魔獣キマイラ
どうする?どうする?こんなことになるなんて。
何も見えない暗い道のりが永遠に続いていく。
それを考えるだけで背中に悪寒が走る。淀んだ空気に包まれた路地裏をただ走る。
汗がじんわりと滲むのを感じながら思考を巡らす。
今更冒険者ギルドなどに戻っていられるか。ノイズはどうなっただろうか?ちゃんとあのよく分からない女を始末しただろうか?
いや始末してもらわないと困る。あんなことは初めてだった。ノイズの邪魔をする人間が現れるなんて夢にも思っていなかった。
観衆が皆、一斉に倒れ、眠りについたあの光景はなんとも異様だったが、あれはあの女の魔法なのか・・・
あまりにも突然の出来事に頭の整理が出来ていないみたいだ。まずは落ち着かなければならない。
睡眠を誘発する魔法の存在を彼は知っている。だがそれは個人に対して、多くても三人から四人までしか作用できないはずとそう思い込んでいた。実際にそれしか知らない。
カロリーナの冒険者ギルドのギルド長であるブライアン ステーシャルは元々は魔導士である。カロリーナでC級魔導士として日々依頼を受けて冒険者として精進していたが、やはり戦闘の才能は生まれ持ったものが大半を占める。どんなに魔法の研鑽を積み重ねても、どんなに肉体を鍛えたとしても届かない高みがある。
冒険者としての限界を感じたのだ。だから彼は冒険者の上に立つ存在になろうと考えた。冒険者のトップではなく、冒険者を取り扱う存在。戦いとは無縁の存在であるが、自分が目指せるのはそこしかないと思った。そうすれば冒険者に見下されない。
ただし、そこからは我慢の日々だった。
冒険者を辞めてからギルドの事務職に就き、数年後に事務局長になり、そのまた数年後には運営局長、そして副ギルド長・・・冒険者を辞めてからおよそ二十五年の月日が経ってようやく目標であったギルド長になることができた。
長い道のりだった。
困難もあったが、総じて順調だったのだ………あの時までは。
ビブルノース。ヒップスの殺害。クロの存在。サラマンドラとの結託。
歯車は狂い、戻ることはなかった。だから狂ったまま、突き進んだ。その影響が徐々に表れているのかもしれない。
ただ世界十玉のひとつであるビブルノースへの渇望は消えていない。大井戸に隠していたあの愛しき美玉を欲している。忘れようと思っても忘れられないあの美しさ。どんな美人な女よりも美しかった。思い出すだけで興奮してしまい、我慢できなくなってくる。
性欲を刺激してしまうほどに固執する自分をブライアンは何ら不思議に思わない。たかが宝石だろうと思う輩もいるかもしれないが、あの素晴らしさは自分にしか分からないのだと考えてもいる。
「早く……ビブルノースを……ビブルノースを我が手に……」
想像してしまったせいで余計に欲求が高まってしまった。火照る身体を戒めながらブライアンの走る速度は先程よりも異様に速くなっていた。
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ミミは今、リリフと共に尻餅をついているこの町のお偉いさんと話をしていた。
「それで?他の人達はどこ?」
「し、知らない。本当に知らないんだ。それぞれ勝手に逃げ出したからどこにいるのか分からない」
「……どうする?リリフ」
「……洗脳して聞く必要もないですね。嘘は言っていないようです」
副町長のノガモはガクガクと小刻みに震え、じんわりと股が湿っていた。
「う~ん……困ったな。この町を根本から変えないとシルビアの身の危険は変わらないもんね」
「はい、ギルド長達を捕らえて、住人や冒険者の思い込みを解く。そうすればこの町の膿みは取り除けるでしょう」
逃走したギルド長達が何か良からぬことを考えていそうで、警戒心が強くなる。早く見つけなくては。
ミミは仕方ないかと小さく呟いて、うさみみをピクピクと揺らす。目を瞑り、精神を統一すると何気ない雑音がうさみみに全て吸い込まれていく。苦悶に満ちた表情を浮かべるが、ただ我慢を続ける。
「……よし、見つけた。ここから西に一キロの地点」
兎人族の特殊能力である聴覚強化。心を安め、波風を立てずに精神を統べることで使用できる特別なもの。約十キロまでの足音や爆音、叫び声などありとあらゆる音を聞き分けることができる便利な能力なのだが、使用している最中の頭痛や体の痛みは強烈で、出来ればあまり使いたくはない能力である。
「大丈夫ですか?」
「……うん、何とかね。ちょっとぐったりだけど」
ミミは額に少し汗をかいているが、表情を緩める余裕はある。気分は悪いけど動けないほどではない。
「では行きましょうか。遠くに行かないうちに。無理そうだったらミミはゆっくり来てください」
「ううん、大丈夫。こんなんでへこたれてたらタケミカヅチ様に怒られちゃうから」
リリフとミミはそれから西に一キロの地点、西洋通りという場所まで移動した。
どうする?と自分に問いかける。しかし答えは出ない。恐怖という感情がないと言えば嘘になる。ここで籠っていても何の意味もないし、いずれ見つかってしまうのは自明のことだ。
明かりも付けずに薄暗闇のなかで椅子に座り、腕を組んで考える。副ギルド長のエリック スターダムは西洋通りに面する一つの家屋に身を潜めていた。
ここはエリックが密かに愛人と情事に励んでいた場所だ。
「封印石を使うか………」
魔獣キマイラを封じ込めた魔石がカロリーナにはある。しかしそれを持ち出すには冒険者ギルドの地下倉庫の最奥に行かなければならない。そこに保管されているのは知っている。通常であればそんな場所へ行く人などいないので、どのように保管されているのかは分からないが。
キマイラを封印から解き放ち、全てを破壊してしまえば・・・と冷静に考えればあり得ないようなことさえ今は現実的に考えている。自分達がしでかしたことが連合の他の町にバレれば一貫の終わりだ。カロリーナは破滅するし、その首謀者である我々もただでは済まない。
そろそろ移動しようと椅子から立ち上がった瞬間、背後の窓ガラスが勢いよく割れた。
驚きのあまり、エリックは体勢を崩しそうになるが、なんとか持ちこたえて、側に置いてあった細身の槍を手にする。
「誰だ!!!」
「いやいや申し訳ない。扉に鍵が掛かっていたもんで乱暴なは入り方になってしまいました」
被っていた帽子を取り、胸に当てて優雅に一礼する。
男だ。年齢は四十台くらいで、口元に髭を蓄えている。
「何者だ……貴様。どうしてここに」
「失礼、失礼。これを渡しにきただけなんだ」
そう言って男が懐のポケットから取り出したのはエリックが今一番欲していたキマイラの封印石だった。
「な、これは……何故、お、お前何なんだ……」
「救世主、と呼んでいただければ嬉しゅうございますよ。これで・・・破壊できますね?」
にやりと笑みを浮かべた男の顔が頭から離れない。破壊しなければという使命感に似た何かに突き動かされ、その感情と衝動を疑問視しなくなっていた。
「では、私はこれで。あなたにとって良い結果になることを心から願っております」
男は恭しく礼をしてから帽子を被ると、エリックの目の前から霧のように消えていった。
封印石は薄闇の中でぼんやりとした鈍い紅色の光を放っており、その幻想的な輝きに思わずエリックは目を奪われた。
キマイラ……本でしかその存在を見たことがないし、実際にいるのかさえ疑っていた魔物。魔石がギルドの地下倉庫に厳重に保管しているのは知っていたが、本当にキマイラが宿っているのかどうか半信半疑であった。
そんなものに頼るなんて夢物語、そう思う奴もいるかもしれないが・・・
この際、どんなものでも試してみるしかない。
エリックは封印石を持ち出し、西洋通りへと出る。人通りが少ない、というよりも誰もいない。ほとんどの住人は中央広場に集まっていたようだ。
ここで使ってみるか?いやもっと被害が大きな場所でやろう。そう考えるとやはり中央広場だ。中央広場なら全てを破壊できる。
エリックは少し早歩きで中央広場へと向かい始める。
そんなニヤニヤしながら歩くエリックの姿をもし通行人が見たならば、全ての人が同じ感想を持つだろう。気持ち悪い、不気味だと。
ん?
何かが迫ってくる。エリックは勘が良い。
西洋通りの奥の方から凄まじい速度でやってきたのは二人の少女。エリックは目を細めて、その二人の姿を確認する。
中央広場で魔法を使い、野次馬どもを眠らせた魔導士と珍しい兎人族の子供だ。あの速度で向かってきたにもかかわらず、ひとつも息を切らしていない。そこに恐ろしさを感じた。
「俺の居場所が分かるとは・・・何か特別な方法でも使ったか?」
エリックは独り言つ。見つかったしまったわりには、あまり危機感を感じていないようだ。
「いたいた。えーと・・・誰だっけ?」
「副ギルド長のエリック スターダムですね。冒険者の経験はなし。ただ何をしてくるかは分からないので気を付けていきましょう」
「うん、そだね」
二人とエリックは相対する。さながら西部劇のガンマンのように。
「さっきの……あの魔法は何なんだ?」
エリックの口から出たのは魔法についての疑問。彼は魔法を使えない。それが理由で冒険者になることを諦めた。もちろん冒険者になる人の全員が全員、魔導士ということではないから、冒険者になれないわけではない。しかしエリックは魔導士という立場で冒険者になりたかったのだ。才能がない、それで全てが終わってしまうことに溜め息が出る。だからこそ魔法について学んでいる。恋焦がれているからこそもっと深く知りたくなるのだ。
ただエリックが読み漁った本のなかにあんなに大勢の人を一瞬にして眠らせる魔法など書かれていなかった。
「睡眠屋敷という魔法です。珍しい魔法ではないと思いますが、ここでは違うのですか?」
普通の睡眠促進魔法だと多くても四、五人だけしか眠らせることはできない。中央広場にいた全ての人を眠らせるなんて到底不可能だ。
「何の魔法なのかは知らんが……素晴らしいな。ランドマーク王国の国宝魔導士級の魔法だった。無駄な魔力が全く使われていなかった、それに何より速度が素晴らしい」
エリックは心からの手放しの称賛をする。魔法への好奇心を刺激され、自分も気付かぬうちに興奮してしまっていたようだ。頬が赤く上気している。
「俺を捕まえに来たのか?」
「シルビアを狙うのやめてよね!」
エリックはリリフの方を見て言ったのだが、横から明らかに不機嫌な様子のミミがエリックに向かって指を差した。
そこにもし見知らぬ通行人がいたのなら、頬を膨らませたミミを見て、悶絶するほど可愛いと思ったであろう。
「シルビア?ああ、クロの連れか」
最初は何を言われているのか分からなかったようで首を傾げていた。しかしすぐにああと思い付くと、興味を無くしたように何度か頷いたエリックは薄い笑いを浮かべる。名前すら忘れかけていた、そんなところか。
「まだ狙われてたのか?もう既に死んだのかと思ってたよ」
エリックの言葉には何の感情ものっていなかった。
カチン。
そう聞こえた。
「なぁにぃぃぃ!!」
ミミの激怒。周囲の気温がほんの少しだけ上がった気がする。西洋通りには彼女の叫声が響き渡った。
「リリフ・・・一発だけこいつ、殴らせてもらうから」
リリフはミミの暴走とも言える行為を止めないつもりだ。それはリリフも今の発言が気に喰わなかったことを表している。彼女の目付きも鋭さを増す。
そろそろ危険だと判断したエリックの顔つきがすっと変わる。
「何か気に喰わなかったか?まあ殴られる前に・・・これを使うんだがな!」
エリックは懐から取り出したキマイラの封印石を思いきり地面に叩きつけた。
紅の封印石は見る影もなく粉々に砕け散り、肉眼でもくっきりと見えるほど濃密な魔力が周囲に一気に漂い始めた。息をするのも困難なくらいの濃さだ。もともと魔法を使えないエリックには膨大な量の魔力を浴びることは体に害をもたらす。案の定、彼は強い吐き気に襲われた。
ミミとリリフはエリックから少しだけ距離をとる。
霧のように濃い魔力でエリックの姿が視認できなくなり、次第に魔力が渦を巻き、巨大な質量を生み出す。どす黒い邪気を放つ何かがそこにいる。
「なんだか殴る相手が変わりそうだね。あの男を殴る前に面倒臭いのが相手になりそう」
「ええ、これは面倒な相手かもしれません」
ミミとリリフが見上げる先には巨大な繭のような魔力の塊。それは突如として弾けるように爆発した。
周囲の家屋は瓦礫と化し、西洋通りからここまでの通りはその街並みの原型を留めていない。住宅が軒を連ねていたかつての場所は無惨な状態で生活していた住民の行方は知れず。副町長の暴挙によって多くの命が失われた瞬間であった。
ウガアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!
ようやく視認できたそれは巨大な獅子と山羊の頭を持つ生物だった。涎を垂らして轟声を上げている。眼が血走り、周囲の状況を見渡して獲物となる生き物を探している。加えて尻尾が蛇で頭とは独立して動いている。キマイラの対処で面倒なのは頭と尻尾がそれぞれ独立して動いて攻めてくることだ。意志の伝達系が別のため、異なる生物と同時に戦っているような感覚を受けるのだ。
「キマイラですか。天界でもそんなにお目にかかれませんね。油断せずに行きましょう」
リリフはいつも以上に真剣な表情でミミに言葉を掛けた。
ミミもキマイラの強さをよく知っている。何度か狩ったことがあるが、いやはや結構苦労した覚えがある。まあそれも四歳の頃の話だし、今なら余裕で倒せると思うけど。でも油断はしない。
リリフとミミは軽い身のこなしで双方に分かれてキマイラを狙う。
「ミミはライオンの方をぶっ飛ばすよ」
「分かりました。では私は山羊の方を。尻尾の蛇には気を付けてくださいね?」
「うん、わかってる」
ミミを駆け引きなしで獅子の顔面に右拳を打ち付けようとするが、図体に似合わず動きが速い。
うん、天界の時と同じだ。ミミはあんまり考えすぎると動きが硬くなると自覚しているので、本能で動くしかない。
そういう駆け引きはリリフに任せよう。
キマイラはまずミミに狙いをつける。獅子の表情が憤怒の色を見せてから雄叫びを上げた。お前を殺すという合図だろうか?
「ふふ、この世界に来て初めて面白くなってきた!」
家屋の屋根を軽々と飛び越えながらキマイラの隙を見つけようと試みる。キマイラの俊敏さに目は慣れた。
反対側ではリリフが魔法の準備をしている。長々と詠唱しているところを考えるとかなり大規模な魔法なのだろう。それまでは気を引いていよう。
キマイラはミミに向けて灼熱の炎を吐いた。
燃え盛る火炎は家屋の屋根を焼き付くし、そこから次々と延焼が広がっていく。
「あ、これやばいかも。このままじゃ焼け野原だよ」
「ミミ、魔法を中断します。私は消火を優先します」
「オッケー、分かった。任せて」
一対一の方が燃える!ミミはやる気に満ち溢れた顔でキマイラと対峙する。
駆ける。拳を捻り、回転を生む。空気を取り込み、一気に放出する。
「サイクロン・・・パーンチ!!!」
殴打を決めるときにただ拳を捻るだけの技。それにもかかわらず、その威力は家屋を数件一気に破壊してしまうくらい強力で、特にミミだからこそ、その威力を生んでいると言える。
その一撃はキマイラの右前足に直撃した。
分厚い脂肪と筋肉の鎧を纏った右足は陥没したように潰れ、キマイラの叫び声が天にこだまする。
「まだ終わらないよ・・・兎神撃鉄!」
兎が獅子を翻弄する。食物連鎖を無視したその攻撃は世界の理を捻じ曲げる。兎人族が魔獣キマイラなどという存在と同等に渡り合えるなど下界では到底あり得ないことだし、相対することも、ましてや戦意を持つことすらあり得ない。
リリフも家屋の消火をしながらミミの力に舌を巻いた。あの年齢でこの実力・・・五年後を想像するだけで少し恐い。
キマイラの獅子頭を原型を留めないくらいに殴打し、次に山羊頭に向かう。しかしキマイラもやられてばかりではなかった。山羊頭の血色が変化し、突如として氷雪の息を吐き出す。
空気がこおり、周囲の気温が一気に下がっていく。
「うわ!次は氷?」
「火よりも厄介ですね」
リリフは圧力をかける魔法で氷を割っていく。炎と氷が織り混ざる空間はまさに地獄そのものだった。
キマイラの生命力は想像よりも上だった。片方の顔を潰しても動きが鈍くなるどころか、俊敏さを増したように思う。激怒しているのか、表情が険しい。
獅子と山羊とは関係ないように自由な様子でぐねぐねと動き回る尻尾の蛇が毒霧を吐く。キマイラの尾の蛇が吐き出す毒は非常に致死性が高く、キマイラと遭遇した人の死因で最も多いのがこれだ。
「そうだった・・・!キマイラにはこれがあるんだ」
接近戦タイプのミミにとってはかなり不利になる技だ。それでも負けることはない、冷静に考えてそう思う。
ミミは移動速度を自らが到達し得る限界まで引き上げる。キマイラの目では追いきれず、ミミの姿を捉えることができない。
蛇の頭にするりと移動して思い切り拳骨を脳天にぶつける。蛇が叫ぶのと同時に獅子も山羊も呻き声を上げる。今のがキマイラに相当堪えたのは見て取れる。
「よし!もう終わらせるよ!」
最後の一撃!ミミは全身全霊の力を込めて、右拳をキマイラの胴体に叩き込もうとしたが、それは空を切った。
「すまない、遅れた」
タケミカヅチが空から降ってきた。そう表現するしかないくらいに真上から現れたのだ。
「よいっしょっと!!!」
神の一撃は最強なり。
神力を纏った拳骨をキマイラへと叩き込むと、神力の光が解き放たれ、ミミもリリフもあまりの眩さに目を閉じてしまう。
二人は同時に目を開く。キマイラの姿はどこにもなかった。
タケミカヅチの神撃はキマイラを塵一つ残さずに消し飛ばした、ということ。ミミはそれについて全く驚きはしなかったが、ここにタケミカヅチが来たことには相当な驚きを持っていた。
「タケミカヅチ様!何でここに?体は大丈夫なの?」
「ああ、ルーナのおかげで回復するのに時間が掛からなかった。」
タケミカヅチの後ろからひょこっと顔を出したルーナは妖精の羽を広げて、少し恥じらうような仕草をする。
「滅多に使わない妖精の治癒魔法を使ったみたいですね。どうやらかなりの効果を発揮したようです」
「ああ、体も楽だし、動きに不自由なところもない。それに加えて神力もだいぶ回復したからな。」
妖精の治癒魔法のお陰かどうか証明するのは難しいが、ルーナの施しから体が楽になったのも事実だ。
「まあそれはそれとして、例の件はどうなったんだ?」
二人からすっかり遅れてしまったタケミカヅチに対して二人は今まであったことを事細かに説明し始めた。
説明をし終えたときにはもう夕焼けは消え去り、薄暗い静寂の世界へと変貌していた。