金剛の戦王
穏やかな風が吹き付ける。ヘラクレスは城の最上部から活気に満ちた城下町を見つめていた。
ピッツバーグ王国では今日も多くの人々が商品の売買や芝居などの娯楽やコロシアムでの決闘を楽しみ、活気に満ちている。
「ヘラクレス」とは人物の名前ではなく、ピッツバーグ王国の王名。この国では世界でも珍しく王に即位する際に名を授かることになっている。
その王名が、ヘラクレス。
現国王の元の名前はバルト シャングリ・ラ。最後にその名で呼ばれたのがもう二十年も昔の話。今は十三代目ヘラクレスとしてピッツバーグ王国を統治している。歴史ある国ではあるが、王族という存在がいないこの世界では変わった形態をしている。次代の王が前の王の子供だと決まっているわけではない。もちろんかつての六代目と七代目が親子であるという事例もあるので全くないというわけではないが、ヘラクレスの前の王、この場合十二代目ヘラクレスは十三代目の父ではない。まるっきり赤の他人だ。
ならばピッツバーグ王国で王になる人間はどう決めているのか……それは強さだ。戦いでの圧倒的な力。その国で誰よりも強く、誰よりも強靭な肉体を持つ戦士が王になれる証を得るのだ。
年一回開催させる王座杯という大きな大会で優勝した者がヘラクレスと戦う権利を得る。そこで勝てば、ピッツバーグ王国の王になることができるのだ。
バルトは二十年前にその大会へ出場し、圧倒的な力で優勝した。十二代目ヘラクレスと対戦する権利を得て、勝負に挑んだ。当時の十二代目ヘラクレスは齢六十五。人族であるため、寿命は非常に短い。六十五歳というと衰えが見られる年齢だ。そんな年齢にもかかわらず、誰一人として勝てる物はおらず、無敵だった。
バルトも覚悟を決めて、勝負に挑み、十時間を越える戦いをヘラクレスと繰り広げた。
勝者はバルト シャングリ・ラ。
国全体が驚きと悲鳴と歓喜に満ち溢れた。敗北した十二代目ヘラクレスが宣言したのだ、次代の王が今ここに決定したと。
二十年前の鮮明な思い出を今更になって思い出すヘラクレス。十二代目はそれから十年後に亡くなった。
今は自分が玉座に座り、強者を待ち続ける立場になった。
誰かに負かしてほしいと思う反面、誰にも負けるわけにはいかないという相反した思いもある。
十三代目ヘラクレスは四十五歳。種族は十二代目と同様の人族だ。
「六十五まで玉座に座っていられるか・・・まあ難しいところだな」
ヘラクレスは独り言つ。
風に当たっていた城のバルコニーから城内へと戻り、金色に光る豪華絢爛な玉座に腰を下ろす。
二十年経った今でもこの椅子の座り心地は変わらない。はっきり言ってしまえば、あまり気持ち良くない。目もチカチカするし。
十三代目ヘラクレスは貴族の生まれでもないし、どこかの大商人や地主の家計でもない。お金持ちとは程遠い一般家庭の生まれだった。父はC級の冒険者で、母は飲み屋の店員だ。今は二人とも働いていない。どちらも存命だし、月に一回は実家に顔を出している。
バルトがピッツバーグの王になると聞いたとき、両親はあまり驚く様子もなく、精進しなさいよとだけバルトに言った。城に住むように諭したが、全く聞き入れようとせず、バルトの両親は今までと同じようにそのまま実家に住み続けている。もちろん両親も王族となるので身辺の安全を確保しつつではあるが、比較的自由に暮らすことが出来ている。
そろそろ顔出すか。実家に帰ったのはちょうど一ヶ月ほど前だ。明日くらいには時間が空く。
玉座に座りながらそんなことだけを考えていたヘラクレスの前に大臣が恭しい態度で一礼してから口を開いた。
「陛下、恐れながら申し上げます。陛下に面会したいという者がおりまして」
大臣は戸惑いを見せている。大臣のこんな顔はあまり見たことがない。
「急だな。面会?どんなやつだ?」
これから隣国であるパイルダーツ王国の国王との食事会を予定している。あまり時間を取ってはいられないが。
「それが……冒険者のようでして……」
大臣の顔を見るに、この話自体を自分に持っていくかどうか迷ったようだ。会いたいですと言って会えるほど一国の国王の地位は低くない。
「冒険者?」
「はい、何度も立ち去るように言ったのですが、なかなか言うことを聞かず、その場から動こうとしません」
大臣は困惑しつつ、この話をヘラクレスに持ってきたのだろう。冒険者が面会を求めてきたのは初めてだ。その度胸が気に入った。少しの間ならば問題はないだろう。
「ほう、いいだろう。会ってみようか」
「陛下、よろしいのですか?」
「ああ、それほど俺に用があるということだろう。面白いじゃないか。純粋に内容が気になる」
聞く必要などないと切り捨てるほど腐ってはいない。元々が貴族でもないただの平民であるため、位が高いとか低いとかに頓着がない。貧民が訪ねてきても面会しようとしたときはさすがに大臣に止められたが。
大臣はすぐに連れて参りますと一礼してから玉座の間を出ていった。
三分後、薄い布の服を着た三十代くらいの人族の男が連れてこられた。もし何かあったときのためと言って両側に衛兵を配置している。ヘラクレスにとってはあまり意味がない気もするが。
おぼつかない様子でお辞儀をする男。形式的な挨拶や礼儀には疎いようだ。それは風貌を見れば一目瞭然だが。
「面を上げろ。まずはお前の名前を教えてくれ」
黒い髭を蓄えた中年の男。ガタガタと震えているのは緊張のせいだろうか。一国の王と相対する経験をするなんてそう多くはないし、仕方がないだろう。
「B級冒険者のヴェインと申します」
「ヴェインか。それで俺に何の用だ?」
「……はい、私はハーレの里で冒険者をしていたのですが、言伝てに小耳にはさんだことがありまして……」
「ハーレの里か・・・カロリーナの北方の山を越えたところにある隠れ里だな。いつか行ってみたいところだ。うむ、それで何を小耳にはさんだんだ?」
「はい、殿下も仰ったようにハーレはカロリーナの北に位置しておりますので、カロリーナで起きたことがいち早く伝わる場所です。ちょうど昨日、カロリーナから来た行商人がハーレに寄ったのですが、そこでその行商人がおかしなことを言うのです」
「おかしなこと、とは?」
「キマイラが封印から解放されたと……そう言うのです」
「なに……?キマイラだと?」
ヘラクレスの顔色が一瞬にして変わり、深刻な表情を浮かべる。
キマイラの存在を知らないなどといったら笑われるか、冗談だと受け止められるだろう。それくらい誰もが知っている魔物だ。危険だからこそ皆学ぶ。キマイラは一種の天災だと考えられている。抗えない絶対的な暴力が生まれ出でたというならば、ヘラクレスも驚かずにはいられない。
「は、はい。あ、ただこれが信じられないことにキマイラは何者かによって討伐されたと、そう言うのです」
ヘラクレスは指先をトントンと椅子の肘掛けに当てながら考え込む。
意味が分からないというのが正直なところ。大多数の冒険者を集めたとしても勝てないのは間違いない。S級冒険者がいれば何とかなるかもしれないが、カロリーナにはそんな高位の冒険者は一人も存在していないのだ。普通に考えればこの冒険者の嘘……しかしこの王国に来てそんな嘘をつく必要性を感じないのも事実。
「そうか。何故それを俺に報告しようと思ったんだ?」
ヘラクレスの射抜くような視線がヴェインに突き刺さる。見られるだけで冷や汗を流してしまう圧倒的な迫力がヘラクレスにはある。
媚びへつらうことだけを考えていたヴェインは心を切り替えた。正直に自分が思ったことを話そう。
「ピッツバーグ王国の現国王様は人一倍強者に飢えていると聞き及んだことがありまして。この情報をもたらせば報酬を頂けるのではないかと考えた次第です」
「金か?」
「はい、冒険者としてドラゴンロード王国に行きたいと考えておりまして、そのための資金が必要なんです。何卒余禄お願い申し上げます」
背後や周りからの慎めとでも言うかのような刺々しい視線を感じながら、ヴェインは正直に心の扉を解放して、話した。
「はっはっは、面白いな。度胸だけは冒険者の鏡だな。いいだろう、なかなか興味深い話だったしな。それに俺は正直に話す奴が好きでね。で、いくら欲しい?いやそうだな……俺も用事があるし、すぐに用意できる金額にするか。100万シルクでどうだ?」
「はは!十分すぎる金額でございます。ありがとうございます」
大臣に連れられてヴェインは去っていく。その後ろ姿は小躍りしているかのように嬉しげだった。機嫌が悪かったならば金が欲しいなどという輩を切り捨ててもおかしくない。だが今の気分は決して悪くない。キマイラの出現、それを倒した何者かの存在。姿形が見えない強者の出現に笑みが止まらない。やはり戦いに飢えるこの欲の乾きは無視できないらしい。
といってもヘラクレスはカロリーナで起きたことを完全には信じてはいない。しかし嘘だとも思っていない。
調べる価値はあるか。
もしあのヴェインという冒険者が聞いたことが本当であるならば、キマイラを倒すような危険な人物がピッツバーグに来るのも時間の問題になる。ピッツバーグ王国はカロリーナとそれほど距離があるわけではない。カロリーナの北にあるハーレから大森林を抜けた先にあるヘルガードという国の隣がこのピッツバーグだ。カロリーナから旅立って馬車ならば三日遅れたとしても四日で到着するくらいの距離だ。
国として把握するべき脅威ということで国外調査の名目にはなる。ヘラクレスは王であるが、反ヘラクレス勢力はいつの時代も存在する。そいつらをどうにかこうにかして納得させるのはいつも骨が折れる作業なのだ。国のためならば納得せざるを得ないし、前のめりになって賛成をしてくれるであろう。決して反勢力は愛国心が無いわけではない。絶対的な戦闘力を持つ者が国の行く末を決定できるのはおかしく、それだけで王になってしまえば弱者の考えや生活など想像もできないのではないかという論調を掲げている。相応しいのはパイルダーツ王国のシャルドラ四世のような思慮深く、知識があり、政務に精通している存在だという。
ヘラクレスもまさにそう思う。それが王としての正しい姿だと。
だが自らの戦いの欲は何もかも凌駕する。何を言われようと、何を否定されても勝ち取ったこの立場は強者を見つけるのに最も効率がよい。
キマイラの出現とそれを打ち負かした強者の存在。
国としては緊迫した事態であるかもしれないが、個人的には手を広げて喜びたい嬉々とした感情が芽を出していた。
「顔がニヤニヤしています、陛下」
そんな思考に耽っていたヘラクレスは正面からの声で今に引き戻される。
「……ロストワールか。お前も気になるだろう?」
忠勇なるピッツバーグの兵士達の頂点に君臨するヘラクレスの右腕であり、ピッツバーグ王国最強の兵士とも言われているロストワール ジャーメイン。ヘラクレスを除けば彼がこの国で最強の人間だ。白髪と黒髪が混じり合った様ではあるが、年齢はまだ若く三十代半ば。顔も整っており、中性的なイケメンだ。国民からの人気も高く、ヘラクレスの絶対王政への不満が非常に少ないのは彼のお陰といっても過言ではない。
「ええ、到底信じられる話ではなかったですが……調べてみる価値はあると思います」
ロストワールも半信半疑で先ほどの話を聞いていた。彼はヘラクレスとは違い、国に危険が及ばないように情報を得る必要があると考えていた。もちろん我らが王が国のためでなく自らの欲のために動こうとしていることも理解していた。
「カロリーナに調査員を派遣するか」
「誰を派遣致しますか?」
「面倒だ、それはお前に任せる」
そう言ってヘラクレスは玉座から離れ、玉座の間を出ていく。
「了解致しました」
ヘラクレスは一度火照った体を冷ましたく、風に当たりたい気分だったが、そうも言ってられない。これから食事会が控えている。
ヘラクレスが今から会うのはパイルダーツ王国の国王シャルドラ四世だ。ピッツバーグ王国が親交を深めている唯一の友好国で、それはバルトが王になってからも変わっていない。
地図で見ればパイルダーツ王国はピッツバーグ王国の右隣に隣接しており、かつては二国間で領土問題が存在したが、三十年前にシャルドラ四世と前国王である十二代目ヘラクレスが第三次特別会合にてこの問題を解決。二国間で平和条約を結び、さらに加えて戦時同盟も締結した。
それからずっと二国間は友好な関係を続けている。こういった国王同士の食事会も三ヶ月に一回のペースで続いており、今回はピッツバーグ王国で開催されることになっている。
シャルドラ四世の一行が到着したのはおよそ一時間前。挨拶は軽くだが済ませてある。連れている護衛は精鋭で屈強な肉体と精悍な顔つきのためか、一筋縄ではいかない匂いがぷんぷんする。けしかけるような馬鹿げたことをする輩がピッツバーグにはいないことを信じてやまないが。
ヘラクレスは護衛なしで城のなかを歩き、やっとのことで目的地へと到着した。城の広さに慣れたと思っていたが、いまだに迷うときもある。本物の王族ならば迷わないものなのだろうか。
両開きの扉に手を掛ける。
この部屋は王族や貴族であったり、世界の重鎮らと会合や食事会をするとても重要な場所だ。
「おお、久しいなぁ。ヘラクレスよ」
シャルドラ四世は長い白髪と白い口元のちょび髭がトレードマーク。朗らかに笑う彼の表情は柔らかく、機嫌は良さそうだ。
「シャルドラ殿も顔色も良く、元気そうで何よりだ」
「ははは、わしは病気など生まれてこのかた一度もしたことがないからな。いつもピンピンじゃ、ほれ。まあ、それを憎らしく思っている奴も国にはいるだろうがな」
「それは俺も同じさ。国のトップになるというのはそういうことだろう?」
「わしは傷つきやすいんじゃ。皆から好かれたいとどうしても思ってしまう」
お茶目な感じでそう言うシャルドラに苦笑を漏らすヘラクレス。この柔和な顔の裏には多くの策謀が潜んでいるのかと思うと気を抜けない相手だといつも背筋を伸ばしてしまう。
二人が談笑している最中に給仕係が果実酒を持ってきた。
ピッツバーグ産の最高級品。市場にも出回ることはほとんどないそれはヘラクレスの大好物だ。王になる前から酒は好きだったが、ほとんどがエ―ルで果実酒を飲んだとしても酒場で一杯20シルクほどの安い果実酒くらいだったが、王になってからはこの最高級果実酒しか目にない。市場に出回れば一杯で10000シルクを超えるとも言われている。
その他にガーリックバターがのった小麦のパンやトマトソースと絡まったチキンがテーブルに運ばれてくる。腹の虫を刺激する旨そうな匂いが部屋に充満していく。二人はグラスを上に掲げ、乾杯の仕草を取ったあと、食事に手をつけていく。
「美味じゃな、うん。で、どうじゃ?最近のピッツバーグは」
「なにも変わらない。順調そのものだ。強いて言えば金銀の採掘量が若干減っているくらいか……」
金銀を他国へ輸出することで国が豊かになっている部分もあるので悩みといえば悩みであろう。ヘラクレス自身は今はまだそれについては楽観視している。
「そういう時期もあるさ。わしのところのポケラ銀山はもうすっかり鉄しか取れなくなってな……困っておるところじゃ」
「掘りすぎたんじゃないのか?まあパイルダーツの鉱物は質が良いので有名だからな。銀が取れなくなるのは痛いだろうな」
ヘラクレスが使っている王族の銀食器は全てパイルダーツで作られたものだ。銀や銀の加工品はパイルダーツの特産品である。
「なんとか新しい産業を見つけなくてはやっていけぬな」
「お互いな」
国のトップとしての苦悩を話せるのは同じ立場に身を置く者だけ。もちろん信用している人間、信頼している人間が自分の国にいないわけではないが、言いたくても言えないことはたくさんあるのだ。
ヘラクレスもとシャルドラがこの食事会を開催しているのは半分はストレス発散のためだ。
三ヶ月に一回のペースで続けているこの会も既に十五年も続けている伝統になっている。
ヘラクレスは果実酒を飲み干してから思いついたように口を開いた。
「そういえばほんのついさっき聞いた話なんだが……カロリーナで騒動があったらしいぞ」
「騒動?何だ、町長夫妻の痴話喧嘩かの?」
「いや、それが面白いことに何者かが魔物を封印から解いたらしくてな」
「魔物?解いたということは封印石を壊したのか?町中で?また危ないことをする奴はどこにでもいるのぉ」
呆れた口調でそう言ったシャルドラ四世は果実酒を飲み干した。
「ここからが本題だ。その魔物……なんと驚くことにキマイラらしい」
ヘラクレスが不敵な笑みを浮かべて言い放った言葉にシャルドラは果実酒を注ごうとした手をピタッと止める。
次第に目が大きく見開かれ、囁くようなか細い声でヘラクレスに向けて口を開いた。
「そ、それは……本当の話か?」
俄かには信じられない話だろう。というよりもヘラクレス自身も口にしていながらやはり完全に信じ切ったわけではなかった。あまりに荒唐無稽で滑稽な話だ。でもこれから真相が見えてくるだろうから、この不確かな噂の根源が一体何なのか非常に興味がある。
「さあな、まだわからない。俺もさっき聞いたばかりだからな。……でも俺の勘では事実だと思う。キマイラが封印から解かれたことはな」
「……ならばこうしてはおれまい。その真偽を確かめ、早急に対応しなければ下手をすると国が一つ滅んでもおかしくないぞ?」
シャルドラはゆっくりと椅子から立ち上がり、呼吸を整えてから冷静に言葉を絞りだした。
「まあ待て。落ち着くんだ。話には続きがある。実はな、そのキマイラは討伐されたらしい」
「討伐された、じゃと?」
「信じられないだろ?」
「それは黒いキマイラか?それとも白いキマイラか?」
ヘラクレスには質問の意図が分からなかった。色で何か違いがあるのだろうかと疑問に思った。
「何か違いがあるのか?」
「ああ、白いキマイラはダンジョンの深部に潜んでいるから遭遇することもあり得るが、黒いキマイラは伝説上の存在。生物を超越した強さを持つという。どちらにせよ、白も黒もヤバイのに変わりはないが」
「ほう、そうなのか。いや俺が聞いた話だとキマイラとしか話していなかったな。色の話は何も」
黒いキマイラがいるなんて話は聞いたこともなかった。こういう初耳の情報をもたらしてくれるのもこの食事会の有意義さを示している。さすがは博識なシャルドラ四世といったところか。
「そうか。いやしかし、ありえん。白でも黒でもわしの国の冒険者を全員かき集めても勝てるかどうかわからない怪物を討伐などと……それにカロリーナにはC級冒険者しかいないと聞いたことがあるぞ?」
ナバール連合のなかに存在する町で最も冒険者のレベルが高いのは他の町だが、カロリーナは次点で冒険者の数も多いし、発展もしている町だ。だがしかしレベルは到底高いとは言えない。隣接した町に応援を頼んだとしてもやはりキマイラを倒せるほどの勢力を用意できるとは思えない。
「何か得体の知れない存在が動いている嫌な感じがするのぉ」
シャルドラの考えを鼻で笑うことなど誰にもできないだろう。考えすぎだと一蹴するのは何も考えていない馬鹿がすることだ。ナバール連合の調査は早急にかつ重要度を増すべき事案なのは間違いない。パイルダーツ王国も巻き込めばより早く強者の存在を確認できる気がする。ヘラクレスは愉悦に満ちた感情をなんとか面に出さずに我慢した。
「連合の調査についてはロストワールに全て任せてある。真偽が確認され次第、早急にシャルドラにも伝えよう」
「・・・ああ、頼む。今はあまり騒ぎを大きくしない方が賢明かもしれんな」
二人の食事会と称したストレス発散、近況報告の場はお開きとなった。