落ちた太陽
ミカエラ・アンダーセンは諦念の騎士だった。
生来目端が利く質であり、そのぶんだけ自他の客観評価が正確である。そうして己を知るから、足掻かず行儀よく諦めるのが習い性になっていた。
加えて、騎士階級という身分が知れている。他国においては名誉的称号であり、或いは貴族に準ずる扱いを受けるものだが、アーダルという国家においてはそうではない。
王制を敷くラーガム、アプサラスに対し、この特殊な国が尊ぶのはまず技術者であり、知識人なのだ。アーダルの王族、貴族とは、賢人層が研究に耽るための実質的な使い走りと見なされている。
この異質な政治形態は、国祖に因るところが大きい。
初代アーダル王の名を、カイユ・カダインという。
かつて、小さな一都市に過ぎなかったアーダルに、彼はどこからともなく現れた。いつともなく居着いて、そしてあらゆる分野で辣腕を振るい始めた。
その足跡は商業、農業、建築、冶金、地質学、気象学、解剖学といったものから絵画、音曲、彫刻、彫金の芸術面にも刻まれ、今日もそのまま用いられる数々の霊術式構築にまで残されている。万能の天才、千年先から来た男と呼ばれる通りの知の巨人だった。
住民たちはかつての統治者を捨て彼に付き従い、堅固なる都市を成した。またカダインの高名を聞き及んだ多分野の専門家がこの地に集い、彼との論議を交わした。カダインの知識はそれら知恵者のすべてに勝り、彼らはカダインを憧憬し、畏怖した。そうしてこの地に、いくつもの洞府とそれに属する工房とが産声を上げた。
雨後の筍の如く芽吹いたこれらの関係調整にまでカダインの手腕が及んだというから凄まじい。
乞われて王座に就いたのちは政務に主として手控えたものの、彼の提唱した理論や術式が再評価される機は未だに多く、「我々はまだカダインの影の中にいる」とは、アーダルの技術者が歯噛みしつつ漏らす嘆息だった。
この大賢人を礎に成ったアーダルの国風が、技術と知識に重きを置くものとなったは当然と言えよう。
無論、カイユ・カダインとて人である。
彼が生を終えたのち、アーダルの国力はたちまちに衰退した。洞府同士が醜く競い合い、工房同士が悪く争い、栄華は雲散霧消するかに思えた。
が、がカダインのもたらした良き日を浴した者たちは、過日の危うきに戻る愚を悟りもしていた。
試行錯誤の末に立ち上げられたのが、十二洞府が議会を形成して政を司り、王がこの決定を執行する政治形態である。
栄誉職としての王はカダイン裔から選出されたが、以後の血筋にカダインに伍する才は生まれず、次第に王家とそれを取り巻く貴族らは洞府と工房の一段下として認知されていった。
そのような侮蔑がまかり通ることからも窺えるように、時が下るにつれ、十二洞府もまた腐敗していった。
かつての英知の輝きは薄れ、洞主の座は世襲となり、工房はやはり世間から隔絶して己の知のみを追い始めた。王家と貴族は富と権力に堕し、洞府と工房は好奇心と知識欲に耽ったのである。
両者の好き勝手の振る舞いが幸運にも噛み合って国体を保つのが現在だと、ミカエラはそう認識している。
だが現状を正確に認識したところで、彼に何ができるわけではなかった。
アンダーセン家は国防――つまりは界獣、魔獣の撃退に携わる家である。ゆえに彼は幼少より弓馬を学んだ。様々な英雄たちの活躍を寝物語に聞き、自らもそうなることを志した。
が、揺籃の夢は世を知ることで打ち砕かれるのが常であり、ミカエラもその例に漏れなかった。
何事においても中の上。それが彼の自己評価である。いくら武芸、霊術の研鑽に励めど、ミカエラの上をいく者は幾人もいた。そも、彼には三人の兄がいる。アンダーセン家のような貧乏騎士に、ミカエラまで回す騎龍も騎馬もありはしなかった。
自分はただ現状をどうにか維持し、やがて腐り果てるのみなのだろう。この、アーダルという国と等しく。やがてミカエラはそう悟りを得た。
そのような諦観が、悪運を呼び込んだものであろうか。
ある日、彼に転機が訪れた。魔獣狩りの折、片目の視力を失ったのだ。毒液と化した体液を受けたことによるものだった。
これはミカエラの心を更に砕く深手だった。
己の芸において、彼がもっとも誇ったは弓である。だが一矢必中の技は、視界の喪失とともに失われた。無論、高額の医療霊術を受ければ眼球の再生と機能回復も叶ったろう。だがミカエラには三人の兄がおり、アンダーセンの家はおかげで安泰だった。つまりはそういうことである。家が彼に費やす金銭は無駄と断じられた。
そうして抜け殻のようになったミカエラに声をかけてきたのが、心魂工房洞主を名乗る人間だった。
王直属だというこの工房では、人体機能拡張の研究を行っている。これに協力しないかとの要請だった。
工房名に冠する通り、彼らが行うのは心と魂へのアプローチである。物理法則を無視して執行される霊術、我法といった精神的作用の研究だ。しかしながら、霊素によるこの種の現実干渉には、肉体の在り方が大きな影響を及ぼすことが近年解明されてきた。
『霊素許容量が、たとえば四肢の喪失によって低下するように。霊素と血と肉の間には密接な関係があると、我々は考えるのですよ』
洞主はそう語り、よってミカエラのような傷を受けた人間に無償で工房の術式を提供しているのだと続けた。
霊と肉の間に見られる相互干渉の結果には、当人の精神に依存した指向性の発露が認められる。
ならば霊術による選択的な肉体機能の改変、拡張に際してどのような影響が生じるのか。これを確め、延いては発現する効能を任意選択可能とする。我法のような特殊性質を、いつか万人が自在に得、自在に用いられる技術体系とする。それが洞主の、カイユ・カダインの先へ行くための道として見出した研究だった。
実験動物の境遇となることに対して、ミカエラに否やはなかった。今のままの自分は死体と左程変わらない。ならば本当の骸と成り果てたところで損はない。そのように考えた。
結果から述べれば、この施術により彼は視力を取り戻した。元の視力どころではない。それはのちに神眼と称されるまでになる視覚だった。
工房の術式を受けたのは両目のみであったが、ミカエラの体には視力以外の影響も現れた。
ひとつは身体能力の上昇である。賦活された両眼からの霊素循環によるものか、筋肉量が増えたでもないのに明らかに筋力が高まった。術後は三人張りの弓すらゆうゆうと引くことができるようになった。それでいて感覚に狂いはなく、五体はより精密に、鋭敏に動いた。これにより弓技は冴え渡り、ミカエラはいつぶりとも知れない微笑を浮かべた。これらの恩恵に比べれば、味覚の消失など些細なことだった。
この施術の成功後、ミカエラは初めてアーダル王に拝謁することとなる。
女官長に連れられ赴いた謁見の場で、御簾越しに、王は告げた。
『君にはね、ボクの娘を守ってもらいたいんだ』
第三王女、ネスフィリナ・アーダル・ペトペ。
まだ稚い姫君の騎士として、ミカエラは任じられたのだ。
光栄に打ち震える思いだったが、続く王自身の言葉がそれを打ち砕いた。
『あれは大事な作品なんだ。もう少し育ってから使うつもりでね。それまで傷がつかないように、その目でよく見ていて欲しいな』
どこか子供のような高い声で、王は子供のように無邪気に言った。
そこにあるのは娘への愛情ではなく、貴重な素体に対する細心だった。王は我が子を、物としてしか見ないようだった。
『ああ、少し面倒な力があるけれど、気にしなくていい。余計を喋らないように調整してあるからね。あまり大きくならないようにもしているから、手はかからないはずだよ』
頭を垂れる姿勢で噛んだ唇を隠し、ミカエラは王の前を辞した。
そうして仕えた姫は、言葉を発することのできない少女だった。筆談を交わすことはできたが、コミュニケーションの手段としてもどかしいものなのは当然だ。これが王の言う調整なのだろうと、ミカエラは暗澹たる心地になり、だからそのぶん、誠心誠意を尽くした。
大人の都合に振り回される少女への、せめてもの罪滅ぼしのつもりだった。けれどネスフィリナの悲運は、その程度で拭いきれるものではなかった。
――もう少し育ってから使う。
王の言葉に偽りはなく、ミカエラが専属となったしばしのちから、ネスフィリナは対獣の戦線に駆り出されることを予定された。
無論、生身ではない。封入式霊動甲冑。カイユ・カダインが基礎設計した兵器に搭乗しての出陣である。だが如何に堅固な鎧兜であっても、生き死にの場に臨む幼子の心の守りには到底ならない。初陣を控え、ネスフィリナは日々表情を失くしていくようだった。
彼のよく見える目は、そのさまをよく捉えた。国の歪みを、人の歪みもよく映した。
それでもミカエラには何もできなかった。国も人も、正すことは叶わなかった。
いっそネスフィリナをどこかへ逃がそうと考えたこともある。しかしそれも、同じくできないままだった。
自分ひとりのことならば、どういう手段にも出れる。どういう生き方もできる。けれど小さなネスフィリナを連れて生地を離れるとなれば、それは難儀な仕業だった。アーダルの外を知らぬミカエラは、外部にどういう伝手も持たない。安定した暮らしの用意などできようはずもない。
またそのような出奔をすれば、必ずアーダルより手配を受ける。都市に安住もできぬまま、子供ひとりを連れて外界を彷徨うなど、まさしく狂気の沙汰だった。
諦念を抱え、ただ傍観するより他になく。
ミカエラ・アンダーセンは諦念の騎士だった。
けれど今は、未来を見ている。
ミカエラとネスフィリナの転機とは、言うまでもなく太陽との出会いだ。
セレスト・クレイズ。得手とする霊術式から、アーダルの太陽と呼ばれる青年。
邂逅のきっかけは任務だった。
セレストもまた心魂工房の作品である。アーダルに伝わる対魔皇用秘術、真夜中の太陽。規格外の霊力許容量を必要とするこの霊術を執行せしめるためだけに施術された、人造の霊術師が彼であったのだ。
つまるところセレストは肉体、精神の両面にどのような影響が生じるかわからない実験体であり、その観察、監視こそがミカエラに振られた役割だった。
第一印象は、最悪に近かった。
自ら英雄を気取る傲岸不遜。人の話を少しも聞かない傍若無人。すぐさまに物事を忘却する大雑把。
よく言えば几帳面、悪く言えば神経質なミカエラとは正反対の性質であり、到底上手くやっていける相手とは思えなかった。いち早くこの仕事が終わって欲しいものだと、天を仰いだのを覚えている。
けれどミカエラの認識は、たちまちに改まることとなる。彼の目が得る情報が、そうさせずにおかなかった。
英雄気取りの言動は、戦場の不安を払拭するためにあった。
話を聞かぬと見えて、その行動の裏には必ず善意があった。
その大雑把加減ばかりは擁護しかねるが、不敵な笑みのまま人々に先立ち困難に当たる姿は、英雄の相と言って差し支えない。当人を前には決して口にしないことだが、ミカエラはこの友人をそう評するようになった。
そもそも一個人に全てができるはずもないのだ。ならば彼の足りぬところは自分が補ってやればよい。いつしかそう考えるようになった。
初陣での一件もあってか、ネスフィリナもまた、セレストによく懐いた。彼と連れ立つその折ばかりは、ネスフィリナの面にも笑顔が戻るようだった。セレストに指笛の鳴らし方を教授され、ご満悦のさまを披露していたのは記憶に新しい。
いつまでも子供じみた男だから子供受けがよいのだろうとは、悔し紛れのミカエラの言である。
そのような軽口を叩けるほどに、ミカエラの心も救われていた。
セレストは灯のようだった。夜に小さく、けれど確かに明るい。まるで導べのようだった。彼なら何かを変えられるのではないかと、変えてくれるのではないかと思うのに十分な存在だった。皇禍、剣祭というふたつの騒動を共に乗り越え、その思考は確信に変わりつつある……
そこまで物思ってから、ミカエラはわずかに口元を緩めた。
そののち表情を引き締め、窓から王城の影を仰ぎ見る。星灯りにも華美なるそれは、王族と十二洞主の虚飾の成果だった。
彼が腰を落とす寝台はアンダーセン家ではなく、ミカエラ邸のものである。魔皇討伐ののち、ミカエラは王城傍に自邸を与えられていた。以来アーダルの地を踏む折は、セレストもネスフィリナもこの屋敷を宿としている。この辺りにも、王族を低く見るアーダルの風が見え隠れすると言えた。如何に第三王女といえども、他国ならば到底あり得ないネスフィリナの扱いであり、振る舞いであった。
だがその扱いを押し通した本人、セレスト・クレイズの姿は今宵ここにない。
彼はアーダル王との謁見のため、今朝がたから王城へと赴いていた。
ラムザスベルでの一件ののち、セレストが入手した文書がある。それはかの都市を治めるロードシルトが秘蔵してた、大樹界進軍時の日記だった。大樹界を拓かんとする者たちには喉から手が出るほど欲しい情報が記されているに違いなかったが、これには強固な霊術的認識阻害が施されていた。この術式を破らぬ限り、記された文字は意味あるものとして読み取れない。
セレストが城へ乗り込んだは、十二洞主らを呼び集め、これの霊術的解錠を行わせるためがひとつである。
思いながらミカエラは、備え置く弓の弦を外した。
現在彼の起居する部屋には四張りの弓がある。アーダルに帰還したミカエラは、以来半日の周期でこれらの弦を或いは張り、或いは外していた。弦掛けし続けた弓は張力が弱まるからだ。
常在戦場の心構えのようだが、常のミカエラはこうまでしない。これは今が、一種の臨戦態勢であることの現われだった。事実、ミカエラが起居するのも自室ではない。ネスフィリナを留め置く貴賓室の、その隣室でである。
セレストが王城へ赴いたもうひとつの目的。それは大きな火種になると、セレスト、ミカエラの両名ともが考えていた。
ミカエラたち心魂工房の作品は、定期的な調整を受けねば霊素循環に異常をきたして死に至る。工房洞主は過日、そのように説明をした。だがこれが偽りであることを、セレストは突き止めている。死をもたらすのは施術時に組み込まれた時限霊術式の働きであり、これを取り除く術式も既にして構築みであった。
これらはセレストが腕の治療のためアプサラスを訪れた際に発覚、対応した事柄であり、まさに怪我の功名と言ったところである。
自身を実験台としたセレストは、次いでミカエラの時限呪の除去にも成功する。しかしネスフィリナのものだけは深刻だった。
彼女には、もとより死の刻印は施されていなかった。だが巧みに秘された我法の痕跡が見られ、それが発声を妨げている。霊術面からのみでは解きようのない拘束だった。
この我法からネスフィリナを解放せよとの要請が、即ち彼らのもうひとつだった。
自分たちが既に心魂工房に、つまりはアーダルに縛られぬことを明かし、更には王城に潜む我法使いを暴き立てて王女を攫おうというのだから、行動の根に横たわるものはさておき、傍からすれば随分な無法である。
加えて王城の我法使いのみならず、十二洞主はひと癖もふた癖もある面々だ。ゆえに単身行に及ぼうというセレストを、ミカエラは諫めもした。なんならば自分もともに出向こうと、そう伝えもした。
けれど。
『オレのことなら心配いらねェ。なんせ特別な男だからな。それよりお前は、ネス公を守ってやってくれ』
本当に心配無用のことであるなら、ネスフィリナを守る必要などない。ならばセレストのこの言いは、己に万一があることも考慮してのものだった。
その上で傲岸不遜のこの男に頼られたのなら、断る術をミカエラは持たなかった。
だがこの見送りを、現在のミカエラは悔いている。
あまりにセレストの戻りが遅い。
既に日暮れから長く、天蓋は夜の帳に覆いつくされてしまった。一切の連絡のないままのこの状況は、交渉が無事で終わらなかったこと示唆して甚だしい。
不穏な空気を、ネスフィリナも感じ取っているのだろう。隣室からは時折、練習中の指笛が響いてきていた。セレストが戻った折、見事吹き鳴らしてみせたいのだろう。夜更けなのを考慮し、布団をきつく被り、音を漏れにくくするようだった。おかげで使用人たちの耳には聞こえまいが、流石にミカエラには届く。
だが、口うるさく言うつもりはなかった。まだ眠れずにいるその不安を思えば、咎めの言葉など出はしない。
主を気遣い、友を案じながら、もうひと張りに手を伸ばす。
爆音と振動が屋敷を襲ったのは、その時だった。
「ネスフィリナ様!」
用意の弓を掴み、隣室へと急いだ。無礼を承知で鍵を開くと、やはり起きていたネスが靴を履いているところだった。幼くとも戦場往来の経験を持つ娘である。何をすべきかを把握しており、また動揺は少ない。
「自分は対応に努めます。殿下は手筈通りに落ち延びください」
言い聞かせると、やがて不承不承ながらの頷きが返った。
セレストならば頭を撫で、不安を拭うところであるが、ミカエラはどうしようとミカエラである。加えて、仲間なのは三人の時だけと決めていた。ふたりの場合は主と従だ。
自身の甲冑へ向かうネスフィリナの背を見送ってから、ミカエラは踵を返す。主以外の心配は無用だった。屋敷の使用人たちには、こうした事態が起きれば即座に逃げ散るようにと常々言い含めてある。後顧の憂いは最早ない。
ミカエラが駆けたは先は正面玄関である。そこに霊術砲火を受けたのは確かであり、ならば襲撃が来るのもそこからだろうと考えたからだ。
果たして、そこには数十を越える兵士たちの姿があった。崩壊したエントランスには火の粉が舞い散り、ぱちぱちとそこここが燃え焦げている。その炎を踏み越えて前進する盾と鎧。そこに刻まれるのはアーダル王家の紋章であり、国軍であると知れた。
更に彼らの後背には、あろうことか二機の封入型霊動甲冑までもが見える。ネスフィリナのものとは武装のみならず全体のシルエットが異なって、新型であろうと思われた。
だがそれらの威容よりもなお強く、ミカエラの心を一撃したものがある。
「ミカエラ・アンダーセン。速やかに王女殿下を解放せよ。さすれば生命は保証する」
兵長と思しき男が大音声に告げる。それすらもミカエラの耳には入らない。
兵たちの中央に、ひとり佇む青年がいた。
千年樹から彫り出され、術的装飾を施された霊杖。も霊素集積の紋様が織り込まれた外套。野放図に伸びた前髪を、鬱陶しげに掻き上げる――見慣れた、その仕草。
「……承知の上だ。君が実に大雑把なのも、思いつきでしか行動できないのも。だから、大抵の仕業には目をつぶるつもりでいた。しかし流石に此度は腹に据えかねる」
霊素を握り込み、ミカエラが矢を生成する。
番えてひたりと狙いながら、珍しいほど声を荒げた。
「一体どういう魂胆だ、セレスト・クレイズ――!」
名を叫ばれ、アーダルの太陽は。
まるで知らぬ者を見る目でミカエラを見た。
迷いなく突き出された杖に光が灯る。詠唱棄却による術式執行。中空に、たちまち数十の炎珠が生じる。
そして、紅蓮が爆ぜた。




