなかった気がするけど。」


「うむ、お主がロスベルトを離れた後に起こったことなのかもしれんの。」


 アルミラがキロスに来た理由に特別なことはない。ただロスベルトに売っていた果物のほとんどがキロス産だと知り、キロスという町に興味を持ったのだ。

 予想通りの田舎町ではあったが、アルミラの好きな風情漂う雰囲気があった。それに町の人は皆、親切で道を歩いていると、これ食べなさいと果物を恵んでくれたのだ。レモンネークやロスベルトよりもずっとキロスは居心地が良い・・・アルミラは深くそう思った。

 

「最近は何かと物騒じゃな。カロリーナの件もそうだし、ロスベルトもそう。そしてこのキロスも・・・」

 バルケットは深いため息をついた。


「ここで何かあったの?」


 アルミラはもぐもぐと四つ目の赤桃をほうばりながら軽い口調でそう聞いた。


「うむ、お主が食べている赤桃が最近の魔物の凶暴化によって被害を受けていてな。カロリーナへの出荷数が日に日に減っておるんじゃ。」


 広大な大農園に実っている赤桃を見ると、そんな切羽詰まった状態には見えないが、バルケットの深刻そうな顔を見ると事実なのだろう。目線を変えれば魔物も惚れ込むような甘味と新鮮さが赤桃にはあるということ。それはそれで理解できることだ。しかしそもそも何故魔物が凶暴化しているのだろう?


「ねぇ、魔物ってどんなの?」


「いろいろじゃ。レッドベアやオーク、サーベルタイガーやジャノランガ・・・大型や小型が群れになって荒しに来るんじゃよ。」


「へぇ、本当にいろいろだね。魔物に規則性はなさそうだし。」


「本当に何が起こっとるのか・・・・・・疲れるわい。」


アルミラは北西の森の方へ目を向ける。ロスベルトからキロスへと向かうにはナバール連合で一番広大で深い森を通らなければならない。道も整備されておらず、人が通るには生い茂った草を掻き分けながら進む必要がある。ましてや馬車なんて絶対に通ることはできないだろう。アルミラは浮遊魔法でひとっ飛びしたので、森の中がどんな様相を呈しているのかは分からない。でもレモンネーク近辺の森林とは明らかに違う空気が張り詰めているのは分かった。

凶暴化した魔物が生息している、となると興味が出ないわけがない。それに赤桃の被害が出ているなんて聞くと、自ずと必死になる。

夜が更けたら、さっそく森へ足を踏み入れてみよう。アルミラがそう思ったとき、魔力・・・いや微々たる神力を感知した。誰なのかはすぐに分かる。自らの主の神力を間違えるはずがない。


「タケミカヅチ様、どうしました?」


「どうしました?じゃない!お前、アポカリプス使っただろ!」


「あ、やっぱあれやり過ぎでしたかね?」


「やり過ぎだ!やり過ぎ!何があってアポカリプス使う状況になるんだよ!」


「えー、だってムカついたんですもん。」


アルミラはタケミカヅチにロスベルトであった一件について話した。終始無言で聞いていたタケミカヅチだったが、アルミラが伝え終えるとそうかとだけ呟いた。


「・・・まあ仕方ないっちゃ仕方ないか。お前の事情もあるだろうからな。ただすごい偶然だな、そりゃあ。」

 魔人が下界にもいるというのはタケミカズチにとっては収穫のある情報だった。


「いやビックリしましたよ、私も。」


「それで今、お前どこにいるんだ?」


「えっとキロスって町にいます。あ、そうだ。タケミカズチ様、ちょっと気になることが。」

  アルミラはキロスで起こっている異変についてタケミカズチに話した。

「魔物の凶暴化か・・・城の周辺では起きてない現象だな。」


「キロスの北の森だけみたいですよ?」


「気にはなるが・・・理由がわからないよどうしようも・・・」


「はい!そこで提案なんですけども、チュチュを寄こしてもらえないですか?」


「チュチュを?・・・確かに魔物に関してはあいつが専門だが・・・お前らあんまり仲良くないだろ?大丈夫か?」

 

「私は別に嫌いじゃないですよ。ただチュチュの方が私を一方的に嫌ってるみたいですけど。」

 

 チュチュとはタケミカズチの一級神下の一人で、ミミやアルミラと同じ階級の神下だ。

 そのチュチュとアルミラは性格的にどうしても合わないらしく、天界ではよく喧嘩をしていた。アルミラはチュチュに対して何か思うところはなく、チュチュの一方的な感情が爆発したという印象だ。


「・・・わかった。ちょうど誰か神下を呼び出そうと思ってたところだしな。」


「ありがとうございます。じゃあキロスで待ってますんで。」


 タケミカズチの念波が途絶える。気付けば空の色が赤桃のように薄赤色に染まりつつあった。

 もうすぐ夜が訪れる。その前にチュチュはアルミラのもとに来るだろうか?神下を呼び出すのに時間はさほど掛からないだろうが、城からここまでの距離を移動するとなるといくらチュチュでも小一時間は掛かるのではないかとアルミラは予想した。

 森に入る手前で切り株に腰を下ろし、バルケットに貰った赤桃に食らいつく。甘味が口の中に広がり、今日何度目になるのか分からない確信を抱く・・・旨いという確信を。


「さっそく呼びつけて何食ってんの?」


「んぐ、チュチュ!思ったよりも早かったじゃん。」


「もうアルミラが呼んだんでしょ?タケミカヅチ様の命令じゃなかったら絶対に来てないんだからね!」

アルミラよりも少し背の低い人族の少女が予想通りの強めの口調で言い放つ。


「分かった分かった。用件だけ言うから。」


アルミラは口の中に少し残っていた赤桃を呑み込んで、切り株からジャンプした。


「この森の魔物について調べてほしいんだよね。」


「タケミカヅチ様も言ってたけど、凶暴化してるんだって?」


「そうそう、そうなの。そのせいでこの赤桃にも被害が出てるって言うからさ、それはちょっと放っておけないなって。」


チュチュも実は気になっていた。アルミラが食べていた果物が何なのかを。おそらく天界には存在しないものだろう。


「・・・魔物の凶暴化について調べればいいの?」


「うん、頼んだよ。終わったら赤桃食べさせてあげるから。」


アルミラの言葉にチュチュは顔つきを真剣なものに変える。


「その約束、忘れないでよね?破ったらぶん殴るから。」


「分かったって。約束するってば。」

ニコニコしたアルミラの顔にチュチュは半信半疑だったが、まあいいやと呟いて森の方へ目を向けた。

チュチュがここに呼ばれた理由。それは彼女が最強で最高の魔物使いだからだ。


タケミカヅチ一級神下、魔物使いのチュチュ。

天界では知らぬ者はいないくらいの有名人でもある。アルミラやミミにも負けず劣らずといった感じだ。


「レーちゃん、お願い。」


チュチュの足元に黄緑色の魔方陣が展開されるとあっという間に魔物がチュチュの前に召喚された。アルミラもよく知っている魔物だ。


「・・・レーシー。森の精霊だね。」


「レーちゃん、森の様子を見てきてくれる?」

髭を蓄えた優しい顔つきの小人がコクりと頷いて、ゆらゆらと浮遊しながら森へと入っていった。


数分もたたないうちに出てきて、身ぶり手振りでチュチュに何かを教えている。チュチュはうんうんと理解している様子だが、アルミラには何が何だかさっぱり分からない。


「やっぱり魔物の様子がおかしいのは本当みたい。どんどんこっちに迫ってきてるらしいよ。森の中に変な装置があるとも言ってるね。」


「装置?」


「それで魔物に念波を浴びせて凶暴性を促進させてるんじゃないかな。」


チュチュは予想のように言ったが、ほとんどそれは確信だった。森の中に溶け込ませるのに一番便利な魔物がレーシーだ。森と同化するだけが得意な精霊であるから魔物としての純粋な力は皆無に等しい。

次は装置を止めることが先決だ。

場所が特定できるならアルミラにも可能なことだが、チュチュはアルミラの手助けを必要としなかった。

アルミラが嫌いだから・・・という感情的な理由ではなく、単純に手を借りなくても余裕だからだ。


「シルフ、おいで。」


突風が吹く。風が集束し、風の妖精であるシルフを形作ると、すぐに空に向かって飛んでいった。

楽しげな様子で宙を舞い踊るシルフはしばらくするとチュチュのもとへ戻ってきた。


「満足したの?」


「うん、満足した。久しぶりに呼び出してくれたからねぇ。少し自由に飛んでみたよ。」


「じゃあ・・・」

 チュチュが口を開くとシルフはそれを静止するように手の平をすっと前に出した。


「言葉はいらないよ、我が主。主が考えていることならすぐに理解できるさ。森にある装置を壊して回収すればいいんだろう?」


「うん、頼んだよ。」


「ああ、任せといて。」


 シルフは姿を風に変えて、森の中に吸い込まれるように消えていった。


  ゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオ・・・・・


  木々を薙ぎ倒す音が接近してくる。それが凶暴化した魔物によるものだと二人はすぐに理解した。

  一匹だけじゃない。無数に近づいてくる殺気と強欲が二人の身を針で刺すように広がっていく。


「あらら、シルフの装置破壊は間に合わないみたいだね。」


「チュチュ、準備は大丈夫?」


「当たり前。これ以上先に行かせなきゃいいんでしょ?」


「うん、赤桃を死守するためにね。」


 正直言って、キロスの町がどうなろうが知ったこっちゃない。ただ一つだけ止める理由があるとしたら、一面に広がる赤桃畑を荒らされるのが嫌だということくらいか。


目の前にある大木に亀裂が生じ、その後すぐに大木は粉々になって吹き飛んだ。現れたのは猛り狂う巨大な虎だ。頭上や全身に艶のある鋼鉄の突起が生えている。


「サーベルタイガー・・・バルケットさんが言っていた通りだ。」


 剣虎の咆哮がキロスの町に轟き、毎夜の如く騒然と化す。カロリーナの冒険者がクエストとしてキロスの魔物退治に訪れていたが、今となってはもう誰もそのクエストを引き受けようとしない。それもこれもサーベルタイガーのような魔物が襲ってくるからだ。そして他にもゴブリンやオーク、トロルやワーウルフなどの魔物が暗闇の中から姿を現した。その数は三十を超え、キロスの町全体を壊せるくらいの規模だ。


 アルミラが思ったよりも魔物の数が多い気がする。一夜でこの感じなら町が無事なはずがない。おそらくいつもの倍、いや数倍の数なんだろう。


 アルミラとチュチュを無視して畑の方へと駆け出す魔物達の狙いは農作物、そして町の方にも目を向けているようだった。

 しかしそんな都合良くいくはずがない。突進してきた魔物が何かにぶつかり、急に動きを止めた。

 広範囲に広がる大規模防壁魔法、フローレンス インバリア。A級魔法で、アルミラが苦手ながらも一番使う防壁魔法だ。

三十を超える魔物達が一様にして動きを止めたのを見るとさすがの一言だ。

チュチュはアルミラのことがいまいち好きではないが、実力は素直に認めている。認めざるを得ないほどの魔導士なのだ。

 

「じゃあ次は私の番!」


 チュチュはいつの間にか横笛を取り出していた。その横笛は押さえる部分を水晶が螺旋のように取り囲んでいる奇妙な形をしていた。どこか知らない里の民族楽器のような雰囲気を醸し出してはいるが、放たれる仄かな魔力はとても幻想的だ。


「モンストロ チェーン。」

 横笛から魔方陣が出現し、そこから無数の煌びやかな連鎖が吐き出されるように出てくる。鎖は速度を緩めることなく魔物目掛けて飛んでいき、思い切り突き刺さる。だが、魔物から血が出ることはなかった。魔物はグオオと一瞬だけ呻き声を上げたが、痛みも何も感じなかったことに少し驚きを感じた様子だった。

 しかし異変が起きる。異変といっても悪い意味ではない。

 魔物の身体が薄い光の靄に包まれると、それまで凶暴だった魔物達が理性を取り戻したのだ。

 チュチュは愛らしい動物を扱うようにサーベルタイガーを撫でる。

「よしよし・・・恐かったね。もう大丈夫だよ。」


 自分は今まで何をしていたのだろう・・・人間ならばそう思っていそうな顔で魔物達は森に戻っていく。


「殺すだけが芸じゃない・・・チュチュがいつも私に言ってることだね。それはこういうことなんだ?」


「まあね。私が単純に魔物を殺したくないって理由もあるけど。」


「私、結構殺しちゃってるけど。」


「自分はしたくないってだけだから。他の人が何をしようとも別に何も思うところはないよ。」


 チュチュとアルミラが話していると、ちょうどシルフが暗黒に包まれた森の中から帰ってきた。


「ごめん、待たせてしまってみたいだね。」


「どうだった、シルフ?」


「お求めのものはこれだろう?」


 シルフが風に乗せていた魔導装置を地面にそっと置いた。ガサガサと山のように積まれた魔導装置はアルミラも見たことがない代物だった。

 四角い鉄箱の上に緋色の宝玉が取り付けてある。その宝玉から魔導士ならすぐに分かる魔力のノイズが感じ取られる。

 

「これが木に取り付けられてたよ。いやー、全部見つけるのに苦労したよー。」


「ご苦労さん。」


 肩を回して疲労感を見せたシルフを労ってからチュチュは魔導装置を手に取って、構造を観察する。

 が、しかし・・・・・・


「うん、さっぱりわからない。」


 どういう仕組みで魔力を発しているのか。おそらく宝玉が何かしらの特別な力を秘めているのだろうが、それが何なのかは分からない。


「それは城に持ち帰ってから鑑定士に見せればいいじゃん。」


「鑑定士?」

 

 アルミラが何気ない感じで言った鑑定士という言葉にチュチュは首を傾げた。


「ああ、リリフが鑑定士のスキル持ってるらしいよ。」


「へー、さすがは最上級神下。万能だね。」

 リリフの存在は天界の時からよく知っている。話をしたことはなかったが、ククノチ様の唯一の最上級神下として存在を認知するほど有名だった。実際下界に呼び出されたときにタケミカズチの隣にリリフがいたのは驚いた。そこで初めて話したが、チュチュにも優しく接してくれて、良いお姉さんといった印象を持った。


「んじゃあ、これを持って帰ってリリフに見せるわ。あんたはこれからどうするの?たぶんこの森の魔物の凶暴化は防げたと思うけど?」


「もうちょっとキロスにいるわ。この町が気に入ったからね。」


「ふうん。まあいいけど、タケミカズチ様を煩わせることだけはないようにね。」


「分かってるって。」


 どうだかとチュチュは一言呟いてから黒鳥ウンレスを召喚し、その背中に飛び乗った。

 浮遊魔法とは比べ物にならないくらいの速さで飛び去っていくチュチュを見えなくなるまで見送ってからアルミラは懐からまたも赤桃を取り出して食した。

まん丸の月は真上まで上っていて、すっかり夜更けてしまったなかでアルミラは農園に実った赤桃を見て、うんうんと満足そうに何度も頷いた。







「この宝玉、魔石の成分が含まれています。」

リリフはチュチュが持って帰ってきた魔導装置に手をかざしながら言った。


「魔石ってあの爆発する石ころ?」


チュチュは魔道具や鉱石についての知識は全くない。魔物にしか興味がないので、それについて学ぶ気にもならないらしい。


「ええ、そうです。でも魔石の成分は数%しか入っていないので、これが爆発してしまうなんて心配はないのですが、魔力を充填させることは可能だと思います。」


「だから魔物を凶暴化させる魔法を使えたんだ。」


「はい、ただ魔力を込められる量からして持ってあと数日というところだったと思いますよ。」


「そっか。込められる魔力量には限界があるもんね。これを仕掛けた人はどういうつもりだったんだろう・・・」


「キロスの農園を荒らしてたんだろ?じゃあ作物をダメにしたら利益になる奴の仕業じゃないか?」

チュチュのもとに歩いてきたのはタケミカヅチ三級神下のベルリン。一応剣士で、城の見回りを担当している。


「けっこう大規模だし、組織的な感じがするけどね。」


この魔導装置はどんな大都市にも売ってはいない特注品だろう。そう考えるとひとつだけでも大変な値段になる。一個人には到底できないことだ。


「なんだ、チュチュも結構下界を満喫してるみたいじゃないか。」


ベルリンは何故か嬉しそうな様子だ。


「してないよ、まだ。ってか、私には様付けしてよ。階級は私の方が全然上なんだから!」


「いいじゃねぇか、そんなこと。細かいことは気にするな。タケミカヅチ様に仕えてるのは俺の方が長いんだからよ。」


ベルリンは神下になって二十年を超えているが、チュチュはま五年に満たない。まあ人族の少女であるチュチュは年齢自体がまだ十二歳だから、まだ神下としての年数が浅くて当然と言えば当然なのだが。


「というよりちゃんと見回りしてるの?侵入者がいたらどうするの?」


「そこに関しては抜かりはないから大丈夫だ。まあでも正直言ってここに侵入できる奴がいたらそいつの顔を見てみたいものだがな。」


タケミカヅチが神力で築き上げた強大なる剛城はオリハルコンやアダマンタイトよりも硬質な素材で造られた城壁に守られ、魔法攻撃を一切受け付けない永久魔法障壁が四角なく張り巡らされている。その他にも様々な効果を防ぐ障壁が何重にも張られており、絶対に侵入などできない構造になっている。もし出来る人間がいるのなら、そいつはおそらく人間ではないだろう。


「可能性はゼロじゃないでしょ?さあ、早く見回り行った行った!」


「分かった分かった。押すなって。」


チュチュが無理矢理ベルリンの背中を押して仕事に戻らせた時、後ろの方でリリフがそうかと呟くのが耳に入った。


「どうしたの、リリフ?」


「この宝玉のなかにあまり見かけないスズノネという成分があったんですが、どこかで見たような気はしてたんです。それをようやく思い出して。」


「スズノネ?聞いたことのないなあ。それでそのスズノネ?はどこで見たの?」


「はい、キロスの大井戸のなかに隠されてた宝玉・・・・」


キロスの大井戸も、そこに隠されてた宝玉も、チュチュは知らない。チュチュが下界に来る前にリリフ達が歩んだ日々の一ぺージに存在するものなんだろう。


「ビブルノース、世界十玉のひとつのなかに含まれていた成分です。」













 





 


  








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