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武神は異世界を闊歩する。  作者: カケル
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神城タケミカヅチ殿

ナバール連合の北方平原に突如として現れる堅牢なる聖城。


タケミカヅチ殿。


何色にも染まっていないまさに純白の城壁に囲まれ、天を貫くように高々と聳え立っている。その建物の雰囲気だけで圧倒されて、近付くことすら躊躇ってしまうくらいだ。

北方平原に到着して一日が経ったとき、この神城を造り出すのに必要な神力が十分溜まったので、タケミカヅチはこれを一気に造り上げた。ものの数秒で何もなかった平原に世界の支配者でも住んでいるのではと思うような荘厳な建築物が出現したのだ。どんな魔導士にもできない芸当だ。できるとしたらそれは神の領域に立つ者だけだろう。



城壁内部。整えられた庭園が存在し、頑強な兵士の銀像がそこらじゅうに立ち並んでいる。本当にここの空間だけを切り取ってみると天界だと思ってもおかしくない。しかし城壁の外に一歩でも踏み出せば下界の現実が待っている。その対比が何とも面白い。


まあとにもかくにもこれで神槍探しの拠点ができた。ただ近いうちにこの城に気付いた下界の人間達がここを訪れるのは明白。その時はしっかりと話をするべきか。まあでも誰に何を言われる筋合いもない。この平原は誰の土地でもない。そう北方平原の所有者はいないのだから。

  調べたところによると過去にもタケミカヅチ達と同じように北方平原に拠点を造ったことのある者は多数存在するらしい。しかしいずれも山賊や他の町の依頼を受けた冒険者達に攻め込まれ、一月のうちに滅ぼされているようだ。

  それを考えるとやはり間違いなく誰かしらが敵意を持ってここを訪れるであろう。



城は大正門を潜り、庭園の奥に進むと城の入り口がある。

10階まで創建され、最上階はもちろんタケミカヅチの居室がある。

その下に神下の部屋が備え付けてある仕組みになっている。もちろん最上級神下は九階に住む予定となっている。その下が一級神下で、その下に二級神下ということになっている。


かなりの広さを誇るが、未だに下界にいるのはタケミカヅチ、リリフ、ミミ、そしてアルミラの四人だけ。

早急に神下達を呼び寄せた方がいいだろう。そうじゃないとさすがに物悲しい。あまりに広すぎて一日のうちに誰にも会わない、なんてことも考えられる。


「いやー・・・自分で造ってなんだが、これは広すぎて迷うな」

タケミカヅチは四階の区画を見回っていた。おかしな造りをしている場所はないかと注意しながら見ていた。

この城が建てられて二日が経ったが、まだ全ての部屋を見て回れていない。

もうちょっと小さめに造るべきだったかなとタケミカヅチは少し後悔した。

なみなみと溢れるような神力の久し振りの感覚に張り切ってしまった。


「タケミカヅチ様、城の方へ何かが近付いてきます」

リリフが転移門でタケミカヅチの前に現れた。

「おお、二日目でようやくってところか。何が来てんだ?」


実を言うと二日もバレないとは思わなかった。こんな巨大な建造物が一日で造り上げられたならその日のうちに注目の的になるだろうと考えていた。しかし気付けば二日だ。

 案外北方平原に目を向けている人間はいないのだろうか。


「数十体の騎馬兵です。あんまり友好的な感じではないようですが。いかが致しましょうか」


「面倒臭いけど、話は聞くべきだよな」


「では、門を開けましょうか?」


「いや、門は開けなくていい。俺が顔を出す」


「よろしいのですか?」

 タケミカズチ自身が顔を出すのは城の当主が顔を出すのと同義。リリフはそれでもいいのでしょうかと若干の困惑を含んだ声色で問うた。


「ああ、問題ない」


それを聞くとリリフは深々と頭を下げて、了解の意を唱えた。








ティルクは馬を走らせていた。目の前の聖王が住まうような城に向けて。

昨日の段階であの城の存在には気付いていた。レモンネークから旅立ち、ロディバ山中腹にあるダンジョンに潜った帰りのことだった。

ダンジョンに潜る前には確かに何も無かったのだが、潜ったあとに見てみれば豪華絢爛な巨城が北方平原に聳えていたのだ。そりゃあ驚かないわけがないし、どんなカラクリがあるのか確かめたくもなる。唖然としている仲間達を引き連れて、新たなるダンジョンに赴く気持ちでティルクは馬を駆けた。


平原を走り、白銀の巨城に近付くにつれてその神聖なる空気をひしひしと感じ始める。それはあまりにも場違いなもので幻視を見ているのではないかとティルクは何度か目を擦った。

しかし・・・これは本物だ。実際に存在している。夢なんかじゃない。

徐々に馬をゆっくりと走らせ、城の正門前で止める。


「これは何なんだ?魔法で造られているのか?・・・・いや、魔力は一切感じられないな。」


ティルクは魔法剣士だ。そしてレモンネークのB級冒険者であり、レモンネークの街道騎馬隊の代表も務めている、ここいらでは有名な男だ。

彼の後ろにずらっと並んでいるのはレモンネークの騎馬兵、ティルクの部下達だ。彼らは皆、C級冒険者としてレモンネーク周辺で活動している。


「ティルク様、何か危険な感じがします。」


部下の一人がそう言うとその他の者もうんうんと頷きを返した。

常人の感覚を持っている人ならば危険な感じがするのは至って普通のことだろう。

しかしそれでもティルクはこの城が気になっていた。

危険なのは承知だが、それでも冒険者の血が騒ぐ。


「お前らは無理して俺についてこなくてもいいぞ?」


ティルクは危険だとわかっている場所に部下を連れていくほど理不尽な上司ではない。


「いえ、ティルク様の行く場所はどこへでも俺たちは付いていきます。」


部下の一人がそう言うとこれまた他の者も大きく頷いた。

いつもそうだ。ティルクが危険なダンジョンに潜ろうとすれば断固として付いていくと聞かない。やめておけと何度か突き放したが、それでも聞かない頑固者達。

ティルクはもう諦めの境地に達していた。しかし決して悪い気分ではなかった。

「ふ・・・勝手にしろ。」


ティルクは馬から降りて正門に手が触れるくらいの距離まで近付く。手の届く距離でも城門には汚れひとつない純白が広がっている。やはり人工的に造れるような建造物ではない。魔法でもないとすると・・・


「・・・・・・神のみが知ることか?」


「ティルク様、どうかしましたか?」


「いや、何でもない。」


今そんなことを考えても無意味だ。答えを教えてくれるものがあるわけでもない。

ティルクは正門の扉を手で押した。とてつもない大きさのためか、やはり力を込めなければ一ミリも動きやしない。

最大限の力を込めて正門を押す。押して押して押しまくる。ティルクの姿を見て、他の部下達も扉に全体重をかけて押し始めた。それでもビクともしない。


「人力で押しても開きゃしないぞ?」

 突然聞こえた頭上からの声にティルクは身構える。

 正門の上から顔を覗かせたタケミカズチはそのまま門の上から飛び降りて、ティルクに相対する。

 ティルクは目の前のまだ大人になりきっていない少年の一挙手一投足を注視する。好戦的な雰囲気は見られないが、油断しないように腰に携えた長剣の柄にそっと触れておく。

「貴様は何者だ?」


「それはこっちのセリフだよ。俺の住まいになんか用か?」


「住まい、だと?」

 

「ああ、そうだけど。で、何の用だ?」


「数日前にここを通った時・・・ここには何もなかったはずだ。」


「だろうな。これ造ったの二日前だし。」


「はああ!!??」

 ティルクは思わず突拍子もない声を出した。信じられない言葉が少年の口から出たからだ。二日前・・・二日前にこの巨城は造られたという。ティルクがダンジョンに潜ったのは五日前。その時には確かになかった。・・・ということはたった三日という時間で築かれた城なのか。

 ティルクは心の底から愕然とした。

 

「あり得ない。そんなことできるはずがない。」


「信じなくても別に構わないけど。で、用件はないのか?」


「こ、ここに建築をしていいと誰に許可をもらったんだ!?」

 ティルクの背後にいた部下の一人が声を上げる。


「許可って・・・いらないんだろ・ここは誰も所有者がいない土地なんだから。」


「ぐ・・・い、いや、デモテルのムササビがここの所有者だぞ!」


 タケミカズチは全く聞いたことのない名前に首を傾げる。リリフと聞いていた話と違う。

 

「ムササビ?誰なんだ、それ?そいつに許可をもらえばここに建ててもいいのか?」


「タケミカズチ様、ムササビはデモテルの上流階級の一人らしいです。なんでもデモテル内では強い影響力があるとのことです。」

 ティルク達の頭上からまたも人の声が聞こえた。見上げるとエルフの美麗な女性が門上から飛び降りるところだった。


「おお、リリフか。そいつが所有してんのか、ここ?」


「いえ、間違いなくここは誰の土地でもないはずです。世界政府がそう認識しているので間違いないと思います。」


「だそうだが、何か文句あるか?」


ティルクはビビっていた。冒険者の好奇心で立ち寄ってみたものの、想像以上にここはヤバい。至って普通の少年と美しいエルフの女性の関係性も気になる。女性は少年に対して敬語を使っていた。対して少年は女性に敬称をつけていない。


少年は女性よりも立場が上?エルフは多種族に対して嫌悪の感情を抱きやすいと本で読んだことがある。人族などもっての他だろう。それなのにそんな様子は微塵も感じられない。

とりあえずティルクの本能はここを早く立ち去った方がいいと叫んでいる。その危険信号を無視するなどという選択肢は今のティルクの頭には存在しなかった。

「すまなかった。いや、こんな立派な建物を見て興奮しちまったんだ。邪魔して本当にすまなかった。」


「好奇心か?まあ気を付けろよ。勝手に入ろうとしたら否応もなしに殺すような物騒な連中もいるんだから。」

  タケミカズチは困った奴らだと呟きながら楽しそうに笑った。それがまたティルクの本能に恐怖を植え付ける。

「あ、ああ、わかった。気を付ける。本当にすまなかった。」


「んじゃ、気を付けて帰れよ。」


「ああ、心配してくれてありがとう。じゃあ。」


少年が気遣う言葉をかけてくるりと後ろを振り向く。それを見てエルフの女性は正門の扉を開ける。しかも片手で。重そうな感じは全く見られず、何でもないただの扉を開いているように。


ティルク達は馬に跨がり、そそくさと北方平原を後にする。

部下の一人が言っていたこの北方平原がムササビのものだというのは間違いだ。エルフの女性の言葉通り、世界政府から無所有大土地として認定されている。土地所有者にムササビなどという名前はみられない。

間違いなのだが、ムササビはかつて北方平原に自らの居城を築こうとしたことがある。ムササビの心情としてはこの展開は面白くないのではないか。

ティルクはムササビに会ったことはない。だが彼の支配欲は狂気的だと聞いたことがある。デモテルの気に入らない下流貴族を死に追いやったという話もある。


「近いうちにトラブルがありそうな気がするな・・・・・」



馬を走らせながらティルクは遠ざかっていく巨城に目を向けた。明日からのレモンネークはこの話題で持ちきりだろうな。


ティルクの予想は少し外れた。ティルクの騎馬隊がレモンネークに到着して数時間後には平原の巨城についての噂で持ちきりになったのだ。魔王が住む悪魔の城が平原に突如として現れただとか、天空から舞い降りてきた伝説の天空城の逸話を語り出す輩もいた。とにかくレモンネークの町はその話題一色になった。


次の日にはもうレモンネークの町長のもとに話がいった。


「ほう、興味深い話だが・・・実話か、それ?」

レモンネークの町長、ギリアムはその話自体に疑いの目を向けた。普通の人ならば当然そう思うだろう。三日で巨城を造り上げるなど荒唐無稽な話だ。


「ええ、まず間違いなく。」

しかし報告をしてきた町長の側近、バルカーは至って真剣な顔で話が真実だと断言した。その理由が・・・・・・


「その城を発見したのがティルクの騎馬隊らしいのです。」


「だから真実だと・・・・まあ、そうだな。確かにあの兵士達が嘘をつくとは思えん。」


ティルクの騎馬隊はレモンネークの治安を維持する役目も負っている。レモンネークの前町長がそれを任命してから当たり前のように夜盗などの取り締まりをしていて、それはギリアムが町長になっても変わっていない。

最初は変えようと思った。あまりにもティルクが力を持ちすぎている気がしたのだ。いずれ痛い目を見るのは自分だとギリアムは考えたが、変えるとなるとレモンネークの組織構造に着手しなければならず、金銭的にも困難を極める。結果的に今の構造を維持するしかなかった。

幸運なことにティルクはレモンネークを支配しようという欲求とは無縁で、冒険者稼業にしか興味を抱いていなかった。もちろん今でも警戒心はゼロじゃない。何かあればティルクを切る準備を内密に進めてはいる。そうならないことを祈ってはいるが。



ギリアムは机の上にある書類に目を向ける。手に取った紙は犯罪者名簿だ。ちょうど今、犯罪を犯した者の罪状を確認しているところだった。


「ここに書かれている名前の犯罪者を使え。洗脳でレモンネークのことを忘れさせて、その巨城とやらの調査をさせろ。」


「わかりました。」

バルカーはギリアムの対応に顔色ひとつ変えず、一度頷いた。バルカーもその紙に目を通す。盗みや暴行などの犯罪者ばかりだ。能力もそんなに高くない。調査をさせるなら洗脳を行う必要はない。捕縛されたときにレモンネークの言葉を出させないためか。念には念を、ということだろう。


 バルカーが町長室を出ていくのを見送ってから、ギリアムは天井を見上げる。薄暗い、ただそれだけ。

  

 

  巨城の存在が事実なのだとしたら、そこには必ず財宝も隠されているだろう。

  ギリアムはレモンネークが発展する姿を想像して、ほくそ笑んだ。











 












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