聖なる夜は貴女を想って
貴女と迎えるはずだった、恋人達の夜のお話。
ティーバッグを取り出して、巻き付いた糸をゆっくり剥がして行く。お湯と一緒にマグカップの中に入れれば、ローズヒップの赤が溶けだした。そしてゆっくりとカップの底に溜まる。上澄みは、まだ透明なまま仄かなピンク色。その可愛らしさが憎らしい。
由芽はこの上澄みの部分しか見ていなかった。
強がってるのを知っていた。それでも、この子ならって甘えていた。だって、いつでも由芽より大人っぽくて、由芽より大人ぶってて、由芽より大人だったから。そんなあの子が可愛くて大好きだったから。
寂しかったのかな。悲しかったのかな。苦しませちゃったかな。泣かせちゃったかな。
形だけ年上の私には分からないよ。
もう、良いから。
玄関の扉を開けて背中越しに呟いた冷たい言葉と目に沁みるくらい綺麗な髪の赤が今でも刺さって抜けない。マグカップに目をやると溢れた赤が濃く、どす黒くなって沈んでいた。
ごめんね。ごめんね。放っておいてごめんね。
「左姫ちゃん」
口に含んだ紅茶は、とうの昔に冷めきっていた。